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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第5章 学園之行事(ヘイムダルズ・イベント)
176/253

166『8月末』




──中略──


 あれから、予定されていた様々なレクリエーションを行っていき、それらが問題なく行っていける事を確かめていきました。


 夜中に行われたのは【肝試し】。

 登山コースとゴーストバスターコース。

 この肝試しには二つのコースが用意されており、ホラーが苦手である私は後者を選択し、体験させてもらうことになった。


 まず、登山コース。

 こちらは用意した通路を通り、山の施設へとオバケたちの驚かしに堪えながら歩いていく。

『山の施設で到達の証を受け取り、折り返す。単純明快なコース。』とあり、当日は脅かし役を買って出た生徒達が待機しお化け役を実行することを予定している。

 これはあくまでもタイミングを見合わせて温風や飛沫などを飛ばしたり、物音を立てて驚かす役割を担っているのだが、静かな山なので意外と物音、足音に気付いてしまう事が問題となった。


 もう一つはゴーストバスターコース。

 私が経験したこちらはARゴーグルと呼ばれる装置を頭に取り付け、山の施設にあるというシステムを利用することで飛び出し、驚かしてくるオバケたちとの戦闘が楽しめるもの。

 『モデルガンを片手に討伐スコアを競っていく。愉快痛快なコース。』でこちらは私個人としてはかなり楽しめた。

 オバケの種類も豊富で、デザインも恐ろしさは控えめとなっているため、ホラーが苦手な私としても問題なく楽しめた。

 しかし、ゲームにのめり込み過ぎてコースアウトしてしまう者もいたので、当日までにコースアウトしないよう道筋を示す必要があると思われる。


 夕食時には【カラオケ大会】や【ビンゴ大会】。

 今回はあくまでも形だけだが、カラオケはなかなかに盛り上がった。アイドルの生歌を聞けるということで1人、テンションがおかしくなっていた事を除けば、カラオケは問題なく進行することが出来たと思われる。

 逆にビンゴは人数が少ないせいもあってかなかなか当たる人がいなかったが、それでも途中で大きなトラブルなどはなく進行していくことが出来た。


 【砂の城、建設大会】では用意された道具を活用し、完成度を競っていくのはなかなかに盛り上がった。

 途中、互いの作品のどちらが上なのかで揉めて妨害行為が頻発したが、それはそれで盛り上がった。


 【スイカ割り】や【ビーチフラッグ】などは夏の定番として良く挙げられるものであるが、よくよく考えてみるとやったことがなかったため、楽しめた。

 ワーカーギアの姿勢制御と捕捉(ロックオン)機能を利用してスイカを粉砕したのは、二重の意味でいただけなかったが、思い返してみれば楽しい思い出というものだろう。


 【ダイビング】及び【水中散歩(シーウォーク)

 ウエットスーツそして酸素ボンベもしくはシーウォーク用の水中ヘルメットを身に付けることで水中の景色を楽しめるもの。

 ダイビングでは海底を先生の監督ありきながら好きなように泳ぎ、逆に泳ぎが苦手な者たちは水中ヘルメットで散歩する。

 船でグルリと島を半回転し、少し離れたところにあるダイビングスポット。それなりに浅瀬ながらもキレイな場所。

 ゲームなんかでは赤いコインを探したくなるような美しい景色であり、袋から取り出した練りエサを取り出すと魚たちが寄ってくるのは新鮮な気分だった。


「いいか? 今からバックロールエントリー、つまりは海へ入るための手順を教える。

 まず水面を確認する。次にレギュレーターを口に咥えてBC、パワーインフレーターに空気を送り込む。

 そして、ホース類をこう、股に挟んで邪魔にならないように、しっかりと挟んだらマスクとレギュレーターが飛び込んだときに外れないようにしっかりと押さえながらゆっくりとタンクの重さに従って海へ落ちる」


 と、実践してくれた智得先生の指導を個人的には受けて、水中を泳いで見たかったが、リリスがシーウォークが良いと言うのだから仕方なし。

 命綱兼酸素供給用のコードの長さもあって船の周辺しか楽しむことが出来なかったが、それでもテレビなどでしか見たことがなかった自然の海中の景色というものが目の前に広がっているのはなんとも言い難い嬉しい気持ちが込み上げてきていた。

 植ざ──生徒が1人、調子に乗って大きな岩に衝突して酸素タンクを爆発させて周りの人を含め、おぼれかけたことを除けば本当に完璧な体験でした。


 その夜。

 浜辺で満天の星空の元でのキャンプファイヤーそしてバーベキュー。美味しいお肉と新鮮な野菜を味わい、そして打ち上げられた花火は圧巻の一言でした。


「…………こんなところかな?」


 行ってきたレクリエーションを資料の力を借りながらもレポートにまとめた防人はそれを風紀委員用の共通ファイルへと転送する。


「お疲れ様」


 ソファーに持たれかけ、大きく息をついているとテーブルに温かいコーヒーのカップが置かれる。

 ちなみにリリスはホットココア。めだかは紅茶であった。

 なんというか、改めてこの生活が馴染んでしまっていることに違和感というか、おかしな気分が込み上げてくる。

 別にそれは悪いことではないし、もはや自分が女の子の姿をしていることに疑問を抱くこともない。

 ……いや、流石にそれは危機感を持つべきか?

 とにかく少なくとも落ち着く場所──防人慧の居場所であることに変わりはないだろう。


「温かい……」


 コーヒーを一口。

 防人は噛みしめるように呟いた。




◇◇◇




 それから、一月あまりが過ぎていく。

 機体の特訓や風紀委員の活動、夏休みの課題などをこなしているとそれはあっという間の出来事で──気がつけば、8月ももう終わりに近づいていた。


 本日は課題提出及び今後の各行事予定の取り決めの日。

 今後の行事予定とは体育祭及び学園祭のことを指す。

 行われる場所はかつて試験会場の場として使われた地上に存在するドーム型の学園。

 その中の各教室にて生徒たちは学年別、クラス別に別れて各々のしたい出し物を行っていく。


「……それじゃあこれからみんなの出し物のアンケート結果を黒板に標示します」


・お化け屋敷・メイド喫茶・映画撮影・演劇……等々。

 学級委員長──アリスの指示の元、皆が書いた出し物の内容が黒板に順番に標示されていく。


「それじゃあ次は統計結果をします」


一位――メイド喫茶 19名。

二位――お化け屋敷 8名。

三位――演劇 5名。

四位――ダンス 3名。

五位――自作映画上映 1名。

五位――迷路 1名。

五位――野外コンサート 1名。

五位――展示 1名。

五位――プロレス 1名。


 さすがメイド喫茶。人気があるもんだ。

 防人のいるAクラスは総勢40名。ということはクラスの半数近くがメイド喫茶がしたいって言ってることになる。

 ……うん、有名どころだし、文化祭といえばという定番なので文句の言いようがない。

 どうでもいいけど、防人が書いたのは迷路だった。


 なぜかって?


 それは今回の学園祭は3日間かけて行われてその際に外の人達も遊びに来てもいいオープンな感じになるからだ。

 遊んでいる間、その盛り上がりをのんびりと楽しみたい。

 別にサボろうとかそういうのではないよ? 決して。


(……それにしても)


 防人は教室内で目立つ一角に視線を向ける。

 そこには髪をピンク色に染めて頬っぺたに音符のヘイティングをしたアイドル風な格好をした、なんというかキャピキャピしてる子だったり。

 制服になんか色々なアクセサリーをつけてやたらキラキラしている人だったり。

 少なくとも一度見たら忘れることはないであろうとんでもなく特徴的な生徒達が座っていた。


 彼らは……そう、確かZ(クラス)の人達。


 新聞部のカメラマン『喜古(きこ)』もZクラスの席に座っており、彼女曰く、学園祭を楽しもうと思っていたけど、何やらクラス単位で忙しくてなかなか動けないらしく、合同ということになったとのことだった。


 クラス単位となるとかなりの大事のようにも聞こえるが、なんでもそのクラスは教室それ自体が1つの部隊であるらしい。

 そう言えば、その部隊の名前は何ていうのだろう?

 名前を聞くのを忘れていた。

 後で聞いてみるのも良いかもしれない。


「これで上位3つ。お化け屋敷、メイド喫茶、演劇が確定しました」

「えぇ~これで決定なのぉ?」


 先程のアイドル風の女の子。

 名前は『恩負(おんぷ)』。

 頬っぺたの音符マークもあって凄く分かりやすい。

 しかし、彼女の表情は複雑そうな面持ちで、まるで納得がいっていないという表情(かお)で立ち上がった。


 ちなみにZクラスもいるのに何故、投票数が40ピッタリなのかといれば、これは非常に分かりやすい。

 Aクラスにも欠席者がいるからである。

 うん、単純明快である。


「はい、この3つが合同クラスの出し物。その候補として決まりました」

「納得いかない。なんで、私の野外コンサートが最下位なのよぅ?」


 それを言ったら迷路も最下位なんだけどなぁ。

 と、防人は内心では呟きつつも面倒事になりそうな気もするので、どうでもいいけど。と黙っておくことにする。

 じっくりと経過を見守ろう。


「確かにコンサートは出来ませんが、当日にドームの多目的ホールにて自由参加の『のど自慢大会』が開かれる予定ですので、そちらに参加してはいかがですか?」

「そう。この私が歌えるんだったら構わないわ。失礼したわね」


 と思ったらあっさりと解決してしまった。

 のど自慢大会。なるほど、そういうのもあるんだ。


「いえ、もし何か気になることがあったら、手をあげて答えてください」

「それじゃあ……一つ聞いていいかな?」


 そう彼がゆっくりと手を上げるジャラリとアクセサリーが揺れて小さく音を立てる。

 光をキラキラと反射しており、眩しい。

 なんというか畑なんかにある鳥よけを連想させてしまうが、流石にそれは失礼だろうか。


「はい、殻亡(からなし)さん。なんですか?」

「何故、3つを選び取ったんですか? もしこれで決まりなら一位のメイド喫茶だけでいいのに」


「それは、他のクラスと出し物が被らないようにするためです」

「被らないように?」


「はい、たとえばここでメイド喫茶が一位として決まったとして、もし、他のクラスもメイド喫茶となっていた場合、一年の出し物はメイド喫茶だけとなってしまいかねません」

「なるほど。メイド喫茶がズラリと並ぶ光景は絵としては面白いけど、確かにそれでは参加者は楽しくないですね。ありがとうございます」


「他に誰か質問はありますか? 無いようでしたら、これをもって出し物決めは終了とさせて頂きます。学年別会議の後、このクラスでの出し物の最終決定は始業式、休み明けテストの後となります」


 そう言ってアリスは教卓で黒板の表示を消し、自分の席へ戻る。


「アリスご苦労だった。よし、ではこれでLHR(ホームルーム)を終了とする。一応言っておくが、テストの点数が悪いものは学園祭などはまともに楽しめないと覚悟しておくように。では解散」


 先生そしてアリスの号令の後、防人は席を離れると風紀委員室に急いだ。

 あ……喜古に話を聞くのを忘れていた。

 急ぐ途中、ふと思い出すものの引き返すのが面倒──いや、わざわざ引き返してまで聞くようなほど重要な事ではなかったので防人は歩みを早めた。



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