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よし、君を誘おうか

作者: Victor




 ちょいとした昔話をしてあげよう。

 これはまだ私が中学生だったころの話さ。

 中学に入ってから一年が経ったぐらい、同じ学年の顔をだいたい覚えるようになった。もともと、他のクラスに行くこともなければ、特に親しい人もおらずにほぼ毎日は本またはラノベか、部活の男バスをやっていた程度。

 二年になってある程度の時間が経ち、いつものように図書館で面白そうなラノベでも借りようとした矢先に珍しい髪型の少女を見かけた。ダウンテール、と呼ばれる髪型で、しかも彼女が借りようとしていたのはバーティミアス。

 それ以来からか、よく図書館で彼女の顔を見かけるようになった。もしかしたら、去年は知らない間に何度もすれ違っていたかもしれないな、と思うとなんだかもったいないような気がしてしまう。

 小柄で、学年には一人しかいないダウンテール。恋をしていたのか、それともただ気になるのか。あの頃の私はまだ理解していない。

 当時通っていた学校では、週番と呼ばれる朝掃除システムが存在していた。ほんのわずかな時間だけども、一年生から三年生まで全員体験すること。週ごとで名簿順で各クラス一名ずつ給食のときに流れる放送によって名前を呼ばれ、顔合わせのために放課後に集まった。

 時間に余裕があって、たまたま生徒会室にある壁にあった電話帳を目にする機会が訪れた。そして思い出した。生徒会長選挙も終え、各委員会の三年の委員長は二年へと引継ぎを行っているため、いまのメンバーは二年であることを。

 だから、すぐさま彼女の名前を探して、その番号を脳内に焼き付けると必至に繰り返した。説明なんて、聞いちゃいなかった。

 余談だが、このことを知人に言うと。

 おまえ、バカだなぁ。とのほほんとした口調で呆れていた。

 好きなだけ言え。同じ部活に入っていて、しかも元クラスメイトだからそれぐらい知っていたくせに、たとえ聞いたとしても教えなかっただろうが。

 それでも、だ。

 相変わらず私は彼女に電話することもなく、また話しかけるような機会などなかなか訪れない。当たり前だ。用事もないのに、声をかけてどうするんだ。といまでこそ思うものの、結局のところは親友のように気軽にナンパするように声をかけることさえできなかったからな!

 あの野郎、何一つ二つ年上の高校生にちょっかいかけて、しかもさり気なく携帯の番号を聞いているんだよ! しっかしぃ、あの野郎はあとで確認のために電話をしたら、ちっきしょぅ、出ねぇじゃねかっと憤慨していた姿を見ていた私は腹を抱えて笑った。

 笑うなぁ! と言われても笑うしかないだろうが。

 結局、彼女に話しかける勇気すらなかった私は図書館で稀にすれ違う彼女と、手に持つ本を目にして、おっ、あれは……と気付けても、何もできない日々が続く。

 そうしているうちに三年生になって、刻一刻と卒業が迫って来た。

 また、卒業したらもう二度と出会うことも、すれ違うこともない。

 彼女がとある高校を前期受験で受けることを噂で聞き、それでも私は応援の一言さえ、声をかけることさえもないまま過ぎていく。

 彼女の前期受験前夜、親友とともに夜の街を徘徊していた。と言っても、ただ適当にぶらぶらしていただけで、ふとした拍子に彼女のことを彼に教えてしまう事態に。

 さっさと寄越せ、と私のテレホンカードと彼女の番号が書かれている紙を手に電話ボックスに入ると――電話しやがった。

 止める間もなかった。いや、正確には誰かにそうして欲しかったかもしれなかった。だからか、あの野郎が仲良く話している姿におまえなぁ! と言いかけたのは……たぶん、私に代わるということを彼女に告げたせいだろう。

 それで、親友と変わって彼女と初の電話を。

 面と向かって話し合うことができなかったのに、不思議なことにこうすることで自然と言いたいことを言えたのはすごく満足できた。が、親友よ。なに電話ボックスに体当たりかましやがるこの野郎。おめぇのせいで回線が切れたが、かけ直してなんとかなった。

 きっと、緊張している私をほぐすためだろうな。

 それから――学校で彼女に声をかけることもなく、卒業した。

 それでも、だ。

 ちょくちょく空いている時間に電話をかけたりしてみれば、携帯番号を教えてくれたりと進展はあった。

 そのことを知人に話せば、誰だって何度もかける奴に家族に知られると冷やかされるに決まっているだろぉ。と卒業しても変わらないのほほんとした雰囲気で言われた。

 そんなことを言われたせいか、それとも意識していたのか。

 運命のあの日に彼女に誘いをかけた。毎年恒例の花火大会へと。

 親友には今年は一緒には行けそうもないかもしれない、と伝えた上で彼女に誘いをかけた。どうしようかな、と迷う彼女に時間が欲しいと言われてから一週間後には行けない、と伝えられた。

 毎年恒例の花火大会で親友とともに今年にお互いにいろいろと忙しくなったなーとあれこれ話し合い、ふとコンビニに足を運べばそこに彼女と連れがいた。彼女の連れは同性だから特に気にしなかったため、そこから出ることに。幸い、コンビニは人混みがひどかったので気付かれなかった、と思う。

 親友はこれをきっかけにナンパしてくれるから、そこにいろよ! と忠告してから颯爽と人混みの中に消えた。私はやることがなかったけれども、彼女と顔を合わせたくなかったのでふらふらと歩く。

 その後、見事に私と親友はお互いの姿を探し合うことになって一時間後には遭遇し、ナンパ不成功とデートにできなかった祝いとしてコンビニで花火セットを買い、湖にぶち込んだ。

 純粋に楽しんだが、やはり苦いものは苦い。

 でも、なんとなく声が聞きたくなった日にはどうしてか、彼女にさり気なく電話していたから少しぐらいはお互いのことを知れたと思うよ。そう思ったのは、たぶん私だけかな。


 さ、これで私の昔話は終わりさ。

 なんだか、無性に彼女の声を聞きたくなるな。またメッセでも飛ばして、元気にしているかい? と問いかけてみよう。

 ふふ。

 できることなら――また君に会いに行きたいな。今度こそ、電話しないで真正面から向かって、君と目を合わせて、ちゃんと話し合ってみたいなぁ。

 


 

 

 



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