6.二人の道
どうすれば正しいものへと近づいて行くのか。そんなものは誰も一人じゃ分かるはずがない、その判断をただの主観で終わらせてしまっていいはずがない。
ましてやそれを人間が考えることのできない世界など。
「なら、この世界はもう…人間のものではないわけだ」
僕は、赤目に言う。
あの日の事件の死体を処理したのも、操られた人間なのだろう。
「そうだ。もうこの世界の全員がただの機械と同じ、いくら彼らと共に生きようとしても意味がないんだよ」
この世界にいるのは、僕と赤目とただの人工知能だけ。誰もが意思を持たずにただ使われ続けている。
「だから赤目は、操られた人々と戦い続けたのか」
「別に人と戦いたかったわけじゃない、ただ父さんの研究所にあるサーバーを壊したかった。そのために邪魔する人間と戦い続けただけだ」
「でも、85億もいる人々には勝てやしない。そうじゃないか?もっと違う方法を考えたほうが…」
赤目は顔を歪める。
「勝てる!俺は強い、これからも強くなり続ける!」
復讐の力というものは確かに恐ろしい。それでも、たった一人では勝てるはずがない。
「僕は…探してみる。お前がそうするのなら僕は違う方法で近づいてやる」
「勝手にしろ。ただ、俺はあの時残りたった一つしかないチップをお前に選んだ。それを間違いじゃなかったと思わせてくれ」
「どうだろうな、次はもしかしたら敵同士かもしれない。でも目的は同じだ」
この世界を変えること。
赤目は笑った。
「もし敵同士にでもなったら、すぐに殺してやるよ。それで、俺が世界を変える。俺が正しかったって証明してやる」
「望むところだ」
僕と赤目は踵を返した。
少し振り返って僕は思い出す。
「それでさ、なんで嘘ついたんだ。父さんのチップを『俺が作ったチップだ』って」
赤目も振り返る。
「そこまでお前を信用してる訳じゃないからだ。もしかしたら、今日話したことも全部嘘かもな」
「何、僕のこと嫌いなのか?」
「まあ、今んとこちょっとだけな。でもまあ、俺が本当に大嫌いなのは…」
「…ああ、そうだね」
あの時重なった言葉を思い出す。僕たちは同じなんだ、思いや目的は。彼の背負っているものは、僕よりもずいぶんと重いものだけど。






