親密度UPイベント発生中
ギンが人心の常識を学ぶお話。
リバ先生は、俺とアズサがわざとレギオにやられて吹っ飛び、頑張って怪我をすると綺麗に治してくれる。俺が魔法を使えばなんてことないのだが、それはさしたる問題じゃない。
要は、魔法の扱いにおいては、スペシャリストとして胸を張れるくらい素晴らしいのである。
「…先生がくれば安心ですね~、俺すっごい怪我してみせます」
「俺の無駄な労苦を増やすな、面倒だろうが」
「リバ先生、この度学園卒業後アークに就職するカトリーナです!」
「始めまして、リリアンナです」
リバ先生には先輩になるかもしれないな。その手を失礼でない程に力強く握ると、作り笑いはしない。逆に失礼かもしれないからだ。
「リバ先生は、お強い方ですのね?」
「冗談、アークの方には遠く及びませんよ」
嫌味野郎だ。それを顔色一つ変えずにさらりと言い、その事を見抜くリリーもリリーだが。まあ家の事情もあるだろうが。
「さて、んじゃ訓練な。まずは来てなかった奴は全員、全力疾走」
俺とアズサ、そしてロバート…か。
「…平均は?」
こっそり聞く。うっかり20周走ったらレギオその他大勢がぐちゃぐちゃ文句つけて来そうだ。
「3周。2周半くらいだろ」
アズサが頷いた。俺は全力の3%を心がけよう。
「よーいスタート」
締まらねえなオイ。
「…ま、平均的だな。体術はーーまあ二人とも自分のやり方でやれ。一々指南なんかできねぇ。あとは詠唱破棄…レギオにやらせとけ」
「オイ適当だぞおっさん」
レギオたちが近くにいないにせよ、あまり指導を受けないのも困る。
「ほら、俺はフェミニストだから、女の子に暴言吐く奴は人間として認知できねえんだよ」
「正当な指摘をしたまでだろ?」
やれやれと言った風に、ロバートさえもが肩をすくめる。
「女心が分からん奴だな」「うわぁ…あれが暴言だって気づいてない?」
「え、俺としては手が出てないからものすごく丁寧に対応してたつもり…だったんだけど」
あれ?
だってそうだろう。食材なんて、野菜の切れ端だって肉にこびりついた端っこだって、戦場においては無駄にすることは許されない。
だから今朝の料理は食材を無駄に使っていた戸言いたかったんだ。
「暴言……ごめん分からない、どこが暴言だったのか。間違ったことをしたらすぐに直すほうが優しさだと俺は思うけど」
「…まあ、な。間違ってはいない。ただ、女性を相手取って直截的に物事を公衆の面前で言ったら、彼女らなりのプライドが傷つく。料理は美味しく食べるだけじゃなくて、誰が作ったかも重要になることがある」
ロバートが生暖かい目で見てくる。
誰が作ったか、ね。確かにアズサが作った時は、俺はこういう味だったからこうしたほうがいい、みたいなアドバイスができた。
「今回はダークマター……だったからかな。致命的な欠陥が全てだから、どう対処したらいいのか分からなかったんだ。あ、すっきりした」
皆がものすごい微妙な顔をして来た。何だよもう。
「ギンには女心の何やらを説いても無駄だ。気に入った奴は全力で褒め、綺麗なものは全力で綺麗だと言う。逆もまた然りーー子供心を忘れないやつだ」
「アズサ分かってるナ…」
「いやレム、お前こっちの味方のはずだろ。何で俺がアズを苦労させてるみたいにさらっと言ってんだよ」
「そうだロ?」
「そうだな」
「おいコラギン…」
「アズは本当に可愛いから怒ってないと誰かにさらわれそうだしねえ」
アズサが赤くなる。怒りながらも、嬉しいのもあり、男から可愛いと言われる屈辱感…。
何かアズサはわかりやすいんだよね。
「はぁ…レギオってホントなに考えてるか分からないから嫌い…」
「調子良く俺の悪口を差し込むな」
「なんかレギオ見てるとやる気失せる~♫」
「さり気なく歌うな!俺はお前に今朝のことで言いたいことがある」
「もう散々言われた。女心がわかんない奴だ、死ね消えろにやけるなキモイって」
「俺たちそこまで言ってないぞ!?」
ロバートさんあんたじゃねぇっすよ…俺があの後三人に囲まれたんですよ。
「…なら俺が言えるのは一つだけ。努力している人間を笑うな」
「わかった」
努力している人間を笑わない。
そんなことはしていない、ただーー。
現実を見つめないで状態維持を図ろうとする上昇志向のない人間なら笑ってもいいと俺は思っている。
「肝に命じておくね☆」
「…お前たち二人を選んだのは、間違いだったかm「そうだね!メンバー変更できる!?何だったら今すぐやめてもいい?」
「やはり俺の人選ミス、か……だが今更メンバーの変更はきかないし、ローニャ先輩と個人戦で当たって大怪我するのも自業自得だ」
俺はレギオに嫌われたようだ。
俺は正義の味方じゃない。仲間の味方だ。
ロストエデンの街が好きだから守る。
「俺はレギオが思ってる程善人でもないからねぇ」
「ああそうだナ…お前喜色満面の笑みで俺をなぶってたもんナ?」
「レムさんや、あんた最近俺に冷たくなーい?」
「一般的なドラゴンから見てもお前随分常識ねぇからナ。まずブラックドラゴンを素手で殴り倒してる時点でお前普通じゃないナ」
「え、それ以外の時はちゃんと魔法ですりつぶしてるけど」
「ドラゴンすり潰すなんて表現はお前以外にはできないと気づけ、ギン」
アズサの呆れたような声に、俺は肩を落とした(ついでにレムも落としてやった)。
「魔力のイメージ操作はだいぶ固まって来てるね。魔力量を細密にコントロールするには、治癒魔法行使が手っ取り早いんだけど…詠唱もわかるよね?」
「ああ、だがどうやって…」
俺は手のひらを上に向け、真一文字に爪で切り裂いた。
「……っ!?」
「はい、詠唱破棄。イメージと魔力の流れは意識して。いい?」
「な、いきなりすぎる…」
それでもすうっと息を吸う。ものの数秒でアズサの手に淡い白い光が集まって、俺の切り傷を治す。
「うん、完璧。治癒まで時間はかかるかもだけど、上出来上出来」
「…いきなり予告もなく手を切るな!」
「うぇ!?」
めっちゃ怒ってる。今までに見たことがないくらい。
何で?
いやいや、怒るような事してない。
「お前、何で俺が怒ってるのか分かってないのか?」
「…えっと、ごめん…分からない。治癒魔法無理やり使わせた事?」
アズサが眉をひそめる。
治癒魔法の行使は、実はものすごい細密な作業を必要とする。傷の状態の把握、魔力の同調、治癒の間の痛みの抑制、細胞の活性化、数え上げたらキリがない程に。
そしてそれが失敗すれば己も相手も毒に侵されたような中毒症状に陥る。
だから俺は正直言ってアズサが失敗したその瞬間にすぐ止めて自分で治癒魔法をかけようと思ったのだけど。
「違う」
にべもなく言われる。
「手を切るな…って、だって怪我しなきゃダメじゃないか」
「お前、俺の言いたい事が本当に分からないか?」
あ。
「もしかして心配した?」
「!?」
「ごめん、アークでは良くある光景だったから、ついその通りにしちゃったけどそんなにする必要ないよね。うっかり傷がついたら治してもらう心意気じゃないと」
「なんで、こうお前は…俺に対しては察知が早いんだっ…!」
「その悔しそうな顔が、見たいから!」
しっかりポーズをキメて言ったら明らかにバカにした表情をされた。アズサが照れるなんて本調子じゃない、この位がちょうどいいだろ。
「アズ、俺はアークでのやり方でやって来た。多分これからもそうする。でも、言いたい事があったら遠慮なく言ってね。俺はアズに強くなって欲しいし、その手伝いもする。でも、それがアズの嫌なことなら俺は絶対やんない」
アズサの事は守りたいし、もう戦わなくていいと思う。でもそれは傲慢だ。強者が強者の理由で誰かを縛る事は正当化されない。
俺はアズサが大事だ。
「わかった…あの、その…」
「何?」
「距離が、近い…」
俺はこの後赤面するアズサに大爆笑して、一発拳骨を食らったのだった。
ギ「なんか危ない匂いが…」
作「は?しないよ。だってこれは友情なんだ。危ない匂いなんてしない。大丈夫君達は道を間違えていないから」
ギ「お前の大丈夫程アテにならねぇことはねぇ」
作「……あと数話のうちに判明すると思うけどね?」
ギ「??」
次回はレギオたちの視点を第三者的に。




