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3章 彼女見えない
「あなた、研究してるって言ってましたよね?」
「あぁ、彼女をだろ?」
ボサボサの髪には、埃がついている。
恐らくずっと風呂に入っていない。
そんな風貌だった。
「彼女って、あの彼女ですか? 僕、ここに来る前見たんですよ。緑の中に彼女がいるのを。」
すると、ガバッとその研究男に掴まれた。
「青年! 彼女の髪の色は何色だった! 言うんだ! 今、ここで!」
え?
髪色?
そう言えば、彼女のこと何も覚えていない。
色が何色で、服は何を着ていたかとか、ただ浮かんでいることしか。
でも、これだけは覚えてる。
「彼女は、ただ、ひたすらに美しかった。」
すると、ケンは、ため息をついた。
そして、眼鏡をずり下げる。
「その美しさが、俺にも見えないんだよ。誰の記憶にも残らないんだ。ただ、美しかったという現象だけが残る。俺にとっての生きる研究内容さ。」
彼は、辛そうだった。