024『試験の終わり、敗北』
『今です!』
大通りへと誘導された敵の大群を引き連れた防人は宏樹からの合図に反応し、道を外れると植崎らによる大量のミサイルがビルを破壊。
倒壊したそれによって大群は押し潰されていく。
視界上の簡易地図に映る赤い点が一斉に消えていくのを確認しつつ、敵の大半を巻き込むことに成功したことを防人は確信。
「よし、これで後は……」
防人は腰の小太刀を引き抜くと難を逃れた残党の処理を開始する。
◇
『試合終了!!』
リーダーである宏樹からの指示に従い、行動を行っているため、敵の行動パターンの変化にも即座に対応。
特に問題が起こることもなく、時間がきたことを告げるブザーが廃墟の街に鳴り響き、動きを止めたガーディアンたちは光の粒子になって消えていった。
『お、おわった?』
『やった。やったよ!』
『やりとげたぜ!』
みんなの喜びの声を聞き、防人も自然に頬の筋肉が緩んでしまう。
しかしそんな喜びの気持ちもすぐに崩れる。
『皆さんお疲れ様でした。これで全ての試験が終わり…ザッザザッザーーー』
――ん?
流れている放送にだんだんと大きくノイズが入り、最後にはプツリと消える。
「一体……何が?……誰か…聞こえ…聞こえますか?」
チームの仲間に連絡を取ろうと試みるが、どうやら通信もできないようだ。
「何かしらのバグ?」
――いや、そんなことは無いだろう。
仮にも試験を名乗ってるようなものにこんなバグが残っていたら色々と危険だ。
人によっては苦情を言ってくる人だっているだろうし、最悪、賠償金を払うはめになる可能性もある。
まぁ確信を持っているわけじゃないからなんとも言えないけど、可能性は低いと思う。
とするとこれは元々からプログラムされているもの。と考えるのが普通だろうけれど……
「まだ、何かあるの?」
防人は警戒心を強め、握りしめた小太刀をしっかりと構え、周囲へと意識を向ける。
仲間のいたはずの位置を視認するもその姿は見られない。
敵もいない。
地図は開けられるようだけれど、やはり仲間を印す緑色の雫マークは無く、自分以外にはアイコンらしきものは何も映っていなかった。
『なんすか? うわわっ! ――ザーーー!』
しばらくして通信機越しの悲鳴が聞こえ、爆発音とともにスピーカーからはノイズのみが流れるようになる。
遠くの方の爆発、そして大きな音を立てて崩れるビル。
これは考えるまでもなく明らかに攻撃を受けている。
そんなことが起こっているにもかかわらず視界の地図では中央を示す自身のみが表示されているだけで他には何も映ってはいない。
「――っ!!」
鳴り響く警告音。つまりは危機が迫っているという合図。
防人は咄嗟にその場から離れると近場の建物に身を隠すようにしながら警告の指す方へ向き、目を細めてじっと見つめる。
上空に現れたのは一体の白い色をしたGW。
武装はパターンはαと似ているもののベースであるGWの形状が異なっている。
けれど防人はそれに見覚えがあった。
学校の授業の時の写真で見たのか、テレビの番組で流れていたものを見たのか、それは分からないけれど。
――夢で見たあれに似ている?
例えるならそう、最近夢で見た襲ってきたあのGWだろうか。
似ているといっても夢なので正直なところ曖昧なところも多いので、結局は正しいかどうかは定かではない。
見てわかるのは顔の辺りがはっきり確認できて明らかに人が動かしているというのがわかる程度か。
「お前は……誰だ?」
防人は上空の敵? に警戒心を強く持ったまま白いGWに通信を繋げ、問う。
「お前は誰だ! もし、今の状況について……これが試験の続きだって言うのなら答えて――」
――ニッ
「――っ!?」
上空の彼は言葉を発することなく、微笑むと手に握るライフルをこちらに向けてくる。
――こいつ!
防人は慌てて回避に専念し、目の前に迫ってくる光線を出来るだけ少ない動きで避けながら浮かび上がると白いGWへと近づいていき、手にしている刀を振るう。
「――ガッ!」
しかし、彼の刀は敵に当たることなく、空を切り、その瞬間に後ろへと回り込んだ敵に蹴られ、目の前にあるビルに衝突する。
同時にHPバーが一割ほど削れる。
「――ぃ!」
痛かった。
ビルの壁を破壊した頭も粉々に砕けそうだ。
――シミュレーターの時とは感覚がまるで違う。
さっきの戦闘でほとんどダメージを受けなかったから気付かなかったけど、まさかこんなに。
「……でも」
――これはこの世界で頭をぶつけたと言うことを痛覚として知らしているだけで、本当の僕自身には何もダメージは入っていない。
すんごい痛いけど。
「でも、問題ない!」
防人は改めて白いGWを敵であると認識し、いまだにズキズキと疼く痛みを訴える頭に耐えながら、腕のワイヤーアンカーを敵へと撃ち込む。
しかし、敵は余裕そうにそれを避け、そしてそのワイヤーが垂れ下がる前に奴は掴む。
「――っ!?」
軽く引いたように見えた。けれど、圧倒的な力で身体は一瞬のうちに浮き上がり、おかしな体勢のままビルの中から引き上げられる。
「ええぃ!」
体の各所に設置された推進機を操り、防人は素早く空中で体勢を立て直しつつも片方の小太刀を鞘にしまい、装甲内のダガーを掴むと敵へと向かって思いっきり投げつける。
またはずれ。
こちらが攻撃を仕掛ける頃にはそこにはすでに奴は一瞬にして後ろに回り込んでいた。
「グッ――くそっ!」
身を翻し、すぐさま反撃へと移ろうと構えるも視線が後方へと向くその頃には既に敵はこちらへとライフルの銃口を構えていた。
――速すぎる。音速は出てるんじゃ?
抵抗のため、素早くダガーを投擲し、攻撃を遅らせようとするも敵の動きはいままでの敵の比ではなく、気がつけば敵の銃口は防人の胸部数センチメートル先までに迫っていた。
――遅い、間に合わない、手遅れ。
そんな言葉が頭をよぎった頃にライフルの銃口は光り、胸は既に撃ち抜かれていた。
「う゛っ」
痛くはない。
ライフルからの光線で穴を開けられた胸からは痛みよりもとてつもない熱さが全身を襲う。
空中での静止を維持できなくなった彼の身体は力なくの砂ぼこりとガラス片を巻き上げながら地面へと落ちる。
視界が赤く黒くなっていく。
現実ならば死期が迫っているといえるだろう。
しかし全身を襲うこの灼熱感でのたうち回る前にその意識は既に飛んていってしまっていた。




