23章 見せて欲しい
僕は、そんなトムが哀れだと思った。
黒猫の姿、人間ケンの姿。
そして、キュラ神。
彼は一体何になれば、心が満たされるのだろう。
『何故、彼を人間にしたんだ?』
僕は、ナターシャに尋ねた。
彼女は、表情を曇らせた。
『ケンは、人間になりたがっていた。はたしてやらないと、彼は、自分を殺していた。私は、ケンを守った。ただ、それだけだ。』
ナターシャは、ナターシャの考えがある。
僕は、空気神から人間になった。
ナターシャに会いたかったからだ。
恐らく彼女がそうさせたのだろう。
だが、思うのだ。
『幸福を与えたからと言って、人全員が幸福になるとは、限らないだろ。』
僕は、感じたのだ。
確かに、風の少女ナターシャは、素晴らしい世界観を持っている。
それは、ノエル、幻術家が、近くにいるからだ。
美しい風景と隣り合わせに生きている彼女の感覚は、普通の者と比べ物には、ならないだろう。
僕は、それが羨ましかった。
風と一体になっている気がしたから。
でも、そうじゃない。
きっと、ナターシャもナターシャで孤独なのだ。
この世において、羨ましい世界観などないのかもしれない。
僕は、ノエルに尋ねた。
『君は、絵を作り出すことが出来る。どうだろう、あのケンに、絵をプレゼントして貰えないだろうか?』
何を言っているんだ、という目で見られたが構わず続ける。
『僕は、ナターシャを追い求め人間になってエナジーに辿り着いた。だけど、彼はもうその世界に入っていた。そんな彼は、たった一人で一人の少女の世界観に、幸福を求めていたんだ。風で変わる世界を求めていたんだ。殺すのではなく、尊敬すべきなんじゃないか?』
『空気神、サレス! 言っていいこと悪いことあるわよ! あの男は、悪魔です! ナターシャ様を殺そうとしている!』
『殺さないさ。』
僕は、そう言い切れた。
ケンは、そんな人間じゃない。
僕は、一緒にいてそう感じた。
謎に包まれていたが本質は何も変わらない。
黒猫だった頃から何も変わらない。
『僕も黒猫ケンの友人なんだけど、どうかな? 彼に美しい景色を見せてあげてくれないだろうか?』
僕の姿、声が彼に聞こえたかどうかは、分からない。
しかし、黒猫の瞳からは一筋の涙が溢れたのだった。




