停学明けの和菓子だ!訓練だ!
デート回?と訓練です。
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文体を修正しました。
「で?なぜ動いた」
「建前、前途有望な学生を傷つけるマネなど俺の目の黒いうちは許さん。本音、召喚師くらい安全のために雇えよ、使えない新人二人派遣して死なせるとこだったろうが、お前ら謝罪しやがれ」
「……妥当じゃのう……妥当すぎて学園に何か言う気も起こらんわ。ギルドとしては、新人であったため召喚獣と戦闘したこともない事を加味すれば、居合わせた者を呼ぶのが道理じゃろ」
レオナルドとしては、学園に文句つけてやろうかと言いたいくらいだという。
「そして、よっぽどの緊急ではない限り市民を守る事に努めるのがアークの方針じゃ。それは曲げられぬ」
「ギルドとしては俺個人、そしてギンのほうにはおとがめなし、ってことだな?」
レオナルドは頷く。
「というか!召喚獣倒せる位の教員は!雇っておかんか!そうは思わんか!?全くワシの後継(笑)たるお前を、バカにされて黙っていられるか!」
「いや(笑)って酷いだろ」
「ツッコミ後継者じゃ」
「お前は終始ボケ倒しただろうが!」
「はーて、きーこえんのー、わしーが何か言うたか?」
「俺が言ったんだよ!」
「ま、とにかくじゃ。三日経ったら学園には行けるからの。それなりの塩対応はさせてもらうが」
塩対応って、大人げねぇ。そう思ったが、大人気ないことに関してはトップクラスのこの男が、ギルメンをバカにされて黙っていられるほど忍耐力があるとは思えなかった。
「…うぃーす!あっれ~、視線がナイフみたいだな~」
「ギン!」
ガタッ、と椅子を蹴倒してアズサが立ち上がった。椅子から解せぬと聞こえてきそうなんだが。
「いやー、停学とか片腹痛いわ。仕事もスッキリしたし、今日は俺がおごっちゃう!」
「え、でも…」
「いーのいーの。アズサはおとなしく奢られてりゃいいの」
「は、はあ」
どうやら狂戦士効果は健在だ。あのアズサが引き下がるなど滅多にないと言うのに。
と、今回の元凶が現れた。声援を浴びつつ、めちゃくちゃに褒め称えられながら。
だがその髪は、脱色でもしたのか銀色である。
銀色である。
………。
コメントのしようもなく俺が黙っていると、アズサが見かねたのか共感したのかは分からないが、解説を加えた。
「レギオがすっかり狂戦士のファンになったみたいで…髪を脱色したんだ」
「……倒した状況と、俺の噂」
「右手で殴ったとか、聞いたけど。それと、ギンの噂なんだけど…裏切り者とされてる」
なるほど、俺がレギオの失敗を盾に名前を上げようとして逆に学園の名誉を毀損した、ね。嫌われるわけだ。で、正直俺はレギオを露ほど、いや毛ほども羨ましくなんかない。
腕に絡みついた二人の伯爵令嬢。イケメンでランクB。詠唱破棄が出来る。
「ハァ……俺的に噂は尽きないよね…。アークの職員ってだけでもアレなのに、狂戦士とばったり会って無理言って来てもらったとか」
「お、俺としては話せたし嬉しかったぞ。落ち込むな」
アズサはこういう時とことん優しい。やっぱりおごってやる。
「えへへ、じゃ俺は今日の放課後のことを考えて過ごすよ」
にこっと笑うと、彼はちょっと赤くなってそっぽを向いてしまった。
「キタァアアアア!和菓子ならココ、喫茶店もついてる和菓子本舗花の城!」
「テンション高いな…」
「俺、毎日転移門使ってるけど、今までアークのある街から外に出て買い物したことないんだ」
ぶっちゃけ目的地には転移で行けるもん。
「休みとか一日取れるなんて滅多になかったし」
訓練と言う憂さ晴らしのせいで俺は休みの度フルボッコであり、治癒魔法の被検体になったりした。
「…中に入ろうか。甘いものはいいよね~、全てやなこと包み込んでくれる」
「なにを思い出したのかすごく気になる位の表情だったぞ?」
俺たちが扉を開けると、見憶えのあるコート。四枚の羽、黒いコート。
「……」
「あ、ギンh…君、やっほー」
「む、アシュレイ殿」
一人の筋肉ダルマと、明らかに幼女と呼ばれるほど愛らしい見た目の女の子。
「エステラ班長、ハンナ班長。なぜ今の時間ここに?」
「え、……っとお」
「私は仕事を押しつ…わらせて来ました」
「あたしはぁ~、……バーサーカーのデスクに?」
「てめぇらそこへ直りやがれ!」
腐った性根を叩き直してくれる!!
「いいか?大体な、お前ら班長になった自覚が足らんのだ。仕事熱心は当然、奇跡を起こすようなことを望まれてるんだぞ?それが書類の数千枚さっさとさばけなくてどうする。内容を見て判子を押すかどうか決めるだけだぞ?わかってるのか?」
「「すいません」」
「ぎ、ギン…?」
かちーん、と固まる。
「その人達班長だよな?なぜそんなに偉そうにしてる」
「あーあ、お仕事モードはコレだから。俺の中では仕事しない奴は同一だよー?」
「こ…怖い。ものすごくお仕事モードが怖い…」
「褒めた?」
「褒めてない」
お店のお姉さんが怖がってる、ヤバい。それより何よりまずいのはアズサが怖がってることなんだけど。
「アズサはお仕事モードき、嫌い?」
「いや?むしろ人が変わりすぎてびっくりしただけ」
「…和菓子、食べようか」
「どら焼き…」
いまだ萎縮しているお姉さんにはアークの仕事の鬼であることを伝えると、そこそこ分かってくれたようで、警戒は緩めてくれた。
「バーサーカー様の話、本当だったんだ…」
「え?何々?」
「ギンが仕事の鬼で、班長も逆らえないって」
曲解だけど大体合ってるとは言えず。
「仕事してない人だけだよ、こないだバーサーカー…様を呼んだのは偶然通りがかっただけだしね。あの人は仕事はきっちり押し付けられた分までこなすから、頼んだだけ」
「そうか…!」
何かめっちゃ嬉しそうだ。憧れるのもわかるけど、俺目の前にいるんだよなぁ…。
「そういえば、メニュー組み立ててきたよ。まずはこれくらいかな」
腹筋100回、腕たて伏せ100回、背筋100回、ランニング1.5km。
「こ、これを…?」
「アークの人達は毎日五セット以上はこなしてるけどー、まずは1セットで身体を慣らそう!」
ちょっとアズサの目がうるんでいるような気がする。袖をぎゅっと捕まえられる。
「…一緒にやってくれる?」
俺はその後通常訓練(これを20セット)の後多重魔法構築負荷訓練と戦闘訓練の面倒をみるのだが、別に今更1セット増えたところでなにも変わらない。
「いいよ。あ、訓練の時は速度上昇魔法なり体力強化魔法なりを詠唱破棄でかけてね。これは魔力上昇に関わることだから」
「それと…授業をぶっ倒れるまで受けた場合は?」
「俺が回復してあげる。魔法なしのランニングにはなるけどね」
にぱっと笑うと、後ろの二人が訓練時代を思い出してか青ざめる。そういえば俺、「いけそうだな。回復させてやるから走れ」とプチ拷問してたっけ。
「俺も狂戦士様の様に男らしくなりたいんだ!」
後ろの二人が慌てて口を抑える。吹き出しそうになったようだ。プチ殺す。それに気づかずアズサはどれだけすごい人かをどら焼きを頬張りつつ語る。
「……と言うわけだ」
「魂が抜けそうだな……俺も色々知ってるよ?」
本人ですから。
「聞かせてくれ!」
「じゃあアズサが一週間俺の特訓耐え抜いたら、一個教えてあげよう!やる気出た?」
「出た!」
「よぉ〜し、じゃあみたらし団子追加ね!」
店の奥から「はぁーい!」と声が響いた。
「『スピード』………『レインフォース』」
魔法の間隔もだいぶ短くなってきた。イメージが上手いのだろう、綺麗なかかり具合だ。未だに一構築魔法以外では成功していないのが玉に瑕ではあるが、と俺は考えつつスタートを切った。
「やぁ、ルートの組み立てはしていたけど、学生の街だねー。いいなぁ、文具店揃ってる!アークのあるロストエデンではなかなか事務用品も少ないんだよねー」
「…ハァ…ハァ…」
口を真一文字に引き結びながらも、耐えきれないのか肩で息をし始めている。
「はい、あと500m!」
「くっ…」
レインフォースの効果は切れそうだ。倒れこむ様に寮の前にゴールするアズサをキャッチして、訓練自由の庭園へGO。
「はい、じゃあ腕立て伏せね!」
「お、鬼…」
腹筋と背筋をこなす頃にはボロボロであり、それを走れるほどに回復。
「…バーサーカー様のため…あの人のように…」
憧れってこえー。
と、レギオも走ったのか、寮の門から戻ってきた。
「訓練か?」
「うん、まーね。アズサはボロ雑巾みたいになってるけど、体力が上がったら徐々に増やしてくよ。そっちもでしょ~?」
「ああ。だがまだ余裕そうじゃないか?ヤヨイ。俺と勝負しよう、どこまで走れるか」
立ち上がってそれに応じようとするのを俺は手で制止した。
「無駄な体力使うなら、今日の体術の授業にしなよ。走るのはもう今日はダメ、明日筋肉痛で動けなくなっても俺は止めないからね?」
「うぅ…わかった。勝負は体術の時、だな」
「残念だ。代わりにギンはどうだ?」
「俺?無理だと思うよ、本気出しても勝てないって」
誰がとは言ってないけど。
「そうか。悪いな」
そうして、朝の訓練は終わった。
次回、アズサVSレギオ。