134『男女友達、もう一人の僕』
(なんか増えとる!?)
見知らぬ男性。
正確に言えば先程までレジに立っていた青年が目の前に立っていた。
防人は男であるとバレたくない恥ずかしさから思わず作り物である胸を手で押さえ、股間部を見られまいと腰をひねり足を上げて隠そうとする。
まぁそれでもパンツを見られればバレバレかもしれないが、確信は持たれたくない。
「な、何なんです!? 貴方は!」
ピョンッと後ろに跳ねつつも素早くカーテンを締めた防人はそのまま顔だけを出しながら、青年へと尋ねる。
「あぁすみません。俺はこの店の経営者のようなことをさせていただいております。名を乙瀬 遍羅と申します。よろしく、防人君」
見た目に反してかなり高めの声音をした男性はこちらへと向けて爽やかな笑顔を向けると実に見事な姿勢でお辞儀をする。
いや、しかしコレは高いというより、女の子の声のような?
一体どういう……と、いけないいけない、そんなことに疑問を持っては。
人それぞれだ。
見事なほどに整った顔つきをしたイケメンから聞こえてくる声は低めながらも女の子らしさのある声。
それは彼にとってはコンプレックスになっている可能性は大いにありうることだ。
加えて、初対面である相手にそんなことを念頭に置いて話すのは失礼極まりない。
「あぁえっと……オーナーみたいな事とは? というかなんで僕の名前を知って」
「あぁそれは書類上での形ではってことですよ」
「書類上……?」
「はい。会計とか品出しとか商品管理とかそういった諸々は俺の管轄みたいなとこあるんでオーナーみたいって言えるってことです。実際は彼女がオーナーなのですよ」
そういって彼は愛洲めだかを手の平を向けて差す。
「え゛!? オーナーって、どういう……」
「とうぜんでしょ? あれだけの衣装を作るのにどれだけお金がかかると思ってるのかしら」
「あぁ…………」
言われてみればたしかにそうだ。
部屋を埋め尽くすほどの衣装。あれらを1から作っているとしてもその素材代は馬鹿にならない額なのは間違いないだろう。
会うたびに防人が着させられてきた素晴らしい出来栄えの新作衣装たちであったが、あれだけの量をいくら部室が広く使えるからといって次々と置いていけるものではない。
たまに減っている気がすることもあったので、原型として彼の元に持っていってお金へと還元していたということなのだろう。
「めだか様の衣装は本店の方で出させてもらってますが、大変好評でして我々も安心して仕事が出来るのですよ」
「へぇ〜」
あれだけ精巧な、そして上質な素材で作られた衣装だ。
流石にここで数千円で売られているようなものではなく、もっと高級感溢れるお店で売られているのだろう。
そう簡単には普通の人の手に届くような値段ではあるまい。
服の相場など知る由もないが、数万は軽いだろうということくらいは想像つく。
なんだったら十万円を越えていてもおかしくないかもしれない。
そして、防人のその想像が事実であると証明しているかのように目の前の男性が着ている服はここでは不釣り合いなほどに高級感あるブランド物のスーツであった。
「え!? まさか……」
ここはショッピングモールの一店鋪。
流石にこの場所では場違いで浮いてしまっているほどに高級感あるスーツ姿だが、高身長ということもあってか、よく似合っている。
それだけのお金を有している事を少し疎ましく思いつつ防人は視線を彼の胸元へと下げていき、驚きのあまりその目を見開いた。
「そ、それって」
「おや、分かりますか?」
胸に付けられた『宝石衣礁(JCR)』のロゴ。
それが最高級の店の名前であったことを防人は実家にて暮らしていた際、湊の愚痴から覚えていた。
流石に店で仕事をしている者が他店のブランドが記されているような制服を身に纏うとは思えないので、そう考えると自然と彼が着ているブランドがめだかの経営している店のものということになるのだろう。
「こちらは当店の制服です。めだか様が私に合うようにと採寸していただいたものなのですよ?」
そして防人の予想を今、彼が言葉で証明してくれた。
だが、その言葉は同時に驚きと疑問を浮かび上がらせる。
(男が苦手なめだかさんが服を?)
よく考えてみるとおかしな話だ。
男性に対し、強い嫌悪感を感じるはずの彼女が今こうしていることに。
少しは慣れてきてはいるもののまだまだ白石などに対して表情が険しくなってしまっているというのに。
無理をしているのではないか? とも思ったけれど今の彼女を見るに特に問題はなさそうである。
いつも通り、普通にしている。こちらを見て笑みを見せているあの顔がどこか我慢をしているというようには見えない。
いやだがしかしそんなはずはないだろう。
普通にしているように見えているだけで実際はかなり無理をしているのではないか?
それほどまでに彼女は男性への苦手意識があるのだ。
「あの、めだかさん。ちょっといいですか?」
男性とともにいる。
それ自体が彼女への相当な負荷となっているはず。
まぁそれを言ったら防人慧は何なのかという一抹の疑問はあるが、そんなことは今はどうでもいい。
彼女が苦しんでいるというのならこの場を離れることが、その口実を作ることが最優先だ。
「あの、あの人といてその、大丈夫なんですか?」
とはいえ、それが勘違いという可能性は大いに有り得ること。
ならばこうしてしっかりと事実確認は取るべきだろう。
「あぁそっか。確かにそうですわね。防ちゃんからしたらそうなっちゃうわよね。遍羅ちょっといいかしら?」
「はい、めだかさん。どうかしましたか?」
名を呼ばれ、手招きされた彼にめだかはそっと手を触れる。
「──っ!?」
そう、触れたのだ。
あれほどまでに異性を、男性を忌避していたはずの彼女があぁもアッサリとさも自然であるかのように。
これは、良かったと褒めるべきだろうか。
自分が気付かぬうちにそれほどまでに異性を克服しているのであれば、それは確かに喜ぶべきなのだろう。
でも、それならばこれまでの自分は何だったのだろう?
驚きもある。安堵もある。
だが、自分ではない男にこうも簡単に克服させられてしまっているというのは、解せない。
「あの、めだかさんおめでとうございます」
「……はい?」
これは嫉妬というべきなのか。
それともこれはあの男への怒りなのか。
よくわからない。
よくわからないが……それを言葉とするならば、少なくとも自分としての立場が居場所が失われるような、足元から崩れ、それに飲み込まれるかのような深い深い深い感覚だろうか。
グニャリグニャリと視界が歪み、ここにコンマ一秒でもいたくないという気持ち。
自分という存在を否定されているかのような。
「防ちゃん!? どうして泣いてるの?」
「お兄ちゃん? どこか痛いの?」
──おい、落ち着け。
「──っ!? (カイ──)」
──言うな! 今の俺はお前だ。サキモリだ。
つーか、お前な、こんな程度で揺らぐんじゃねぇよ。
俺等のかつての苦しみはこんなもんの比どころじゃねぇだろうが。
「(そう、だったね。ごめん)」
防人慧とサキモリ。
かつて、まだ幼い頃。防人には友人がいた。
それは短い時間であったものの彼らは共に励まし支え合っていたのだ。
実際それがなんであったのか、どうだったのか、そこまでは防人はよく覚えていないし、しかもその友人は今自分の中に存在している。
少なくとも防人の記憶では友人は確実に存在していたはずなのに、何故今はこうして自分とは違う自分のような存在となってしまっているのか。
それは妄想だったのか思い違いだったのか。
そんな想像すらしてしまうほどに現状には疑問符しか浮かばないが……実際に自分の中に友人の記憶というか思考が存在していることは事実なのだ。
あの日、撃たれたのは防人だったはずなのに。
──そうだぜ。そりゃ俺らにとって今までの事が無駄だってのは耐え難い苦痛かもしれねぇ。
だがよ。めだかのコイツにしてやったことが無駄ってわけがないだろ?
これは自分の考えなのか、それとも他人の考えなのか。
頭に響くように聞こえてくるそれは間違いなく自分のものだ。
しかし、それは同時にまるで違う人物のもののようにも聞こえてくる。
重なっている。という表現は正しくないだろう。
この声は自分のものだ、自分のものだけだ。だから正確に言うのならば自分の声を借りた友人が喋っている。というのが本当のところ正しいだろう。
「(そう、だね。確かにあの時だって僕たちが頑張ったからリリスがこうしているんだもんね)」
誰かに必要とされない。それはとても悲しいこと。
これは少なくとも防人の持つ考えでも思考回路ではない。
だからこれは恐らく友人──サキモリの持つ思考なのだろう。
正確にはカイト、と言うべきなのだが………当の本人はそれを否定している。そう聞こえてきている。そう思っている。
だから、彼にとって──サキモリにとって誰かに否定されるというのは耐え難い苦痛であり、孤独なのだ。
どうしてそう感じるのかどうしてそう思うのか。
それは分からない。
防人にとっては知らないはずの知らない記憶。
それは本当に存在していたのか、はたまた防人慧の完全なる妄想なのか。それは本人にとっても定かではないのだ。
けれど、これは少なくともウソではない。
それだけは断言出来た。
──そういうこった。少なくともリリスだけは悲しませてはいけない。それだけは絶対だ。
「(うん、分かってる)」
今の防人に強く刻まれている悲しい過去。
それを思う度に感じる複雑な感情は今こうして涙として溢れている。
「お兄ちゃん?」
「ごめん、驚かせちゃったね」
涙を拭い、心配そうに防人の顔を見上げてくるリリスの頭に軽く触れ、大丈夫だよと笑みを見せる。
とはいえ何も理由を言わずにいては二人に心配をかけてしまうままなのは変わらないだろう。
「あの、すみませんめだかさん。僕、ちょっと驚いてしまって」
「驚くって……あぁ、遍羅ちょっといいかしら?」
防人の反応に合点がいったようで、めだかはベラを手招きする。
「いつものアレ、大丈夫かしら?」
「……あぁはい、大丈夫ですよ」
ベラから何らかの確認をとっためだかは次は防人へ近づいてくるよう言うと彼の手をつかみ、おもむろにベラの股の方へと持っていった。
「ちょっめだかさん!?」
突然のことに慌てふためく防人。
近くにいるリリスも驚き頬を赤らめている。
「──!?」
予想外の力で股間に押し付けられているものの防人はそれよりも早くいつもと違う感覚にも驚きを覚えた。
あるはずのものが……ない?
「びっくりした? そ、俺は女なんだ。あぁ元っていうべきかな?」
防人がゆっくりと顔を上げると彼──彼女はニコリと笑みを見せる。
それは先程していた接客スマイルではなく、明るいボーイッシュな女性を思わせるような笑顔であった。
「昔ひどい目に合ってね……あの学園にいる人ならなんとなくわかると思うんだけど、まぁ色々あったんだよ。で、女である自分が嫌になってしまったんだ」
色々あって、そう言うベラの表情は本当に悲しいものであった。
何があったのか、それは防人には想像つかなかったが、自分の姿が嫌になって身体そのものを作り変えたくなるほどだというのは……やはり容易く想像出来る経験ではないだろう。
「そう、ですか」
なんと言葉をかけて良いのか、防人が言葉に詰まっているとベラはこちらの心情を疑問を察したのか、説明を加えてくる。
「男性器はまぁ陰核を手術すれば手に入るみたいなんだけど、ねぇもしよかったら君のもらえない?」
「えぇ!? いや、さすがにそれは……」
「ちょっと、いくらベラでも防ちゃんの防ちゃんはあげられませんわよ?」
「いやいや、何を言ってるんですか!」
ぐっと腰を落とし、防人へと顔を近づけていくベラは笑顔で恐ろしいことを言ってくる。
驚く防人の間に入るようにしてめだかが食い気味で否定する。
おかげか、ようやくと股間から手が離せられたわけだが……。
というかまさか初めて触ることになった女の子の股か──いや、半ば無理やりなものだったし、そもそもあの見た目を女の子としてよいものか、男になりたがってるというかその見た目と声だけを除けば男の子といえなくもない人だけど、う~ん……なんか複雑な気分だ。
「はは、冗談だよ、冗談。めだかのお気に入りの子に変な事はしないって」
「笑えない冗談だって言ってるんですのよぅ!」
やはりこうしてみているとめだかが男性と仲良く話しているように見えて仕方がない。
まぁそれが本当であれば男性恐怖症の彼女にとって望ましい光景なのかもしれないが、それである種の妥協をしてしまっているとも言えなくはない。
とはいえ恐怖症をあれこれと考えるのはこちらではないし、医学的な知識に乏しい防人が積極的にその病をどうこうするわけにもいかないだろうということは前から思っていたことである。
とりあえず二人はこのままにしておくとしよう。
「それじゃこの前のジャケットは……」
「それは総合的には悪くないかと、あぁですがこちらのデニムは少々売り上げが落ちてきていますね」
「そう、じゃあ新作として今度新しい図面を送るわ。サンプルが出来たら送って頂戴」
「かしこまりました」
防人が私服(正確にはめだかの用意した衣服)へと着替えを終えると二人は衣装の売れ行きなど、仕事の話をしているようだ。
防人は邪魔をしないようリリスの方へと近づいていく。
「さ、リリス。水着を見に行こうか」
「え、でも……」
「大丈夫、しばらくしたらめだかさんだって合流するよ。このお店の中にいるんだし」
「えっとそうじゃなくて、やっぱり私、これが良いなって」
そう言って申し訳無さそうな顔をリリスは向ける。
確かにあれも悪くはなかったが、正直リリスに着せるにはどうも際どいというか、そもそもあのスケスケなのはいただけない。
たしかに可愛かったし悪いというわけでもない。だが、水着として機能しているのかといわれると微妙なところだ。
正直あのスケスケな素材は泳ぐのには適していないだろう。
「確かそれも良いと思う。でもね、もっと色んなのも見てみよう? そしたらもっと似合うのとか気に入るのがあるかもだから、ね?」
「……うん、わかった」
少し納得していなかった様子ではあったものの、防人はリリスからの同意を得ると彼女に似合いそうな水着を選んでいき、試着させてその様子を確認していく。
その間、めだかはベラとともにスタッフルームへと引っ込んでしまっていた。
「うん、悪くないんじゃないか? 結構可愛いと思うぞ?」
「うん、そうだね」
悪くはない。と思うんだが、どうもリリスは満足していない様子だ。
笑顔で頷いてくれるのはうれしいが、気に入っていないものを選んでしまうわけにもいかないだろう。
年相応で、悪くはないと思うんだが……やはりあのスケスケが良いんだろうか?
でもなぁあれは流石に際ど過ぎると思うんだよなぁ~。
とはいえ、今選んだやつ以外は逆に子供っぽ過ぎたりスポーツ用って感じで地味めなのばっかりだから嫌がるのは分かりきってるしなぁ。
「う〜む、どうしたものか……」
別の水着へと着替えている間に防人は悩み、喉を鳴らす。
リリスが気に入りそうで似合いそうな水着。
もっと自分にファッションセンスがあったらいい感じなものを選んであげられるんだけど。
ネットで、でもそれじゃわざわざ買い物に来た意味無いし、なんなら他の店も見てみるか?
「あれ? 慧君、来てたの?」
「どうやら二人に連れられてきたようですね」
そう思ったところでこちらに聞こえてくる声が二つ。
風紀委員長の『日高 竜華』と書紀の『彩芽 紅葉』である。
彼女らは他の店で水着を選んでいたはずだが、ここに来たということは気に入ったものがなかったということだろうか?
「……なら問題ない」
遅れて二人の後ろから、手に服の入ったレジ袋をもって千冬が姿を見せる。
防人はそれを受け取り、落とさないよう買物車に乗せるとシャッ、と音を立てながら更衣室のカーテンが開いた。
「どう?」
「……うん、良いと思うぞ」
防人はしばらく眺め、大きく頷くと良く似合っている事を素直に褒める。
側にいる3人も似合っていると褒めてくれているもののリリスの笑顔は少し固い。
それだけあのスケスケなワンピースが気に入ったということなのだろう。
「ん〜……リリス。どうしてもこれじゃなきゃダメか?」
「……う、うん。それが、良い」
念の為の確認。
防人の言葉に小さく頷くリリスを見て、防人は頭を悩ませる。
「あの皆さん、ちょっと良いですか? 実は……」
リリスの要望は叶えてあげたい。けれど、あの際どいのを着させたくはない。
板挟みとなり、どうするのが正解かと困り果てた防人は一個人では結論が出ず、側にいた3人に説明して協力を仰ぐ。
「う〜ん、確かにそれは……」
「アウトですね」
「ですよねぇ。どうしましょう?」
三人寄ればなんとやら。
そう思って声をかけてみたのだが、日高竜華と彩芽紅葉の二人は防人の手にしている水着に難色を示している。
「……それ、貸して」
「あ、はい。どうぞ」
1人、黙っていた千冬は防人から際どい水着を受け取るとそれを静かに何度か左右に傾けたかと思えば、スケスケなワンピースのみを手に取り、今度は天井へと掲げてみせる。
「千冬、どうしたの?」
「……この透明なやつ、キラキラしてて凄くキレイだから」
「あっ、本当だね」
対面が薄っすらと透けて見える美しいシアー素材をふんだんに使用したワンピースにはほんのりとラメ加工がされているようで、それが店内の照明に反射してキラキラと美しく輝いて見える。
こうして改めて見てみると何故気付かなかったのかと思うほどには美しい一着であり、下に着るためにセットとなっている水着があれほどまでに煽情的でなければ良かったのにと思えてくるほどである。
つまり、この美しさに気付いたリリスが宝物を見つけた子供のように、そのワンピースを欲したということなのだろう。
「そういうことでしょうか?」
「そういうことなんじゃない?」
防人らも似たような結論に至り、顔を見合わせながらいつの間にか私服姿に戻っていたリリスの方へと振り返ると彼女の方へと透明なワンピースを見せながら問いかけると
「リリス、これ欲しいか?」
「うん!」
彼女は嬉しそうに、そして力強く頷いた。
「そっか、じゃあ、下の水着はどう思う?」
「恥ずかしいけど、上のやつと一緒だから……」
「そっか、ならそれじゃ下に着る水着は別で選ぼう。そうすれば恥ずかしくないだろ?」
「え、いいの?」
リリスは嬉しそうに、目を見開き笑顔を見せる。
「良いに決まってる。それくらい気にするな」
と、防人も笑顔で返すが、正直なところ懐具合は芳しくない。
ある事件というか不手際というか、いつの間にか頼んでいたらしい部屋のリフォームのせいでかなりの額の請求書が届いてきたのだ。
まぁそれはなんとかなったし、良かったけれど専用機の光牙の修理やらの費用も馬鹿にならない値段であったことも言うまでもない。
本来であれば、水着を買うことなく少しでも節約をしていくべきなのだが、兄として妹の願いを叶えるべく、ひと肌脱ぐことくらいはどうということはない。
……決して無理はしていない。
「……うん、分かった」
「決まりだ。それじゃ、一緒に探そうか」
「うん!」
「慧くん、ちょっといいかな?」
早速と、水着を選ぼうとリリスに合うサイズのものが並べられている方へと足を進めようとしたタイミングで防人らは竜華たちに呼び止められる。
防人はそれに振り替えつつ答え、用件を確認すると
「どうせなら私達の水着も選んでもらえるかな?」
「……は?」
竜華は防人にとっては信じがたい言葉を口にした。
「いえ、流石に──」
「なら、我々もそれに参加させていただくとしましょう」
「異性からの意見は大事なもの」
本来であれば否定しそうな二人ではあるが、珍しく好色を示しているようで各々が気に入ったのであろう水着を手にすると順番に更衣室の奥へと入っていってしまった。
「え、えぇ〜…………」
1人、取り残された防人はここからいなくなるわけにもいかず、着替えが終えられるのを静かに待つしかなかった。
そして一時間近くの間、水着売り場から出ていく事は叶わなかった。
結局帰るのは外がすっかりと赤くなる頃なのでした。
「はぁ~遅いっすねぇみんな……」
防人慧の中にいるもう一人の自分。
その理由は124話にて描写しています。
前回の物語(115話〜)で出てきていた乱暴な防人は今回のお話の中で出てきた心の声側と言えるでしょうか。




