043『はじめての……』
「くそっ、まさかここまで押されるなんて……」
制限時間の3分が終了し、残り体力の関係からケイの側が勝利する。
「やったぁ、初めて勝った!」
ゲームを遊んできた経験の差から今まで勝つことの出来なかったケイは上空に浮かぶ『Victory』の文字に心の底から喜びの声をあげる。
「へへへ、ありがとうコウガ」
「ん、コウガ?」
「そう、『コウガ』。前に行った修学旅行で忍者の名前だって聞いたんだよ」
「なるほど……しかし、まさかそれを完成させられるとは思わなかったな」
「そうなの? 別に壊れてるようには思わなかったけど」
「ふむ、あの高速下で旋回を行って装甲が破損しないどころか、ヒットポイントが削れた様子も無かったからな」
「へぇ~……よくわかんないけど、そうなんだ――ぁ、そうだ。じゃあ今度は協力プレイでやろうよ。敵をいっぱいやっつけるやつ」
「あーいや、すまないが、この後、予定があってな」
「へぇ、何のゲームイベント? 良かったら後で参加するけど」
「いや、そうじゃなくて……個人的な用事なんだよ」
「そっか。じゃあ仕方ないね」
「すまない」
「ううん、気にしないで」
「……助かる。あ、そうそう。最後にってわけじゃないが、その機体の名前、保存しようか」
「え、僕が決めたので本当に良いの?」
「そりゃそうだ。お前が完成させたやつなんだからな……えっと名前はコウガ、だったな」
「うん、そうだよ」
「えっと……そうだな。じゃあ名前は、光の牙と書いて『光牙』ってのはどうだ?」
「光牙……うん、カッコいいと思う」
「よし、決まりだ」
数分後、彼はクリエイティブルームにてケイの作った機体の名前を編集した後、ゲームを終了。
現実の世界へと戻った二人はダイブギアを外してからゆっくりと起き上がった。
「……えっと、それじゃあそろそろ帰るね」
「あぁ、ちょっと待て」
「ん?」
少し名残惜しそうに部屋から出て行こうとしたケイを彼は引き留める。
「えっと、それをここへコピーして……それから」
彼はブツブツ、と引き出しの中から銀色の腕時計を取り出すと隠れるようにして用意された挿入口へキーボードから取り出したマイクロチップを挿し込み、スライドをしっかりと閉める。
「ほい、やる」
そして、友人はその腕時計をこちらに向け、ケイへと手渡した。
「これは……?」
「電波時計」
「いや、そうじゃなくて……」
「まぁ、なんだ……光牙もできたし……お礼だよ」
そう言いつつ腕時計に付属している黒いケースも一緒に渡そうとする。
「礼なんていいよ。光牙は僕が頼んで君に教えてもらったものなんだから、どっちかといえばお礼を言うのはこっちの方だよ」
「いいんだって……本当なら光牙のデータは上手く出来なくて消してしまう予定だったし」
「え? どうして?」
「まぁ初めはノリで作ったもんだったんだけどかなりこのゲームシビアなところが多いだろ?」
「まぁ、そうだね」
「だからやっぱ速いやつ作ろうとするとそのぶん体にプレイヤーに作り物とはいえ負荷がかかってくるんだよな」
「え、でもそれを抑えられるように作ってはあるんでしょ?」
「そうなんだけと……それでもほんとは全然人が乗れるようなものではなかったんだよ」
「ん? ……だけど僕が、まぁ乗りこなせてはないけど、乗って遊べてるじゃない。だからやっぱりかなり抑えられてるってことじゃないの?」
「まぁ、そうなんだろうけど……まぁとにかく光牙が完全に完成したのはお前のおかげだ。だから受け取ってもらえるか?」
「でも腕時計、絶対高いやつでしょ。何十万円もするんじゃないの?」
「……言うほど高くないよ」
「でも……」
「いいから持ってけって、礼なんだからお金とかも気にするなよ……こういうのよく親から届くもんだから余るくらいあるんだよ。むしろしまう場所に困ってるぐらいだから、さ」
「……分かった。そこまで言うなら、ありがたく受け取っておくよ」
「ん、それでいい」
ケイは少し悩んだものの受けとることを決め、腕時計をカバンへとしっかりとしまい、チャックを閉じる。
「それじゃあそろそろ行くね。バイバイ」
「あぁ……じゃあな」
そう言いながら手を振る彼が若干さみしそうな顔をしていることにケイは少し、珍しいなと思いながらも帰路についた。
◇
次の日
昼過ぎになった頃、家を出たケイは今日もあのゲームで遊ぼうと友人の家にやって来るとインターフォンを鳴らす。
「……あれ?」
待ってみてもインターフォンから声が聞こえてくることはなく、静かに扉が開く様子もなかった。
――またいつもの調子でおちょくっているのかな。
ケイはそう思ってカメラから隠れつつもう一度インターフォンを鳴らす。
しかし、返事はない。
「おーい! 気づいてるだろ? ぼくだよ防人だよ! 詐欺じゃないぞぉ!! おーい……はやく玄関開けてくれよぉ!」
ケイはいつも彼のいる部屋の窓の方へと向かって叫ぶもののやはり返事はなかった。
「……おーい、冗談なら早くしてくれないかぁ~」
少しムカムカッとしたケイは玄関の前で立ち尽くすことにしてみた。
しかし、一時間ほど携帯で時間を潰しながら待っていても一向に扉が開く気配はない。
「……本当に……いないのかな?」
ケイは最後にもう一度だけインターフォンを鳴らし、少し待ってから肩を落として自分の家に帰ることにした。
◇
その夜
夕御飯とお風呂を済ませたあと、パジャマ姿でりょうからもらった腕時計をベッドに寝転がって眺めていた。
―― 一体どうしたんだろう?…あいつが家にいないことなんて今まで1度もなかったのに。
「家族みんなでの旅行……はないか」
―― あいつの両親は共働きでほとんど帰ってくることがないって言っていたしな。
「偶然今日がその帰ってくる日だった?」
――いや、それはない。もし、そうだとしたらさすがにメールか電話かで伝えてくれているはずだけど……。
「じゃあ何でいなかったんだろう?」
――わからない。 分からないけれど……何か変な気持ちだ。
心配とか怖いとかそういうのをぐちゃぐちゃに混ぜあったのがなんというか心のそこから沸き上がってくるようなそんな感じ。
「……こういうのを胸騒ぎって言うんだったけ?」
どう、なんだろう?
……いや、もしかしたら昨日言ってた用事が今日も続いてるって事なのかも。
「うん、多分、きっとそうだ……」
ぶつぶつと呟きながら考えているとバタンと扉の閉まる音が一階の方から聞こえてくる。
「父さんたち、帰ってきたのかな?」
―― なら、友達が出来たこととかプレゼントを貰ったことを話さないと。
そう思って腕時計を腕につけて直してから部屋を出て階段を下りる。
下からぶつぶつと話す声が聞こえてくる。
「……目標は? ヒロ」
「上じゃないかなぁ? たいちょー」
「……適当だな」
―― あれ? ……違う……父さんたちじゃない。
「まさか泥棒? ……玄関の指紋認証をどうやって」
ぼくは足音を立てないよう静かに廊下を進み、角の所から玄関を覗きこむ。
―― 子供? 歳は僕と同じくらいだけど何で……でもあいつらくらいならぼくでも追い払える。
ケイは急いで部屋戻り、とある銀髪のサムライを真似るためにネットショッピングで買っておいた木刀を掴み、一応と引き出しからゴム製のクナイや手裏剣をポケットに詰める。
「ここ?」
「んー多分ね……じゃ、こっちは俺がやっとくから昨日の所とここの証拠隠滅っての?任せたわ」
「了解」
ケイは聞き耳を立てて部屋に入ってくるのを待ち構える。
――カチャリッ
「はぁ!」
と扉が開くと同時に木刀を振り上げ、入ってきたヤツに向けて木刀を振り落とす。
「――!?」
「あっぶないなぁ~」
目の前の男は両手で降り下ろした木刀を右手にもったサバイバルナイフで受け止める。
「くっ!」
「まぁ、良かったよその剣さば――お?」
ケイは後ろに下がり、ポケットに入ったゴムのクナイ、手裏剣をそいつに向かって投げる。
「いやぁ~びっくりした。まさかそんなものまで持ってるなんてね。……でも」
少年は身を低めると同時に床を蹴って一瞬にしてケイの懐に飛び込み
「遅いよ」
「――ガッ!」
その手に持つサバイバルナイフの柄でみぞうちを突かれ、ケイの意識は飛びかける。
痛みと苦しさに堪えきれず、ケイは手に持っていた木刀を床に落とし、彼が離れると同時に前のめりで倒れる。
「さて……ん?なんだこの手裏剣ゴム製じゃん。……ほんとにこいつ矢神さんが言うほどの重要人物……ん? ふ~んなるほどねぇ」
苦しみ、呻くケイの顔を覗き込みつつ少年は何か納得したように笑みをこぼす。
「ヒロ……」
「ん? たいちょー……大丈夫、こっちは問題ないよ?」
「……知ってる」
「……そう。で、そっちは?」
「終わってる。……もう少しでキッチンが燃えてガスに引火する」
「了解。んじゃさっさと連れていこうか」
――何なんだ、この人たちは? ……もう……だめ……だ。
家に入ってきたドロボー二人の会話を聞きながらうっすらと開けていた瞳を閉じる。
揺れを感じ、うっすらと開けた目の先には燃えている自分の家があったが、かろうじて残っていた意識はすぐに暗転した。




