162『ドキッ!水着だらけの海遊び、ポロリもあるよ』
女性たちの背にサンオイルを塗り終え、ついでに自分と、日焼け止めクリームを塗り終える。(手足を塗っていた間、背中はめだかがいつのまにか塗っていた)
と、ちょうど用意されたコートの中へと加わる。
ビーチバレー──バレーボールの派生競技。
1チーム2名の選手で対戦、ボールへの接触は3回まで。この回数以内で相手のコートにボールを返し、相手がボールを戻せなければ得点となる。
1セットごとに2点をリードして21点先取(3セット目は15点)する3セットマッチ。2セット先取した方のチームが勝者となる。
へぇ~……なるほど。
マンガやアニメなどでは夏の定番スポーツであるが、いまいちルール分からなかったため、大まかな内容について、智得先生から説明を受けていた。
その間、屈伸やアキレス腱伸ばしなどの柔軟体操を終えた星那たちによってビーチバレーに必要なポールそしてネットが用意され、リリスたちによってバレーのコートを示す線が掘られる。
因みにビーチバレーのボール含め、これらの道具は先日海岸へ運ばれたコンテナに用意されていたもので、海の家近くに移動されたコンテナは今後は倉庫として利用するようである。
Worker・GEAR『インダストリアル』によって打ち付けられたポールにめだかたちは手際良くネットを張る。
そして高さ調整。それほど高くなければ、低すぎるという程でもない絶妙な位置関係に設定することで背の低いリリスたちも遊びやすいよう配慮されている。
その準備の最中、サーフィンをしていた竜華たち。や浮き輪でプカプカっと海に浮かんでいた千冬たちも集まってくる。
準備完了。
開始の前に、まずはチーム編成。先生の所持する端末を利用し、完全ランダム性によるニ人一組のチーム分けが行われる。
【第1コート ─── 第一試合】
・本間白石
・逢坂三春
VS
・防人慧
・リリス
【第2コート ─── 第一試合】
・愛洲めだか
・桐谷優姫
VS
・日高竜華
・逢坂三春
チーム分け・対戦表の作成も終わり、先にボールを取るのがどちらかを決めるために、それぞれのチームリーダーが前に出るとそれぞれの審判の元へ近付いていく。
───第1コート─── 審判:智得先生。
「お互い頑張ろう」
「は、はい。よろしくッス」
Aチームのリーダー防人慧──防ちゃんがBチームのリーダーの白石へ挨拶をすると彼は少し緊張した様子で返事をする。
また、胸を凝視してる気がするのは気のせいかな?
ビーチボールがどちらの手に渡るか、2人は力強く拳を振り上げると──
「「じゃ〜んけ〜ん!」」
最初のボールは防ちゃんに渡されることとなる。
両チーム。位置につくと開始のホイッスルが鳴り響く。
───第2コート─── 審判:彩芽紅葉
「あーあーどうせなら防ちゃんのチームがよかったですわ〜」
「しょうがないよ〜。チームバランスって大事だからね」
第1コートでのやり取りがスムーズに終えられたのに対して、こちら側はどうにもグダグダとしていた。
というのも今回、めだか本人含めて3人とも防人とは被らず、リアライザーによる入れ替わり作戦が水泡に帰してしまったためである。
分かりやすく、落ち込んでいた。
加えて、防ちゃんと同じチームという役割を彼の妹であるリリスに取られてしまったのだから堪らない。
もちろん今回のチーム分けは智得先生の端末を利用してのもの。仕方ないというのは分かっていても悲しいことに変わりはない。気持ちというものはそう簡単に制御出来るものではないのだ。
「それはそうですけど……」
「やる気が無いならコートから出てってくださいな」
竜華に嗜められるも納得がいかない様子のめだか。
それを見かね、優姫はピシャリと言い放つ。
「あら、そんな事をすれば貴女は1人になってしまいますわよ? たった1人で勝つつもりですの?」
「当たり前じゃない。私が負けると思っていて?」
「勝てると宣言するのは良いですが、それは傲慢というものですわ」
「あら、初めから負けるつもりで勝負事に挑む行為こそ怠慢であり、スポーツマンシップに欠ける行為ではなくて?」
向かい合う優姫とめだか。
彼女らの瞳からは明らかにぶつかり合うナニカがあり、バチバチと火花が散り始める。
「相変わらず気に入りませんわねぇ、その態度」
「あら、何のことかしら?」
初めに沈黙を絶ったのは、めだか。
明らかな怒りを孕んだその声を優姫は気に留める様子もなく、頭を傾け口元に手を当てる。
その動作、一挙一動が絶妙で……癪に障る。
明らかにこちらを見下しているのだ。
もちろんそれはめだかの方が背が低いから、物理的に仕方ない部分もあるだろう。
だが、余裕たっぷりなその態度からは明らかに嫌味なものが混じっていることをめだかは肌で感じていた。
「……まぁ良いですわ。ところで竜華ちゃん、ただ勝負をするだけなんてつまらないですし、何か賭けませんか?」
「賭け事ですか? 感心しませんね」
めだかの提案に否定的な意見を言う彩芽。
「違うわ、これはあくまでもゲームを盛り上げるための単なるスパイスですわ。紅葉ちゃんは相変わらず堅いですわね……それで、竜華ちゃん。どうかしら?」
「確かに悪くないとは思うけど、それならみんなの意見も聞かないとね」
「ふむ、それもそうですわね。生徒会長さんはどうですの?」
「罰ゲームですか。悪くないですけれど、どのような内容ですか?」
「そうだね。勝ったチームは負けたチームのお願いを一つ聞くってのはどうかな?」
「負けたチームのお願いを聞く……ですって!?」
ふとした竜華の提案に強い反応を見せるめだか。
このバレーボールは勝ち抜きトーナメント。つまり防人慧がこのまま勝ってくれれば次に当たるのは自分達である。
(そこで勝てば防ちゃんにあーんなことやこーんなことも……く〜! 夢が広がりますわ〜!!)
だが、そうなれば必要となるのは今の試合で防人が勝つことである。
──ピーー!
第1コート側で甲高くホイッスルが鳴る。
ボールの位置からして得点は三春のいるBチームに入ったようだ。
点数は──Aチーム2点:Bチーム5点、とまだ始まったばかりであるが防人達の側が負けていた。
これは、良くない流れである。
「ラティ!」
「呼んだ? めだか様」
めだかは用意された観客席で待っているオリジアを呼び出すと第1コートにいる皆へこちらへ先程の話を共有するよう伝える。
もちろん三春そしてリリスには別途伝えるべき事があることをコッソリと忘れずに。
「さぁ、やりますわよ!」
テンション上がってきた! と言わんばかりの様子。
めだかはじゃんけんを優姫に任せ、コート内を移動すると打ち込みのポーズを取って素振りを始めた。
「さっきまでの態度とは一変しましたね」
「やっぱりおバカさんよね。あの子」
突然の変わり身に呆れた様子の彩芽と優姫。
竜華はボールを脇に抱えながら、先ほどとは打って変わって嬉しそうな表情を見せるようになっためだかを見てどこか満足そうであった。
───第1コート───
インターバルの最中、オリジアからドリンクの差し入れとともに罰ゲームの話を聞かされていた。
「なるほど〜確かに面白そう」
「めだかちゃんが良いなら、私も大丈夫だよ〜」
優しそうな雰囲気が体格にも現れている三春はポヤンとしたマイペースさを伺わせる反応を見せる。
スポーツドリンクが瞬く間に彼女の胃袋へと消えていく。
「よっし、やろっか!」
空になったボトルをオリジアへ手渡し、ゲーム再開。
コートチェンジも終わり、サーブ権は白石へ移動する。
「いくっスよ!」
砂浜ということもあり、足場が悪く打ち出されたボールは彼の想定していた位置とは異なる箇所へ向けて放物線を描いて飛んでいく。
幸か不幸か、そこは2人の立ち位置からは離れた場所。
アウトか、セーフか、ラインギリギリの微妙な位置へ。
しかしそれをリリスは難なく掬い上げると防人はそれをネット付近を狙って高く打ち上げた。
「右、真ん中だよ〜」
リリスイヤーは地獄耳。
オリジアのつぶやくような声も瞬時に聞き取り、狙いを定めると、上がり過ぎたボールへと目掛け垂直ジャンプ。
それは少女の見た目からは想像できない跳躍力。
これは、何といっても彼女の身体が全身義体であることでなせるワザ。
普段は年相応の少女として機能制御が設けられている。しかしその範囲内であれ、常人を越えた力を発揮し、アクロバティックな動きを見せつけることは可能である。
「はぁっ!」
腕をしならせ、溜めたパワーを一気に放つ。
「──え?」
とはいえ、リリスもビーチバレーは完全素人。
狙ってスマッシュを放てるわけもなく。
──ズバンッッッ!!
とおよそボールや人体から発せられたとは思えない甲高い音が響き、地面に対して緩斜な軌道を描いたボールは真っ直ぐと白石の頭部の側を突き抜ける。
そしてボールはアウトラインの外へ落ち、突き刺さった。
砂ぼこりを上げ、落下点に小さなクレーターを作り出す。
そして、スピンがかかっていたボールはバウンドすることなくその場で高速回転。しばらくして、クレーターから抜け出すようにして地面を僅かに転がった。
「えっ? えぇ??」
頬から滴る鮮血。
摩擦で焼け、頬がピリピリと痛むが、直前の光景と現在の状況が結びつかず、呆然して唖然する。
「あわわ……」
撃ち込んだその先。思っていた方向から外れた場所に打ち込んでしまったことも加え、白石へ傷をつけてしまったことにどうにかしなくちゃ、と思うものの……どうすれば良いのか分からず、立ち尽くしていると
「……大丈夫?」
「あ、はい、ありがとうございます。センパイ」
休憩スペースから医療パックを手に、駆け寄る姿。
千冬は彼の頬に付いた血をガーゼで拭うと新しいガーゼを消毒液で濡らし、傷口を押さえる。
「いたた。け、結構染みるっすね」
「男なら、ガマン」
「それは、分かってるんすけど……くぅ~」
小柄で可愛らしい少女に看病される少年の姿。
絆創膏を貼り終え、ゲーム再開。
サーブ権は変わって三春。
彼女が打ったボールは白石の時よりも歪に、緩やかな弧を描いてネットを飛び越える。
それを防人が高く打ち上げると飛び上がった
「あれ?」
高速で叩き落とされたボールは先ほどと比べると対応できる速度であったが、白石が対応し打ち上げるとそれはあらぬ方向へ飛んでいき、そのままコートアウト。
ボールはコート外を数メートル飛んでいき、地面に落ちるとバウンドすることなく転がり、すぐに動きを止める。
「あぁ、失敗したっす」
「ヘタクソ……」
「し、仕方ないじゃないっすか、結構難しいんすよ。これ」
ボソリと不評を言う千夏に対して弁明を行う白石。
ボールを手にしてクルクルと回しながら、リリスが戻ってくると手にしたボールを防人へ見せつけるように差し出してくる。
「ん? どうした?」
「……何か変。だった」
「変?」
「うん。ボールが変だったの……あ、あった」
リリスが指差す箇所。
そこには亀裂が入っており、少し押し潰すとゴムボールの黒い断面が露出する。
「あ……割れてる」
「え、うそ〜。新品だったのに? ……あ、本当だね〜」
三春達も近寄っていき、ボールを受け取って実際に確認する。
第1コートにおける試合は一時中断。
両チームは審判の元へと集まり、話を始める。
「どうしようか?」
「まさか割れるとはな」
皆からの意見を聞こうと尋ねる防人。
想定外の出来事に驚く智得先生。
「……ごめんなさい」
「別にリリスちゃんのせいじゃないよ」
落ち込むリリスを三春は優しく慰める。
「でもどうすんすか? 始まったばかりっすけどおしまいににするっすか?」
「ダメ!! それじゃ罰ゲームがなくなっちゃう」
「それじゃあ今、得点が3対6だからこっちの勝ちって事で……えぇっな、何っすか?」
悲しそうにしているリリスに対する同情心。
三春、千冬からの冷たい視線。
防人からの空気読め、という滞りの表情。
先生からは──いつも通りの鋭い視線。
「なんなんすか。もう……じ、じゃあ自分新しいボール探してくるっすよ」
コンテナには新しいボールの予備があったものの……
「似たようなのあったっすけど、なんか少し小さい気が……」
「それはバレーボールだね〜」
「へ? バレーボールってビーチバレーのやつと違うんすか?」
バレーボールの大きさは、ビーチバレーの方と比べると1センチほど小さい。また、柔らかさに関してもビーチバレーの方が柔らかく、そのおかげでバレーボールと比べてもラリーがやりやすくて素人にも扱いやすい。なのだそう。
白石の質問に答える智得先生の説明に皆、感心する。
「じゃあ別にこのボールでも問題はないってことっすよね?」
「そうだね」
「うん、それじゃあこのボールで続きをやろ〜」
ホイッスルを合図に試合再開。
両チーム譲らず、長く打ち合いが続いていく。
めだかからの指示もあり、三春はそれとなく失敗するようにしているものの防人も胸を傷付けないように気を付けているため、動きが鈍く隙を突かれ得点を返されてしまう。
させるまいとリリスが素早く動き回り、打ち込まれたボールを的確に拾っていくものの狙って失敗するのと本当に出来ず失敗するのとでは行動に起こせる回数に差が生まれてしまっている。
そのせいもあってかなかなか両者の得点に差が開くことはなく、このままでは防人達のいるチームが負けてしまうだろう。
防人も全力を出して負けたならまだしもこのまま負けたくはない。
少なくともこの人工乳房を乱暴に扱うわけにはいかないけれど、リリスがこうして頑張っている手前、それを言い訳にはしたくなかった。
せめて何処かで役に立たないと……。
「お姉ちゃん!」
Aチームのコート内。ボールがネット付近で高く打ち上げられた。
防人はリリスの声と同時に前へ踏み出す。
アタックの体勢に入っている白石と対面し、ブロックの為に彼とほぼ同時に跳ねた。
目線を読み取り、予想されるボールの軌道に合わせて腕を動かし、妨害に──成功。勢いのあるボールは防人の腕に当たり、その軌道を大きく変えた。
「甘いっすよ!」
防がれた。そう思った瞬間、白石は横に飛んで目で追っていたボールを跳ね上げようと腕を伸ばす。
──プニッ、ペチャッ。
手に感じたのは圧倒的な柔らかさ。
そして先程までのボールとは明らかに異なる出応えが伸ばした手首全体を覆うように貼り付いてくる。
「あれ?」
鳴り響くホイッスル。
得点は防人達のチームに入る。
「ん? んん??」
小さい頃投げつけて遊んでいたおもちゃのように、潰れていたそれが元の形を取り戻していく。
手に張り付いたそれはボールのように丸い。先ほどのバレーボールと比べると一回りほど小ぶりで、その感触はかなり柔らかい。肌触りはツルツルだが、その表面は僅かにデコボコとしており、指を動かすと特殊なゴムボールのように程よい弾力が返ってくる。
「いつまで揉んでる?」
掛けられた声に我に返る白石。
顔を上げようとすると不機嫌そうな千冬と目が合った。
「やっぱり、男は、大きいのが好き?」
どうやら着地の際、ネットに人工乳房を引っ掛け、そのまま剥がれ落としてしまったらしく、そしてそれを白石が掬い上げたようだ。
辺りを見回す白石に突き刺さるのは先程よりも鋭い冷たい視線。表情にこそ出していないが、彼女たちからの男に対する軽蔑の感情がヒシヒシと感じられた。
「あ、あの……これ、返すっす」
「う、うん」
慌てて防人の側に近寄ると手にしている人工乳房を返そうとするも粘着剤が手に貼り付いてしまい、そう易々と引き剥がせそうにない。
「やっぱり、大きいのが好き……」
「ち、違うんすよ〜〜〜!!」
千冬の言葉に女性たちの視線が更に冷たいものに。
そしてこの後、来るであろう悲劇に白石は咆哮した。
◇
◇
◇
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
俺様は船の上で観察してた運命の女神のおっぱいが水着からポロリしたかと思ったら、オッパイごとポロリしちまって、ついでに俺様も海にポロリだ。
何を言ってるのかわからねーと思うが、俺様にも何を見たのか理由がわからねーんだ。
「おーい。無事か!?」
「ウエザキィ! 無事なのか!?」
「頭がどうにかなりそうだぜ……」
「何ぃ! ウエザキ、頭打ったのか!!?」
「待ってろ今行くぞぉ!」
せっかく持ってきた双眼鏡は海の底。
筋トレに励んでいた研摩部の先輩たちに植崎は救出され、船上は一時騒然となった。




