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嫌われ損のくたびれもうけ

また割を食うギン。


***

文体を修正しました。

さて、全く活躍できない生徒達が活躍しようのある授業が、体術授業である。


「やっほーい、体動かせるよー!あはは」

「テンション高いな…」


と、レギオが美少女二人を連れて現れる。

「ヤヨイ。勝負だ」

「俺は構わないが…」


チラリとこっちを見たので、にかっと笑うと、「受けよう」と言った。


「あの二人が勝負するのか!?」「前回の試合の再現になるのかしら」「勝つのはレギオ様です。疑いようもありません」「レギオ~、頑張ってぇ~。大好きだよぉ」


何か声援に混じって聞こえてきたような気がするお…。


「それでは、気絶したか参ったと言った方が負け。この試合で怪我をしてもあくまで自己責任だ」


エミリエ先生が言う。二人は四角い舞台の上に上がると、構えを取る。あの構えは、

「なるほど、レギオは護身術、アズサは暗殺術か」


一見すれば暗殺術の方が有利に見えるだろうが、その実暗殺術は一撃必殺を得手とするために、防がれてしまうと次の手を打ちにくい。対して護身術はカウンター重視の攻防一体型。どちらがこの勝負に有利かは分かり切った事だろう。


「はぁ…そりゃスタミナの問題だけじゃないよね~」

「始め!」


レギオは動かないでカウンターを誘うような隙を作る。それを狙って飛び込んで行くアズサを叩こうとするが、両者の拳は空を切る。

俺の得手とするのは、活水拳ーーオリジナルだが。


「…当たらない、か」

「ははは、腕を上げたな。さぁかかって来い!」

「なら、全力で行かせてもらう!」


無音で地面を蹴ったアズサを迎撃せんと構えるが、留守になった足元に気がついていたらしく、足を払おうとする。だがそれはフェイク。上から降ってきた拳を避けられず、まともに殴られたアズサはぐったりした。


「勝者レギオ!」

「アズサ!」

俺は走り寄って顔を検分する。頬骨にヒビ。脳震盪も起こしかけている。


「先生、保健室連れてきます」

「殴られて気絶しておるだけだろう、すぐにもどって来い」

「それだけならすぐに戻りますよ」


少しいらっとして応えると、「さっさと行って来い!お前は次のレギオの相手だ」と言われる。

俺はぐったりしたアズサをお姫様抱っこで持ち上げると、その軽さに驚きつつ保健室へ行った。



「失礼しまーす」

俺の声に、四十がらみのおっさんがこっちを向いた。保険医リバ・アルフレッド、ギルドゼネラル所属のBランク保持者でもある。


「あん?一年か、仕事増やすなよな。で、そいつは?」

「アズサ・ヤヨイ。見たとこ顔面に一発食らって少なくともヒビ入ってるかなー。俺が知ってる魔法で一時間は痛みを和らげられるから、その間に治療しちゃった方がいいんでない?」


「ほう、使える学生だな。治癒魔法ならお手の物だ」

二構築魔法、キュアリング。体内の骨をくっつける事もできる治癒魔法だ。うっすらとアズサが目を開ける。


「ギン…負けたんだな、俺は」

「まぁ、合わない相手だったからなぁ。こんど体術を教えてあげるよ、ギルドアークのメンバー直伝の奴」

「そう、か…すまない、俺のために」


かくっと意識を失った。


「じゃあ先生よろしく。アズサに手を出したら職務規定違反でタイーホデスヨー」

「するか。俺はボンキュッボンの20代が好みなんだ」

俺はせせら笑うと、扉を閉めた。



「遅い!」

「あー、あれでも大変だったんですよ~。顔面にヒビと脳震盪も、結構強くいってました」

「嘘を並べたてるな!さっさと登れ」


俺がニヤニヤ笑いを貼り付けたまま舞台に登ると、レギオは「あの噂だが」という。


「俺は半信半疑だ。バーサーカー様がお前の無様な計略に乗るわけもない。学園の名誉を毀損したのも事実ではないんじゃないかと。だがお前が俺を羨んでもおかしくないと思っている」


はぁ?


「正直に言え、どうなんだ?」

俺の口は薄ら笑いを貼り付けたまま動かない。爆笑をこらえて口の端がヒクヒクする。


「その顔…図星か。バーサーカー様の優しさにつけ込んで俺を貶める気だったとは…最低だな」


ちょっとどういう神経してんだこいつ。アズサを殴り倒しておきながら、それを保健室まで連れてった俺に礼の一つもないと。


狂っていやがる。

俺は腕をだらりと下げ、息を吐いた。


「どうした?戦意喪失か?」

「構わずかかってきていいよ。最も君はカウンター重視だから、かかってくるのは苦手だろうけどね」


「ふ、戯れ言を!」

踏み込んで来て俺の腹に当たったような拳はぬるりといなす。左から来る拳は顔を背けつつ首を捻り、その反動でひねられた腕がレギオの顔に衝突する。


「ぐふっ…!?」

ステップして間合いから出ようとするのを、俺は見逃す。


玄人も隙だらけと思うような構えのまま、俺はこの流水拳を作ったレオナルドに感謝する。活水拳では俺は手加減ができないからだ。


「さぁ、かかって来なよ。じゃないとこっちからいくよ?」

「上等だ!!」


縮地法で間合いを一気に詰める。見たことがあったのか、すぐに反応して来た。カウンターである顔面を狙った拳すらいなし、反った体を利用して、顎に蹴りをいれる。


「あっれ~?どうしたの?俺マジでレギオ倒しちゃう系?」

「うぅ…調子に乗って、ふざけるなっ!!」


「アズサには流水拳のほうがいいかな。体柔らかいし貧弱だし」

「本気で、来い!」

「やだな、俺の本気なんて見せられたもんじゃないよ。醜いから」

「死ねぇっ!!」


詠唱破棄をしていたのだろう、ファイアボルトが飛んで来る。時間は短くなった、だがロスが大きい。ここで避けるのは、魔法を使うとわかっていた者だけ。俺は馬鹿だからーー。



「…いってー、センセイ痛いんだけどー」

「無茶言うな。ファイアボルト食らって立っていられるやつなんて化け物だろう。それより、体術で魔法使うなんて、卑怯なやつもいたもんだな」

「Bでも欲しくないな。まぁだけど、センセイはいい腕してるよ。肩口の火傷、一構築だけじゃ治しきれなかったし」


「そうか?お前ほどの使い手に俺が敵うと?」


ーー失策だった。

「……何の事だ?」

「俺の憧れた魔法師と似てるんだ」


耳元で囁かれた言葉。俺は指で中空に陣を描く要領で、「魔眼の持ち主か」と書いた。ニヤリと笑い、リバは頷いた。俺は書いた線を消すと、ため息を大きく長くついて、自分の傷をちゃっちゃと修復した。


「あーずーさっ!」

「…うぅ……ギン…?」


「もうちょいゴロゴロしたいけど俺は授業戻れるから!一字一句たがわず授業してあげる。んじゃあ放課後!」


隣のベッドを仕切っていたカーテンをシャっと開けて、にこっと笑うと、起き上がった。


「もうフラフラはしない。平気だ」

「そう?じゃあ待つよー」

と、着替えを始めようとしたのを凝視していると、睨まれてカーテンの中から追い出された。


「覗くな」

女の子かよ!と突っ込みそうになったのはさておき、これでリバと話ーーもとい筆談ができる。


『その様子じゃ俺が誰だかわかっているようだな』

『以前アークの訓練に体験参加したんです』


それじゃあ覚えてなくて無理もない。この男は俺の担当してた中にはいなかった。


『◯班班長、狂戦士様かな。こんなお子様には見えなかったけど』

『態度次第だ。この件は内密にしたい、黙っていてくれれば』

『アークで働く事は出来ませんかね?』

『ここで三年、俺の相談に乗ってくれたらな。魔眼保持者なら引く手数多だ、俺が班長権限で口きいてやる。だが戦闘もそれなりじゃなきゃ雇い入れる気はないからな』

『三構築を詠唱破棄、発動までに5秒…ってとこか』

『ならイケるな。タイム縮めとけよ』

と、不機嫌な顔でアズサがカーテンを開けた。


「あ、着替え終わった?今ます取りゲームしてたんだけど、アズサもやる?」

「…戻るぞ」


呆れ果てたように彼は言い、俺は「あーあ、不戦敗だよー」と言って立ち去った。



俺の事は何故か本気を出さない卑怯者が、魔法に気付けないで食らった馬鹿な例になっていた。憤慨したアズサを抑え(これが一番大変だった)、何とかした後で俺を睨みつけるレギオの視線をガン無視し、アズサには流水拳の習得を勧めた。



「…久々にこれは疲れたな」

新人の訓練を行った後の多重魔法構築負荷訓練。朝の訓練もきいたらしく、足や腰にわずかな気だるさがある。


夕食を食べた後、俺は迫ってきた職場見学を思い浮かべた。

次回、職場見学!

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