16章 ケン知らない
僕は、風を運ぶ空気だ。
何もない。
体は僕を受け入れない。
何故なら何もないからだ。
無空間に彼女が現れた。
美しく儚い風の少女が現れた時、何も持たない空気の僕は、風景になるのだ。
彼女が揺れたその瞬間だけ。
『ケン、やめるんだ。』
僕は、気付けばケンの力を抑えていた。
僕は、空気だ。
すべてを軽く出来る。
すなわち、なかったことに出来るのだ。
存在しなかったことに。
「涼、お前。」
ケンが、赤い目から普通の黒目に戻った時僕は、初めて自分を知れた。
そうだ、そんな目をした者の気持ちを遥か昔から、ずっと知りたかったことを。
無空間の俺にとって、彼らのような存在は異端で尊敬していた。
何も持たない者よりかは、いくばくかマシだと。
彼らは、聡明で本来強いのだ。
それが人間のあるべき姿。
僕は、人間に憧れた空気だったのだ。
『なるほど、だから、ナターシャがあなたを気にいったのね、無空間の神、サラス。涼は、人間としての名前。あなたもナターシャを守る神の一人ね。』
『サラス、ナターシャ、風の少女の親友として記載されている伝説上の人物だ。まさか、こんな場所にいたなんて。』
彼らは、僕に膝まずいた。
なんで、僕は。
「ただの人間だって、言いたいんだろ?」
ケンが、黒の化け猫から元のだらしのない人間の姿に戻っている。
「認めろよ、お前は、特別なんだ。俺とは違う。ナターシャ様と同じ次元にいるんだよ。」
『その言葉は聞きたくない。』
僕は、ケンを押しのけ、カイルの家を出た。
特別であることが孤独である証拠だと言われているような気がしたからだ。




