016『中間結果』
「うっ……んー!」
電脳の世界から現実の世界へと戻ってきた防人は起き上がるとグッと腕を上げて体を伸ばす。
今朝よりも少し人数の減っているその教室で防人は机角に一つだけ表示されたメニューから“マップ”のアイコンを開き、食堂の位置を確認する。
まさか、昼食がタダで提供されるとは……。
今朝の騒動で弁当を作れなかった防人にとってこれはいい情報だった。
「……あの二人は無事に合格出来たのかな?」
防人は小さな声で呟きながら試験中に出会った二人のことを思い出す。そして恥ずかしさに彼の顔はとても熱くなっていった。
――あぁっ! 全くなんであんなカッコつけてんのかなんなのかワケわかんないことをベラベラと言ってるんだよ。僕の口はぁ! お互い顔が見えなかったからかな? 誰が言ってるのか分かんないからって安心感みたいなのでもあったのかなぁ? ゲームみたいに、いや実際ゲームだったんだけど……ゲームでキャラクター同士で話してるみたいな感覚でまるで自分だけど自分じゃないみたいな……よく分かんないけど、もしかしたらそんな感じだったのかな?
「……ん?」
防人の視界の先、試験会場の地図に表示された教室や食堂の位置などを示す各アイコンの中に表示が一つ追加されたことに彼は小さく声を漏らす。
食堂の入り口付近の廊下、そこに位置するところに追加されたそのアイコンに触れると『第一試験結果』と小さく名前が表示される。
「あー腹へったなぁ~」「あ、君も合格できたんだね」「あたりまえじゃん」「さぁ、早く行く――あぁ待ってくださいっす~」
防人が確認している間にも合格した他の受験生たちがガヤガヤ話ながら食堂へと向かっていき、賑やかだった教室は弁当を持参してきていた生徒が弁当を準備する音のみが聞こえてくる。
そんな中で防人も席を立つとゆっくりと食堂へ向かった。
食堂へと続く廊下には大きな掲示板が取り付けられており、そこには一次試験結果の表が映し出されていた。
防人はその前で立ち止まると列に並ぶついでに上から順に確認を始める。
01位 00018&00001 総撃墜数 4,076機
02位 00035&00021 総撃墜数 2,005機
03位 00077&00008 総撃墜数 1,957機
・・・
10位 00256&00614 総撃墜数 1,857機
・・・
一位と二位。ダブルスコアの差をつけての順位に驚愕しつつも色々と時間をかけてしまったので流石にまだかと納得しつつ視線を移していく。
21位 00545&00710 総撃墜数 1,779機
21位 00542&00356 総撃墜数 1,779機
23位 00624&00795 総撃墜数 1,768機
・・・
同率21位。次々に敵を倒してスコアを稼ぐ中でなかなか見られない結果に少し驚きつつも妙な歓心を感じる。
「あ、あれ?ない」
そして今だ自分の番号が来ないことに焦りのようなものを感じ、もうすぐ出てくるだろうと信じて視線を動かしていく。
51位 00794&00554 総撃墜数 1,586機
52位 00723&00234 総撃墜数 1,472機
53位 00152&00623 総撃墜数 1,469機
・・・
「…………。」
まだ自分の番号は出てこない。
あれだけ倒したというのにと愚痴をこぼし、落胆して言葉を失う。
そして防人はまさか、と二列目に表示された順位へ目線を移し、素早く確認をしていく。
・・・
97位 00143&00764 総撃墜数 1,131機
98位 00098&00036 総撃墜数 1,008機
99位 00082&00698 総撃墜数 993機
100位 00617&00638 総撃墜数 989機
ようやく見つけた自分の番号。
低いとは思ってはいたけれど、まさかの最下位か……。
初めのゴタゴタやかっこつけてうだうだ言ってなければ、こうはなっていなかったかもしれないけれどせめて半分くらいには達していて欲しかった。
「はは……」
笑えないけど……過ぎた結果を変えることは出来ない。もう、これは笑うしかない……。
「ん?」
大きなため息をついて落ち込み、視線を下げたその際に防人は気になる1文を発見する。
※このスコアに納得がいかない人たちのために練習用のシュミレーターを設けました。
(場所は机の地図参照)
シュミレーター、つまりは先程のようなゲームが個人で遊べる筐体が置かれているということになる。
これは素晴らしい朗報であった。
防人は昼食をとったら植崎誘って行ってみるか、と心に決めながら消化の良いうどんを選び、食券をカウンターで差し出す。
少しして奥から運ばれてきた現物を防人は受けとると大きなどんぶりを手にもってがつがつと食べている植崎の座る席を発見した。
「おう慧、やっと来たか……うまいぞ! ここの親子丼‼」
「あ、そうなの? ……ってそんなことよりもお前さ、入り口んとこに表示されてた順位表見たか?」
「ん? いや、まだ見てないが……それがどうかしたのか?」
植崎はどんぶりを傾けながら飲んでいるかのようにご飯をかっこんでいる。
この速度でまだ食べているというのはどうもおかしいのでもしかしたら二杯目とかなのかもしれない。
「どうしたもこうしたもないよ。僕らの順位が100――最下位なんだぞ?」
「ぅーん…ふぉれで?……」
口の中にご飯を含みながらクチャクチャと音を立てながら特に気にしてないような顔で返事をする。
「それでって――まぁいいや。それで、その表に書いてあったことなんだが……どうも訓練用のシュミレーターがあるみたいなんだよ」
「ほぉ?」
「このままじゃ最下位のまま入学することになって……みんなから蔑まされた目で見られることになってしまう」
「はんがえふぎしゃないか?」
「はんが……何言ってんだ? 口の中のもの呑み込んでから喋れよ」
「ンク……考えすぎじゃないか?」
「いやいやそんなことないって、いいか? 学内での格差を作り出すのは色んな物がある。成績や部活動や人付き合いの他にも恋愛・性愛経験や容姿にファッションセンスなんてものも含まれる。部活動自分で決められるし、趣味なんかも今や色んな物があるから問題ない。なら格差を作り出すのは他のものだ。人付き合いの悪さは中学のとき酷いものだってのは実証済みだ。なら同時に恋愛経験なんかも皆無だ。容姿だって俺もお前も月並みだ」
防人が早口でそこまで言い並べた時、植崎は口に含んでいたご飯を飲み込み、口を開ける。
「容姿って見た目のことだろ?ならお前は十分に人気だったじゃねぇか」
「なにがだ?」
「ほら、中学の学祭ん時に劇だったかなんかで女の格好してよ。人気だったじゃねぇか」
「やめろ、それは言うな。あの時ほどじゃんけんに弱い自分をどれだけ責めたものか……」
「でもノリノリだったじゃねぇか」
「いや、あれは吹っ切れて半分やけくそだっただけだから」
「でも化粧してマジで女なんじゃねぇかって思ったぜ」
「体毛が薄いってのと部活も体育館で日に当たってなくて肌が白かったってだけだから」
そういやあの時は湊も嬉しそうにしてたなぁ。
あぁ、くそっ忘れかけていたところだったってのに……。
湊のあの時の顔としばらくそのネタでいじられた事を思いだし頭を抱える防人。
彼はフルフルと首を軽く振って気持ちを切り替えると全く気にしてない様子の植崎へ先程の話を聞きかえそうと口を開いたところで鞄を膝の上に置いた植崎が彼の言葉を遮る形で聞いてくる。
「ところでよ」
「ん?」
「お前は飯を食わないのか?」
「ん? あぁ……そうだな……」
調子が狂う。
防人は大きく息を吐いてから下げていた顔を上げ、その手に箸を握りしめる。
「んじゃぁま、詳しくはご飯を食べてからにするか」
「おう、そんじゃ俺様は少し待ってるぜ!」
そう言ってどんぶりを机の端へと退けた植崎はポケットからゲーム機を取り出して電源を入れる。
「……お前試験だってのにゲームなんか持ってきてたのか?」
一旦、先程の話を頭の片隅までに追いやった防人はそれを見ながらうどんを啜ると、呆れた様子で聞く。
「おう、こういう時、暇潰しに遊べるようにと思ってな」
「……それで、中身はなんなんだ?」
「『ブラックレパード』だ!」
「あぁ、あのヤンキーゲームか……プレイするのは構わんが音を出すのと繁華街エリアのミニゲームだけは絶対にするなよ?」
この前バス内で大音量でゲーム内の女性との楽しそうな会話が流れたときは側にいるこっちが恥ずかしかったからな。
まぁそれ以前にこんなところでゲームをやるという……いや、別に今じゃ携帯のアプリでゲームしてるやつなんて相当数いるから別にゲーム自体はおかしくはないか。
でもこいつみたいに本体とソフトを買ってやってるやつは少ない、というかもはや絶滅危惧に分類されるだろうな。
「それぐらい分かってるぜ!」
彼は相変わらず親指をしっかりと立てながら言う。
「……ならいい」
防人は頷き、食事を手早く終えると二人でシミュレーターのあるという部屋に向かった。




