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076『狂乱する鉄拳』



 めだかに連れられてやって来た部屋。

 そこは試合を監視する部屋であり、今回のように簡単な連絡事項を行う放送室でもある細長い個室。


『アァァァ!!』


 そんな部屋でドレス姿へ着替えさせられた防人慧はスピーカーを介して聞こえてくる竜華のうめき声に強く違和感を感じ取っていた。

 その声はどこか苦しんでいるようで、悲しんでいるようで、悲鳴のようにも聞こえなくはない。


 不安を感じ、防人は一時的にでも試合を止めるべきではないか、と隣にいる放送委員の少女、≪神谷  (まな)≫に提案するものの


『止めておきなさい。めだかって意外とプライドが高いから。しかも今回は自分で用意した試合。そんな戦いの途中で邪魔をされたなんて知ったら……今度はその下着も女物に変えさせられるかもね』


と冗談半分で提案を取り下げられてしまう。


 愛の言葉の通り、確かにめだかはこの試合を諦めているように感じなかったため、観戦に徹することにしたもののやはり違和感は拭えなかった。


「竜華、さん?」


 やはりおかしい。

 剣を振るい、壁際へと追い込んでいく竜華の姿を見て防人は不安感を(あら)わにする。

 彼女はどちらかといえば高い戦闘技術をもって相手に気付かれないよう追い込んで、出来るだけ安全に取り押さえるといったような立ち回りをする人のはず。


 それがこの一月(ひとつき)あまり風紀委員として活動してきた防人が感じていた日高竜華への感想だ。

 だからこそ力任せが過ぎる今の竜華の戦闘から伝わってくるのはおかしいというレベルの不安や違和感ではない。


――何をしてるんだ? あの人は!


 一方的かつ圧倒的。

 他の観客の歓声が響く中で聞こえてくる鈍い金属音はそれだけあの剣が力任せに振るわれていることを表している。

 一歩間違えば殺してしまいかねないどころか明らかに首を狙い、殺そうとしているあの攻撃は確実に竜華の戦い方ではない。

 剣を用いて辛うじて攻撃をいなしているめだかの姿に自然と拳へ力が込もっていく。


「ぁ、危ない!」


 剣が砕け、めだかへと迫る蹴りによる攻撃に防人は思わず叫ぶ。


『キャァッ!!』


 とはいえ、観客の盛り上がっているこの中で仮に声が届いていたとしても回避は間に合わず、めだかの悲鳴がスピーカーから響いた。

 その後、行われる追撃。


――あれは、大丈夫なのか?


 そんな不安の中でチラリと向けた視線の先、めだかの親衛隊(ファンクラブ)の面々は先ほどまで振っていたペンライトやタオルなどを止め、事の様子を静かに見守っており、中には手を合わせ、祈るようにしている人達も見受けられる。


 それだけ彼女達も不安ということなのだろう。

 振り下ろされる拳によって響く轟音に舞い上がる砂ぼこり、出来上がる小さなクレーター。

 みるみるうちにグラウンドは手入れをしていないミカン肌のようにデコボコになっていく。


 ――あれは本当に竜華さん、なのか?


 スピーカーから聞こえてくる怯えた悲鳴と苦しそうな絶叫。

 拳による攻撃を辛うじて回避しているものの、一方的な戦闘はもはや勝負と呼べるものではないだろう。

 見境なくというわけでもなく、明らかにめだかを狙っていることは確かだが、少なくとも正確に攻撃を加えていっているようには見えない。


 かといっていたぶるような事をしているわけではなさそうでどちらかといえば、怯えていると言えるだろう。

 二人とも怯えた様子で戦闘し、一方は拳を振るい攻撃してもう一方はそれを回避している。

 その様子はどこか機械的な動きのようにも見えなくもない。


――とにかくこれ以上は見ていられない。


 愛には止められたものの、流石に見ているのはもう限界を越えている。

 今のところ巨大スクリーンに映る両者の残りエナジー値に変化はないもののこれでは決着がついているようなものだ。

 防人はグラウンドへと向かうために椅子を後ろへと倒す勢いで立ち上がると個室を出ようと通路側への扉へと振り替える。


「どこへ行くつもり?」

「竜華さんを止めます」

「止めておきなさい。貴方じゃ勝てないわ」


 愛は部活内のデータベースや先日のミッションなどを通じて防人の戦闘技術はある程度は把握している。

 ゆえに学園が認め、専用機を与えられた竜華には敵わないと彼女はキッパリと断言する。


「でもこれ以上、黙って見てるなんて」


 防人もそれは十分に理解しているが、だからといって動かない理由はない。


「あなたの気持ちは分かるし、私も竜華の戦い方がおかしい事は分かってるわ。けど、彼女は学園が認めた実力を持ってるのよ?」

「それはそうかもですけど……」

「大丈夫。決着がつけば過剰行為としてこちらから強制的に機体を停止できるから。それまで待ちなさい!」


 愛も焦りを感じているのか、少し早口ぎみに話し、防人を説得する。


「でもA.P.F.って名前ほど完璧というわけじゃないんですよね? あの攻撃。もし決着がつく前に攻撃がめだかさんに当たったとしたら無事で済むようには思えませんよ?」


 地面を砕くほどの攻撃。

 あれを仮に防げたのだとしても振り下ろされている以上、完全に相殺できるとは思えない。

 あの攻撃は確実に胸部付近を狙っている。

 今のところは狙われている箇所が限定しているために避けられているとはいえ、それが出来なくなれば危険であるのは考えるまでもない。

 最悪の場合、亡くなってしまう可能性もある。


『いや……死ぬのは嫌!』


 スピーカーから届く悲痛な叫び。


「――っ!」


 もう時間はない。

 防人はそう直感し、通路への扉の方へ向かうためにクルリと体を反転させる。


「待ちなさい!」

「いや、もう待てませんよ! 今の聞いたでしょう? 早く行かないと!」


 沸き立つ焦りと不安に防人の声に自然と力がこもる。


「そうじゃないわ。あっち」

「……え?」


 細長い個室の端。

 グラウンド側に向かっている鉄の扉を愛は静かに指差す。


「そこからなら直接出れるわ。でも、何かあってもこっちからどうこうは出来ないからね?」

「大丈夫です。あぁでもその代わりに風紀委員とかに連絡、お願いしますね!」


 愛へと頼み事を伝えつつ扉へと駆け出していく防人。

 彼はグラウンドへと飛び出すと同時に光牙を身に(まと)うと竜華、めだかの両名へと通信を繋ぎ、まずは、めだかへと声をかける。


 しかし、いくら叫んだところで返ってくるのは『死にたくない、死にたくない』と狼狽し、うわ言のように呟く彼女の声。

 同様に竜華からも苦しそうな咆哮が返ってくるのみ。


――マズイ!


 回避を使用と体を動かしためだかの腕が竜華の作り出したクレーターにハマり、動きが鈍る。


――間に合え!!


 防人はさらに背部の推進機を吹かし、一気に加速。


「竜華さん、ごめん!」


 同時に腕部に備え付けられている小型シールドをその手に取り、そのまま謝罪の言葉を叫ぶと振り下ろされる拳よりも早く彼女を殴り飛ばした。

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