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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第5章 学園之行事(ヘイムダルズ・イベント)
188/253

178『色んなところで緊急事態』


 ヘイムダル学園が所有しているオリジナルの結晶炉(リアクター)は現在、7つ。



・学園施設等に対して使用しているものが2つ。

・研究のため、利用しているものが2つ。

・ATやアリス、ヒロ達、専用機の動力として3つ。



 そして、そのうちの2つ。

 各国を転々とし、時には国を脅かすとされるプラネットシリーズである(ルナ)太陽(アポロン)である。

 『惑星』の名を冠する系列でありながら、場違い感のある2つの機体(ギア)もまた、リアクターと同じくATの親が創り出した傑作である。


 この2つは研究用に回していたものであり、普段は研究施設の保管庫の中でもより厳重な場所へ保管されているものであった。

 が、今回の出来事に際してATの創り出した劣化版のリアクターではなく、(ルナ)のものを(ケイ)の光牙へ換装したのは英断であったと思っている。


 心配事があるとすれば、ルナのリアクターがまともに働いてくれるかどうかであったが、その点に関しては問題ないと言えるだろう。

 なにせ防人慧は過去、ルナを操っている。

 まぁ、矢神が半ば強引に搭乗させ、起動させたことでシステムにエラーを出し、暴走状態に陥っていたので正確には操られていたというべきかもしれない。


 とはいえ、ルナのリアクターは防人慧に(こた)えている。

 一度、例えシステムによる強制があったとしても普通は応えるものではなく、実際同じようにATの研究仲間とともに再現を行った場合、ウンともスンとも言わなかった。


(ヴァルは……眠ったか?)


 先程から姿が見えず静かなことに、ふとあの小五月蠅い幼女の姿を思い出すが、残念ながらいちいちそれを確かめておく時間的余裕はない。

 今のところあれから連絡もないので緊急事態には陥ってないと思いたいが……。


 ATは自身の専用機『原始鳥(フェニックス)』の動作確認作業を終え、身に纏う装甲をそのまま待機状態(スリープモード)へ変化させる。

 拡散する光は収束し、その手には軍用納品モデルの銀の自動拳銃(ベレッタ)が握られる。


「お疲れ様でした」


 専用のホルスターに収め、作業員のリーダーから缶コーヒーを受け取る。

 仕事後一服というのは確かに乙なもので心安らぐものであるが、やはりそのような余裕は今のATにはなかった。

 なにせ(ケイ)を戦わせているのだ。

 余裕なぞ、あるはずもない。


「あぁ、すまないが後処理は任せる」

「はっ、どうかお気をつけて」


 ATは作業員からの返事を背中で受けながら、急ぎ足で部屋を後にする。

 そして、すぐ隣。扉を潜り、出撃路(カタパルト)のあるデッキへと足を踏み入れると丁度、何者かが出撃をし、出ていくところであった。


(今のは……)



◇◇◇



「ちょっとぉ、どういうことですの!?」


 防人達が戦闘を始める少し前。

 のど自慢大会会場にて、愛洲めだかが声を荒げる。


『急用が出来ました。ごめんなさい』


 風紀委員メンバーに届いた防人からの一通のメール。

 それを見て、めだか達は動揺を見せる。


『ありがとうございました。次はエントリーNo.6番! 恩負(おんぷ)さんです!』


 聞こえてくる放送と拍手。

 風紀委員会の順番は10番目。

 一曲は約2分で、入退場や曲紹介、楽器の最終調整(演奏者がいない場合、CD音源も可能)などを含めて大体1人10分前後。

 つまり許されている時間は40分前後。

 大会の順番にはまだ少し余裕はあるが、決して短くはない。


「ん〜メールを見るに大会には参加できないって事だよね」

「それは分かりますわよ。問題は何故参加できないのかってところですわ!」


 分かりきったことを言わないで欲しい。

 と、竜華の発言に苛立ちをめだかは露わにする。

 学園のアイドルという立場上、それは不味い行動かもしれないが、幸か不幸か人目の多くは会場の舞台へ向けられている。

 加えて言うなれば、風紀委員の面々は顔を隠していた事もその辺りがプラスに働いているのだろう。


 題して『男装、仮面舞踏会』

 これは風紀委員でないリリスを参加させるための作戦であり、こうすることで誰が誰であるのかを分からなくしてしまおうと言うわけである。(因みに防人そしてリリスには主役(センター)役としてドレスが用意されている)

 なんて、それっぽいことを言っているが、その本音は風紀委員メンバーに衣装を着せたかった。というめだかの言い訳でしかない。


 残念ながら、こういう場所では、いやむしろこういう場所であるからこそ迷惑極まりない野次馬根性で突っかかってくる輩はどうしても一定数いるものだ。

 舞台裏に顔を出すような野暮天はいない。

 それはつまり、それだけキチンと警備係の生徒たちが真面目に働いていると言えるだろう。


 それに風紀委員が気付けば、警備係の生徒たちへの報酬に上乗せを学園へ申請する事もあったかもしれないが、残念ながら今は緊急事態である。

 周りに気を配る余裕はない。


「ん〜そういわれもなぁ……何か聞いてる?」


 竜華は側にいる紅葉や千冬に話を降るが、残念ながら彼女たちは知らないと首を振る。

 これが、学園の生徒へ向けた正式な依頼として手順を踏んでいるものであったならば、風紀委員会にも話が来ていてもおかしくは無かったのだろうが、残念ながら防人は緊急出撃命令(スクランブル)を受け、向かうこととなったのでそのへんの流れが省略されてしまっていたのである。

 例え、正式な依頼として手順を踏んでいるものだとしてもATからの依頼として用意されているものであるため、これまでのように誤魔化されたりする可能性の方が高いと言えるが。


「そっか困ったなぁ……」


 どうしたものか。

 悩む竜華。

 悩む風紀委員会。

 

 めだかの送った返信メールに連絡はなく、電話にも出る様子はない。

 これは、防人が他のことに気を取られたりしてしまわないように生徒手帳(スマートフォン)をサイレントモードにしてしまっていたからであり、残念ながら既に出撃してしまっている防人が気付くことは出来ない。(貴重品は既にロッカーの中である)

 これでは呼び止めることも、事情を聞くことも出来はしない。


(どうして……)


 どうしてまた、黙って何処かに言ってしまうのだ、と。

 あの時、急に消えていなくなったあの時。

 愛洲めだかは……悲しかった。ただただ悲しかった。


 もちろん風紀委員会の面々も同じように悲しかったのだろうが、私に分かるのは私の心のみである。

 だから……私は風紀委員の皆んなよりも悲しんだ。

 あの時の、あの時のように心に穴が開いたような感覚は久しぶりだった。


 何にも手につかない無気力感。

 何も考えられない。考えたくないと思いながらも何処か、追い詰められたような切迫感。

 気付けば、涙を流していたこともあった。


 あれは、恐ろしい。

 あれはもう、味わいたくない。

 昔のような……母が凌辱され、弟が弱っていくのをただ静かに、獄中で怯えて過ごすことしか出来なかったあの時の……トラウマにも似た感覚は……もう嫌だ。


「うっぇっぇぇ……」


 力が抜け、膝から崩れる。

 ジンと膝が痛みが響くが、今のめだかにそれを感じ取る余裕はない。


「うっぷ……」


 喉元にまで上がりかけた胃液を無理矢理飲み込む。

 吐いて……なるものですか、せっかくの衣装を汚すわけには……みんなで練習だってしてきたんですもの。

 このような(わたくし)事で中止になんてさせてたまるものですか。


「めだか様!?」

「めだかちゃん!?」


 必死に嗚咽に堪えるめだか。

 余計な心配をかけたくはなかったが、流石に難しいようだ。

 側に立っていた三春とオリジアが介抱するために寄ってくるのをみて、めだかは笑顔を浮かべる。

 その笑顔は引き攣っていたが、幸い仮面をつけていたこと、舞台裏が薄暗い事も相まってそこまでは気付かれなかったようだ。


「大丈夫、大丈夫ですわ……」


 く、苦しい、酸素が足りません。酸素が……。

 落ち着きなさい、ゆっくりと……そう、落ち着くの。

 早く、立ち上がってなんでもないことを言わなくちゃ……。


「めだかちゃん、水飲めそう?」

「汗、お拭きしますね」


 目の前に差し出され、額を拭うハンカチにはたと我に返ると内ポケットに手を入れ、ハンカチを取り出す。

 薄汚れたハンカチ。

 事情を知らぬものが見れば、捨ててしまうであろうほど、汚れたそれは、透明なビニールで梱包され、保管されている。


「……………………。」


 心配する二人を余所にする。視界からハンカチ以外のものがボヤけ消えていく。

 めだかは静かに、汚れたハンカチを抱きしめるようにしながら、あの時の事を思い出す。


 あの時、獄中で縮こまっていた私が助けられた時のことを。

 薄汚れていた自分を拭いてくれた時の事を。




「もう、大丈夫だよ」




 と、優しくあの温かい手を差し伸べてくれた時の事を。


「…………ふぅ~〜〜」


 だいじょうぶ……大丈夫。と頭の中で反芻する。

 何度も何度も繰り返して声を聞く。

 あの時の温もりを、必死そうに抱きかかえてくれたことを。


 そして、呼吸が問題なく行えていることにめだかは気づき、ゆっくりと改めて立ち上がる。

 煩かった心臓が落ち着きを取り戻し、焦点が定まらなかった視界も良好。改めて大丈夫そうであると安堵する。


「大丈夫ですわ」


 怪訝されるような態度は見せず、めだかはグッと胸を張って見せる。

 無理をしているつもりはない。だってもう苦しくないもの。

 でも、やっぱり二人の──彼女たちは心配そうな不安そうな顔を緩めることはない。


 流石に誤魔化されたりはしてくれないらしい。

 かといって説明をして余計な心配をかけさせたくはない。

 これはコチラの問題なのだ。


「「…………。」」

「そ、それよりも! そろそろ説明してもらっても良いんじゃない? 優姫(ゆうひ)さん」


 このままでは良くない流れだ。

 そう思い、ちょうど舞台裏に入ってきた1団へ声を掛ける。

 会長である桐谷優姫を筆頭とした生徒会役員達。

 彼女達も大会に向けて衣装を身にまとい、美しいドレスで着飾っていた。


「あら? 何のことかしら?」


 流石に入って早々に話しかけられたことで話の流れが分からないのは当然のことであり、優姫は首を傾げる。


「防ちゃんのことですわ。知ってるなら話しなさい!」


 力強くめだかは言う。

 そこには現状を誤魔化そうという気持ちが含まれていたが、防人慧に関する情報を少しでも得たいというのも紛れもない本音である。

 どちらも本音であり、嘘偽りはない。


 故に真面目な話であり、少なくとも愛洲めだかにとっては全力である。

 清楚で勤勉、そして真面目な彼女。

 しかし何処かで人を小馬鹿にしたような闇が垣間見えることもある生徒会長。

 自分は、彼女へ今、真正面から向き合っている。


 もちろん前々から納得いかないことに食い下がったりすることはあった。

 だが、それはあくまでも学園の細事であり、本当に危険を感じたら何処かで身を引くつもりでいたところもあったのだ。

 でも、今は引くわけにはいかない!


「本当に、何のことやら……」


 知らないと言う彼女に嘘を言っている様子はない。


「知らないのであれば、貴女が知っているであろう人物に掛け合って頂戴」


 以前、妹であるリリスを救うべく居なくなっていた時のように。

 事情を知っているもの。

 それが先生であるのか、それとも他の誰かであるのかは分からないが、少なくとも優姫がそれに近しい人物と繋がりを持っていることくらいは調べがついている。


「何故? 私が貴女に手を貸す意味がわからない」

「優ちゃん。私からもお願いできないかな?」


「竜華……説明してもらえる?」

「実は……」


 話が読めない。

 少し困った様子で竜華からの助け舟を期待する。

 といっても竜華たちも事情を知っているわけではなかったし、情報が圧倒的に足りていない。

 それでも彼女の説明があったことで防人がいなくなったこと、何故めだかがこうも荒れているのを知ることが出来た。


「なるほど、あの方が……」


 防人慧──ATが気にかけている少年の名である。

 そのかけ具合ときたらわざわざ専用機を与えるくらいだ。

 しかも、光牙(コウガ)だったか……それを与えるためだけに『今年の新入生たちは優秀である。故に試験成績の上位10名には専用機を進呈する』なんて話を半ば無理矢理に認めさせたくらいである。


 さもありなん。

 ならば当然こちらとしても、それなりに彼のことに関しては調べていたし、それなりに彼のことはもし学園内で何かあれば報告できるようにと気にかけていた。

 風紀委員会に入れたのだってそのため。


 2、3日は寝込むことは事前に聞いていたので、あえて各委員会の中で厳しいことを書いて他の生徒が入らないように仕向けたのだ。

 だから……もしこの十数分間に姿を消したのだとして、コチラに一切の情報が入っていないということは学園を通じての正式な依頼などを受けず、なんらかの緊急事態の可能性があるという可能性が高いといえるだろう。


「じゃあ怖気づいたんじゃないの? 私達に勝てないって」


 話を聞き、もう一人の学園のアイドルである『片桐美琴』が小馬鹿にした様子で防人を臆病者であると責める。


「そんなわけないでしょう! 防ちゃんはこの程度で揺らぐほど弱くはありませんもの。きっと何かあるんですのよ!」

「でもいないのは事実でしょ? なら逃げた。私ならそう思うけど?」

「逃げ……いえ、いえ! そんなはずはありませんわ!」


 本当に?

 と、一瞬でも信じかけた自分を恥じ、力強く否定する。


「じゃあさ、無いって言える自身はどこから来んの?」

「それは防ちゃんの性格から──」


「はぁ、性格ぅ? そんなもんいくらでもネジ曲げられるでしょ。目に見えてることばかりが事実じゃないての」

「それは……ですが……防ちゃんに限って……そんな……」


「…………はぁ〜、ならずっとそうしてれば? 言っとくけど、負けた時の言い訳にしないでよ。あぁもしかして最初からそのつもりとか?」

「──っ! い、言わせておけば!!」


 溜まっていく苛立ちが沸点を越える。

 こちらとしてはただでさえ、防人の居場所が分からなくてヤキモキしているというのに、何故そのような言い方をされなくてはならないのか。


「ストップ! ダメだよ。喧嘩しちゃぁ」


 今にも飛び掛かろうとするめだか。

 竜華も危険を直感したのか、二人の間へ割り込むとめだかへ向かい制止を促す。


「あ、貴女は心配じゃぁありませんの?」

「もちろん心配だよ。どこで、何をやってるのか……でもね、だからこそ、こんなところで言い争っている暇はないんじゃないかな」


「ぅ……それは、そうですわね。申し訳ないですわ」

「……ふん」


「美琴、貴女もですよ」

「はぁ、何で私がアイツに──」


「我々は『対等』でなければなりません。向こうが謝罪をしてくれたというのに、こちらからはしない。それではスジが通りませんよ?」

「……わぁったよ。その、悪かったな。怒らすようなこと言って」


 互いに謝罪を終え、竜華はこれで手打ちとばかりに手を叩く。

 

「よし、それじゃあ改めて……優ちゃんは慧くんの居場所に心当たりはないんだね?」

「そうですね。私にはそれらしい連絡はないですし、あるのであれば、既に竜華──貴女には連絡を寄越していると思いますし」


 そこまで言い、優姫は『もしかすると』と思い出した様子で言葉を続ける。


「あくまでも可能性ですが、『学園』側に呼び出されたのかもしれません」

「『学園』に!?」

「そっか……それなら説明がない理由も分からなくもないね」


 優姫の発言にめだか、竜華は反応を示す。

 彩芽や千冬達もなるほどと静かに頷いた。(白石はよくわからない様子で首を傾げ、美琴は興味ないとばかりに爪を見る)


 『学園』とは文字通りこのヘイムダルを治めている者を指し示し、学園内の秩序をまもる生徒会や風紀委員会とは少し異なる系統に位置する者たち。

 ATの元で働く兵士達のことであり、学園の生徒とは少し異なる立場の者たちである。

 そして、時折その『学園』から生徒や先生達へ向けて直接命令が下ることがあるのである。


 ヘイムダルにいる生徒・先生含めた人々は全てATそして学園長でもあるゼロの部下でもあり、この地を統括している彼らからの命令は基本的に絶対。

 もちろん学園における成績等から厳選を重ね、出来る限り負傷者を減らせるようサポートに余念が無いものではあるのだが、それでも戦闘となれば今、氷雨霙と戦闘している少年兵達のように死ぬ可能性だってあるのだ。

 だからこそ『学園』の命令は掲示板に発行されているような依頼とはまるで難易度のケタが違うことは多くの生徒達も知っている。


「連絡、出来そう?」

「……出来なくはないでしょうけれど、繋がるかはわかりませんよ?」


 生徒会そして風紀委員会。

 彼らはヘイムダル学園における管理者・責任者という点において基本的に平等である。

 話し合いを設け、最善と思われる内容に絞っていく。


 しかし、『学園』と連絡(コミュニケーション)がとれるのは生徒会長である。

 もちろん風紀委員長である竜華も取れないわけではないのだが、いくらかの許可を貰わねばならないため、その迅速さは生徒会長には劣る。

 故に竜華は優姫にお願いする。頭を下げ、真摯に乞う。


「それでも、お願いするよ」

「分かりました。少し待ってくださいな」


 優姫は生徒手帳を取り出し、皆から少し距離を取る。


「こんにちは、今よろしくて? 今、ATへ連絡はとれるかしら? ……そう、なら防人慧という方に関して情報提供を頂きたいのだけれど……そう、彼が……分かったわ。ありがとう」

「どうだった?」


 通話を終えるよりも早く、めだかが問いかける。

 

「少し待ってくださいな……まず、確かに防ちゃんさん──防人慧さんは『学園』の指示で呼び出された事に間違いはないようです」

「場所は!?」


「カタパルトで出撃出来る範囲だからそこまで遠くは──」

「分かりましたわ! 三春、ラティ! 後は頼みましたわよ!」


 話半ばで駆け出していくめだか。

 竜華は慌てて呼び止めるも既に遅く、瞬く間に彼女の姿は舞台裏から消えてしまう。


「さて……竜華、せっかくの勝負どころでしたが、イレギュラーもありますし、なかったことにいたしましょうか」

「は? ふざけないでよ。何のために練習時間削って付き合ってあげたと──」


「だとしても、万全ではない彼女達と戦ったところで意味はありませんもの。ね?」

「……分かった。でも、報酬は貰うからね?」

「えぇもちろん」


 歌合戦の勝負が出来なくなることに強い反応を見せる美琴。

 しかし、それを見越していたように優姫は落ち着いた様子で彼女を宥める。

 渋々といった様子であったが、一応は同意をしてもらったことに優姫は頷きつつも竜華の方へ振り返り、再度確認を取る。


「で、どうかしら? また今度で問題ありませんね」

「それは構わないけど……」


 竜華からの同意も貰える。

 そう思った矢先に待ったをかけたのはめだかの部下の2人であった。


「お待ち下さい」

「せっかく練習したのになくなるなんて悲しいことは言わないでよ〜」


「でも、慧くん達が参加出来ないんじゃ流石に棄権するしか」

「大丈夫ですよ」

「こういう時のために私達がいるんだからね」


 と、彼女達は腕に巻き付けていた認識阻害装置(ヴァーチャルリアライザー)を操作し、二人はそれぞれ防人、めだかの姿へと見た目を変化させる。


「は? それ、リアライザー?」

「え? えぇ?」


 目の前の出来事に驚きを見せる美琴や白石達。

 竜華や優姫達は知っていたこともあり、落ち着いた様子であったが、優姫はゆっくりと首を振る。


「いえ、確かにそれなら可能でしょうが、それでは意味が──」

「確かにそうかもしれません。ですが、それで棄権するというのはめだか様も望んでおりません」

「そうだよ。皆んなせっかく練習したんだから、参加しないと意味ないでしょ?」


 首にチョーカータイプの変声機(ボイスチェンジャー)を巻き、声の調整を行いつつも二人は竜華を説得する。


「う〜ん、たしかにせっかくだし参加しないってのは勿体ないかな……皆んなはどう?」

「私は竜華が参加するなら別に構わないですが」

「右に同じ」

「お、俺は……いえ、俺も構わないっす」


 紅葉、千冬は竜華の意思を尊重し、否定しようとした白石は千冬にスネを蹴飛ばされて、慌てて言葉を訂正する。

 

「そ、そう? それなら参加しようか……ぁ、リリスちゃんはどうす──あれ、リリスちゃん?」


 もう一人、同意を求めようとした青髪の少女へ訪ねようとしたところ、その姿がないことに竜華は驚き、目を見開く。

 辺りを見渡すもその姿はない。


『ありがとうございました。次はエントリーNo.9番! こちらはなんとグループでの出場でございます! 我らヘイムダル学園、生徒会の皆さんです!』


 しかし、無情にも時は流れていく。

 放送によって湧き上がる歓声。

 生徒会の3人は、湧き上がる歓声に答えるように移動を始め、舞台裏からステージへと上がっていく。


「少しだけ、時間を稼いであげる。それでもし見つからなかったら……貴女、慧さんの姿でなく、リリスさんになって歌いなさい」

「……はい」


 リリスは今回の大会における歌い手を担っており、それは既にネット上に公表されているパンフレットのページにも名前が記載されているし、進行を務める神谷(まな)もその内容に沿って言葉を用意しているはずである。

 進行にも影響がでる恐れもあるため、多少であれ、あまり妨げになるような事をするべきではないだろう。


 加えて、生徒たちの中には短気な者も少なくなく……適当なことで取るに足らないと思うような小さな事でいちいち突付いてくるような者もいる。

 その点からしてもやはり余計な小波を立てる必要はない。

 そのことは竜華はもちろん、紅葉や千冬、めだかの部下である2人も理解していた。(白石はそこまでは頭は回っていない)


「さて、それじゃあ二人は念の為、衣装に着替えて来てもらっても良いかな?」

「はい!」「は〜い!」


「彩芽は監視カメラの情報を漁ってもらえる? 千冬ちゃん達は目撃情報を集めて! 私は、可能性の高いものから探していってみる。後、それから10分経っても見つからない場合、皆んなここに戻ってくること。良い?」

「了解しました」「分かった」「り、了解っす」

「ん、それじゃあ行動開始!」


 竜華は2人を指示し、風紀委員会のメンバーも命令を受け、各々行動を開始する。

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