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月に咲く花  作者: 麗月
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変化

翌日から空月は、屋敷にいることが減った。といっても、剣の稽古のあと午前中いないだけで、昼餉には帰って来る。そして午後は今まで通り、家事を手伝ったり、遊んだり、話したりと他愛のない時間を過ごす。


彼が来てからそろそろ一週間が経つ。どうして家にいないのか尋ねると、仕事の関係で山に、とだけ教えてくれる。こういうのはあまり詮索しないほうが良いのかも知れない。夕餉を終えて髪を軽く洗ってきた私はそんなことを考えながら髪を拭いていた。


すると突然、ガタンッと大きな音がした。驚いてそちらを振り向くと空月が片膝を立ててしりもちをつき、頭を垂れていた。


「ちょ、空月?どうしたの!?」


駆け寄って声をかけると、彼は何かをやり過ごすように一拍おいてからのろのろと顔を上げた。


「大丈夫です。ただ、なんでしょう…急に力が入らなくなって、頭だけ後ろに引かれるような、そんな感じがしたんです…。」


普段より一層白いその顔は、本当に何があったのかわからないといった様子だった。


「目眩、かな?」


「めまい…?」


彼の言う症状は私の知るそれに似ていたのだが、彼はいまいちしっくり来ないようだった。少しすると、音を聞いた父や凜たちが集まって来た。父も彼の感じたものは目眩だと思ったそうだ。でも、どうやら空月はそもそも目眩というものを知らないらしい。そんなことがあるのだろうか。彼は自分の誕生日も歳も知らないらしいが、きっと私とそう変わらないだろう。小さな子どもでもないのに、経験したことがないのはまだしも知らないなんて。


「熱は…少しぬくいか。慣れない場所に疲れているのかも知れない。とにかく今日は早く(やす)みなさい」


父の言葉に素直に頷いた彼は、差し伸べられる手を断って立ち上がると丁寧に一礼して部屋に歩いていった。その足取りはしっかりしていて、不安そうだった父たちも安心したように戻っていく。これと言ってしていたこともなかった私は戻る所もなく、その場に残って空月の後ろ姿を見つめていた。一刻も早く帰りたいから午前も頑張って仕事進めてるのかな、なんて思ってしまったことはきっと誰にも言わないと思う。だってそんなの、まるで私がとても寂しがりやみたい。


「おーい、白百合、ちょっとこっちに来なさい。ほら、お前たちも。すぐ終わるから」


空月の姿が見えなくなると父は私とあの四人全員を呼んだ。


「はーい」


気になることはたくさんあるけど、久しぶりの招集が嬉しくてすぐに返事をした。今みたいに雨が降らなくなる前は、やれお菓子だ、やれお茶だと夕方によく皆で集まったものだった。それが最近では、村の雰囲気に引っ張られてそういう気になれずめっきり無くなっていた。でもそれは私だけではないようで、皆心なしか楽しそうだった。問題はこれっぽっちも解決していないのに、つい少し安心してしまう。仄かに期待の灯された瞳のなか、父だけが真剣な表情で口を開いた。


蟋蟀の声が、一際大きく聞こえる夜だった。

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