一人だけ別ゲー転移
かなり短いですが、読んで頂ければ嬉しいです。
――――その部屋は荘厳な雰囲気を醸し出す。
丸く大きな空間の部屋で、白色や金色で塗られ精緻な彫刻が為されている石柱が何本も並ぶ。
その石柱と同色に塗られた部屋の壁には沢山の灯された蝋燭がかけられており、天井には宗教画と思しい天使が乱舞する様が描かれている。
そして幾人もの黒ローブを着込んだ者が、部屋の中央で脈動するように妖しく明滅する複雑怪奇な幾何学図形を囲んでいる。
その様子が延々と続くかに見えたが、やがておもむろに変化が表れた。
中央の図形が、ゆっくりと輝きを増していく。
その光景を今まで黒ローブ達に隠れて見えなかった、頭にティアラを飾りとても質の良い生地で縫われた、シンプルながらも着たものをより美しく魅せるドレスを身につけた年若い女性が、強い期待と共に見守っている。
――――ようやく“その時”が来た!
黒ローブ達と女性は、たった今一際強い光を放った図形の上に寝転ぶ、沢山の人影を確認して歓喜に打ち震えた。
「ようこそ、異世界の勇者様がたっ!我々は、悪辣な魔王によって窮地に立たされております!どうかお助け頂けないでしょうか!」
~~~~~
その地には、35名の勇者が召喚された―――――はずだったのだ。
異世界を渡る際一人一人に特別な力が宿り、その力を束ねなければ困難に立ち向かえない。そう言われたのに。
何度数えようと、一人足りない。
クラス丸ごと転移されたはずなのだ。なのに、教師コミで34名しかその場に居なかった。
最後の一人……その存在は残念ながら、この物語では最期まで確認されなかった。
なぜなら、その最後の一人は…………。
「俺のスキル【街運営】ってなんだよ」
学校に居たはずなのに、気が付いたら空中で固定され、そこにいた。
しかも存在自体はあるのに、なぜか視認できる存在では無くなっていた。
そんな俺は今、スキルを使って一人で街運営ゲームをしている。
さっき、スキルを獲得しました~とか言われたが、その時一緒に頭(あるのか?)にスキルの使用方法も入ってきたからだ。
どこかにいる何者かは、俺にこのスキルで遊んでいてほしいようだ。
なんか斜め見下ろし視点から変更出来ない古臭い感じだけど、近代とか未来的な街ではなく、オリジナルなのか中世ファンタジーチックな街を運営している。
発電所を建てようとしたら、マナを産み出す木になってるし、警察署を選択したら衛兵屯所とか。
ちょこちょこマニアックな調整がされている。
その世界に俺は入り込めず、空からと言うか……神みたいな視線でしか居られないようなのだ。
それで現在は魔族領マップとか言うマップを強制選択されて、妙にオドロオドロしい場所を開発中。でも真ん中にある魔王城とか言うのが、ポツンと置いてあってなんだか可愛い。
クリア条件に『魔王四天王の施設を造り 襲い来る災害“勇者達”を8回 撃退しろ!』とかって表示された。
「面白い、迎撃してやんよ!!」
――――頑張ったのですよ。人口をそりゃあもう出来るだけ増やしたし、軍事設備も沢山設置した。四天王の施設だって置けた。
それでも勇者達は凄かった。もうアチコチをドッカンドッカンされて、なんとか4回は撃退したけど、どこもかしこもボーロボロ。
「最初の襲撃までの準備期間が2年って短すぎねえ?」
居住区も、市場も、屯所も、軍事設備も。燃やされ壊され、こりゃダメだ。しかも次の襲撃までに、手持ちの資源と資金では準備が間に合わない。人口だって驚くほど激減中……あ、また減った。
「最初の襲撃から3年間、なんとかしのいできたけど、これはもう本当にヤバい。最終手段だ」
次の襲撃が始まった時、そう決断した。
「このゲーム特有の、災害を自ら呼び寄せるアイコン!」
使ってやる!使ってやるんだ!!
火事の消火方法には幾つか有るけど、その中で一番過激なヤツ!爆風消火だオラァ!!
って事で災害誘致☆
…………何を呼ぶか?決まってるでしょ?
「カモン!馬鹿デカい多脚の目玉ロボ!!」
選択した瞬間、画面外からのっそりと現れたソレ。
そいつは気ままに歩き回り、更地へと変えて行く。
『勇者達の撃退に 成功しました!』
「おお、勇者達が逃げてった!」
やがて、そのロボが画面中央に達した、まさにその時。
『魔王の居城を壊し、同時に魔王を倒しました!!』
「――――へ?」
そのようなアナウンスと共に、どこか安っぽいファンファーレが鳴り響いた。
主人公は、なんで召喚されたのかは分からず、かなり古いシ○シティシリーズに似たゲームをひとまず楽しんでいました。