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042『はじめての決戦』

 ケイが話を聞くと、ミナトの双子の兄が遊んでいたのはフルダイブ式のVRゲーム。

 ゲーム好きであったケイはそのゲームに強い興味を引かれ、気付けばミナトの家へ定期的に遊びに行くようになっていっていた。


「あっつぅ~~」


 そして、ケイは今日も遊びに炎天下の中、彼の家に訪れていた。

 汗だくになりながらも歩いてたどり着いた玄関前でケイは汗を袖で拭ってから彼の家のインターフォンを


――バッキィ!!


「――っっ!!?」


 押そうとした時、傍から聞こえてきた「あっ!」という声と、何かが砕けたようなものすごい音がここら一帯に鳴り響く。


「あ~あ、植崎。お前また壊しちゃって、どうすんの? これ?」

「ヒロ……すまん」

「いや、俺に謝られてもねぇ……謝るならたいちょーに後で言っておいてよ。俺は怒られるのとか嫌だし」


 ゲームの貸し借りの約束でもしていたのだろうか?

 顔はよく見えないが、自分と同じくらいの男の子達が砕けた何かを挟んで言い合っている。

 ゲームを壊しちゃったのかな? もしそうなら最悪だろうなぁ。


「――ん?」

「っと、あんまりじっと見てるのも悪いし、さっさと中に入ろう。うん、そうしよぅ」


 スッと少年の一人がこちらへと顔を動かすのに対してケイは反射的に視線を外すと少し焦りつつもインターフォンを鳴らした。


『はい、誰ですか?』

「あ、僕だよ。遊びに来たんだけど、開けてくれないかな?」


『ぼくぼく詐欺? 別に俺はあなたがどんなに困っていようが関係ないので勧誘とかなら帰ってもらえます?』

「いや、違うから。というかカメラで顔分かってるでしょ? ぼくだよぼく!」


『ですから僕さんなんて人は知りません』

「もう! ぼくだよ。サキモリ ケイ!」


『サキモリ……? すみません。全く覚えの無い名前ですね。失礼ですが、住所の確認をお願いします』

「いや、住所合ってるよ! いくらぼくが道覚えるのが苦手だからってさすがに何度も来てたら覚えるからね?」


『はぁそうですか。しかしこちらは全く覚えがありませんので今日のところは帰っていただけませんか?』

「いや、一応僕は呼ばれてきたんだけど? そっちから呼んでおいて帰れってどういうこと!? ……ねぇ、もう疲れてるから早く入れてもらえませんかね?」


『いや、さすがに知らない人を家にいれる人はいないと思いますが』

「……もぅ泣いちゃうよ」


『泣けば?』

「ちょっ……もう、どうやって収拾つけるの? これぇ……なんかもうほんと……何。えっとうん。もう話がここから全然進まないから早く入れてくださいませんか?」


『ふむ、それもそうだな……今開ける』

「はぁ……初めからそうしてくれればいいのに……」


 カチャリという玄関の鍵の外れた音を聞き、ケイはようやく、とドアノブを掴んでドアを開ける。


 とはいえ、イタズラ好きの彼からのあれこれに対して警戒心は緩めることなく、まずは扉をゆっくりと開けてから様子を伺う。

 特にこれと言った変化は無く、ケイはそのまま二階へと上がると彼の部屋の扉を開けた。


「こんにちは」


 ケイが部屋に入ると室内のクーラーの冷気が全身を包む。


「暑い中お疲れさん」

「疲れたのはほとんどお前のせいなんだけどね?」


 ケイが少々怒ったように言うと彼は気にする様子もなく、笑みを見せる。


「はは、悪かった悪かった。お詫びと言ってはなんだがそこの冷蔵庫にあるジュースから好きなの1本持ってってくれていいから……フフッ」

「……なんで今笑った?」

「いやいやお前の玄関前での反応がね、面白かっただけだよ」

「あーそうですかっ、それじゃあジュースもらうからね」

「どうぞ……くくっ」


――うーん、やっぱ何かある気がするんだけど……まさか冷蔵庫に何かドッキリ仕掛けみたいなのがあるのか?


 ケイは再び警戒心を強めると、ゆっくりとベッド横に置いてある小型の冷蔵庫に近づいていき、それの真横で少し身構える。


「……なにしてる?」

「いやぁちょっとね」

「何だ、もしかして遠慮してるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「なら、早くしてくれ。こっちはもう準備してあるからね」

「あ、うん。急ぐよ」


 ケイは返事をしつつも冷蔵庫に触れ、さっと開けるとすぐさま二、三歩後ろに下がる。


「……あれ?」


――特に何も無い、な。


「全く、何をやってるんだ? 開けっぱなしにしたら電気代かかるし、中のものが(ぬる)くなっちゃうだろ?」

「いや、なんか笑ってるから冷蔵庫に仕掛け(トラップ)でもあるのかなって」


「んなもん仕掛けるか。場所取るし、片付けるの面倒だし、いいこと無いじゃないか」

「まぁ確かに、そうだね」


――また、騙されたのかぁ……まぁイタズラ好きなのは別にいいんだけど、いつかはこう、ギャフンと言わせてやりたいなぁ。


 わざとらしい言い方にケイは彼の思惑通りであったことに気付き、内心でぼやきつつ冷蔵庫からスポーツドリンクを取りだすと、パソコンの傍に寄って、彼の横に膝立ちになる。


「さて、それじゃあ一息ついたら中に入ろうか」

「え、僕は別にいつでも大丈夫だよ?」

「そうか。それじゃあ準備するとしようか」


 そういって彼がキーボードを操作を始めるとケイも彼の部屋に置かれている箱の中から2台のヘルメット型のFVRダイブギアを用意する。


「よし、それじゃあお前はベッドに横になってくれるか?」

「うん、分かった!」


 ワクワクとした気持ちを強め、ケイは言われたままにベッドへと横たわると彼は椅子の背もたれを倒してもたれ掛かる。


「それじゃ……行こうか?」

「うん!」


 彼が遊ぼうと、パソコンで起動したのはFVRゲーム。

 その内容はシミュレーションアクションゲームであり、世界大戦の時に使用されていたパワードスーツ――GW≪ウェポンズ・ギア≫を選択して部隊を編成し敵の隊と戦闘を行うというシンプルなもので


 彼の父親の部屋にあったというそれは今の技術では確立していないもので、世間には出回っていないものだ。


 それゆえにゲーム内容はシンプルな対戦ものであったとしてもケイらにとってそれはとてつもない興奮を覚えるものであった。


「「オーバーダイブ」」


 二人の被っているダイブギアが反応し、システムが起動。

 二人の意識は暗く沈み、電脳の世界へと潜っていく。


「……何か、いつもと違うね」


 ケイは初めのうちは大戦時、連合軍が使用していたという量産型のGWを使用して遊んでいた。


 しかし、今日は彼からの連絡で彼が作ったというGWを使わせてもらえるということでワクワク、ホクホクとした気持ちでケイは質問を投げ掛ける。


「そりゃここはクリエイティブルームってところだからな」

「へぇ、てことはここに?」

「あぁ、少し待っててくれ」


 彼は視界にモニターを表示させ、自分で作ったという各機体をルーム内の台座の上へと表示していく。


「さて、どれにする? といってもそんなに数はないんだけどね」

「おぉ~!」


 興奮した様子で声を漏らすケイ。

 初めての訪れたクリエイティブルームは格納庫のような見た目であり、それも相まって並べられた機体たちもとてもそれらしい雰囲気を漂わせる。


「うわぁ……すごい……」


 白、青、緑、赤、黄。

 並べられている5機の見た目は様々でそれぞれの前で表示されたウィンドウを調べることでそれがどういった設定がされているのかが分かる。

 それらは装甲の色をそのまま名前にしたという5つの機体。


 選択の直後に身に付けてしまう普段とは違い、客観的に間近で眺めることの出来るその機体たちに興奮した様子でケイはそれぞれの機体をゆっくりと吟味していく。


「あー、決まったのか?」

「うん! 僕はこれがいい!」


 そういってケイがその中から選び、指を差したのは黄色というよりはオレンジ色に近い装甲を持つ細身のGW。


「あぁ、悪い。それはダメだ」

「えっ、どうして?」


「あぁ、えっとだな……それのコンセプトは高機動の近接型で」

「うん。なんとなくそうかなって思って選んだんだけど、ほら見えない早さで敵をやっつけるって忍者っぽくてカッコ良くない?」


「まぁ、俺も確かにカッコいいとは思って最高速度を光速になるようデータに入れて作っては見たんだけどな。ある程度の速度を出すと空中分解するんだよ」

「えっとそれってつまり、使ってるとバラバラになっちゃうってこと?」


「そう。だから渡しても使えない」

「ん~そっか……ぁ、これってさ、データのコピーって出来ないの?」


「あぁ、一応は出来なくはないが……」

「じゃあお願い」


「……了解したが、どうする気だ?」

「いやぁ、コピーのデータだったら好きに弄っても大丈夫かなって思ってさ」


「ふむ、なるほどな。確かにそれなら問題ないが、まさかお前が作る気なのか?」

「ん? そうだけど、もしかしてそんなに難しいの?」


「まぁそうだな。……いや、機体の制御や操作用のプログラムは一から作らなければならないが、装甲の見た目とかなら俺の作った簡易化ツールで出来なくはない、か?」

「あの……無理そうなら別にいいよ?」


「ん? ん~そうだな。まぁ別にコピーしたものをどう弄ろうが、構わないよ」

「本当!? じゃあお願い出来る?」

「あぁ、少し待っててくれ」

「うん!」


 彼は言われた通りにオレンジ色の機体を複製し、他とは少し離れた台座にそれを設置する。


「ありがとう!!」


 ケイはその様子を目を輝かせながらジッと眺めており、準備が出来たのだと分かったと同時に例を言うとその機体の方へと駆け出していった。


「あ、おい! やり方分かるのか?」

「あ、そっか……ごめんなんだけど、やり方だけ教えてもらってもいいかな?」

「あぁ、えっとだな……」


 装甲の厚さや色から背中の飛翔滑空翼(フロートパック)による飛行速度まで自由に調整を行うことの出来る編集モード。


 表示されたそれは見やすいように簡易化されているとはいえ、初見のケイにとってはそれは良くわからない数字と英語の文字列が並んだもの。


 とはいえ彼からの説明もあってなんとなくではあるが、全く分からないということは無くなった。


 カチャカチャ……っと表示されたキーボードを弄りつつ弄るなと言われていた文字列と数字以外の表記をなんとなくの感覚で弄ってひとまず完成、保存する。


「出来た!」

「早っ……いや、そんなはずないだろ? 俺はこの一年、一からプログラムを勉強して機体(これ)を組んだってのに……」


 数時間後、喜びの声をあげたケイに対し、彼は驚くものの保存されたデータの確認を始める。


「見たところ、エラーは出ていないみたいだけど……」

「ねぇ、使ってみてもいい?」

「そう、だな……試してみるか」

「やった!」


 表示されている数値を見て何かを納得したように頷くと彼はクリエイティブ用の室内に置かれているパソコンモニターへと触れるとステージを切り替える。


 そこは点と線でのみ構成された抽象的な3Dのような世界感。

 ケイらのステータスが視認出来るように表示されており、それが完全にシミュレーション用のルームであることが一目で分かる。

 早速、とケイは喜んで完成した機体を身に付け、彼も同様に白い装甲のGWを選択する。


「さて、それじゃ……」


 彼は視界にモニターを表示させると対戦モードを選択、その同意を得るためにケイの側へとモニターを弾き、渡す。


「うん! やろっか」


 ケイは腰に取り付けられた一本の日本刀を、

 彼は背に取り付けられた一本の黒い直剣を、

 それぞれの武器をゆっくりと引き抜くとカウントダウンの中、指定の位置へと移動する。

 

『試合、開始!』


 機械音声による合図とほぼ同じタイミングで互いの刃が交差した。

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