どうしたのですか?
ある庭の一角。美男美女がお茶を飲んでいた。
美女は、ゴクリと紅茶を飲むと机に置き、美男のほうを見る。
「さて、殿下。どうしたのです?」
「セシェーナ、どうしたのではないだろう?」
「‥‥?」
「後日と言っときながら、もう半月以上経っているのだか?」
「‥‥まぁ」
呆れた顔をしているカイルに、セシェーナは微笑む。
「セシェーナ、君は本当に僕を助ける気はあるのか?」
「一応、あります」
「一応、か。」
「はい、一応。それに殿下、私とて遊んでいたわけではありませんよ。」
そう言うと、セシェーナはある資料を後ろの侍女からもらった。その資料を、カイルの前の机に広げて並べる。
「これは?」
「攻略キャラ達の報告書です。殿下のことですから、ヒロインのことは調べているとは思いますが、攻略キャラのことはあまりお調べになっていないのでは?」
図星をつかれたカイルは、セシェーナから目をそらす。それを知っていたかのように、カイルの横顔をじっと見つめる。
「色々と私が聞いてきました。本人に」
「なに、を?」
「好みの異性とか、ですね。あ、殿下は別にいらないと思い、調べてませんが。」
カイルは絶句する。まさか、本人に確認するとは思わなかったからだ。
「そ、そ、そう、か。」
「「そ」が多いですよ、殿下」
「あ、ああ。えっと、これは…エアサス殿のか。」
そう言うと、カイルは固まった。その資料に書かれたことは、「セシェーナみたいな子じゃない人」と。そして、恐る恐るセシェーナを方を見る。
「ほんっと、ケンカ売ってますよね、あのメガネ。わざわさ、それとなく聞いたのですが、お世辞も言えない。本当に、可哀想ですわね。ヒロインが」
顔は笑っているが、オーラは黒い。
ーセシェーナ、怖いぞ。しかも、なんだかヒロインのところが異様に強調されている。
「あの、メガネ。一度、地獄にでも行けばいいのに」と小さい声で呟いている、セシェーナ。そして、その声を聞いてブルっと肩を震わすカイル。
「せ、セシェーナ。あの、エイサス殿のことは分かった。他のも、見てもいいか?」
この空気ではまずいと思い、話題を必死に変えようとする。今の状態は、後ろに控えている侍女たちにも申し訳なく思ったようだ。現に、5人中2人ほど半泣き状態だ。
だが、そう、カイルは思っていたのだが、それは間違いだった。後ろの侍女は半泣きではなく感動していたことをカイルは知らない。
「ええ、どうぞ。あと、殿下。メガ‥‥いえ、お兄様のことは、どうぞお気になさらず。殿下の手は煩わせませんので。それから、私の後ろに控えている侍女たちは全て、お兄様のこと大嫌いだと思いますので、そこは勘違いなさらず」
「そ、そうか」
なぜ、そうなのかは恐ろしくて聞けない。カイルはもともと、兄妹仲が悪い(が周囲には隠している)のは知っていたがそこまでとは思わなかったようだ。
「他の者たちの好みは一緒なんだな。お世辞か?」
「まぁ、そうですね。ですが、ご心配には及びません。」
「ん?」と首をかしげるカイルにセシェーナは、にっこりと笑う。
「もともと、私が調べていたことは好みの異性ではないですから」
「じゃあ、今までの会話はなんだったのだ?」とは、口が裂けても言えない。カイルはセェーナの今の状態が怖いのだ。
「では、何を?」
必死で平気を装いながら、聞く。
「魔法の属性、ラバード伯爵との繋がり、あと…精霊の名前とか、ですね。」
その言葉に、ビクッとなるカイル。カイルはまだ、セシェーナに言っていないことがあった。
「殿下、ラバード伯爵はもうヒロイン、ヒカリ様を見つけて養子にしておりますよ」
「⁈」
「殿下、私の情報量、舐めないでくださいね?」
「あ、ああ。すまない」
ー養子を取っていたとは、情報がなかった。ということは、王家にも見つからないようにされていたのか。侮れないな、ラバード伯爵。
「それから、そろそろ私にも話してはいただけませんか、精霊のこと」
「ああ」
もう隠せないと、諦めた顔をしたカイルに、セシェーナは「洗いざらい話してください」というふうな顔をする。
「この世界は魔法が使える。そして、その魔法の属性というものは基本、1つとされている。」
ここまでは、セシェーナでも知っている。基本中の、基本なのだから。
「基本は、ですよね?では一体、ヒロインは、いくつの属性があるのでしょうか。」
「火、水、風、土。そして、光の5つだ。光属性というのは、貴重で使えるものなど滅多にいない。それに、5つも属性がある。これは、異常なんだ」
「そうですよね、この世界のヒロインということもありますでしょうから、仕方がないかもですが‥」
セシェーナは、後ろの侍女からまた資料を受け取るとその資料をカイルの前に突き出した。
「では、なぜ殿下は、6つも属性が使えるのでしょうか?」
カイルはその時、目の前にあった紅茶を飲んでいたため、その紅茶をブハッと吐き出してしまった。その様子に対して、セシェーナはまたもやニッコリと笑みを浮かべている。