どうしよう
あーあ。自室で床に突っ伏した。結局父に言われたことを伝えられずに別れてしまった。その上、彼が私に別れの挨拶をしたというのに私は、止めることも返事をすることもできずに無視をした形になってしまったのだ。なんて最悪な別れかただろう。
「駄目だな…」
ごろんと仰向けになると、ぽつりと呟いた。すると、戸の向こうから声がした。
「白百合、いるか」
父の声だ。
「あ、はい。どうぞ」
とりあえず起き上がり、姿勢を正す。父は部屋に入るなり私の目の前に座ると、じっと私の目を見つめた。
「例の彼とはどうなったんだ。一人で帰って来たようだが」
とても優しい声色だった。きっと彼を心配して言った言葉だろう。でも、後悔でいっぱいの私にはその言葉も自分を責めているように感じた。勇気を出しておずおずと口を開く。
「あの、父上。私…」
父は何も言わずに優しくこちらを見る。
「その、昨日父上が言ったこと、伝えられずに彼と別れてしまったの」
父は少し目を見開いた。
「嫌か?彼と同じ屋敷で過ごすようになることは」
そんなことはない。彼の側は、むしろ居心地が良い。慌てて首を横にふるふると振った。
「なんだか、気恥ずかしいというか、意識してしまって…」
自分で言って少し驚く。でも少し納得もした。私は彼を、男性として意識していたんだ。でも、だからといって私は彼が気になってるとかそういう訳じゃない。だってまだ会って間もないし彼には謎が多すぎる。そして、自分の感情に自分で言い訳していることに気が付き、恥ずかしくなって下を向く。首を振ったきり様子のおかしい愛娘に父は首を傾げる。
「どうかしたのか?」
「なんでもないっ」
即答されて父はますます首を傾げる。が、もうそのことには触れずに話を進める。
「それで、彼はどうしたんだい?」
すると、やっといつも通りに戻ったらしい娘は言った。
「源山に、行ったみたい」
それを聞いた父は慌てる。
「み、源山だなんて。止めなかったのか?」
やっぱりそうなるよね。心の中で呟いて、答える。
「止めたけど、本人は大丈夫だって言ってたから」
平然と答えたものの、心配なのは自分だって同じだ。何も見えないのはわかっていても、時々ちらりと源山を見てしまう。父はまだ心配そうだ。
「で、でも彼は足を怪我してるんだろう」
「大丈夫な程度に治したって」
少しの間があった。
「……は?」
あんまり言うと面倒くさそうだな、と思い、立ち上がった。私だって理解できていないことを問いただされても困る。
「また彼が降りてくるかも知れないし、外にいるね」
父に軽く礼をすると、部屋から出る。今これ以上話すと彼についての追及は避けられないだろう。それに、彼が心配でたまらないのも事実だ。屋敷から出て少し歩き、源山の麓の川だった場所に突き出た大きめの石に腰掛けると、ぼんやりと空を見上げた。
空はまだ澄んだ青色で、秋のひんやりした空気に暖かい日差しが心地良い。今日は少し早起きをしたせいか、だんだん眠くなってくる。少しくらい、寝ても良いだろう。そう思い、ゆっくりと目を閉じた。




