X'mas
クリスマス
それは神の生まれた聖なる日。
街の並木道はイルミネーションによって夜でも眩しく冬の寒空の中そんな光の道を歩き、男女がペアとなって街を徘徊し、祝う。
赤を基調とした服を身に待とう店員たちはそんな二人組を捕まえてはレジの中身を満たしていく。
クリスマスムード一色の今現在、僕『防人 慧』もその色に染まる存在である。
一人用の小さ目のケーキやターキーはしっかりと予約し、部屋を簡単に飾り付ける。
机の上には小さなツリーを置き、外の様子が見えないようにしっかりとカーテンをしめる。
そして弱冠薄暗いこの部屋でクリスマス特番を見ながら今日という日を堪能する。
はずだったのに…… 。
僕は今、右手にリリスを、左手にめだかさんを、の所謂両手に花の状態で街を歩いている。
しかしこれは断じてデートなどではない。
なぜならば左右の花に挟まれた僕もオセロ方式で花となっているからである。
赤と白を基調としたサンタクロースの衣装を身に付けためだかにトナカイパーカー付きの茶色いコートを羽織ったリリス。
そしてクリスマスツリー風のキラキラとしたドレスを身に付け幹に見立てた暖かタイツを履かさせられた慧の3人は街を歩いている。
なぜこんなことに……。
事の始まりは昨日の晩。
「防ちゃん。今日はあなた用に仕立てたサンタクロースの衣装を着てちょうだい。私はクリスマスツリー風の衣装を着るわ」
「お兄ちゃんは私とクリスマスを過ごそう!」
慧にはプライベートを過ごす自室は無く、いつものように遊びに付き合わされていた。
「――!?」
「――ムッ」
クリスマス。互いが互いに発したその単語を聞いた二人の目が鋭くなり、両者の間に火花が散る。
「クリスマスは私と遊ぶのー!」
「防ちゃんと今日という日は一緒に過ごすのよ!」
「あなたはお兄ちゃんと前からいたんでしょ!だったら今日は私の番なんだから!!」
あー痛い。腕がちぎれそうだ。
女の子に両腕を逆方向に引っ張られる。
実際にされるとなんというか痛いだけであんまり嬉しくはないな。
この二人だからかもしれないというのは少なからずあるかもしれないが。
このままでは延々と言い合いそうな二人を残して風紀委員室に足を運ぶことにした。
「あれ?今日は委員会活動は休みなはずだったけど?」
「そういう竜華さんだって来てるじゃないですか」
「私は単に自室よりもここの方が集中して作業が出来るからだよ。しかし、両手に花とはね」
「茶化さないでください」
「そんなつもりはなかったよ。ごめんね。……それで、何の用があってここに来たのかな?」
「あ、えっとですね……」
「「私と慧の二人の街への外出の許可を取りたいの!」」
慧の発しようとした言葉を遮り、いつの間に現れていた二人は竜華に叫ぶように言う。
「えっと学園敷地外への外出許可ね。ちょっと待ってね」
「ちょちょちょっと」
「何?慧君」
「いや、いいんですか?外出許可しても」
「うん、大丈夫だよ。明日は聖日そりゃあ誰だって遊びたいだろうしね。……許諾確認っと」
3人の手帳に外出許可の書類を含むメールが送信され、無事に受信したことを確認する。
「それじゃあ。デート頑張ってね」
「デート……別に僕はそんなつもりは……」
「デート……」
「デート……」
うわわわわわ二人の目がヤバイ。
これは狩るものの目だ!
「防ちゃん!デートならやっぱり正装しなくちゃね」
「私も私もする!」
慧は諦めの息を大きくはいた。
予想外に簡単に外出許可がとれ、そして今に至るのである。
「どこ行きましょう」
めだかの声にはっと我に帰った慧は手帳にて時間を確認する。
「えっと……じゃあそろそろお昼頃だからどこかで昼ごはんを食べようか」
「賛成!」
「いいわね。ちょうどお腹もすいてきていたし」
さて、一応、一応はデートである以上二人につまらないと思わせるわけにはいかない。
幸か不幸か湊によってこの地域にあるスイーツ店は網羅している。
ポイントも前のケータイに十分溜まっている。
スイーツ店でかつランチなどの料理の楽しめる店……確かこの辺りだったはずだが。
「あ、あった。それじゃあ行きましょうか。ここのパスタは絶品なんです」
「いい~匂い」
「早く行きましょう」
二人に手を引かれ、三人は『パスタとスイーツの家“リュパン”』へと入店する。
そこでパスタを食べ、ケーキを食べ、他愛の無い話を楽しく話す。
◇
防人達が楽しく話すお昼時、A.T は深夜までの作業によって疲れ果てて眠っていた。
そんな沈黙した一室に大きなノイズが訪れる。
「兄さま。もう昼よ!」
「リョー様ぁー今日の聖夜はパーティーですわよぉ」
「うるさいなぁ……それはわかっている。それで、何の用だ?」
「まず、今夜体育館にて行われるクリスマスパーティーの報告をと思いまして。その……」
A.Tは跳ねた自分の髪を見ている生徒会長「桐谷 優姫」の視線に気づき、ため息をはきだす。
「……わかった。髪を整えながら説明してくれ」
「はい。かしこまりましたわ」
優姫は引き出しからヘアブラシを取りだし、椅子に腰かけたA.T. の後ろに立つ。
「失礼しますわ」
優姫はゆっくりと彼の白銀の髪に触れてブラシを優しくかけていく。
「それでは先程の続きを……我々生徒会及び自己参加者の人々によって館内に巨大ツリーを無事に組み立て終え、現在、机の配置に今夜に向けての料理の準備を行っております」
「予算内に収まっているな?」
「竜……いえ、風紀委員会の計算では問題なしです」
「そうか……では私はパーティー開催まで寝るとする」
「え?せっかく髪を整えましたのに……」
「そうはいってもな、このところまともに寝てないんだよ」
「……分かりましたでは、わたくしもあなたと寝ますわ」
「いや、大きめに作ってはあるが一応シングルベッドだからな、流石に二人は寝れないと思うが」
「なら彼女はいいんですの?」
「――?」
優姫はベッドを指差し、A.T は視線をそちらに向ける。
「……ぁー兄様のにおい……」
湊がすでに半分寝かかった状態でベッドに横たわり、枕に顔を埋めていた。
「……!!――っ!」
中途半端な状態の彼女はタチが悪い。
自分の機嫌を害するものは誰であろうと噛みついてくる。
かといって夢遊病なのではないかと疑うほどの寝相の最悪な彼女の横で寝たら精も根も尽き果てさせかねられない。
ただでさえ疲れていると言うのに。
「……はぁ~仕方がない」
A.T.は大きくため息を吐き出して立ち上がり、寝室兼作業部屋を出るとリビングルームにあるソファーに横になる。
「……何をしている?」
「見てわかりませんか?膝枕ですわ」
「それはわかる……質問の仕方が悪かったな。なぜそんなことをしている?」
「だってリョーさまはお疲れなのでしょう?ならおやすみになられるまでせめてと思いまして」
そう言いながら彼女は白い髪を優しく撫でる。
「……好きにしろ」
「はい、そうさせていただきますわ」
「……Zzz」
「……本当ならケーキでもごちそうになりながらのつもりでしたけれど……」
彼女は頬笑み、用意していたアロマキャンドルに火をつけると彼の寝顔を堪能した。
◇
『これより聖夜祭を開催します』
その夜、無事にクリスマスパーティーは放送委員『神谷 愛』の言葉と共に開催され、参加した生徒たちは大量に並べられた料理を堪能し、飾られた巨大ツリーに感動し、ステージではプログラムには無かったクリスマスソングコンテストが開催され、楽しい聖夜は皆の笑顔と共に過ぎていった。
メリークリスマス。
自室にて慧、めだか、リリスの三人はプレゼントを交換した。
2,3日で書き上げたものなんで中身のない話です。
ですが楽しんでいただけたのなら幸いです。
それではみなさんの元にサンタが訪れますように




