頭打ちました?
「悪役令嬢?何ですかそれ」
「君のことだ」
首をかしげる美しい令嬢に、美男性は容赦なく突っ込む。
令嬢は、手に持っていたティーカップをテーブルに置き、美男性を見つめる。
「な、なんだ?」
「いえ、どこかで頭でも打ったのかと思いまして」
「打ってない」
きっぱりと言う。即答だ。
「そうですか、やはり医者に」
と令嬢は立ち上がろうとした。
「打ってないと言っているだろう」
美男性に止められた。仕方なく、令嬢は椅子に座りなおす。
「‥」
「なんだ、その目は」
「いえ、この国の王太子ともあろうお方がそんな事をおっしゃるていることが信じられなくて」
「悪かったな」
令嬢は紅茶を一口飲むと、「ふぅ」と息をついて「それで」と続けた。
「悪役令嬢とはなんのことですか?カイル・アルメディア殿下」
この国の第一王子、カイル・アルメディア王子。その容姿はとても綺麗で、なおかつ魔力と剣術もたけているという。
「セシェーナ・アセイド公爵令嬢、急に他人行儀だな」
アルメディア国の宰相の公爵令嬢、セシェーナ・アセイド。カイルと同じく、容姿端麗。剣術はやってはいないものの、魔法の操作がずば抜けている。
「殿下こそ。身分はわきまえています」
「では、さっきの会話はなんだったのだ?」
「空耳ではございませんか」
「そうか、では話を戻そう。」
カイルはニコニコしながら目の前にあるコーヒーを飲む。
「僕は〝転生者〟だ。そして、ここは僕の前世の姉がプレイしていた、乙女ゲームの世界だ」
「‥‥殿下、やはり医者に」
「行く必要はないと言っている」
カイルは言い切る。セシェーナは目をパチパチしている。そして、呆れたようにため息をついた。
「分かりました。詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「やっと信じてくれたか」
「いえ、全然」
セシェーナは手を左右に振る。
「もういい。実はなー」
ーカイル殿下の話によると、ここは乙女ゲーム?という世界で、私は悪役令嬢という役で、ヒロインというこの世界?の主人公をいじめる役らしい。そして、その結果私は、公爵家から追放されるらしい。
「舞台は、来年。フォレスト学園で、攻略キャラ達は出会う」
「せ、攻略キャラ様‥でしょうか?」
「つまり、落とす相手のことだ。」
フォレスト学園。それは、魔力を持つ貴族たちが通う場所だ。セシェーナとカイルはまだ15歳。来年からだ。
「はぁ。それで殿下は私にどうしろとおしゃいますの?」
セシェーナは真剣な表情で聞く。乙女ゲームとかいうもののせいで、公爵家から追放なんてごめんなのだ。
「僕を攻略させないでほしい。」
やはりか、とセシェーナは思った。そもそも、こんな事実をカイルがセシェーナに言うのだから攻略以外、他に理由がない。
だか、セシェーナの中では、カイルが言ってることはまだ、とても信じられないのだ。
セシェーナが黙って考えていると、カイルが口を開いた。
「僕はそもそも、君の婚約者だ。今さら、変えるつもりはない。だが、もしかしたらゲーム補正が出てきてしまうのかと思うと‥」
ー殿下ともあろうお方が、こんな感じでは駄目ではないでしょうか?そういえば、殿下って嘘を言ったことがありませんでしたわね。とりあえず、私も追放されたくないですし協力した方がいいですね。
「殿下、まだ信じ難いですが、その件協力させていただきます」
「ああ、ありがとう」
この時のセシェーナはなんとしてでも追放を避けたかった。