9.青色の瞳
僕の人生は、あの日から一瞬で変わってしまった。あの日あの場所にいなければ僕はまだ、ただこの世界が嫌いな一人の人間のままだった。
そのまま何も知らない方が良かったのだろうか。そんなはずがない、きっとこの世界の人間だってそのはずだ。
「くそ…なんなんだよメディアシステム!」
僕は後ろを振り返る。無数の人間が僕を追って走ってくる。
カズが操られて以来、僕の周りで人々が次々と操られはじめた。僕を殺す気でいるのだろうか。
それでも、あれ以来カズは一度も操られなくなった。あの緑色の光を感じてからずっと。
追ってくる人々の脚だけを撃って僕は逃げ続ける。メディアシステムがあるとはいえ脚を撃てば一時的に動けなくなる。徐々に距離が遠ざかっている、このまま行けば逃げ切ることができる。
「あの時の光でカズは元に戻った。あれさえもう一度できれば彼らを救うことができるかもしれない」
しかし僕は方法を知らない。条件、効果、分からないことが多すぎる。知らなくてはいけない。
「よし、あと少しで逃げ切れる」
残弾を確認して僕は走り続ける。このまま行けば残弾もなくならずに済む。
そう思った時だった。走り続けていた方向に人間が見えた。挟まれたのだ。
どうすればいいか分からない。このままでは殺される、それとも僕が殺すか。考えて慌てて僕はその考えをやめた。
そう考えている間にも彼らは近づいてくる。ざっと見積もって100人はいるはずだ、大人や子供様々な人間が僕を殺すために走っている。彼らは、そんなことをするために生きているわけではないのに。
彼らは、メディアシステムの勝手に付き合わされているのだ。
僕はついに囲まれた。僕の体に弾丸が当たり続ける。何十発もの弾丸を弾き続ければ長くは持たない、このままではあと数分で僕のチップは壊される。
僕はあのカズの記憶が戻った時を思い出した。上っ面の言葉や嘘でもいい、それこそ僕の得意分野じゃないか。
そう思って僕は叫んだ。
「お前たちは…なぜこんなことをしている!思い出せ!こんなことをするために生まれて、ここまで生きたわけじゃないはずだ!」
「さあ!思い出せ!」
何も光らなかった、何も起こらずにただ弾丸が体に当たり続けた。終わるのだろうか、ここで。それともここで、僕の道を踏み外して戦うか。
突然、僕の後ろの人々が声をあげて倒れた。弾丸の雨は少し弱まる。
僕は慌てて後ろを振り返った。
そこには、短髪の少女がいた。手に持っているのは、半透明で透けた剣。斬られた人々は、血一つ流さずにそこに倒れていた。
彼女は僕を見て言った。
「やっと見つけたぞ…緑色の目」
僕は彼女を見て思わず呟く。
「青色の、瞳…」
「ミドリ、君には教えなければならないことがたくさんある」
「僕に…ところでその剣は、チップだけを斬ったのか」
「そうだ。これは、私は意思の剣と呼んでいる」
「なんでそんなことができる、どうすれば…」
彼女は言った。
「そんなことより、まずはこの人間たちの相手だ。なんとかして全員無力化するぞ」
僕はまた仕方なく銃を握った。
「ああ、分かった」
多くの分からないことを背負ったまま、僕はまた彼らを見た。勝てるか、それも分からないままで。