022『最終試験』
防人は植崎とともに試験の教室へと戻ると、元の席へ腰掛け、再びフルダイブ式VR用のヘッドセットを頭へと取り付ける。
「ふぅ~~」
――なんていうか、アリスさんのせいじゃないけど、どっと疲れた。やっぱり初対面ってわけじゃないけど話なれてない人で、しかも女の人と話すのって本当に疲れる。
それもこれも植崎のやつが、宏樹さんとシミュレーションルームに入るからだ。
まぁアリスさんと話すのは確かに大変だったけど、つまらないどころかむしろ楽しかった方ではあるんだけど……やっぱり神経使うから疲れる。
『皆様、お待たせ致しました。それではこれより次の試験であるチーム戦を執り行いたいと思います』
――まぁ、中に入ってしまえばそんな疲れはすぐに解消されるのだけれど。
いや、この疲れは精神的なところから来てるから無理なのか? ま、とにかく準備しないと。
防人は上半身の体重を机へと預けながらヘッドセットのスピーカーから流れてくる透き通った声に意識を向ける。
『今回、チーム戦のためリーダーである人が中に入った時、教えられますのでしっかりと確認してください。それではいきます!』
短いカウントダウンの後、防人を含め、受験生たちは再び電脳の世界へと足を踏み入れる。
短いロード画面を抜けてたどり着いたそこは相も変わらずの格納庫。
とはいえ今回はチーム戦ということもあってか今までのものと比べてもそこはかなり広い。
格納庫内の中央辺りに作られている広い場所には今回のチーム戦におけるメンバーであろう男女合わせて9人がすでに集まっていた。
「お、最後の人が来たみたいっすね」
「みたいだな」
「君ーこっちだよー!」
既にGWが展開されているため、みんなの顔はよく分からないものの防人に気づいたチームのメンバーの中には彼へと向けて手を振るものもいた。
顔も見えないこともそうだが、向こう側から寄り添って来てくれるお陰で防人は多少は安心した気持ちでその集まりの中に混ざっていく。
「それじゃあまずは自己紹介といきましょうか」
中央のメンバー表を確認したところリーダー役を務めることになったらしい宏樹は皆の注目を浴びるなか、メンバーの皆に挨拶を行っていくよう促す。
「では、まずはリーダーの私から、名前は尾形 宏樹……今試験において選択した武装パターンはバランスタイプのαです。本日はよろしくお願いいたします」
リーダーである宏樹から始まり、中央のモニターを中心に時計回りに挨拶を進めていく。
◇
「よし、今のが最後だな」
名前、使用している武装、そして一言挨拶。
チーム10名、全員がそれを終え、宏樹は小さく頷くとモニターに触れ、メンバー同士の挨拶を終えたことを試験関係者へと報告する。
当然ながら他のチームも防人らと同じように挨拶を行っているためすぐには始まることなく、始まったのはしばらくの雑談タイム。
とはいえ、挨拶をするだけなので雑談タイムもそんなに長くなく、防人は結局話の輪の中に入る前にブザーが鳴り、放送が流れ始めた。
『これより試験を始めます。今回は皆さんの団結力や即時判断力が試されます。それでは頑張ってください』
放送に対応するように中心の装置にはホログラムが浮かび上がる。
『今回、あなた方が相手にするのは先程戦ったガーディアンの強化版にあたるGW≪ガーディアン改≫です。武装は前回と同じものですが、各ステータスが異なりますので今までのようにいくと油断しないようチーム一丸となって試験の突破を心がけてください』
◇
≪最終試験内容≫
制限時間一杯まで一人でも多く生き残れ。
≪制限時間≫
30分 (1800秒)
≪勝利条件≫
時間いっぱいまで生き残る。
≪敗北条件≫
チームの全滅。
≪OK≫
◇
各々の目の前に表示された小さなモニターの確認を終えると先程の試験やシミュレーションルームでの戦闘の際と同じように視界には簡易的な機体の各種状態と武装の小画像、制限時間などが浮かびあがる。
そして防人たちの部屋にある一際大きな鉄の扉が音を立てて開かれる。
「いきましょうか」
宏樹が先頭に立ち、その扉の先へ。
「頑張ろうぜ」
「うん」
軽く背中を叩かれ、植崎の立てた親指に対して防人は小さく頷きつつ彼の後を追うように扉を潜る。
光に包まれ、抜けたその先は崩壊した街であった。
ガラスが割れ、崩れた高層ビルや穴の空いた巨大なドーム。整備の行き届いていないであろう道路は割れたガラスが散乱しており所々、穴が空いてしまっている。
チームの最後の一人がこの世界へと足を踏み入れるとと同時に始まる10秒のカウントダウン。
「さて、廃墟ステージは見たところ視界見通しも悪いですが、反面身を隠すのには最適な場所です。正直なところ私は指揮をしたことは一度もないので細かな問題には自己判断に任せてしまうことになってしまうと思いますが、一応は作戦を話させてもらいますね」
カウントダウンの中、宏樹は皆の方へと振り替えり、話を始める。
「ではまず、装備が狙撃タイプであるアリス、ヒルダは身を潜めつつ狙撃をお願いします」
「了解」
「わかったよ」
「重火力タイプの植崎と暁はビルを崩して巻き込むといった多数撃破に心掛けてもらえますか?」
「おう!」
「ええ!」
「バランスタイプ、近接タイプは敵を倒しつつもふたつのタイプの射程範囲に誘き寄せる」
「は、はい」
「わかったすよー」
「わかりました」
簡単な指示ではあるもののチームの皆はそれに従うように頷き、各々の武器を手に構える。
「よし、それでは」
「……やるぜぇ!!」
「「「お、おぉ~……」」」
植崎の張り上げた声と同時にカウントダウンがゼロになり、試験がスタートした。
――なんでお前が言うんだよ……。
虚を突かれた皆のバラバラの返答に防人は小さくため息をついた。




