序章 不思議な少女
僕は見た。
風の中に一人の少女がいるのを。
ふわりと浮いて全てを体で感じている不思議な少女を。
「君は何故、浮いているんだ?」
僕は目の前の光景が信じられなくて思わず話しかけてしまった。
自然が緑が彼女を守るかのように僕から遠ざける。
でも、少女は、それを制した。
「私は自然なの。私は風なの。あなたは、人間?」
それが、彼女との出会いだった。
深く長い彼女が見ている世界観に僕が入っていく不思議な物語へ。
あれは、夢だったのか。
気が付けば、家のベッドの上にいた。
でも、妙にリアルだった。
彼女は、空を浮いていたが、周りが自然だったからかもしれない。
物凄く絵でも見てるような美しさだった。
また、彼女に会いたい。
彼女は、自分が自然だと言っていた。
風だと言っていた。
少女も間違いなく人間だった。
何故、あんな言葉を。
「涼! 起きなさい、遅刻するわよ!」
「分かってるよ。」
僕は、ベッドから飛び起きた。
慌ててパジャマを脱ぎ捨てる。
「あんた、時間をちゃんと見て行動しなさいよ! 今、何時? ご飯は?」
「いら、あ、やっぱ、食パン食べる。」
「こらっ! 歩いてご飯食べない!」
パンだから別にいいだろと思いながらドアノブに手をかけた。
その時気付いたのだ。
何故かいつもと違う感覚に。
軽い?
自分の体に重心が感じられなかったのだ。
まあ、気のせいか。
そう思って開けた先には。
「母さん? あれ、食パン。」
開けた緑の世界が僕を歓迎したのだ。