なにかを操作したいとき
小さなコンパスと灯りだけ持って
暗闇の中を進むしかないんだ
コンパスはたまにぐるぐるまわって
あっちこっちを指したがるが
そういうコンパスしかこの世界にはないんだよ
だって世界の方こそがぐるぐるまわっているのだからさ
気を付けろ、
賢者でありたいなら賢者であろうとするな
愚者でありたいなら愚者であろうとするな
大事に抱えている地図は
ちゃんと見たい世界のものを記しているかい?
鳥が巣をつくるとき
木を植えるところからははじめない
野生の鳥は己に操作できるものと
できないものとを弁えている
木の実は空中からは生まれてこない
生まれたばかりの小鳥は空を飛べない
そんな大きな流れの中の理屈さ
遺伝子の中に宿した長い長い時間さ
真実は掴み取ったそばから
手の中に収まる小さな氷の塊のように溶けていく
大量の水のような嘘の中にまぎれて消えていく
おまえの手の平の温度がそんなふうに変えてゆく
なにが間違っていたんだと嘆いて終わりかい?
己が所有したと思ったことが間違いだった
無知の知なんてよく言ったもの
おまえの手にはいつだって余るのさ
おまえはたったひとり、たった数十年
相手はいつだって何千億年をも超えるなにかの集合体
まっすぐ立ち向かうから強いだなんて
この世界は思いの強さがすなわち力になる場所ではないよ
思いの強さが強いとすれば
いちばん強いのは根拠のない妄想になる
そんな世界に住みたかったのかい
与えたもの与えられたものすべて失くしてしまう世界が望みかい
気をつけろ、
賢者でありたいなら賢さを疑え
愚者でありたいなら愚かさを知るなよ
知恵の大樹はのぼるほど伸びてゆく
切り落とすほど征服できる
ごまかせば正しくなる世界が望みかい
立ち止まったなら扉を開けるとき
なにかを操作したいとき
いちばん変えたいのは自分の心だ
誰かを操作したいとき
まったく意味を成さないのは他人の心だ




