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055『およそ1ヶ月前』

 簡単なメンテナンスのはずではあったはずなのに……気付けば夕方。

 いつもよりは時間がかかったもののアリーナに直撃したヘルメットなどには特に問題はなく、無事メンテナンスを終えた防人は自分の部屋に戻る。


 防人は明日の予定を確認し、準備。

 時間になればお風呂に入り、そしてベッドに横になる。

 いつもと変わらない生活習慣。


「あぁ~……つかれた」


 メンテナンスがまさかここまでかかるなんて……。

 今回は確か簡易的なもので、システム面とそれによる各装置の動作確認、後はアリーナに追突したヘルメット部分の確認を行ったはず。

 簡易メンテナンスであれなら本格的なものって一体どれだけかかってしまうんだろうか?


「ん〜…………腕時計……」


 寝返りをうった防人は寝室に置かれた小さな机の方へ向き、ボソリと呟く。

 机に置かれた腕時計の入った四角いケース。

 それは防人は夢で見たことをふと思い起こさせる。


 小学3年の夏休み。

 防人は(みなと)に連れられて彼女の家にやってきた。

 つまりこの時点で彼と彼女とはクラスメイトでしかなかったということ。


 兄妹ではない。家族ではない。親戚ですらない。

 彼女の兄にあたるのは小学生ぐらいに連れられたその家に引きこもっていたという少年だ。


 この1ヶ月間少しずつ見てきた夢でその辺りは完全に思い出した。

 自分は――防人慧は彼女らの家の近くに住んでいただけのただの友人である。

 仲良くなってよく遊んだだけのただ少し家が近かったというだけのただの子供。


 それ以上でもそれ以下でもない。

 どこにでもいる普通の子供と変わらない。

 朝起きて学校に行って、帰って来て宿題して遊んでご飯を食べて……そんなごくごく普通の生活を送る子供たちと変わらない。


 はずなのに……顔を隠していた誰かもわからない何者かに襲われて……連れられてそしてどうなったのか……わからない。

 今のこの時点で戻った記憶ではわからない。

 いや、そもそもこれが本当に失っている子供の頃の記憶なのかは分からないけれど……教えてくれた人がいた。


 それが本当に詳しいことなのかどうかは分からないが、教えてくれた事に変わりはない。

 歓迎会の後、メールによって呼び出された場所で出会ったATという人が語ってくれた。

 一体、何があったのかを……。





4月


 防人はメールによって呼び出された場所にたどり着く。

 やって来たその場所の扉は既に開いており、中は薄暗く奥まで見えない。


『やあ……来たね』


 中に入ると扉が閉まり、ホログラムによってモニターが浮かび上がる。

 そこには一人の人間が映っていた。

 呼び出しておいて相手の人はどうやら正体を明かしたくないらしい。


『すまないが、私は今忙しくてね。このような形で挨拶をさせてもらうよ?』


 ノイズ混じりの声で顔は影になっていてはっきりとは映っていないため、彼の性別が男性なのか女性なのかはわからない。


 でもなんだか以前どこかで会ったような感じがした。

 それは道端で顔を見たとかそういう軽い感じではなく、以前によく話していたような……懐かしい感じだ。


 直接に対面いるわけではなく、モニター越しに対面しているのだから会ったというのは正しいのかわからないけれど、懐かしい。

 でも、それだけじゃなく……少し恐いとも防人は感じ、思っていた。


『さて、立ち話もなんだしその席に腰掛けるといい』

「……分かりました」


 防人は少し警戒しつつも彼に言われた通りに腰掛ける。


『さて、ではまずは自己紹介といこうか。私はA.T.。君にとってははじめましてかな?』

「そうですね。よろしく……です。ATさん」


『別に呼び捨てで構わない』

「じゃあ…えっと、AT。よろしくです」

『あぁ、こちらこそよろしくするよ。まぁ本来なら私は君を呼び出す必要は無かったんだが……』


――必要が無かった?


「何か、あったんですか?」


 緊張感を強め、防人はA.T.へと問いかける。


『あーいや、ククッ……』

「……? 何かおかしいですか?」

『ん、いや君がゼロに呼び出された時のことをちょっと思い出してね』


──ゼロさんに呼び出された時にあったこと?


『あのときの君の焦った顔がね……』


──呼び出された時に焦ったこと……。


「それってまさかとは思いますが、もしかしてドアノブのことですか?」

『あぁ、その通りだ』


──即答か――っと口に出したらまずい。


『冗談のつもりで取り付けておいたんだが、いやはや予想以上の反応をしてくれた』

「あなたがつけたんですか!?」


『あぁ、面白かっただろ?』

「いや、全然面白くなかったですよ! 入学して早々、学校のドアを壊してしまったのかと焦ったんですからね」


『そうか、面白くなかったか……だが私は面白かった。だから気にするな。別に学校のドアを破壊したとしてもここの整備士(メカニック)がすぐに直してくれるよ』

「いや、だからあのドアノブあなたが付けたんですよね? なにが『気にするな』ですか! 後、僕は別にドアを壊してはいないですよ」


『っと、いけない。こんなどうでもいい話はそろそろ止めにしないと……』

「こんなことって……」


 明らかに話をはぐらかされた防人は眉をひそめるものの彼は特に気にする様子もなく、取り出した丸い物の蓋を開けてそれを確認する。

 防人からは暗くてそれが何なのかわからないものの……時間を確認する何かであることは分かる。


『さて、時間はあまりないからね。ゼロからここのことを色々聞いていると思うが、私からも手短に話をさせてもらおう』

「…………。」


――なんとなく納得いかないけれど、まぁ早く終わるならもうどうでも良いかな?


「分かりました。よろしくお願いします」

『ふむ、ではまずは学園長(ゼロ)からどこまで話を聞いたのか教えてもらえるかな?』


 A.T.からの問いに防人は答える。


・半世紀ほど前に起こった世界大戦。

・学園での入試(ゲーム)において上位となったことで光牙を与えられたこと。

・世界の真実として戦争が未だに続いていること。

・そして学園のみならず各国が入手を目標としているプラネットシリーズについて。


『なるほど……では彼は最低限の事を話したということか……』

「最低限?」


『そう。戦争が未だに続いている。そして各国はとある人物の造り上げた最高傑作たる兵器――プラネットシリーズ。ではそれらを求める国々については聞いていないだろう?』

「あぁ……確かに」


――言われてみれば……そうかもしれない。


『……ふむ。なら、話すのはそこからかな』


 納得したようにモニターの向こうで人影は小さく頷く。


『ではまず、この世界、国々の有り様からだが……現在、国々は大きく分けて9つの大国に分けられている。


その国々の名は

≪イーリアス≫ ≪バシレウス≫ ≪ディクタトル≫

≪ルベドマナ≫ ≪ソロモン≫ ≪マタティア≫

≪ペンドラゴン≫ ≪オルランド≫ ≪ボードゥアン≫

 この国々はこの世界の、大陸の各地に拠点を構えており、建国の際に現ペンドラゴンにて行われた会議にて各国の最高責任者たちが名付けたものだ』

「建国? 名付けた?」


 まさかいきなりそこまで大きな話をされるなんて……自分はもっとこう裏でどうこうしてるみたいな話かと思ってたんだけど……いくらなんでも話が飛躍してるんじゃないだろうか?


『あぁ、もちろんその他にも中小国家は存在はするもののそれらは全て先程の大国の息がかかった国ばかりであくまでも存在するだけだから、9つの国について頭に入れてもらえればそれで構わないよ』

「……分かりました」


 中小国家……会社とか工場みたいな話だ。

 実際はもっと複雑な感じなんだろうけど……。

 それにしても中学の授業で習ってたこととかネットで読んだことあるものとは全然違う話だなぁ。

 まぁ戦争が今も続いてるなんて国としては言えなかったんだろうけど……そういった話を聞いたことが無かったのは情報統制がしっかりしていたってことなんだろうか。


『それから各国についてだが、その人材の多くは多くの事情を知る責任者たちに近い人物と大戦時などで行き場を失った軍の関係者や孤児がほとんどだ』

「なるほど……」


 軍関係者に戦争孤児による国。

 とはいえ戦争は半世紀ほど前の事だから実際はその子供たちってことになるのかな?

 でも、そういう人たちだけで国として成り立つのかな?

 ん~……でも実際に今も続いてるってことはそういうことなんだろう……正直、よく分からないけど……。


「さて、もう少し説明しておきたいところではあるが、先程も言ったように時間が無いのでね。投げ槍な感じになってしまったが……そろそろ本題に移るとしよう」


 A.T.はそういって口元を綻ばせると彼は一呼吸置いて落ち着いた口調でハッキリと言う。

 防人が以前にもここに、この世界に来たことがあるということ……。



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