089『対集団戦はまだまだ続く』
「ハァ……ハァ……」
あれから何日経ったのだろうか?
こちらの時間の進みは遅いのか何時間も戦闘を続けているはずなのに未だ日が沈む様子はない。
時間を確認する手段もなく太陽の位置による時間の判断も出来ないため、時間の感覚が鈍ってくる。
視界に映るのは無数のガーディアン。
空を覆い尽くすほどではないものの一人で相手にするには多く、初めのうちは何度も何度も殺られてしまっていた。
電脳空間による痛覚再現は凄まじく、脳みそが焼き切れてしまうのではないかというほどの痛みが全体を襲う。
視界が光に包まれ、爆発し、気付けば痛みは消え失せた状態で出撃地点に戻されている。
何度も何度も死に続け、精神的な疲れて戦うのにうんざりして出撃地点に籠ろうとしたこともあったが、数分もしないうちにガーディアン達にあっさりと侵入されてしまった。
光牙の速度を活かして逃げ切ろうにもある程度の広さ以上はフィールドの限界らしき見えない壁に囲まれてしまっているため、それも叶わない。
つまり、現状許されているのは延々と戦う道のみということだ。
――本当、良い性格してる。
安全地帯であろう地点を安全にしないとか……ゲーム的にどうなんだ?
いくらここがゲームの中だから肉体的には疲れないといってもここまで戦闘続きだと流石にキツイんだけど……。
「っ……はぁっ!」
防人は光牙から発せられる警告に感化され、現状における敵――GWからの剣撃を素早く回避しつつ、握り締めた刀を振るい切り落とす。
次々と襲ってくるガーディアン達の行動は全てコンピュータによるもの。
これだけ戦えば流石に行動パターンをある程度は把握してきたし、周囲に気を配れるようにもなってきた。
最初の時と比べれば殺られることも無くなってきているし、上達してきたのだろうとは思う。
でもやっぱり1週間は長すぎる。
疲労困憊になった身体は負担を減らすために動きが自然と最適化されるという話は聞いたことがあるけれど……ATがそれを狙ってこんなことをさせたっていう保証もないし、何より休憩無しにこれは本当に酷い話だ。
「……クソッ!」
動きたくない。けど、そんなことになれば撃たれ、斬られの連続。
痛覚再現まであるせいで、今やっているこれは拷問と変わらない。
撃たれたくない、斬られたくない。
痛いのも熱いのも嫌だ。
なんで僕がこんな目に……。
度を越えた苦痛と張り詰められた緊張から来る精神的疲労は防人の胸中を恐怖と怒り、悲しみで埋め尽くす。
「おぉぉぉぉ!!」
防人は自らを鼓舞すべく叫びながら刀を振るう。
時には敵の持つ武器を奪い、使用する。
武器は奪い取ってから1分もしないうちに光になって消えてしまうけれど、それでも攻撃の手数が増えるのは有りがたい。
センサーの扱いにも慣れてきたし、視界に映るバイザーの情報に意識を向けられるようにもなってきた。
敵からの攻撃の回避から攻撃へと転じるまでの動きもかなり最適化されてきたのもなんとなく感じとれる。
それに関しては嬉しく思わなくはないけれど、それでもやっぱり帰りたいとか、眠りたいとかそういう気持ちの方が勝っていた。
「――っ!?」
突如、ガーディアン達の動きが止まったかと思えば光の欠片となって消え失せたかと思えば、≪Sound Only≫と書かれた小モニターが視界へと浮かび上がる。
『やぁお疲れ様』
ATの声が聞こえ、ようやく訪れた休憩に防人は地面に降りて肩で息をする。
ふと、見上げた空は気付けば赤く染まっており真っ赤な夕焼け空となっていた。
先程まで青空だったところから恐らくゲーム内時間を切り替えたのだろう。
『さて、今日一日を終えてみてどうかな? 戦闘の方は』
「……えっ? ぁてっきり3日経ったのかと」
『ん? そんなわけないだろう? 私だって鬼ではない。夜になれば当然、休む時間くらいは与えるさ』
「……そう、ですか」
――休めるってのは嬉しく思うけど……そっかまだ1日も経ってないんだ……。
『さて、改めて聞くが、戦闘の勘は取り戻せたかな?』
こちらの気も知らないで、こちらの苦労も知らないでモニターの向こうにいるATは平然とした声で聞いてくる。
「さぁ、どうなんでしょう?」
いつもならこれくらいなんてことはない。
聞かれたら答える。ただそれだけ。
しかし、疲労と理不尽な状況下におけるストレスから防人の口からは怒りの乗った言葉がついて出る。
これは、いけない。
もし、彼の機嫌を損ねでもしたらもしかすると一生ここから出られないかもしれない。
そう防人は思いとどまり、喉元まで出掛けていた言葉を飲み込むとATからの質問に答え始める。
「敵の弾は当たれば痛いですし、手足を切り落とされてしまうと殺られるまで元に戻らないので……感覚がおかしくなってしまって上達してきたのかは正直分かりません」
少し聞きたかった答えとズレているかもしれないが、正直に答えて難易度を上げられでもしたら嫌だ。
本当なら痛覚再現だけでも止めて欲しいところだけれど……。
『ふむ、思ったよりも冷静だな。もっと疲弊していると思ったのだが』
「……いえ、疲弊しているからこそですよ。無駄なエネルギーの消費を避けたいんです」
――そんなわけあるか! このサディストが!!
なんて、正直に叫びたかったけれど今は叫ぶ気力は無い。
防人はゆっくりと立ち上がると大きく息をはきだし、一呼吸置いてから刀を鞘に収めながら答える。
『ほぅ成る程な。138回死んだ経験が有るだけはある……だが、安心しろ。お前はもう死ななくて済む』
「はい? ……どういうことですか?」
『こういうことだよ』
『――設定の変更を確認しました』
そう機械音声によるアナウンスが聞こえたかと思えば、防人の視界に映っていた機体の耐久値を示す緑色のHPバーが消失する。
「これは……」
『今、設定を変更した。これでお前は死ねない身体となった』
「死ねない? ……どういう意味ですか?」
『そのままの意味だよ。身体がいくら焼かれようと斬られようと死ぬことはない。盾や刀といった武装が破壊されても直ることはない。流石に装甲などは切り落とされてしまうと戦争が出来なくなる恐れがあるため、元に戻るよう設定した。痛覚はそのままだけれどね』
「つまり殺られても爆発しなくなり、痛みが残った状態で死んだその場から再スタートってことですか」
『少し違うな。殺られることはない。身体に無数の刃が突き刺さろうとライフルで蜂の巣になろうと戦い続けられる』
「……成る程。なんとなく分かりました」
――そしてこいつが生粋のサディストなのはよく分かった。例えも怖いし。
まぁ、刺されたりしても血とか出ないからまだ良心的だと思うことにしよう。
痛いけれど……。
『……では健闘を祈る』
通信が切れ、同時にガーディアン達が再び光の中から現れ始める。
ガーディアン達の武装は先程装備していたエナジーサーベル、ライフルに加えて左腕にはシールドを装備している。
「少し面倒臭くなってそうなんだけど……」
先程とは少し異なる武装に警戒しつつ腰の刀を抜き取るとセンサーを稼働、周囲に存在するガーディアン達の位置を把握。
直後、雨の如く降り注ぐ光線。
それらを避けて防人は宙へと浮かぶと眼前に映る敵との距離をヘルメット・バイザーに表示されている数値から判断し、戦闘を再開する。




