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初日の終わり

エゴ百パーで書くと酷いことになるのでわびさびが大事なのですね(げっそり)



「シャワーでも浴びていてください」


 リーナは、アインをやんわり引き剥がして、奥の部屋に無理矢理押し込んだ。


「え、どうして……」


「いいから入ってっ」


「っ……」


 アインは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。リーナは扉を閉めて元の部屋に戻った。そして誰もいない部屋で、小さな声で呟く。


「嫌いなわけじゃ無いですよ……ただ、あの子を思いだしてしまって……」


 リーナの脳裏に、幼かった頃の風景が浮かび上がった。


 それは、苦い苦い後悔と絶望の記憶。


◆◆◇◇◆◆


 奥の部屋はトイレとシャワールームに分かれていた。見たところ一番目の部屋は脱衣所だろう。清潔感のある柔らかい布が、かごの中に畳んでおいてあった。



 アインは今、俯いて頭から冷水を浴びている。冷たい水は腰まで届く長い黒髪を一層煌めかせる。星空のような髪からは絶えず流星がこぼれ落ち、硬いタイルにぶつかり、砕けた。

 アインの体にも艶めかしく水が伝う。その体は氷のように冷たい。


「嫌われた……?」


 顔を上げると、酷い表情をした少女が見えた。不安や絶望が支配する歪んだ表情だ。金色の双眸は光沢が見られず、死んだような目だ。


 自分の顔だと思い出すのに時間がかかった。この短時間でかなり憔悴していたようだ。


 確かに、リーナへは一方的な恋慕をぶつけてしまった。自分の幸福ばかり追い求めて、相手のことを考えない、愛とも呼べないものをだ。リーナが拒絶しても仕方ないのかもしれない。


 精神の中を異物が蠢いているような苦痛を感じる。


「っ……っ……」


 ただの幼い少女が泣いていた。声を押し殺して涙を流していた。悲痛からではなかった。恐怖から泣いていた。

 涙は頬を伝い、水と混じり、かき消された。


 嫌われたくない。好かれていたい。そんな感情ばかりが精神を支配する。


 それとは裏腹に、嫌われているかもしれない、と考えるだけで意識が塗りつぶされる絶望を感じる。


「いやぁ……そんなのいやだぁ……ううっ」


 何もかもに拒絶されているような感覚に陥り、足から力が抜ける。堅いタイルにへたり込み、延々と冷たい水を浴びる。


◆◆◇◇◆◆


 部屋の奥の扉が開く。開いた音は掃除をしているリーナの耳に届き、振り向かせた。


「あ、タオル、ありませんでしたか?」


 全身から水を滴らせる黒髪の少女をみたリーナはこう言った。“ちょっと待っていてください”と言い、クローゼットを開けて中身を物色する。

 そして、お目当てのものが見つかったようで、クローゼットから身を引いた。


「これで――んっ?」


 リーナの体に突如重さがかかる。リーナはそれが何かすぐに分かった。


「ごめん……なさい、でも、わからないの……どうすれば好きでいてくれるの……?」


 依存なのかもしれない。アインはリーナに泣きそうな顔で縋り付くしかなかった。他の方法――嫌われない条件――が分からないアインにとっては、それが悪手でも体を接触させなければ恐怖で精神が押し潰される。好かれなければ自分が保てなくなる。そんな恐怖だった。


 口調も変わり、幼い少女にまで落とされた。


 リーナは薄く微笑んだ。


「あなたが私を好きでいる限り、私もアインを好きでいますよ」


 それが正解なのか二人にはわからない。しかし、黒髪の少女は両手に入る力を少しだけ強めた。



◇◇◆◆◇◇


 二人の契約のようなやりとりは終わりを迎えて、アインは白い寝間着に着替えさせられていた。柔らかい生地で肌触りが良い。この世界の技術は発展しているようだな、とアインは考える。


 今は部屋に一人でいる。リーナは彼女の仕事に向かっていて、いない。部屋の照明は落とされていて、窓から入る月明かりが唯一の光源だ。


 リーナから寝ているように言われたが、生憎と眠気は訪れない。夕方に寝ている方がイレギュラーなのだった。


 ベッドの中で考え事に耽る。


――明日からはどうしようかな? 休みだし、ああ、図書館とかあるかな? あれば行きたいな。


 もちろんリーナと一緒に。


「ふふっ、あはは!」


◇◇◆◆◇◇


◇◇◆◆◇◇


――俺は夢を見ている。

 

 煌生は目を閉じながらそう考えた。


「コウセイ様、コウセイ様」


 ちょっと年上のお姉さんの声が聞こえる。正直なところ、煌生は感動していた。お姉さんが朝におきてくれるというシチュエーションは、一人っ子の煌生に魂のエクスタシーを覚えさせる。顔の筋肉が変に動かないよう押さえつける。


 そういえば一華は妹キャラだなぁ、と考えた。とりあえずこのボーナスタイムを長い時間受けるために、寝たふりをする。

 

「起きてくださいよ」


 耳元で熱と音を感じる。たっぷり時間を掛けて『秘技お姉さんの耳元囁き』を食らったのだと知った。その囁き声は煌生の防御を貫き、一瞬で廃人一歩寸前まで追い込まれた。

 一人っ子煌生に、効果はばつぐんだ。


 ピンク色の脳が蕩けてしまいそうだ。心臓が爆音を鳴らす。


「起きないんですかぁ?」


 呆れるような声が遠くで聞こえた。少し寂しい反面、あのままでは危険だったと頭の片隅で考える。体が揺れを脳に伝える。ゆりかごのように揺さぶられ、羞恥心がわき出る。心地よい揺れで、もう一度眠りに落ちてしまいそうだ。いや、実際落ちかけている。


 電車や自動車の揺れとはまた違う感覚に意識が持って行かれそうだ。


 すると、急に揺れが収まり気配が遠のいてゆく。煌生の意識は微睡みから抜け出し、視界を捨てて聴覚を限界まで研ぎ澄ませる。昨日の祝福を授かった時から感覚も強化されているのでカーペットと靴がすれる音すら聞き取れる。


「イタズラ、しちゃいますよ……」


「ぜひ、お願いします!」


 煌生は突如聞こえた美声に、反射で返事をしてしまう。お姉さんの囁きでとどめを刺されて、お姉さんのイタズラで蘇生される。軽い快楽責めに屈し、煌生の我慢大会は終わりを迎えた。


「ダメですよー、」


 小悪魔的な笑みと言動に『最後のトドメ』を刺されがっくりと肩を落とす。

 

「そんなぁ……」


◆◆◇◇◆◆


 アインは眠らない。


 一晩中、街灯が立ち並び月明かりに照らされる夜の街を見ていた。そこで、酔い潰れている人に毛布をかぶせる光景を見た。治安がよく、思いやりがある国なのだろう。

 

――優しい国なのだなぁ


 アインは優しく微笑む。


 そして、自分の手に視線を移した。


――この体にも、この精神にも一日でなれたな。良いのか悪いのか。そしてミルに平和の申し子のような体と精神に変えられた。まぁ、あいつは封印が目的らしいから、これ以上ちょっかいは出してこないだろうと思うが。


「でも、リーナに会えたから良いよね、ふふっ」


 無邪気な笑い声は一晩中続いた。


 濃い一日は終わりを迎える。

 

◆◆◇◇◆◆

 

 異世界二度目の大敗北を喫したすぐ後、上品な服を着た煌生が廊下を歩いていた。鏡で見ると、ませている感じが否めなかったが、クレールが良いと言ったため。


 廊下を歩いているとクラスメイトも同じ状況になっていた。逆に堂々としてやろうと背を伸ばして歩く。後ろにはクレールがにこにこしながら歩いている。この状況を楽しんでいるのだろうか。と、煌生は考える。


 小さくため息を吐いて歩く。今、煌生たちが向かっているのは図書室だ。煌生が見たいと言ったため向かっている。クレールが後ろにいるのは迷子にならないためだ。


――信用されてねぇ……


「ここを右に曲がります」


 煌生が指示に従って右に曲がると、見覚えのある服を着た黒髪を一本に結った少女がメイドと歩いていた。

 

「一華、」


 煌生が短く呼びかける。すると、前の少女は勢いよく振り替えり、可愛らしい笑みを浮かべる。


「煌生っ」


 一華は走って煌生の方に向かってくる。腕を広げて表情で『ウェルカム!』と表現すると一華は迷わず飛び込んできた。


――妹キャラだよなぁ……


「私は図書館に行くけど、煌生はどこかに行くの?」


 一華は上目遣いで煌生に問いかける。


「おまえと同じ図書館にな、何か調べたいことでもあるのか?」


「文字が読めるかの実験だよ、部屋に本が無かったからね。あなたはどうしたの?」


「暇つぶしかな」


「へー、じゃあさじゃあさ、一緒に行こう?」

 

 煌生は一華の様子を見て、元の世界とかわらないなぁという印象を抱いた。よく二人で買い物に行っていたものだ。

 

「ああ、一緒に行こう」


「やった!」


 腕を掴まれ、少し苦笑いを浮かべながら歩き出す。


「ところで、なんでそんな服着てるの?」


「べ、別に良いだろ!?」


「照れてるー」


イチャイチャしながら二人で歩く。




「私たち、忘れられていません?」


「なんか、悔しいわね」


 メイドのふたりは悔しさを噛み締める。


 


 





しってるか、ここまでかかって、やっと初日の終わりなんだぜ……?


頑張ってテンポよくします。


友人の助言に従い、最初の場面を書き直しました。

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