012『始まりの興奮と迫り来る絶望』
しばらくして周囲に気が配れるほどには操作に慣れてきたと感じられる頃、防人は自己判断で滑走そして滑空の訓練を終了させると次の説明へと移る。
敵からの攻撃の際のセンサーによる警告表示などの説明を受け、一対多数の攻撃を避ける練習を行った。
そしてチュートリアルの最後、実戦訓練が開始される。
『これが本試験において戦闘を行うG.W.――守護戦士になります』
そう放送が流れ、光の中から現れたのは一体のG.W.――ガーディアン。
名前から想像できるようにゴツゴツとした白い装甲を持っており、その右腕部には細い盾のような大型のレールガンが装着され、腰の鞘には真っ直ぐな鍔を持ったシンプルな直剣が納められている。
また兜のような頭部も相まってそのシルエットは歪な騎士のようでもあった。
『それでは先程までの技術を使い、装備を用いてG.W.を撃破してください!』
まずは一体、開始の合図とともに防人は腰の小太刀をゆっくりと抜いて握りしめ、先程までの移動手段を使って棒立ちで攻撃を仕掛けてくる敵の方へと近づいていき、刀を振るう。
両断された敵は光となって爆発四散。
戦闘は地上のものと空中のものが一度ずつ行われ、次はより本格的な戦闘へと移る。
『お疲れ様でした。次が最後となります。今までの練習を活かしてガーディアンを12機、撃破をお願いします。――それでは、始めて下さい!』
地上と空中、まず三体ほど現れたガーディアンたちはレールガンを構えるもの、腰の剣を抜くものに分かれ、戦闘の合図が鳴る。
「――っ!」
防人は集中し、意識を向けるとフロートパックのジェット噴射によって宙へと浮かび上がると背の翼を開け、空を舞いながら敵との交戦を開始。
身に纏ったG.W.が前方の敵からの攻撃を警告、防人はそれに反応しつつ先に左右に避けて弾丸を回避しつつ接近する。
「1つ! 2つ!」
防人は次々に現れるガーディアンを手にした刀を振るい、両断していきつつも先程の練習内で発見したワザを試してみる。
それは頭部を攻撃、破壊すること。
ガーディアンからの攻撃警告の際に頭部に与えたダメージによって敵機を一撃で撃墜したそれは偶然にも見つけたものだ。
しかし、逆にそれを利用することが出来れば今後行われるであろう試験を有利にこなしていけるかもしれない。
――今!
防人は隙を突いて接近すると再度の確認のために敵の頭部へ目掛けて刀を振るい、切り落とす。
目立ったダメージエフェクトなどは無く、地面に落ち、跳ねる敵の頭部のみが金属の音を小さく響かせる。
同時に残った胴体部の動きは停止、力無く膝をついて地面へと倒れたガーディアンは光の欠片となって四散し、消滅した。
「5つ!」
視界に映る撃墜数が1つ追加されるのを見てこれはこのゲームでの仕様であるのだと確信する。
「6つ! 7つ!」
とはいえ敵は人形。
それならば頭部への攻撃はゲーム好きであれば普通に考え付くことで、もしかしたら気づいていない人は受験生の中にはほとんどいないかもしれない。
そう考えるとこれを知っているのと知らないのでは大きな差が生じる可能性が高い。
「8つ! 9つ!」
防人は残り3体の敵の位置を視界に表示されたミニマップから素早く把握すると攻撃を避けつつアンカーを用いて空中の敵を撃破。
素早く旋回しつつ地上の残り二体を視野に捉える。そして装甲間から取り出した短剣をその一方へ投げ下ろすとともにもう一方へ向けて急降下する。
一方の敵機は脳天へと突き刺さったダガーによって活動を停止、もう一方は真一文字に振り下ろされた小太刀によって二つに切り分けられた。
「ふぅ~……」
間をおいてアンカーによって破壊された敵機が地面へと落ち、砂埃を上げながら光となって消える。
『敵、12機の撃破おめでとうございます。これにてすべてのチュートリアルが終了となりますが、もう一度行いますか?』
防人は問題無いと判断し、小太刀を鞘へと戻すと視界に浮かぶ≪終了≫文字に触れる
『了解しました。それでは試験開始までしばらくお待ちください』
放送が終わり、防人は再びあの鉄の部屋に戻ってくる。
「――っとと」
同時に身に着けていたフラッグも光の粒となって消え去っていき、防人はバランスを取って着地すると静かな時間が訪れる。
先ほどとは違い、室内にはゆったりとしたBGMが流れており、どことなく不気味だった雰囲気も抜けている。
結構な時間をかけていたのですぐにでも試験が始まるとばかり思っていたが、どうやらそういうこともないようだ。
やはりみんな操作訓練で手こずっているということなのだろう。
「お、これは?」
何気無く円柱のパネルをいじっていると《解説》という新たに追加されていることに気づき、防人はその項目に触れる。
すると先ほど受けたチュートリアルの内容が1枚絵と文章によって書かれたものが表示される。
特にすることもなく、防人は先程の感覚を思い出しながら内容を読んでいると無人のG.W.『ガーディアン』についての説明も発見する。
早速、と防人は項目に触れ、表示された内容を早速読み始めた。
◇◇◇
《G.W.名》
・守護戦士
インプットされた多くの行動パターンによって動く無人の機体。主に拠点防衛や偵察、周辺警戒に運用される。
敵からの捕獲、鹵獲を防ぐために最悪の場合、保存された全データを消去後、自爆する。
万が一捕獲された場合を備え、装備している武装や機体性能は普通よりも少しだけ高い程度にとどまっている。
コストを抑えるためフィールドバリアーなどの特殊な機能は搭載されていないため破壊されやすいが、すべてが機械でできているためパワーが高く、人の生きられないような環境で活動が可能。
また当然ながら人にはできない動きを行うことができる。
《武装・説明》
・大型リニアライフル
腕部に装着された弾丸を電磁力で高速射出する射撃兵器。
専用バッテリーやロングバレルなどのカスタムによって大型になっており、取り回しはしづらいが高い威力を持つ。
牽制用の連射と破壊力の高い単射の二種類のタイプに切り替え可能。
・対G.W.用直剣
腰側面に取り付けられた鞘に納めらている実体剣。
特殊な合金製のその刀身は高周波振動によって鉄をも軽々と切り裂く切れ味を発揮する。
またその耐久性は光学兵器の一撃を耐えうるほど。
・自爆機構
文字通り、胴体部分にある爆薬を爆発させ、自分自身及び周辺を吹き飛ばす。
他に手がなくなった際の最終手段。
保存された戦闘データなどを完全に消去した後、発動する。
※今回の使用はありません
◇◇◇
入学試験の第二次試験。
そのチュートリアルを終えた防人がのんびりと文章を読んでいると室内のスピーカーから注目を促すためのベルの音が聞こえてくる。
――時間かな?
防人は表示していたものを全てを閉じながら、放送される内容に耳を傾ける。
『皆さん大変お待たせしました。それでは皆さんが無事、チュートリアルを終えられたことを確認しましたので次へと進ませて頂きます』
カチャリと鍵の外れたような音が鳴り、この部屋へ来るときに通ってきた扉がゆっくりと開く。
『受験生の皆様、これより行われます試合は二人一組による試験となっております。扉の先には今回あなた方の相棒となる相手が待っておりますので、互いにしっかりと挨拶を終えましたらパネルからこちらに知らせてください。それでは移動をお願いします』
「え? ……ん~」
――いきなりどうぞって言われてもなぁ……ここで知ってる人なんてあいつぐらいしかいないし、確実に始めて会う人に当たるよなぁ。
かといってここで躊躇なんてしてたら他の人達にも迷惑をかけるし……仕方ない。
「ス~ハ~ス~ハ~……よしっ!」
防人は大きく深呼吸をしながら本日何度目かの覚悟を決めると扉の光の中へと足を踏み込む。
真っ白な光の中を少し進むと先程と同じだが、一回りは大きな部屋へ到着する。
――えっと、あの人かな?
到着してパートナーであろう人物を部屋の中央に発見するが、ここからではどんな人なのかはよくわからない。
服装は自分と同じスーツを着ており、髪は短く、ボサボサとしている。
――良かった、男の人っぽいや。
異性でなく同性であった方が個人的に話しやすいと防人は安堵の息をもらす。
だがそれでも引っ込み思案な性格である防人にとっては初対面の人物に対して話しかけるということはとても緊張のする行為であることに変わりはない。
――いいか、第一印象が肝心だ。声が小さくなってしまったり、逆に裏返ったりしないようにして、それから顔は笑顔で相手に不快な印象を与えないようにして……。
防人は緊張から早まる鼓動を幻想つつゆっくりと足を進めていきながら内心で自分に言い聞かせる。
――えっとそれから挨拶は足を揃えて背筋を伸ばし、胸を張る。それから最後に腰を曲げて頭を下げて挨拶を!
「こ、こんにゅちわ――ぁっ」
緊張からか上ずった声の挨拶。また少し噛んでしまった事に防人は焦りを感じる。
変な風に思われたりしないだろうか?
なんだこいつと笑われたりしないだろうか?
そもそも挨拶の作法はこれで合っていただろうか?
様々な心配が一度に防人の中で渦巻く中、目の前に立つ男性は彼の声に気づき、振り向くとグッと力強く親指を立てる。
「おう、お前が俺様の仲間か? 植崎 祐悟だヨロシクな!」
「…………。」
――植崎かよぉ!
そう声に出したい感情を抑え、苦く歪んだ表情を普段のように戻し、気持ちを落ち着かせるとゆっくりと顔を上げる。
なぜなのか検討もつかないが、相手が植崎だとわかった瞬間、今までの緊張や失敗、焦りなどを色々と感じていた事がバカらしくなってしまった。
「ん? ぉお!! 慧じゃねぇか! いやぁーまさかお前と一緒になるとはすげー偶然だな。ま、ヨロシク頼むぜ!」
今の彼の心情なんて知るはずもない植崎は防人へと近づいていき、握手をするために手を伸ばす。
「ああ……」
――なんだろう? コイツとわかったとたんに哀と怒りと悲しみが……って今はそんな場合じゃないか。
「うん! よろしく」
気持ちを切り替えるために声を張り、返事をすると伸ばされた手をつかみ短く握手を交わす。
知っている顔同士なので特に話す必要もないため、二人はすぐさまパネルを操作して挨拶を終えたことを伝える。
「んじゃま、話っつってもなに話すんだ?」
「ん~そうだなぁ。まぁ、普通は今回の試験について話すのがいいんじゃないかな?」
「おう! んじゃよ、ケーはさっきのロボット何選んだんだ?」
「ロボって……まぁ、いいか。えっと僕が選んだのはベータの――刀を持ってたやつだ」
「おぉやっぱケーはアレにしたんだな!」
「まぁね。で? お前は何にしたんだ?」
「そりゃミサイルのデケェやつに決まってんだろ!」
「ふぅん、そっか……」
――やっぱりね。
想定していた通りの返答に防人は首肯しつつ納得する。
植崎 祐悟の選択した武装パターンはγ。ミサイルポッドが多数取り付けられたホバー機能付きの重射撃特化型で近接用の武装は一切無し。
……こいつらしいと言えばこいつらしい。
まぁ偶然とはいえ前衛と後衛がしっかりと分けられたのは好都合かもしれない。
「あぁそういやそれってホバー機能付いてたみたいだけど、動かしてみてどうだった?」
「おう! 道を滑るってのはなかなか面白かったぜ!」
「へぇ……それで?」
「そうだなぁミサイルがボンって爆発すんのは見ててなんつうか楽しかったぜ!」
「いや、そうじゃなくてホバーについてどうかって聞きたいんだけど……」
「おん? そう言われてもなぁ、地面滑るってのが初めてで……凄かったっつうぐらいだぞ?」
「あぁ、そうなんだ……」
――う~ん、いまいちピンと来ないなぁ……地面を滑る、か。どんな感じなんだろ?
ローラーダッシュのそれとは違う感覚なのは想像できるが、体がわずかに浮かび上がり飛行のそれとも違うように地面を滑る。
頭の中でどういった風なのかはイメージは出来るが、感覚は想像つかない。
もし、今後それを利用する場面に出会わなければいいが……。
そんな心配を抱えつつも防人はしばらくの雑談を交わしているとスピーカーからベルのような音が再び室内に響く。
「お? そろそろみてぇだな」
「だね」
時間が来た。
二人がそう理解する内に室内が光に照らされ、各々が選択した武装を身に付けたG.W.が光の中から現れる。
『みなさまお待たせしました。受験生全員の挨拶を無事終えた事を確認しましたのでこれより次の試験へと移らせていただきます』
室内のスピーカーから放送係りの女性――神谷 愛の声が響き、二人の視界には一つの小さなモニターが浮かび上がる。
◇◇◇
≪試験内容≫
時間いっぱいまで守護戦士を落とし続けろ。
≪制限時間≫
30分 (1800秒)
≪勝利条件≫
時間いっぱいまで生き残る。またはスコアを全体の内、上位100位以内に入る。
≪敗北条件≫
自機またはパートナーの撃墜。
◇◇◇
モニターに書かれた文章に目を通し、確認を終えた二人はモニター下部の『OK』に触れるとしばらくして放送が再開する。
『全員、確認がとれたようですので次へ進ませていただきます。えー、これより先は試験として録音された内容となっておりますのでご注意下さい。……それでは皆様のご武運をお祈りします』
放送が終わり、突如室内が赤く点滅。スピーカーからけたたましい警報が鳴り響き、音声が放送され始める。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 現在、基地周辺を敵の大部隊が接近している模様! どうやら第13独立部隊が敵に尾行されていたようだ。そこで諸君らにはその掃討を行って貰いたい!』
「――おおっ本格的」
気合いの入った男性の力強い放送。
これがゲームにおけるロールプレイの一環であることは明白だが、始まったそれらしい雰囲気に感化され防人の気持ちは大きく高揚する。
『カタパルト始動! 出撃準備に入れ‼』
掛け声とともに高い音を立てながら室内の装置が起動を始め、部屋の『出撃ハッチ』である巨大な扉が白い煙を上げながらゆっくりと開く。
中央の円柱パネルから細い三本の光がハッチに向かって伸び始めると同時にパネルからハッチまでの床が開き、その中から二本のレールが現れる。
「お? なんだなんだ?」
植崎が驚きの声を上げる中、二人は先程選択した各々のフラッグに乗り込む動作が開始される。
アームによって装着されたヘルメット。そのバイザー部分には制限時間≪0:30:00≫と総撃墜数≪0≫という表示が追加され、G.W.が起動する。
「なるほど、通りで部屋がでかいわけだ!」
「ん、どうすんだコレ?」
「ほらあれだよ。こういうロボット的なゲームにはよくある定番のだよ! こんな感じでさ!」
「お、おうそうなのか?」
二人は固定された状態でフラッグが移動。二人の乗った機体に取り付けられたアームが外れ、台座部分とレールが接続される。
防人は満面の笑みを浮かべながら身を若干低くすると植崎もそれを真似て腰を落とす。
『カタパルト搭乗確認! 座標調整、加速輪射出‼』
聞こえてくる放送に合わせ、3つの銀色の輪がハッチの淵から外れるとハッチから伸びる光に沿って移動、一定の距離を開けて空中で停止する。
『重力発生装置安定。各リング、ジェットブロー開始』
音を立てながら台座が僅かに上昇し、目の前に見える光の道とリングの位置がわずかに歪む。
『射出角調整完了。各リング起動完了。光通路生成完了』
複数人のテンポ良いハキハキとした声が聞こえ、そのやり取りは本当に漫画やアニメで見たもののようで防人のテンションはいよいよ最高潮に達しようとしていた。
『システムオールグリーン。出撃のタイミングを皆さんへ譲渡します』
「あ?じょうと……なんだそれ?」
「あぁもう。……植崎!」
「おう、なんだ?」
「今から言うことを僕に続いて言ってくれよ」
若干の早口で満面の笑みを浮かべる彼に対して状況を飲み込めていない様子で植崎は立っている。
「お、おう、どういうことかよくわかんねぇがわかったぜ!」
「あぁ、そうそう名前はちゃんと自分のを頼むぞ」
「おう!」
「それじゃあ……防人 慧! フリーダム・フラッグ、ベータ。行きます‼」
「植崎 祐悟、フリィダム・ブラック? 行くぜ!!」
嬉しそうに叫ぶ防人と戸惑いの混じる反応を見せる植崎。
声を合図に二人の乗った台座は激しく火花を散らしながら高速で前進し、二人の身体をものすごいスピードでハッチから外へと投げ出した。
「ぅお! スゲェ早ぇーな! どうやってんだ? これ!?」
「さぁ、詳しくは知らないけどリニアレールカーと同じなんじゃない?」
「リニア?」
「えっと、買い物とかで乗る電車の――まぁ要するに電気と磁石で物凄く早く動けるやつだよ」
「おーん、そうなのか?」
「そ。というか植崎の台詞はあれでよかったのか?」
「ん、何がだ?」
「……分かんないならいーや」
「――? そうか」
話している間に二人はアクセルリングと呼ばれていた鉄の輪っかを潜ると方向が斜め上へと変わり、ふわりと体が押されるような感覚とともに更に速度が増していく。
射出された3つの輪っかを潜り抜け、二人は空高くへと打ち出された。
「おぉーー‼ すげーなこれは‼」
「うん、すごい」
興奮混じりの二人の声。
大空へと飛び出した彼らはバイザーのレンズ越しにその広い世界を見渡す。
地平線まで伸びる青い空に浮かび流れる白い雲。眼下には青い海が広がっており、大小さまざまな形をした緑に覆われた島々が転々としている。
「って景色を見渡している余裕はないか」
防人はチュートリアルで受けた説明の通りに腰のコントローラーに触れ、意識を集中。背の翼を広げると同様にボタンを押して二人の通信機の回線を繋ぐ。
そして簡易マップに植崎が友軍として表示されていることを確認する。
「植崎、聞こえるか?」
『ん? おう、聞こえてるぜ。んでこれは通信ってやつか? 何か耳元で話されているみたいで変な感じだな』
「まぁ普通に考えてスピーカーは耳元にあるだろうからな。さて、じゃあ早速目の前にいるやつらから落として点数を稼ぎに行くぞ!」
『おう、あったりま……ぇ? おわぁぁぁぁ!』
「あぁ?!」
発射時の速度が落ち、空中で飛翔翼の展開を行っていなかった植崎は身に付けたG.W.もろとも重力に従って落ちていく。
「ちょ、何やってんだ植崎!? お前、飛び方の説明もされてただろう!!?」
かなりの高度からの落下。この高さでは仮に海面に落ちたところでコンクリートに落ちるのと変わらない。
いくら身を守る機能が多数装備されているG.W.といえど現実であればバラバラになるだろう。
『いや、そうなんだけどよ。どうすんだっけ?』
「えと、腰のところにコントローラーがあるだろ?」
『おう! これか?』
「そう、それでそのコントローラーの――!?」
説明の最中、接近してきた敵機――ガーディアンからの攻撃警告。
マップには敵を示す赤いマークが複数見られるが、幸いまだ距離があるからか攻撃自体はまばらで大した脅威ではない。
とはいえ、このままではマズイ。
「植崎‼ とにかくこれに捕まれ‼」
防人は感情のまま大声で叫びながら左腕についたワイヤーアンカーを植崎へ向けて射出し、捕まるように指示する。
せめて落下ダメージが生じない安全な高度まで運ばないと。
『おし、掴んだぜ』
「よし、このままゆっくり降りて――うっ重!」
想定していたよりも機体が重く、推進力の足りなかった防人のG.W.は植崎に引っ張られ、落下していく。
『お、おい! このままじゃ落ちてぶつかっちまうぞ!?』
「わかってるよそんなこと! えぇい、減っ速‼」
防人はワイヤーをしっかりと両手で掴むと重さが体の中央にくるようにバランスを取りながら上へ上へと強く意識すると背中のバックパックそして両脚部に取り付けられたブースターを目一杯に吹かして落下速度を落として行く。
しかしその間、敵が律儀に待ってくれるはずもなく、次々に集まってくるガーディアンたちは二人を取り囲むと手にしたライフルを構え、しっかりと狙いを付けて銃口をこちらへと向けてくる。
『このやろー‼ おらぁ、喰らぇぇ‼』
植崎はワイヤーを片手でしっかりと握りしめ、取り付けられたマイクロガンを上空の敵へと向けるとグリップ部を握りしめて引き金を引く。
無数の弾丸が轟音とともに放たれ、その反動によって植崎が振り子のように揺れる。
「わっ! バカバカバカ‼ バランス崩れるだろうが、ミサイルも打つなよ!? 攻撃も外してるしさ‼」
『じゃあどうすんだよ! だた撃たれろってか!』
「それは……あぁそうだコントローラー」
焦りからすっかりと忘れていたそれを防人は思い出すとそれを伝える。
『コントローラーって腰のコイツでいいんだよな?』
「そう、お前の腰の辺りに取り付けられてるボタンがたくさん付いた奴だ。まずはそれを掴んで――」
『「あっ――」』
防人の見守るなか、植崎は手にしたコントローラーを滑り落とす。
『だ、大丈夫だってもう一個あっからよ』
「慎重に頼――っ!」
再びの敵からの攻撃警告。
高速で飛んでくる弾丸の多くは二人の位置から外れたところを通過するもその全てが外れるわけもなく、何十と飛んでくる弾丸のうち、数発が直撃する。
G.W.の防御機構――ABFと呼ばれるバリアーによって弾丸は火花を上げて弾かれるが、衝撃はしっかりと伝わり、ワイヤーが大きく軋む。
『おわっ!?』
同時に衝撃によって手にしていたコントローラーは手元から離れていった。
『あー……』
「あぁっ! バカ! なんでちゃんと慎重に取らないんだよ!?」
ワイヤレスで無かったなら。悔み切れない気持ちが沸き上がるなかで落ちていったコントローラーは海へと落ちて沈んでいく。
『あ、あはは……わ、悪りぃ』
「いや、もういいよ……あぁ……」
――最悪だ……。
このG.W.には学園側の処置としてバリアーが取り付けられてるから多少の攻撃は防いでくれているけれど、このままじゃ攻撃を避けることは出来ないから結局はやられるのが遅いか早いかの違いでしかない。
しかも高度もまだあるから、降りるのにも時間がかかる。
ここはもういっそのこと一気に落下して――いやけど、タイミング良く止まれなかったら結局はオダブツだし。
くそっ、心なしかさっきよりも攻撃が激しくなっているように感じる。
あぁ……もしかしてここで終わってしまうのかな?
1年という月日をかけてわざわざゲームやら漫画やらを自己封印したってのにそのゲームのせいで? 数分でその1年が終わってしまう?
「グッ、こんちきしょぉーー‼」
防人は諦めの感情に揺り動かされ、涙の溢れる両目を力強く瞑る。
そして、彼は裏返るほどの大声をヤケクソぎみに叫んだ。




