7.道の続き
果たしてこの道は続いているのだろうか、僕は進めているのだろうか。毎日をただただ消費するだけで、成長はできているのだろうか。何も掴めない毎日を、僕は歩いている。
下校のチャイムが鳴る。それで緑色の目をゆっくりと開けた僕は、机から頭を離す。ああ、寝てしまっていたのか。
僕はここ一カ月、何か手がかりを得るために学校に通い続けていた。それでもなんの手がかりも得られないままここまで経ってしまった。あいつなら力で手がかりを得ようとしていただろうか。やはり、その方が良いのか。
僕は悪い考えを払うために少し伸びをして机から立った。
「なあなあ結城、今日一緒に帰らないか?」
僕のたった一人の友達。久しぶりには良いかなと僕は微笑む。
「じゃ、帰るかカズ」
あの日血まみれになった道を思い出しながら僕は地面を踏みしめる。
「なあ結城、なんかお前ちょっと性格変わった?」
「そうかな?あんまり実感はないけど」
「なんていうかちょっと、成長したような気がするんだ」
そしてカズはつぶやく。
「だから最近ちょっと邪魔になってきたよ、ミドリ」
カズがナイフを僕に刺す。僕は咄嗟に肉体硬化で体を守り遠ざかる。
狙われた場所は脳の左側、的確に数ミリも誤差もなく彼の腕は僕のチップを狙った。
「…返せよ!!!メディアシステム!!!」
僕はこの一カ月間、ずっとこの肉体強化の使い方を練習してきた。戦うためではなく、僕と他の人々を守るために。
誰も、世界に殺させはしない。
僕は撃ち出した弾丸でカズのナイフを飛ばす。よし、やれる。
「お前にカズを好きにはさせない、お前にそんなことをする権利はない!」
このチップの機能にあるのは簡単に言ってしまえば肉体硬化と回避速度を速めるという機能のみ、攻撃することには特化していない。
つまり、人間を守ることに適している。
「カズを返せ!」
僕はカズが撃ってくる弾丸をすべて避けながら近づく。銃さえ奪えばきっと降伏する、あともう少しだけ近づくことができれば奪える。
あと2m。そこで彼は撃つことをやめた。
そして、彼は自分の頭に銃を突きつけた。少しも違わず、チップの入っている場所に向けて。
「彼を助けたければ、お前のチップを壊せ」
カズは虚ろな目で言った。
僕の考えは、甘すぎたんだ。
僕はメディアシステムではなく、カズに向かって俯いて話した。
「お前は僕の唯一の友達で、すごく良くしてくれて…本当に嬉しかった。これは前までのような取り繕った言葉なんかじゃない。本当に、感謝してる」
何も変わらないことが分かっていても僕は話し続けた。これが僕のやり方だから。
「だから!僕はお前を失いたくない!お前はメディアシステムなんかじゃない、駒としての人間の中の一人なんかでもない!そうであってはいけないはずなんだ!」
「誰だってただの85億の中の1じゃない、一人一人ってものがまだこの世界にはあるはずなんだ。個性だって長所だって短所だってある、まだ…取り戻せるはずなんだ!」
無駄なことは分かっていても、僕は話し続けた。カズにもしかしたら伝わるかもしれない、そんな根拠のない希望にすがって。
「だから頼む、思い出してくれ!今は僕だけでいい!僕を思い出せよカズ!!」
それができないのなら、僕はもういいかな。
僕も銃を自分のチップに向ける。友人を守ることもできない奴が世界を変えることができるはずがない。
最後に、彼の目を見て僕は叫んだ。
「思い出せ!!!!」
そのとき、景色が緑色に光った。少なくとも、僕の目にはそう見えた。
「銃…おろせよ、結城」
カズは、笑顔に戻った。カズは今ここにいる。
「本当に、カズなのか…」
「おう、あれ…俺何してたっけ?んでお前なんで銃なんか持ってんの」
「あ、いやこれはその…」
「まあ、お前が俺を殺そうとしてなかったことは分かる。なんか聞こえたからな、お前の意思みたいなのが」
「僕の意思?」
「ああ、俺を助けたいって」
多分、道は続いていて。一応少しずつ進めていて。ただ消費しているだけの毎日ではないのだろう。
案外僕のやり方だって、捨てたものじゃないかもしれない。