入学式とクラス分け
新キャラ続々。
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文体を修正しました。
「…っ!!」
飛び起きる。約四時間、眠りとしては十分だ。時計は朝の五時、ギルド鍛錬場には誰もいない。
「フー…」
息を吐き、筋肉をリラックスさせる。臨戦体勢に入ると、一通りの型を真剣に行い、その次は魔法の多重構築負荷訓練に移行する。魔力だけはいくらあっても足りないくらいあるのだ。
一構築魔法が数十個浮かび上がり、次々と魔力が消費される。その間も体を動かし続け、俺は数十分後にやめる。
「今は6時半、活動を始めるべきか」
シャワーを浴びて汗を流すと髪を乾かす。枝毛にならないよう細かく丁寧に櫛を通すと、後ろで縛る。魔力のコントロールはバッチリだが、底まで見られると言うのでポッケに魔力制御装置をイン。
30分後、俺は朝食を摂るために食堂へ向かおうとしてーー扉をノックしようとしていたアズサのびっくり顔を眺める。同じ身長なのにどうしてこう違うんだろう。
俺のにこやかさはどす黒いオーラを含んでいると言われたが、どうしてアズサは膨れっ面でも人の心を癒してくれるのか。
「…制服、似合ってるな」
「ホント?いやあ職場の同僚なんかノーコメントだよ?ひどいよねー」
「同僚?バイトか」
「ギルドの…事務手伝い。こう見えても優秀なのだよ?」
「どこのギルド?」
……言わなきゃダメですか?なんかえらい食いつきがいいんだけど。
「アークの…」
「何!?じゃあ『狂戦士』会ったことは!?」
「…見かけた、くらいかな」
「そう、…か」
「しょ!職場見学だろ!?俺が案内してあげるよ!何かアズサはほっとけない!」
別にアズサが放置プレイを食らってるうさぎに見えたわけじゃないんだよ!?
「本当か?」
「うん。俺結構色んな所入れるしね。二人で回ろう」
「ふ、二人で…うん」
「よっしゃ決まり!そうと決まれば自由時間行動中に回るとこ決めよーっと」
「お、二人ともおはよう。何の話だ?」
「俺が事務員のバイトをアークでしてるの。自分の職場を見学とかアリエネ…」
「まあそう言うなよ。俺はもう回る人がいるけど、アズサとギンは?」
「勝手知ったる、ってね。俺が案内するよ。お昼もおすすめのとこあるしね」
「そうか。じゃあ別行動になるが、楽しもうな!」
そう言うと、料理を食べ始めた。
「そう言えば、ギンは小食なのか?」
「いやいや、そんなことはないんだけど、カロリー計算がね…脂肪を貯める事はいけないって教えだし」
低タンパクのささみサラダ、緑黄色野菜のオリーブオイル漬け、パンとオレンジジュース。
「…ごちそうさま」
「いやあ食べた食べた。新入生は教科選択もあるし、今日はそれでいっぱいいっぱいだと。今日は朝に予行演習を兼ねて体育館に行くらしい」
入学式の手順は全て頭に入っているものの、来賓と学園長の挨拶が長い長い。眠っている生徒も多く、隣のレギオは真剣だが左のアズサは寝ている。俺はぐっすりと眠り、魔力が…もどって来た。
「い、行ってくる」
「頑張れ主席~」
「失敗しても何もないと思うから安心していいと思うぞ」
二人でかけた小声にうんと頷き、ガチガチになりながら席を立つ。その様子に初々しさを感じとって、悲鳴のような歓声が上がる。それにさらに緊張すると、赤くなりながら壇上に立った。
が、その瞬間、レギオの雰囲気が堂々としたものへ変化した。
喋っている内容は月並みだが、声には張りがあり講堂の中では綺麗に響く。
あんな声が欲しかった。俺の声は悲しいかな、絶叫に近いほど声を出さねば班員に指示を出せないのだ。
戦場で声が届く人が羨ましい。今度拡声する魔法でも考案してみよう。
戻ってきたレギオはまた堂々と萎縮し、座って拍手の嵐に顔を赤らめていた。
「良かった」「すごいよね~(主に拍手やら歓声が)」
俺たちの褒め言葉はどうでもいいらしく、彼は一気に萎みそうなほどのため息をついた。
こいつもこれで大変なんだろう。
「クラス分けかぁ、アズサの近くがいいなぁ」
「成績優秀者はまとめてSクラスに入る。まず同じクラスになる事なんて、ない」
「ま、心配するな。入れたって事は少なからず見込みはあると言う事だ」
「二人ともひどい…俺はやれば出来る君だよ?」
「同じクラスになったら、俺はショックで倒れる」
「いやあ、罰ゲームで食堂のドリンクバー全混ぜを一気だろう。アレは不味いと思うぞ」
「…へぇ、じゃあ賭けよっか。俺は三人とも同じクラスに。二人は俺だけ別のクラスに。よーし、掲示板は、っと…」
特進クラス Sクラス
レギオ・ブラッドレイ
アズサ・ヤヨイ
・・・・・・ギン・アシュレイ
「滑り込みセーフ!よーし、俺の勝ち!」
俺が笑顔を向けた先では、ものすごく複雑そうな顔をして二人が立っていた。
「いやあ、しかもアズサの隣かぁ。嬉しいなぁ」
「…俺もまぁ、複雑だけど…」
「レギオは遠いなぁ。主席は席もいいんだね」
「単に先生の好み…だと思うが、」
と、担任のエミリエ・フォルティスが入って来た。レギオを見てニヤニヤしているが当の本人は目を付けられたと思ったのかビクッとした。
あの笑いは嗜虐心を煽られたアリサの顔に似ている、すなわち…。
「あの先生はドSだな、間違いない」
「……否定はしない」
美人だが、三十路に片足突っ込んでいそうな雰囲気だ。俺たちの方は敵愾心満載で睨んで来たが、何とか睨み返すのを抑える。
本気で睨んだりしたらあの先生…倒れるどころじゃ済まなくなるかもしれないし。
「では自己紹介に移ろう。レギオ・ブラッドレイ」
クラスのあちこちからほう、という溜息と拍手が上がる。
「レギオ・ブラッドレイです。志望はアークの第◯班、『狂戦士』の元で働きたいと思っています」
やべえええ机に無意味に頭ゴンゴンしたくなってきたああ!?
痒い!背中が悪寒で痒い!
「次。アズサ・ヤヨイ」
「はい。俺は…」
クラスの視線が集まり、全くにしていないという素振りで飄々と喋る。向けられる視線は男からのほうが熱いのが心配なんだが。
「…『狂戦士』のように男の中の男と呼ばれたいです」
「いやそれ後半が目的でしょ」
突っ込むと失笑が起こる。それにつんとした態度でそっぽを向くと、さっさと座ってしまった。
その後も延々と『狂戦士』のようになりたいだの憧れてるだの痒い痒い言葉をたくさんいただき、俺の残機はほぼぜろである。
最後に俺ーー
「ではこれでHRを終わりにする」
「ってぇーーー!?俺は!?」
思わず椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。
「いたのかギン・アシュレイ?」
「いますよ!ほら存在感バリバリでしょ!?」
「レギオを差し置いて主席を辞退した男の事など私は聞きたくないな」
せ ん せ い ?
空間を静寂が支配する。皆が言葉を理解するのに一分かかった。
一番最初に口を開いたのは、アズサ。
「……本当だったのか」
「てへっ☆メンゴ」
「こんなふざけた奴に負けたなんて…」と、レギオ。
「天才とバカは紙一重なんだよ?あはは、何気にひどい事言ってるよね」
「落ち着いて現実逃避するんだ…」
「いや目を逸らさないで!」
「初めて聞いた時は、正直耳を疑ったが…辞退した理由が分かった気がした」
「ま、こんなおちゃらけた奴が主席だなんて、普通はあり得ないからな。さてと、そろそろいいだろう。では魔力測定に移る」
先生が机の上に魔力測定装置を置いて、一人ずつ順番に出てくるよう指示した。レギオはまだショックなようだが、数値に満足した様子で頷いた。次々と回ってきて、俺は手首に見えないように制御装置を巻いて測った。
「2600…平均よりは高いが微妙としか言いようがない数値だな」
「褒められても俺困っちゃいますぅ~」
「席につかんか!さて、ではグループ編成に移る。好きなように男女混合でグループを組め。社会見学や魔法選手権のグループにもなるからな」
と、レギオのそばへ二人の女性がイノシシのような勢いで駆け寄り、腕に絡みついた。
「何です?私の旦那様に貼り付くなんて汚らわしい。お消えなさい」
「上品ぶると化けの皮がはがれちゃうよぉ?」
右がシンシア、ランドリー伯爵令嬢。左がアナスタシア、セルジオ伯爵令嬢。
「いやぁまさに両手に花!綺麗なお嬢様方だね、アズサ」
「…レギオ、ドンマイ」
「モブはモブらしく、そのヤヨイ殿を掘ればいいんです」
「腐ってんのかよ!なんでこう侵食率高いかな!?俺への精神攻撃!?」
「あたしはぁ、モブ君が掘られてもいいかなぁ。でも嫌がるモブ君に無理やりレギオが襲いかかるのも…うふ」
「だああああ!!どうしてこうなった!?」
「良ければ二人とも俺たちのチームに入らないか?五人組だと言うし、どうだ?」
「入る」
即答、ね。正直こいつは味方に倒したい奴がいては嫌だと言うと思ったのだが。
「じゃ、俺も。よろしくね~」
「「モブ×アズ大本命ね」」
やっぱやめようかと本気で思った。
このグループで職場見学果ては大会に出たりもしますが、後先考えずに作る人が多いようです。