表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第5章 学園之行事(ヘイムダルズ・イベント)
170/253

160『女装脱出QTE』


 朝食を済まし、一息ついてから皆は風紀委員の活動のために海岸へと出ると昨日海の家を建てたところに昨日のものとは比べ物にならないほどしっかりとした家が建てられていた。


「これは……」


 入り口の隣には広々としたテラスが作られ、真っ白な円机と椅子、カラフルなパラソルが並べられている。

 室内外には照明が取り付けられており、夜でも明るくなるように工夫が施され、昨日はまだ骨組み状態であったカウンターには予め運び込まれていたという鉄板やコンロ、冷蔵庫などが設置されており、さらには海の家感のあるポスターが壁に張られている。


 見事な出来栄え。

 もちろん細かいところに目を向ければまだまだ粗は見つかるかもしれないが、素人目からすれば十分に凄い。

『海の家』という言葉から想像されるソレが目の前にあった。


「えー……ここのカウンターには当日、カキ氷やソフトクリームの機械のほか、扇風機等が設置されるため……」


 完成した海の家についてタブレット端末を手に、改めて説明する智得先生。

 鬼海先生そして研摩部の漢たちは午前中は休息・睡眠のため、クルーザーのベッドルームで休むらしく、植崎も彼らに米俵を抱きかかえるかのように連れて行かれてしまった。


(そういえば、植崎のやつ何か言おうとしてたな……)


 目の下に酷く濃いクマを作り、瞳も充血してたというよりはむしろ血走っていたと表せられるほどに赤かったことをふと思い出す防人。

 実際、血走っていたのだが。

 その原因が分からない防人には彼が寝不足の状態であったという事しか分からない。


 今の防人慧の姿が女装した──(サキ)の姿であることを(おもんぱか)ればその内容も想像できたのかもしれないが、残念ながら植崎が(サキ)の姿に一目惚れしているとは考えに及ばない防人には無理な話である。

 仮に想像できたとしてもその考えは防人自身が即座に掻き消すだろうが。


「さて、治直(なおすぐ)先生らが休んでいるため、午前中は自由行動──主に海での遊びについての要望に答えていく。まぁ要するに好きに過ごせ、ということだ。私はここにいるので、何かあれば声をかけてくれ。では解散」


 先生の言葉を合図に海の家から離れ、シャワールームへ。

 防人達は扉のない入り口からその中へ入ると、ズラリと薄い壁とカーテンで簡易的に区分けされた個室が並んでいた。

 本来、ここはあくまでも体についた海水や砂を洗い流すためだけの場所であり、男女共用である。しかし今の防人の姿で隣りにある更衣室に入るのはどうかと思い、こちらを選んだ。


「それじゃ、後でね〜」

「あ、はい。また後で」

「じゃあね。サキモリちゃん。覗いちゃだめだよ?」

「っ、覗きませんよ!」


 何故かついて来たオリジア、そして三春との挨拶を交わしつつ、2人が小さく小分けされた個室の一つに入っていくのを見届けると防人も通路に設置されているベンチにカバンを置き、そのまま今朝着替えさせられた浴衣を脱ぎ始め──。


「何をやってるんですか?」


 帯に手をかけたところで後ろ側に違和感に気付いた防人はため息をつき、勢いよく振り返る。

 が、そこには誰の姿もなかった。


(気のせい?)


 防人はそう思いつつも警戒心は解かず、スルリと引き抜いた帯をキレイに畳む。

 カバンの上へ水着を置き、それに着替えるため、羽織っている浴衣を脱──。


「本当、何をやってるんですか??」


 浴衣から手を離し、素早く伸ばした腕。眼の前でゆっくりで浮かび上がった水着の形から憶測で掴みにいくと予想的中(ビンゴ)。見えない細腕を掴む事に成功し、防人は呆れた樣子で問いかける。


「あら、バレちゃった?」


 認識阻害装置(リアライザー)を解き、姿を潔く現すめだか。

 彼女はテヘッと舌を出すとわざとらしく頭を小突く。


「そりゃ水着が急に浮かび上がったら誰でも気づきますよ」

「あちゃ~、やっぱりそう上手くはいきませんわね〜」

「上手くいきそうでもやらないで下さい……。で? わざわざ隠れてまで何をしようとしてたんですか?」


 ま、大体想像つくけど。


「そ・れ・は、コレですわ!」


 じゃ~ん。と取り出したのは先日の買い物で購入した──させられた女性ものの水着。

 

「わざわざ持ってきたんですか?」


 やっぱりね。と胸中でため息をつく防人は見下ろした今の自分の姿を見てハッと理解する。

 なるほど、だからか。水着を着せたいって為だけにわざわざ朝にこの格好に着替えさせたんだな。人工乳房(おっぱい)を貼り付けさせないとその水着はサイズ的に着れないから。

 でも、本来あれはファッションショーの一つとして着ることを納得というか諦めたやつなんだし、流石にこんなところで水着(ビキニ)姿を晒す気はさらさらない。

 悪いけど、着るのは普通の水着にさせてもらっ──


「……めだかさん?」


 怪訝そうな目を向けれるもめだかは笑顔を向けてくるだけ。


「…………」

「…………」


 静かに、2人は見合う。そして────

 防人は彼女の傍にある水着を取ろうと右の手を伸ばす。──行く手を阻む(ディフェンス)

 奇を(てら)い、左の手を伸ばす。──行く手を塞ぐ(ディーフェンス)

 もういっそのこと両の手を伸ばす。──行く手を遮る(ディィィフェンス)


 クッ! このヒト、また邪魔を!

 ん〜……最悪の場合、水着を着ないというのもありだけど、せっかくの海なんだし、遊べるなら遊びたいんだよなぁ……。


「めだかさん、こんな事していたら時間がもったいないですよ?」

(サキ)ちゃんがこれを着てくださるならそれだけで構わないですわ」

「残念ですけど、そんなつもりはありません」

「あらあら、着ないという選択肢があると思いまして?」


 場所は狭いシャワールーム、その通路。目の前に立ち塞がるのは愛洲めだか。

 防人は答えつつもいかにしてこの境地を切り抜けるか思考する。

 ……とりあえず、ここから出なくては。

 旅館の鍵は腕に巻いてるし、服さえ着てれば、着替えられる。化粧もクレンジングもこういった事態に備えて用意していたものがある。


 着替えの途中、誰が入ってきても良いように奥の方に移動したのは失敗だったが、幸い通路はヒト2人分とベンチが設置できるほどの広さはある。

 上手いこと彼女の間を通り抜けて逃げれば、とそこまで考えて、ふと閉じているカーテンに目が留まる。


(……いや、駄目だ!)


 あそこにいるのはめだかの部下である2人。

 静かなシャワールームの中でカーテンが開く音は聞こえた覚えがなく、出ていった記憶はない。

 多分、逃げようとしたところを捕まえようと身構えている。


 参ったな……どうしよう?

 ここがゲームならQTEが発動して、こう颯爽と抜け出せるってものだけど……むぅ、2人の様子が見えないんじゃ来たときの対応が難しい。

 どうしたものか。


「フフフ……気付きましたか? そう、防ちゃんはここに入った時点で詰んでいるのですわ!」


 ドヤ顔で胸を張るめだか。

 勝ち誇ったその顔が絶妙に防人の癪に障り、絶対に着てやるもんかと反抗期の子どものような反発心を芽生えさせる。

 しかし、袋小路に追い詰められているこの現状は変わらない。


(さて、どうしようか)


 ふと、自分の手に視線が向かう。

 腕に巻かれている手枷。

 伸びていた鎖を意図的に消すことで近未来的デザインのブレスレットにも見えなくはないそれは待機状態(スリープモード)の形態をとっている防人の専用機体──WEAPONsウェポンズGEAR(ギア)光牙(こうが)』である。


 これを使えば問題なく逃げることは可能だろう。

 だが、これを使うのは流石にやり過ぎだ。ゲームでいうところのチートプレイヤーであり、ルール違反というものである。

 それに仮に使用するとしてもこんな狭い中でGW(ギア)を身に纏えば、この部屋は無事では済まないだろう。

 理由はどうあれ壊してしまえば弁償をしなければならないのは当然であり、現在建物の修理費用など支払えるだけのお金なんてものはない。


(下はブーメランパンツだと思えば──いやいやいや、ないないない。絶っ対にない!)


 あれを履いたはあくまでもボクサーパンツの上からの試着であり、直に履いた事はまだない。

 もういっそのこと、と開き直り諦めかけるも想像で脳裏に浮かび上がった水着姿に羞恥心が爆発。即座にその思考を否定する。


「悪いけど、僕は抜けさせてもらいます」


 一か八か、後方に下がり、助走をつけて左側に方向転換。すると見せかけてベンチへとジャンプするとそのまま出口まで駆け抜けていく。


「流石、防ちゃん。でも、こんなこともあろうかと!」

「悪いけど……」「めだかちゃんのお願いだからね〜」


 めだかの合図に、勢いよくカーテンが開く。

 2人の手には大型のクラッカのようなものが握られており、後部のレバーを引くとポンッという小さな破裂音とともに捕獲用の網が発射される。

 とはいえ、想像できていたのなら対策は出来なくはない。

 飛んでくる捕獲ネットの到達タイミングを見計らい、バックステップ。そのまま通路の床に着地すると再び出入り口へと向かって走る。


「よし、このまま……」

「フッ、リリスちゃん!」

「──なっ!?」


 リアライザーによる光学迷彩が解け、目の前に突如姿を現したのは水着姿のリリス。

 出入り口を目指していた防人に飛び込んできた彼女の腕は防人の腰にガッシリと回され、衝突の勢いをそのまま防人は後ろに倒れる。


「痛つつ……」

「隙を生じぬ二段構え、いえ三段構え。ですわ」


 してやったり、とめだか達は防人を囲むようにして見下ろしてくる。これではもう逃げられない。

 水着姿の女子たちに囲まれて、こうして下からの素敵アングルを覗いた罰として女装する。

 そう、思うことにした。けど、やっぱり羞恥心が勝る。


「残念ですけど、僕がこの浴衣を脱がなければ水着は──」

「あらあら、(わたくし)の脱衣テクを忘れたわけではないでしょう?」


 抵抗虚しく、瞬く間に防人の服は剥かれてしまった。


「さぁ、防ちゃん。着てくださいな♡」

「…………はい」


 もはや、何も言うまい。






『海の家』

 学生達からの要望により、建設された一階建ての木造建築。

 元々造られていた日除け・休憩スペースの隣に併設された。

 多くの柱によって支えられ、海に面した出入り口付近の壁は低く、開放感ある作りとなっている。

 また、日除けのための(すだれ)が用意されている。


・店内:素朴ながら繊麗された造りの店内にはベンチやテーブルが並び、遊び疲れた人たちが横になれるよう舞台──飲食店の座敷のように高くなっている一角が用意されており、壁には夏らしいポスターが貼られている。


・カウンター:テーブル側には料理を行うための鉄板やコンロのほか、瓶ジュースなどが売られていそうなレトロな雰囲気の冷蔵庫が設置されており、内側には食品保管用の冷蔵庫やカキ氷やソフトクリームといった氷菓子用の機械が設置されている。


・海の家、裏口:裏口の扉からは貸出所に直行出来るようになっており、当日はサーフボードや浮き輪などが置かれるスペースとなっている。


・海の家の看板:リリスや星那(セナ)達によるアレンジが加えられた。


・休憩スペース:元々用意されていたサンシェードによって日除け対策が行われていたスペース。

 海の家建築にあたり、テーブルの再配置やパラソルなどが追加された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ