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平和な図書庫

遅れてしまい申し訳ありません!

 



「おはようっ」


 ぽすっ、とリーナの胸に飛び込んだアイン。彼女はリーナの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。体に掛かる力は雲のように軽い。しかし、底の無い愛情が感じられる。彼女の煌めく太陽のような双眼には、恋慕や希望といった美しい感情が浮かんでいて、それを自分の影が塗りつぶしていた。彼女にとってはそれが一番安心するようで満更でも無い表情になっていた。


 リーナは慈愛に満ちた表情を作って、アインの頭を撫でる。すると、胴に掛かる圧力が増し、優しく締め上げる。


 彼女は温かく、リーナが凍らせた良心が溶ける。その良心はさらに自分を責め立てる。


 純粋だった少女を歪めてしまったことに罪悪感を感じる。しかし、それと同じくらい自分が満たされていることを理解してしまう。その遠い感情に心が千切られてしまいそうだ。

 

「はい、おはようございます」


 しかし、そんなことを悟らせないよう完璧な笑みを作る。この三年で何千と作った顔だ。間違えるはずが無い。きっと、上手な笑顔を貼り付けているはずだ。


――私は、ただの監視……こんなことを思っていては……



◆◆◇◇◆◆


 ぺらり、ぺらり、と紙をめくる音が静かな図書庫に響く。図書庫には王国中から集められた数万の本が蔵書されている。分厚い辞典から簡単な絵本まで揃えられているそうだ。


 その一角に置かれた机を二人の男女が使っていた。


 分厚く端がすり切れた本を丁寧に、一ページ一ページを頭の中にたたき込む。見たことの無い文字だったが、不思議と理解は出来る。


 本をめくる手を休める。そして、大きな欠伸と共に背を伸ばした。

 

「内容はさっぱりだけどな……」


 そう言うと、横の一華が声を掛けてきた。

 

「いきなりそんな本を読むからじゃない? こんな絵本から始めなよ」 

  

 一華は薄くきらきらした本を見せた。表紙に『ボスタムの迷宮探索記』と書かれてた。どうやら全て手描きの絵本のようで、お世辞にも上手とは言えない癖のある絵だ。しかし、字だけは無駄に達筆だった。


「その絵でよく読む気になるな」


「かわいい絵だと思うよ?」


「好みははっきり分かれると証明できたようだな……」


 小さなため息を吐いて、再び分厚い本に目を落とす。


 煌生が読んでいる本は『魔法事典』といういかにも少年の心をくすぐる本だ。金色の装丁と赤い文字で豪奢な印象を与える。しかし、長い年月のためか、輝きは控えめでくすんでいる。

 内部は綺麗な文字と複雑怪奇な模様が多々描かれ、その模様の解説がぎっしりと詰め込まれている。



――浮遊魔法ね、剣とか飛ばせられれば格好いいな。こう、ビュンビュンってね。


 煌生はそう考え、次のページを開く。



 それからしばらく、五人しかいない図書庫には静粛だけが満ちていた。


 きぃ、と音を立ててドアが開いた。


◆◆◇◇◆◆

 

「広いなぁ、」


「静かにしてくださいよ?」


 口元に人差し指を当てて、『お静かに』のジェスチャーをする。


「わかってるよ、リーナ」


 そう言ってアインは面白そうな本を探す。奥に歩いて行き、古く埃を被った本棚を見つけた。リハイル迷宮攻略記、邪神大戦記、聖教国について、確認の取れた神族一覧、このような本が置いてあった。

 それらはアインの気に召さないようで素通りされてしまった。


 奥へ行けばゆくほど立ち入られていないようで埃の密度が増される。


――掃除くらいしたらどうだ……?

 

 指を板の上に這わせると、小さな埃の丘が出来た。十年程度は放置されているのだろう。



 奥へ行ってもめぼしい本は見つからなかった。アインが肩を落としながら戻ると、リーナが両手いっぱいに本を抱えていた。そして近くの机に置いた。

 アインは後ろから一息ついているリーナに声を掛ける。


「何をしているの?」


「あ、アイン様ですか。いえ、おすすめの本を持ってきたのですが……余計でしたか?」

 

「ううん、嬉しいよ。ありがとう」


 アインはそう言って一冊の本を手に取った。真新しく綺麗な分厚い本だ。表紙もろくに読まず、いきなり開く。どうやら神話のようだ。約三百年前の邪神大戦よりも前の話らしい。ペラペラと紙をめくり、文字に目を通す。

 数秒後全て読み終えたアインは目を閉じ、イスに座る。




―――どろどろの愛憎劇じゃないか!!??




 くわっ、と開眼し金の双眸をさらす。


―――神話ってさ、もっとこうなんていうか、偉大さがないとダメだと思うんだよね。我みたいに凄まじい力を振るうとか。でもさ、この世界の神は恋愛恋愛ばかりじゃねえか! そりゃ邪神に殺されるよなぁ!


 小さな手を堅く握り締めて、拳を作る。そしてその拳を机に振り下ろした。ぶつかる直前で速度を落として、優しく触れる。


 横に座ったリーナは肩をビクゥッ!? と震わせていた。そんなリーナを見て、“ごめんごめん”とアインは手を使って伝える。


 アインは『神々の恋愛話』という本を脇に置いて、二冊目に手を伸ばした。


「お気に召しませんでしたか?」


「ううん、面白かった。読み終えただけだよ」 


「早いですね……」


「まあね」


 アインは赤い本をとる。そして、イスごとリーナに近づいて、肩が触れるように体を傾けた。



◇◇◆◆◇◇


 たくさん積まれていた本は半分ほどの高さに縮んで、同じ高さの本の塔が出来ていた。これはアインが読んだ本だ。古今東西の知識を頭の中にたたき込んである。

 そして来客用の部屋に掛かっているという空間魔法についても調べた。かなり高度な魔法らしい。千万以上の民を抱える王国を探して、十数人いるかいないかという希少さだ。


 今、アインが読んでいるのは『錬成のすすめ』という辞書のような解説書だ。


 アインが数十冊目の本を読み終えて、一息つく。そして、横の方を向いた。そこにはまじまじと本を見るリーナの姿があった。すると、視線を感じたらしい彼女は、おもむろにアインの方へ顔を向ける。


「どうかされましたか?」


「っ? い、いや、なんでもないよっ」


 顔が熱い。血など通っていないはずなのに。きっと顔が真っ赤になっていることだろう。改めて、彼女に見つめられると胸の中に幸せが広がる。甘酸っぱい気分になりもじもじとしていると、

 

「あ、お昼ですね」


「えっ?」


「ご昼食にしたいのですよね? もうこんな時間ですから、お腹もすきますよね」


 リーナは古びた懐中時計を取り出し、時間を確認していた。


「さあ、ちょっと遅めのお昼ご飯にしましょう。お腹ぺこぺこですよね?」


 少し強引に、アインの手をとるリーナ。焦燥の顔色が浮かんでいる。というのも、今は十五時。リーナが朝ご飯を食べてから十時間後だ。あまり食べないリーナも流石に空腹を訴える。


 柔らかいぬくもりを感じたアインは有無を言わさずに、連れ去られる。


「り、リーナ!? 嬉しいけどさ……あのっ、本は返さなくて良いの?」


「勝手に転移しますので大丈夫です! それよりもご飯を!」




 二人は無事、昼食にありつけた。めでたしめでたし


◇◇◆◆◇◇


 アインは休日の三日間を使って、リーナと絡んだり、この世界の知識を集めた。アインに元の力があれば一瞬で分かるが、残念なことにほとんど力が残っていない。


―――ちょっとずつ力が戻ってきているけど……これじゃあ、十兆年くらいしないと、わたしの一割の力も戻らないんだよなぁ……その頃にはこの世界も死ぬし……どうしたものかなぁ……

 

 一人、窓から夜空を見上げる。大きな月が煌々としている。

 

 今のアインはほとんどの力を絶対神に封印されている。少しずつお零れが戻るがこのままだと、永劫に等しい年月が要求される。

 なんとか裏技がないかと思案しているのだ。


―――あいつは念じたりすれば力を引き出せるとか言っていたけど……あ、《不変牢獄グルムシャガル》に残ってる元の体を食べれば良いじゃん。あそこくらいなら入れるはずだし! ……たぶん……


 早速、出涸しを数十回使ったあと川でしばらく流した後の茶葉に残る栄養程度の力をこねくり回して、空間と空間をつなぐ神術を発動させる。


 それからアインは《不変牢獄グルムシャガル》の中へ行った。

  

 

パキン……と何かが割れる音がした。


全く進まないんですよねぇ…… (他人ごと風)





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