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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第3章 少し特殊な学園生活

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087『逃げ延びた先で』

 5月 中旬。


 防人がガーディアンに対して奮闘している最中、ブレアに呼ばれたキスリル・リラ、そして真栄喜(まえき) (ゆう)の二人は彼女の部屋を訪れる。


「お邪魔します」

「失礼しまぁす」


 リラは扉をゆっくりと開け、少し頭を下げてから中へと入る。

 それに対して気楽そうな態度を見せながら(ゆう)も彼女に続いて部屋の中へ入る。


「へぇ、ここがブレアさんの部屋ですかぁ……」


 白い壁に覆われた比較的に簡素な部屋。

 奥に設置されたデスクの上にはパソコンが置かれ、扉から手前の空間には背の低い机とソファーが置かれている。


「ん~、見たところベッドが無いみたいですけど、もしかしてそこのソファーで寝てるんですか? ちゃんとしたところで寝ないと老けちゃいますよぉ?」


 (ゆう)はそんな室内をグルリと眺めると相変わらずのオチャラけた態度で言う。


「うるせぇ。ここはな、私の仕事をするための部屋だ。最近はここにいることが多いから色々持ち込んでるだけだよ」


「ふぅん、そうなんですか」

「……で? 何でソファーで寝たら老けんだよ?」


「へ? あぁ、えっとですね……ソファーで寝る→狭いから肩がこる→それがストレスとなる→老ける→化粧でごまかす→肌が荒れる→ストレスとなる→さらに老ける。そしてまた化粧でごまかすという恐ろしい悪循環が」


 游が言い終える前に恐ろしい形相でブレアは素早く白衣の内側から銀色に輝くメスを取り出してそれを彼の喉元に突き立てる。


「そろそろ死ぬかテメェ……」


「あぁ冗談です冗談です。というか理不尽過ぎませんこの対応。この前の仕事で死にかけたのに今度こそ死んじゃいますよぉ」


「ふん……顔が全然焦ってねぇし、言葉に感情が込もってねぇんだよ。それからな、私のこの顔はノーメイクだ。化粧とかんなめんどくさいもんする気なんて起きねぇよ」


 そう言って彼女は得物を懐にしまい、ソファーの背もたれに手をかけてどっしりと座る。


「そのわりには凄く興味深そうに――」

「あぁん?」


「いえ、何でもないです」

「チッ……あぁ後な、その靴に仕込んだ刃もちゃんとしまっとけよ?」


「あらら、気づいてました?」

「ふん、バレバレだっての。靴の一部がピカピカ光って見えんだよ。私が本当(ほんと)に刺すでも思ってんのか? ……って、んなこたどうでもいぃんだよ!」


「ごめんなさい」


 ブレアは怒鳴り、リラが頭を下げる。


「何で小娘(おまえ)が頭下げてんだよ。別にテメェには怒ってねぇよ……はぁ、たく喉乾いたな。何か飲むもんとってくるが……小娘、お前は何か飲むか?」

「ぁ…えっとじゃあお茶で……お願いします」


「わぁーた。んじゃ少し待ってな」

「あ、じゃあ俺はコーヒーでお願いします」


「はぁ!? 何でテメェの言うこと聞かなきゃなんねぇんだよ」

「えぇ? 何で? この子の言うことは聞いて俺はきいてくれないですかぁ?」


「うっせ、女の私より小せぇのに可愛いげがねぇんだよ。生意気なこと言いやがって……茶で我慢しろ!」

「あ、なんだ。用意してくれるんだ……」


「うっせぇ。本当に用意してやんねぇぞ?」

「すいません。お願いします」


 しばらくして二人はブレアから冷えたお茶を受けとると部屋のソファーへ彼女と向かい合わせになるようにして腰かける。


「で、今日来てもらったのは小娘の持ってきたチップのデータ復旧が終わったから先んじてお前らに見ておいてもらおうと思ってな」

「あぁ、だからこんなに遅れたんですかぁ。俺、てっきりサボってんのかと……」


「黙れよ」

「えぇ~、何でそんな怒ってんですか?」


「わざわざ言わなきゃ駄目か?」


 スッと彼女の手が懐へと伸びる。


「あ、いえ結構です。肉体に直接語りかけられるのは嫌いです」

「ふん、じゃあ少し黙ってろ……」


「わっかりました」

「はぁ〜……全く」


 ブレアは悪びれた様子のない游の態度に感心するやら呆れるやらといった気持ちでため息をつきつつもポケットから小型のリモコンを取り出すと部屋を暗くし、天井からスクリーンを降ろす。


「おぉ、昔の映画みたく投映するんですか?」

「ふん、そうだよ。んじゃまずはこれをみてくれ」


 ブレアが机上のノートパソコンを操作するとデスク上に用意された投映機から映像が流れ始める。


「んー? かなり映像が粗いみたいですが、投映機壊れてません?」

「ウッセ、これでもかなり綺麗にしたんだよ。見えないほどじゃねぇだろ?」


「見えないほど……ではないですけど……」

「モザイクかかったみたいになってオレンジ色の人の形をした何かがこっちの機体(ギア)と戦っているってぐらいしかわかんないですけど?」


 ブレアの発言を聞いてリラはゆっくりと口を開き、途中で言いかけた言葉を詰まらせた彼女に続くようにして游が映像について不満を漏らす。


「仕方ねぇだろ? そもそもデータが破損してたこと自体が想定外なんだよ」

「あの、ごめんなさい」


「なんでお前が謝んだよ? お前は言われた通りにデータの入ったチップを持ってきてくれただけだろ? 気にするな」

「でも……」


「そうそう、困ったことは全部(ぜぇんぶ)この人に任せちゃえば良いんだよ?」


――ま、映像が壊れてたのは俺がチョイと細工をしたからだしねぇ。

 防人慧……彼がATに言われ行った初めての任務(ミッション)の映像が出回っちゃうのはまだ少し早いって話だし。


「お前が言うな」

「えぇ? でも俺はただの傭兵ですし、そういうことはここの主任である貴女の役目では? その映像の敵の対応を含めてね……」


 対応……本当、どうなるのかねぇ?

 (けい)たちに与えられた任務は偵察だったはずなのに……まさかミサイルで破壊するとか、俺からしても想定外過ぎるし。

 はぁ……せっかく潜入しやすいように警備用の無人機には細工をしたし、あそこに派遣されていた兵士や職員もこっそり買収してたってのに……全部逝ってしまった。


「んなことは分かってるよ。だがな、今は任されてる仕事が優先だ」

「まぁそうでしょうね。生き残った子供たちへの対応もそうですし海底トンネルの対応もありますしねぇ」


 生き残ったのは俺とこの子。

 そしてこの子と同じく研究所にて眠っていた子供たちくらい。

 まぁ、"あの人"との約束があるからこの子を殺すわけにはいかなかったからこうしているだけなんだけどね……。


「ふん、よく分かってるじゃねぇか。仇討ちってのは柄じゃないが、やられっぱなしってのは納得いかねぇからな」

「ふぅん。まぁその辺はブレアさんの好きにしてください。俺は傭兵として命令通りに動くだけですからね。あぁところで他に映像は無いんですか?」


「ない。ほとんどのデータが壊れててな、なんとか修復したのがこの映像だけなんだよ」

「これだけとか……俺来た意味ないじゃん。こんなことなら仕事の連絡来るまで自分の部屋でゲームとかしてた方がマシじゃないですかぁ?」


「あぁ? 用がこれだけとか誰が言ったよ」

「え? じゃあ他にデータがあるんですね」


 本来であれば破壊しておかなければならなかったはずのデータが残っているかもしれない。

 (ゆう)は一瞬だけ驚くもののすぐにいつも通りの態度に戻る。


「これをみてくれ」


 ブレアはリモコンによって映像を止めるとスクリーンに映る画面を切り替える。

 そこに映るのは真っ白な背景に引かれた様々な図面とそれぞれの図面に対する説明や数値。


「これ……設計図ですか?」


 見れば分かるものの一応の確認のためにと游が聞くとブレアは小さく頷く。


「あぁ……クレイマー――あいつが設計したガキ共用の機体(ギア)だよ」

「私たちの……」


 スクリーンを眺めながら、リラは小さく呟く。


「あぁ、このギアの名は『シェディム』。国家共通量産型(ウィグリード)をベースに機体を強化改造したものだ。他と比較すると一回りほどサイズは大きくなるが、そのぶん大型の推進器(スラスター)機械腕(マニピュレータ)が使用できっから見た目よりも機動力も攻撃力も高い数値を出せてるみたいだな」

「へぇ~、生身の腕は完全に胴体に収納しちゃうんだ」


 静かに設計図を眺めていた(ゆう)は気づいたことをボソリと呟く。


「あぁ、こいつらがまだ小さい子どもゆえの設計だな。大の大人じゃあこの胴体部の空洞で満足に腕を動かせねぇだろうな」


「ふ~ん。なるほどねぇ……4本のグリップコントローラーを併用した腕部操作。こりゃ従来の操作方法とはまるで違うものだね」

「あぁ、つってもゲームをする時だってコントローラーなんていちいち見ねぇし、慣れりゃあ今までのよりも安全性は高いだろうな。ま、その分それを作るコストが高くなるだろうが」


「へぇ~意外だ、ゲームとかするんですねぇ」

「私だって暇がありゃ遊ぶさ」


「ふ~ん、で? こんなものをわざわざ見せるってことはまさかとは思うけど、作るつもりなのかな?」


 游はほんのりと口調を強め、ブレアに問う。


「ま、一応はな……」

「ふ~ん……」


「……なんだ、何が言いたい?」

「いいえ、こんな小さな()を戦場に出すつもりなのかなぁっと、ふと思いましてね」


「ふん、お前にそう言われても何も説得力ないがな」

「まぁ、確かに俺もこんな低身長(なり)ですからねぇ~自覚しているつもりですよ……で、彼女を戦争に出すつもりですかぁ?」


「……いや、別に率先してってわけじゃねぇ。とはいえ、クレイ――奴のところが襲われたみてぇにここも安全とは限らねぇからな。少しでも戦力を多くしておくことに越したことはないだろ?」

「それで私達を、ですか?」


「あぁ、つってもしばらくは訓練だけだがな……」

「――え?」


「そりゃぁそうだろ? いくら強い兵器を用意したところでいきなり実戦なんてことは許さねぇ。このオレンジの野郎にお前の(はらわた)がグツグツ煮えくり返っているとしてもだ」

「――っ!!」


 ブレアに胸中を見透かされていたリラは驚きと困惑を混じらせた表情を見せる。

 彼女が施設にて見た橙色の装甲を持った一本刀の剣士に対して怒りの感情を有していたのは事実。

 それを少しも見せた覚えはないというのに……。


「でも――」


「でもじゃねぇ! いいか? 戦場ってのはな、その時その時で臨機応変に対処しなきゃすぐにおっ()んじまうんだ。戦闘訓練もまともにしてねぇ素人がホイホイと出ていい場所じゃねぇんだ」


「それは……」


「だがま、お前の気持ちも分からなくはねぇ……だから、しっかりと準備をして機を待て。いいな?」

「……はい、分かりました」


 納得してはいない。

 しかし事実ではある。

 リラは自身の感情を飲み込むために少し、間を置いてから小さく頷いた。


「ん、じゃあこれで話は以上だ。部屋に戻ってゆっくり休みな」


「……はい。それじゃあ失礼します」


 リラは立ち上がり、再び頭を下げるととぼとぼとした足取りで部屋を去った。


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