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021『訓練終了、小休止』

 アリスとのいつの間にかの雑談。

 防人の身に付けている腕時計や他愛のない話を語っているとシミュレーションを終え、部屋から出てきた植崎たちと合流する。


「よう、ケー。何話してんだ?」

「軽い雑談だよ。それよりも」


 防人は近付いてきた植崎の手を引き、二人から少し距離を取るとヒソヒソと声を潜め、話を始める。


( お前なんで宏樹さんとシュミレーターに入ってんだ? )

( だってよ武装パターンの相性的に良いからとかなんとか言うもんだから )

( だから? )

( だから……まぁ、従った )

( いや、なんで!? お陰でこっちは、今は慣れたからいいけど、なんか気まずい感じでシュミレーターに行くことになったんだからね )

( 慣れたならいいじゃあねーか )

( いや、まぁそりゃあそうだけどさ……こう、なんて言うか )


「何を話しているの?」


 防人は自身の中に芽生えている感情を言葉として表せない言語能力の低さを痛感しながらも話していると後ろからアリスが声をかけてくる。


「あぁ、えっと……特に何という話しはしてませんよ」

「そう。なら、いいけど、じゃあ宏樹くん。そっちはとうだった?」

「ああ、まぁ一応やるだけのことはやったと言っておきますよ。途中から教えっぱなしで……少し骨が折れましたがね」

「そう、じゃあこの後の試験には期待できるものが見られそうだね」


 二人が微笑み頷くのに対し、防人は疑問符を頭に浮かべながら二人に問う。


「あの、ちょっと待って下さい。えっと……この後の試験? 期待? それって一体なんなんです? それは、えっとまだ別にこの後の試験のこととかの発表されて無いのに特訓なんて……有難い事ですけど……それってあなたたちのすることじゃあないでしょう?」

「あ? ああ、それは……まぁ、なんといいますか」

「ふふ、それじゃあ、それについてはボクから話させてもらうよ」


 言葉を濁す宏樹に代わり、アリスが立ち上がって続ける。


「アリス、それは――」

「大丈夫、まかせて」


 焦っているようにも見える宏樹に対して笑みを見せるアリス。


「えっと、慧クンそれはね。次の試験がチーム戦で確実に同じチームになるって思ったからなんだよ」

「え? そんなことわかるものなんですか? まぁ確かにチームメンバーはさっきの試験結果からバランスよく振り分けられるんでしょうけど……それは相手の順位と自分たちからの順位から憶測したもの、ですよね?」

「そうだね。そうなるかな」

「なら、その順位は……その、僕たちみたいに別のパートナーであそこの部屋に入れば受験番号が分かるから知ることが出来るかもですけど、順位表にも名前や顔は貼り出されていませんでしたし……一体どこで僕たちの順位を知ったのです?」

「あっえっと……それは」


 アリスは少し黙り、考えるような素振りを見せ、それから申し訳なさそうに口を開く。


「それはね、食堂で君たちが話しているのを偶然知ってしまったからなんだ」

「え? ……あ、そうなんですか?」


――確かに僕は最下位という言葉を口に出してしまった……気はする。少し恥ずかしいし、アリスさんたち以外の人に聞かれていなければいいけれど……。


「それでまぁ迷惑だとは思ったのだけれど、少し世話を焼いてしまったと言うわけなんだ」

「それは、その……うれしい限りです」


――なんだけど、どうも役に立つのかとか足手まといにならないかだとかを確認するために試されていたようにしか思えない。っていうのは考えすぎかな?


 いや、例え偽善だとしても行動に移してくれて

実際にこうして話して、助けてくれた事に感謝しないのは流石にいけないよね。


 うん、あんまり悪いように捉えてしまわないようにしないと。


「どうしたの? なんていうか、怖い顔をしているけれど」

「え? あぁいえ、えっと、その、大丈夫です。問題は無いです」


 手を振りながら慌てて誤魔化すように言った防人の言葉、そしてその表情がどこか可笑しかったようでアリスは少し吹き出すようにして「そうなんだ」と笑顔で言う。


「――ん?」


 同時にチャイムが鳴り、放送が流れ始める。


『ぁーぁー……皆さんお待たせいたしました。そろそろ次の試験の準備が完了しますので受験生の皆さんは各教室へ戻り、席についてください』


 放送を聞き、他にも雑談を交わしていた受験生たちもぞろぞろと移動を始め、順に部屋を出ていく。


「それじゃあそろそろ行こうか」

「……あの、色々とありがとうございました」

「ううん気にしないで。好きでやったことだから」

「……でも」

「そうですよ。例を言うのであれば、言葉ではなく次の試験で頑張ってください。その方が我々としてもうれしいですからね」

「はぁ……分かりました」

「うん、お互い頑張ろうね」

「はい!」


 少し人が減るのを待ってから行こうと考えていた防人は二人が出ていくのを見送るように声をかけ、短く話す。

 携帯機を弄り、遊んでいた植崎は二人が出ていくのに気付き立ち上がるもののそれを防人は手を掴み阻止をする。


「え? あーちょっと待ってくれよ。……俺様まだ何にも話せて無いってのに」

携帯機(ゲーム)で遊んでたくせによく言う……」

「いや、だってよぉ何話せばいいか分かんねぇし……」

「へぇ、珍しいいつもならガツガツいくのに」

「そうか? そんなつもりはねぇんだけどな」

「それ、本気で言ってる? ……まぁいいけどさ、告白とかするんだったらもうちょっとうまくやりなよ?」

「え、あぁいや別にそういうつもりはねぇんだけどな」

「ふ~ん」

「な、なんだよ?」

「いやぁ別に、いつもだったら『好きです付き合ってください』って脇目も振らずに言って玉砕するのに珍しいと思ってねぇ」

「そうだったか?」

「そうだよ……っとそろそろ行かないとマズイかな」


 最後の一人が出ていくのを視線で追い、防人は立ち上がると植崎とともに教室へと向かった。

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