過去と睡魔の被害
過去のことを少し、そしてギンの寝起きの悪さについて。
「俺はレオナルドに拾われた
そう、覚えている限りにおいて、俺は確かレオナルドにボコボコにされたり壁に叩きつけられていた。
「いいの!?」
「今でこそ異常だがな。
俺が成長するにつれ無理難題は増えた。リッチーを倒して来い、グリフォンを召喚しろ、あのジジイよくこんな嫌がらせ思いつくなって、イラついて一回マジで殴りかかった。
「ぶ、無事じゃあないわよね?」
「双方傷は負った、だがレオナルドはかすり傷、俺は内蔵破裂と関節の脱臼、筋肉の断裂、骨折多数…。
で、あのクソジジイは俺にこう言った。
殺せるならいつでも来い、わしは負けんぞ。
それを聞いて治療中なのを忘れてベッド上の枕端っこにある穴から出した仕込みナイフを投げた。レオナルドはそれを受け止めてニヤニヤしやがった。
まぁ今までに執務以外で顔を合わせた時はいつでもやりあうから、ギルドの一人のやつが『狂戦士』なんて呼びやがってな。
十歳の時に初陣で、目の前でキマイラロードに会った時レオナルドに比べて威圧もクソもねぇと思った。
それで単身獲物を焼き払った。ほんと後のレオナルドの鉄拳制裁の方が怖かったからな」
「…ちなみにその時の年はおいくつでした?」
「十一」
三人は首を振り、肩を竦めた。
「何そのショタ…そりゃ狂戦士だわ」「ワタシギンさん怖いですね」「俺はエピソードにドン引きしただけだ気にするな」
アズサの言葉が地味にぐさぐさくる。痛いよ死んじゃうよ。
「あ、そういえば十四の誕生日に、『常識を教えた者は?』と班員全員に聞いて返事がなかったのがいっちばん辛かったな…あはは」
「笑い事じゃないような」
アズサの妥当すぎるツッコミに、馬車の中に乾いた笑いが響いた。
がたごとがたごと。
「うるせぇ、しかも座り心地悪い」
「文句をいうな、馬車の旅だぞ。って今何したギン」
「魔法。寝るから、ヤバくなったら呼んで」
郊外であることを考えれば、魔物は来ないだろう。だが、ブラックドラゴンのレムの気配を嗅ぎつけて襲おうとする魔物はいないだろ、と内心考えながらギンがこっくりこっくり船を漕ぐのを見守る。
「…何だか可愛い顔してるのよね、意外と」
「アズサさんが綺麗すぎたり本人が意図的にそう見せてないので、実際の五割くらいにしか見えないんじゃないですか?」
確かに、寝ているだけなら綺麗な、というかビスクドールレベルの顔立ちだ。
と、ずるっと前にのめったギンを抱きかかえる。と、ぼんやりした目でふわっと俺の太ももの上に頭を下ろした。魔法のせいか重みは一切ないが、レムが一緒になってぐっすり寝ている。鱗を撫でると、「くふぅ」と満足そうな声が漏れた。
顔が目に入る。
髪と同じ銀色の長い睫毛。戦場を潜ってきたとは思えない、引きこもったことによる病的な白い肌。うっすらと桜色に染まった頬と、花びらを散らしたような唇。あどけない顔立ちが、いつもの表情とのギャップを生み出している。
「これは…何というか、お宝映像ですね」
「ふ、こんな時の為に、傑作魔法具(笑)があるわよ」
「ちょ、なしてるんですか。協力しますよ」
パシャパシャ。そんな機械音がして、その四角い塊から髪が出てくる。それには少女と見まごうばかりの少年がのどかにお昼寝をしている姿で。
「…うわぁ、犯罪臭する、すっごい犯罪臭するわよこの絵」
「美少年の美少年のための膝枕ですか」
「そう言えば、アリサが忠告に『寝起きのギンに命令だけは絶対しないでください』と…だいたい一時間くらい」
ちょっと待て!
それフラグだな、絶対建築しちゃダメなやつ!
俺がうっかり何か言って怒られるとかありそうで怖いのだが。
「三枚。はいこれ」
「「貴様策士だな」」
黙るしかないだろう。確かにギンはかわいいしカッコいいし、演技派(笑)だ。それに案外仲間思いでもある。
でもこの絵は芸術品を愛でる感覚に近い。
というかこんなに緩んだ顔見たことない。教室で寝てる時は力一杯眉根にシワを寄せていた。
「これはしまっておきましょう。ふぁあ、見てたら眠くなってきちゃったわ…」
「そうですね…ふわぁ」
「…」
アズサも気づけばこっくりこっくり船を漕いでいた。
そして、馬車は急停止した。
「…!?」
「中の奴は出ろ!金目のモン寄越しやがれ!!」
忘れていた。レムのドラゴンたる気配すら察知出来ない、無知蒙昧の徒、盗賊。と、扉を開けて一人の男がニヤリとした。
「女ばっかか!へへ、ちょうどいいぜ。さぁ来い!そこで寝こけてるガキ!」
と、膝の上でピクリとギンが動いて、ゆっくりと身をおこし、そして眠たそうな目で盗賊の顔を見て、
「下種が」
握りつぶすように頭を持って叩き出す。30メートルほど吹っ飛んで、草の上に転がった。
人が、飛んだ。
何だこれ?フライアウェイってどういうことだ。
というか周りの盗賊の顔が引きつって泣き始めみたいになっている。
「てめぇらか、俺の眠りを妨げやがってよぉ…揃えてきたねぇ面ぁ並べやがって、そんなに息の根止めて欲しいのか!?」
「「「ぎいやああああああああ!?」」」
「おう待てよ。どこへ行く」
「…へぇ?」
「あん?何締め上げられたゴブリンみてぇな声出してんだよ、てめぇらが息してると空気が穢れるだろうが。この醜男」
「ご、ごめんな、さいっ」
「あ?聞こえねぇなあ、その玉引き潰して微生物の餌にすっぞ?このゴミが」
「すいませんでしたぁあああ!」
「るっせーんだよッ!!」
ばきッ。
「お前ら盗賊なんてして許されると思ってんの?お前らは俺たちを襲う権利すらないんだよ虫。手足切り取ってやろうか?」
靴でぐりぐりしながら地面に押し付けている。
あれが俺の友人なわけが、
「止めてきなさい親友でしょ」「いやこれ絶対逆らったら俺がうっかりポックリですよ」「うまいこと言ってなんて頼んでませんよ、ちょっと生贄になるだけでいいんです」
アホか貴様ら。
「ごめんなさい、ごめんな、アァッ」
あれ?何か変な声聞こえる…幻聴?
「死ね。害虫。ノミ以下の分際で臭い口開いてんじゃねえ」
「ハァハァハァ、美少女の罵り…ハァハァハァ」
あっれれれれおかしいなー。
俺はいつからツッコミを放棄したんだろう。
「キモいんだよ豚」「そのおみ足で踏んで~」「俺はもう一度アイアンクローを!」
あっだめだ目を合わせちゃダメだやばい今のギンはやばい!
「はぁ?てめぇらなんか縛って回収されるまで放置に決まってんだろうが」
二構築魔法、『縄』。
「「「あっ縛るなんてあああああ!!!(歓喜)」」」
「死ね。潰すぞクソ」
こうして、盗賊を放置し(御者はアークの人だがびびっていた)、ギンが馬車の中にもどってきた時。
「アズ~!えへへへ。お休み」
あれだけのことをしておきながら、彼は普通に膝枕で魔法をかけてから熟睡し始めたのだった。
遠慮も何もありません。ギンは結構豹変します。
セリフ的にアウト(?)っぽいのはアズサフィルターの餌食です。
ちなみにアズサはこれで軽くキャラ崩壊、スキル『激しいツッコミを入手しました。




