僕の婚約者
カイル目線です
僕が前世の記憶を思い出したのは7歳の時だ。
「殿下!大丈夫ですか⁈」
側近の、ユーリスの声がする。
「ああ、だいじょう、ぶっ」
「殿下‼︎」
急に視界がボヤけて、気を失ってしまった。
僕は、剣の練習をしていた。もちろん、木刀だが。あやまって、その木刀を自分の頭にぶつけてしまったのだ。我ながら、情けない。
そして、ふと思った。こんなこと、いつだったかあったような気がした、と。
「思い出した」
「殿下、気がついたのですね。良かった」
ユーリスが僕の寝室にいた。
「ああ、すまない。迷惑をかけた」
「いえいえ、殿下。」
「ユーリス、外に出ててもらえないか?少し、1人になりたい」
「ええっ‥かしこまりました」
ショボンとしてしまったが、まぁ仕方がない。
ユーリスが部屋を出たところで、僕は一息ついた。
「嫌だな、まさか前世の姉の蹴りのお陰で思い出すとか‥」
姉は、乙女ゲーム好き。僕が攻略キャラを攻略できなかったら、蹴られていた。姉はクライマックスまできたら僕からゲームを取り上げる。つまり、いいとこ取りしかしない姉だった。
「たしか、まだ僕は悪役令嬢と婚約してなかったよな‥」
悪役令嬢というのは勿論、セシェーナのことである。この頃の僕は、セシェーナと言葉を交わしたことが片手で数えるほどしかなかった。
「どうしようか、このままゲーム通り進めるか?それとも‥いや、僕は王太子だ。このまま、婚約者がいた方が都合がいい」
僕には、前世で高校生だった記憶と、王太子である記憶が存在する。だから、セシェーナを婚約者候補から外したとしても、また別の誰かになる。そして、その婚約者が誰になるのかは分からない。だいたいは見当がつくが、ゲームに全く関係のない令嬢だったとしたら、手の回しようがない。
実をいうと僕は、前世で散々姉に使いぱっしりにされたおかげで、女という生き物が苦手なのだ。しかも、不幸なことに前世の僕の周りには姉みたいな人たちしかいなかった。
まだこのカイルの記憶があるから、言葉を交わしたりする程度は大丈夫なのだ。だが、触れ合うとなると拒絶反応が出てしまう可能性がある。前世の僕の精神が拒否しているのだ。ゲームのことは、途切れ途切れの記憶しか残っていたないが、姉のせいで女性恐怖症になったことは思い出してしまった。どれだけ僕は、不幸なんだ。
とりあえず、ゲーム通りに進行させ、あとからセシェーナとの婚約を破棄すればいいと思った。セシェーネに出会うまでは‥
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ー8年後ー
僕は婚約者に自分は転生者だと伝えた。だが、彼女の反応は『殿下、お医者様』の繰り返しだ。
いや、信じてもらえるとは思ってはいなかったが、ここまでとはー。
僕の婚約者、セシェーナ・アセイド。銀色の髪に、青色の瞳。おまけに、誰もが認める美少女だ。
そんな婚約者が悪役令嬢になるとは思えなかった。
たしかに、前世のゲームでは悪役ぽっかったが、現実にしてみればどうだ?全然そんなことない。(お茶会の時は口が悪かったが)だから、怖かったんだ。僕がヒロインに攻略されるよりも、ゲーム補正がでて彼女が別人になってしまうことが。
この世界のヒロイン、ヒカリ・ラバード。彼女に関して、極秘でラバード伯爵家を調べている。たしか、ヒロインは魔法の才能を見初められてラバード家に養子にされる。だが、今のところそんな情報はない。このまま、ゲーム通りにならなければいい。
あと、舞台のフォレスト学園入学まであと1年。前世の記憶はまだ曖昧だが、回避できることはする。これでも、前世で姉にしっかりしごかれたんだ。やれるさ。
セシェーナとカイルが出会うところはまた書こうと思います。