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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第3章 少し特殊な学園生活

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080『風紀委員会 雑用係』

 後日、風紀委員の活動の予定日。

 防人 慧はその一員として風紀委員会のために設けられた学園の一室に到着する。


「おはよう。慧君」


 扉を開け、まず目の合った女性。

 風紀委員長である『日高 竜華』は軽く手を挙げながらこちらへと挨拶をしてくれる。

 他のメンバーはまだ到着していないようだ。


「おはようございます。竜華さん」

「うん。無事、制服は返してもらったみたいだね」

「えぇ、まぁ……」


 あの後、光牙の腹部に穴が開いていたということもあり、念のため精密検査を受けるために学園の保険室に泊まることとなった。


「防ちゃん……」


 エコーやらCTやら詳しいことはよくわからなかったが、検査を一通り終え、ベッドで休んでいるとやって来た一人の女性。

 めだかにソックリな見た目をしていたもののよく見れば違う。

 瞳の色はカラーコンタクトをつけて同じものになってはいたものの顔つきの細部が異なるし、歩き方や声も違うので流石に気づかない事はなかった。


「ふ~ん、よくみてるんだね」


 名前は聞けなかったものの何やら納得したようで彼女から制服を受けとることが出来た。




「あぁそれからなんだかすいませんでした。僕のせいで色々面倒なことになってしまって」


 あの戦闘の後、防人が横やりを入れたことで勝敗が正確に決することはなく、それによって竜華を含めた風紀委員のメンバーが賭けに対する処理に手間取ったと聞いている。

 頭を下げ、謝罪をする防人に対し、竜華は小さく首を横に振って否定する。


「ううん。むしろこっちがお礼を言うべきだよ。言うのが遅くなっちゃったけど、ありがとうね。慧君」

「いえ、こちらこそ……その、めだかさんのことで色々と迷惑をかけてしまって」


「ううん。それこそ君のお陰で彼女を捕まえられたから。私はむしろ感謝してるよ。ありがとう」

「え、あぁ……そう、ですか? でも、あんな戦闘になってしまって――」


 戦闘、竜華がなぜか暴れ、暴走ともいえるような状況となったこと。

 なぜ、あんなことになったのか、防人には検討もつかないが、竜華にも色々と事情があるのだろう。

 だからこそ防人はその事を言いかけて、言ってしまっても良かったのか、と言葉に詰まる。


「あれは……うん。あれは完全に私の落ち度だよね。慧君もそのせいでしばらく入院することになっちゃったし、本当にごめんね」

「あぁっ、いえ大丈夫です。竜華さんにだってその、色々と事情があるのでしょうし」

「まぁ……そうだね。事情……確かにそうだ」


 暗く影を落とす彼女の表情に防人はやらかした。と内心で頭を抱える。

 何かフォローをしなくては……でも何を言えばいい?

 かける言葉を探しているうちに竜華は顔をあげ、こちらへと笑みを向けてくる。

 とはいえそれは本心からの笑いではなく、社交辞令としての笑い。

 明らかに目が笑っていない。


「実はね。私には妹がいるんだけど……」


 少ししてゆっくりと口を開いた竜華。

 一体どのような考えからその話をしてくれたのかは分からない。

 だが、話を聞くに竜華の妹はやって来た男たちのせいで亡くなったという。


 名前を日高(ひだか) 琥音(くおん)

 曰く、彼女は小学1年の時点で独学からパソコンを組み上げ、プログラムにのめり込んだ。


 まるで憑かれているかのように作業に没頭する彼女に竜華は僅かながら怖さすら感じたようだった。

 しかしそれでも彼女にとっては妹であり、家族である以上関わらないというわけにもいかない。


 だからこそ彼女は妹がそれを楽しんでやっているということを理解した。

 夏休みの自由研究でゲームのコントローラーで動くロボットの対戦ゲームなどを作り上げ、金賞を授与したその笑顔は彼女にとって忘れがたい思い出であるという。


「それで、ナイフがあの子に刺さった時は本当に慌てふためくだけで何にも出来なくて……」


 だからこそ彼女は妹が亡くなったというその事実が許し難く、忌ま忌ましいという。

 何のために、何の目的があってあの男たちがやって来たのかは分からない。

 けれど、自分が抵抗をしたばかりに亡くなってしまったことは事実であり、だからこそ例の男たちが許せなくて、自分自身が許せない。


「あぁごめんね。こんな話……迷惑だよね」

「いえ、そんなことはないですよ。自分も妹がいます……から。(あいつ)は何て言うか生意気な性格をしてますけど、もし、同じような事があったら自分も許せないと思います」


 涙ぐませつつ謝る竜華。

 それに対して防人はデスク上の箱ティッシュを手に取りつつも慰めようと言葉をかける。


「だから、その……」


 とはいえ防人に即座に気の利いた事をスラスラと言えるほどの語彙はなく、なんといえばいいのか分からず、口ごもる。


「えっと……」


 言葉が見つからない。

 けど、このまま黙っているわけにもいかず、かといって迂闊なことを口に出すわけにもいかない。


――気にしないでください……じゃないな。頑張って……いや、それもどうなんだ?


 頭の中で言葉を探すために思考する。 


「あの、こんな言い方は正しいか分かんないですけど、元気出してください」


 結局、言葉は見つからず、防人は一言断っておくことを妥協点として慰めの言葉をかける。

 防人個人としては納得はしていない言い方。けれど、黙っているよりはマシだ。


「…………」


 うつむいたまま、黙る竜華。

 やらかした……かな?

 何か言うべきだろうか?


「あ、あの……」

「ん!!」


 防人が再び声をかけようとしたのと同じタイミングで彼女は力強く自身の両頬を叩く。


「あの、竜華さん?」

「うん、大丈夫。元気でた。ありがとね、慧君」


 先ほどと比べると明るくなった笑顔。

 無理をしているのではないか、と防人は少し心配になったもののこれ以上は流石に踏み込み過ぎかもしれない。


「そうですか。それなら、よかったです」


 一応は解決と見ていいだろう。

 そう防人が胸を撫で下ろした時、風紀委員室のスライドドアが開く。


「ただいま戻りました」

「……今、戻った」

紅葉(くれは)、千冬ちゃん。会議ありがとね」


 防人にとって先輩にあたる二人。

 風紀委員、二年の『彩芽 紅葉』。

 同じく二年の『千夏 千冬』。

 彼女らはゆっくりと室内に入ってくると各々の席へと腰かける。


「それじゃ早速、会議の結果を聞かせてもらえる?」

「あ、あのまだ、白石が来ていないようですけど……」


「あぁ彼には今日は休むように伝えてあるんだ」

「そうなんですか」


「うん。それじゃ彩芽、お願い出来る?」

「はい。まずは先日の決闘に関してですが、委員長――日高竜華の専用機『ウンフェア・ゲングリッヒ』の敗北という形で終わりました。

ですが、それはあくまでもシステム上での話です。当然、あの場で観戦をしていた者の一部は生徒会および風紀委員へ抗議が集まっていました」


――あぁやっぱりそういう感じになってるよね。

 仕方なかったとはいえ、僕が横やりを入れちゃったし……お金が絡んでる以上、納得いかないのは当然だろう。


「そのため、本会議にて賭けに参加した者達へのポイントの返還、および掛けたポイントの1割の上乗せを条件に矛を納めてもらいました。内容の詳細は私がまとめましたので後で確認してください」


「うん、ありがと。それじゃもう一つの議題はどうなったのかな?」

「はい。それに関しましては既にとなりの相談室にて待機させてますので、少々お待ちください」


 そういって紅葉はそのまま防人の後方にある扉から呼び掛けると一人の少女が姿を現す。


(さき)ちぁぁん!!」

「――え!? うぁぁっ!!」


 扉が勢いよく開き、現れた黒い人影。

 それは防人の手を引いて扉の奥へと消えてしまう。


「え?? めだかさん!? どうしてこんなところに!?」

「うふふ……大丈夫。ちょっと(わたくし)に身を委ねてくれるだけですぐに終わりますわ!」

「え? ちょっと! 竜華さん! これどういう、ちょっとちょっとぉ!!」


 扉の向こうから聞こえてくる叫び声。

 ガタガタと暴れるような音が向こうで響く。


「……いいの?」

「ん~まぁ、それが約束だったみたいだし仕方ないかな。今回は彼女のお金も一部だけど切り詰めて貰っちゃたみたいだしね」


「え? それって人身売買になるのでは?」

「ん~まぁ、グレーゾーンかな?」


「というかそれ、私たち聞いてない」

「まぁ、私もそういう取引がかあったのを後々聞いただけだからなぁ……生徒会とめだかちゃんが勝手に話し合って決めちゃったみたいだし」


「勝手な話ですね」

「確かにね。本当ならその決定を取り消して再度会議で取り決めるべきなんだけど……返金の件を既に賭けに参加した生徒達には送信済み。今さら白紙に戻すってわけにもいかなくてね」


 少しばかり驚く二人に対して生徒会に対してやれやれといった様子で話す竜華。

 その間、扉の向こうでの騒ぎも止み、ゆっくりと扉が開いた。




「う、うぅ……」

「ウフフフ……」


 室内に並べられた机とその周囲に置かれた椅子に腰かける風紀委員のメンバー。

 本日休んでいる一年の本間 白石の席を除き、今回の問題の発端である愛洲(あいす)めだかは防人の後ろに立ち、満面の笑みで防人の頭を撫でていた。


「あの、何でここにめだかさんがいるんですか?」


 再び制服を引っ剥がされた防人は涙目になりながらも先輩達に問う。


「それは今回の生徒会との会議で風紀委員の雑用係として仕事をこなすよう取り決められたからです」

「あ~なるほど。いやでも女装(こういうこと)をさせるのは禁止にしないんですか?」


 問いに対する紅葉の答えに納得しつつも新たな疑問点を投げ掛ける。


「確かに生徒を捕まえて女装をさせるのは禁止にしたんだけど、実は『度を過ぎなければ例の行為を行うことを許可する。ただし風紀委員に限る』って約束を取り付けたみたいなんだよ」

「あ~確かにそれなら僕はその例外に当たりますね。いやいや、おかしいでしょそれ。何で僕が全面的に被害を被らないといけないんです?」


「だって防ちゃん私に言ってくれたじゃないの。『今後はああいうことを他の人にしないで』って」

「……え?」

「つまり、防ちゃんなら好きなだけ愛でていいということですわよね?」


――そんなこと言ったっけ?


「うん、一応は証拠としての音声は受け取ってるけど聞いてみる?」


 めだかの発言に疑いの目を持って竜華へとアイコンタクトを取る防人。

 それに対し意図を察した彼女は確認を取ると机上の端末から一つの音声データを再生する。


『じゃあもしそう思うんでしたら今後はああいうことを他人にしないでください。それでチャラってことで』


「言ってる」

「言ってますね」


 音声に対してボソリと納得を見せる千冬と紅葉。


「いや、これそういう意味じゃ――というかこれいつの間に」

「フフフ、私の専用機(マリィ)に保存された戦闘データからですわ」

「……あぁ、なるほど」


 GWには戦闘における映像データを保存するためのデータ領域が存在する。

 それを利用することで自身の戦い方の問題点を見直す事が出来、またアリーナの施設にてデータを活用したシミュレーションによって再度戦闘を行うことも可能となっている。

 防人もこの1ヶ月間、訓練でお世話になった機能だ。


「いやでもだからって……あの、生徒会の方はこの音声を理由に許可をしたってことなんですか?」

「私はそう聞いてるよ。『他の生徒に迷惑をかけないなら大丈夫』って」


「その被害が全部僕に来るわけですけど?」

「まぁ決定事項だからね。なんというか、うん。頑張って」


「えぇ……あの、お二人は本当にそれでいいんですか?」

「決定事項なら仕方ない」

「そうですね。今更白紙に戻すのも困難でしょうし、条件は『度が過ぎなければ』なのでもし、問題だと判断したらすぐに報告してください。対応しますから」


「出来るなら今すぐにでも申請したいんですが……」

「大丈夫。凄く綺麗(キレイ)だよ?」


「いや、そういう問題じゃなく――」

「当然ですわ。化粧品だって良いものを揃えてるんですもの。こんな可愛い子になってくれるならいくらでもお金は注ぎ込みますわよ」


「めだかさん。お願いですから少し黙ってて」

「えぇ……そんなひどい。こんなにも私は貴女に尽くしているというのに……」

「あぁ……うん、そうだね」


 ヨイヨイ、とわざとらしく泣いてみせるめだかに対して困惑ぎみに頷きつつもサラリと流し、防人は竜華の方へと視線を向ける。


「あの、それで竜華さん。出来ればもう少し温情をお願いできません?」

「んー、でもまだ彼女がここに来るのは今日が初めてだし、少し様子を見ないことには判断出来ないかな?」


「いや、この人もう初日でやらかしてる気がするんですけど?」

「じゃあ一ヶ月ぐらい様子を見る。ってのはどうかな? 一ヶ月の間、慧君が『これは度が過ぎてる』って思う事をされた数を測って決めるっていうのは?」


「一月ですか……長いような気もしないではないですけど」

「じゃあ決まりだね。どういう事を記載すればいいかは追って連絡する事にするよ。それで良いかな?」

「……まぁ分かりました」


 少し納得はいかないものの期間を設けることで折り合いを付け、本日の風紀委員会議は終了となった。

 とはいえ、めだかの気が晴れるまで防人がここから出ることは出来ないだろうけれど……。


「防ちゃん……防人慧。今回の事は助けてくれてありがとう。それから、ごめんね」


 ため息をつく防人の後ろからボソッと他には聞こえないように彼女は囁いた。


「……はい、改めましてこれからよろしくおねがいしますね。めだかさん」


 まぁこうやって謝って来てくれるだけでも湊と比べれば可愛いもの。

 衣装だってこうしてよく見れば細部にまでこだわっていて綺麗でクオリティが高いものであることは素人目線からしても分かるし、それを誰かに着せてみたいという気持ちはなんとなく分からないでもない。

 自分だって新しくゲームの衣装が手に入ったら色々と組み合わせたいと思うから。


 まぁ、だからといって女装させられるのが嬉しいかと問われれば同意しかねるけれど……一応は生徒会によって制限が設けられている以上、彼女だって流石に度が過ぎた真似はしないだろう。


「それじゃあサキちゃん。これに着替えてみてくれないかしら? 貴女にしばらく会えなかった分、たくさん衣装を作ってみたから全部試したいの!」


 と、思いたいなぁ。

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