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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
133/253

127『ヒロの思惑』


 上空で戦闘が行われる少し前。




「……この奥だ」


 ヒロは目の前の大きな扉に近づくと傍のパネルにジークムントの手を押し付ける。

 扉のロックが解除され、扉がゆっくりと開かれるとともに自動的に照明が点灯、一機のGWがライトアップされる。


「へぇ、これがそうか……こうして現物は始めてみるけどやっぱり全身装甲(フルスキン)なんだねぇ」


 ヒロはゆっくりとそれに近づいていき、そのボディに触れる。


「かつてAT博士が開発した最高傑作……これを動かせるのはこの機体に認められた者のみ。いやぁ全く漫画みたいな設定だことで……え? あ、そう。ふ〜ん防人慧を試す、ねぇ」


 耳元に手を当て、ブツブツと呟き始めるヒロ。

 それは傍から見れば通信をしてるようでもあり、単なる独り言のようでもある。


「でもそんなことしたらあいつは戦えないんじゃないか? ……成る程成る程。んじゃそのように」


 ヒロは小さく頷き、機体のボディから手を離すと腰のエナジーサーベルを引き抜くと光刃を出現させつつゆっくりとジークムントの方へ近づいていく。


「ひぃ! は、話が違うぞ! い、命だけは助けてくれるのではなかったのか!?」


 殺される。

 そう直感したジークムントは逃げ出そうと藻掻くも腰が抜けてしまい、動けない。


「そのつもりだったんですがねぇ。貴方にそれほどの価値もないんですよ。親の脛かじって成り上がっただけの。ボソンテクノロジーの基礎理論すら頭にない貴方には、ねぇ」

「ヒィッ! や、止め――」


「大丈夫、痛いのは一瞬ですから……それじゃさようなら」

「――っ!」


 ヒロは静かに別れを告げ、ジークムントの心臓を貫いた。

 光刃によって焼ける血肉。タラリと力なく垂れ下がっていく肉体。

 完全に絶命したことを確かめ、ヒロは再び機体の方へと視線を向ける。


「さて、と……あの人の提案通り、やる気を出すために彼女を乗せるとしようか」


 武器をしまい、ヒロはゆっくりとした足取りで来た道を引き返す。


――せいぜい頑張ってくれ。


 と、防人慧に祈りながら。







 時は戻り、誰もいなくなった通信室にて。


『なんで、そんなことに……』

「こちらはジークムントは無事を捕らえた。が、彼は直前にリリスを乗せて強制的に起動させたんだ」


 仲間だというのに気に入らないと反発してきたガラの悪い傭兵たちには永久に眠ってもらった。

 こんなタイミングで戦力の低下させるのはなんとも無意味で愚かな行動だろうか。


 ……だが、ここにいるのは教育と称して女性たちを甚振るような奴らだ。 

 義手・義足を作らせておきながら防人にやられた傷が痛むからとサボっているような奴らだ。

 消えたところで誰も心は痛まない。


「君にも覚えがあるんじゃないかな?」

『――っ!!』


 通信のマイクを持ち、ヒロは白々しく防人へと問いかけるように言う。

 かつて娘とともに逃げるべく防人を囮にした矢神が行った半ば強制的な起動とハッキングによる命令信号。


 本来ならば起動させることは叶わないプラネットシリーズの1つを矢神が起動することができたのはゼロによる研究データが存在していたからであり、そんなものを所持していないジークムントには到底不可能なことなのだが……。


 ジークムントをよく知らない防人にとってそれは真実として伝えられる。

 ましてや過去の経験がある防人にとってはここの権力者である彼が行ったという言葉の信憑性は高く伝わることだろう。


「すまない。俺も手伝ってやりたいところだが、俺はコイツをつれていかなきゃならない。それが終われば戦線に加わる。すまないが、それまで、頑張ってくれ」


 カメラに映る上空の――防人の様子をモニターによって確認しつつヒロは既にいない男の事を指して言う。

 まともな増援や援護は期待するな、と少々遠回しに防人へと伝える。


『あ、ちょっと!』


 通信を切り、ヒロは映し出される防人とアフロディーテを凝視する。

 自らの機体――雅狼(ガロウ)を利用したハッキングに問題はない。

 防人慧がこうして前線に出た以上、奴は彼のみを狙い動くだろう。


『聞こえるか? リリス! もし、お前がそれを自分自身の意思で動かしていると言うのならせめて返事をしてくれ!』


 無駄だ。彼女は眠っているのだから。返事をするはずはない。

 彼女が大切だと思うなら、彼女を救いたいと思うのなら防人慧、君は戦わなくてはならないだろう。

 これで、彼が全力を尽くし、限界をも超えようと歯を食いしばってくれるといいのだが……。


「というか、彼にはそれをしてもらわなくては困るんですけどねぇ」


 ……あぁそうだ。してもらわなくては困る。

 今後のためにももっと使いこなしてもらわなくては困る。

 限界を超え、性能を引き出してもらわなくては。


 でなければこうしてリスクを負う意味がない。

 こうして手を加える意味がない。


「ま、今は期待するしか無いですかねぇ〜……防人慧。彼がどこまでやれるか。俺らに出来るのはこうして見守ることのみですよ」






「リリス! ……クソ、駄目か」


 これだけ声をかけて返答が無いということは彼女は意識が無いのか、それとも単に返事してくれないだけなのか。

 まぁ、自分がやられたものと同じであるなら恐らく後者なんだろうな。


「クソッ! やりにくい!」


 彼女は操られているだけなんだから、といって手を抜くわけにもいかない。

 というか抜けるような相手じゃない。


 機体のセンサーのおかげもあって辛うじて敵をこの目で捉えられてはいるものの機動力もパワーも違い過ぎる。

 向こうはこちらの攻撃を完全に回避しているのに対し、こちらは向こうの攻撃を受け止めることしか出来ずにいる。


(これだけ近ければ!)


 腕部に取り付けられた牽制用の機関銃。

 腕部追加装甲下に取り付けられたのは排莢の必要がない弾丸を放つリニアレールガン。

 しかし、直撃は叶わず、そのほとんどが大きく軌道を逸れていく。


「……やっぱ銃はダメか」


 弾数も少なく、リロードの余裕もない現状で効かないと即座に判断。

 防人は再び刀を構えると同時に小型ジェットエンジンを吹かし、背の推進装置(フロート)を用いて一気に接近、一撃を浴びせる。

 だが、当たらない。


「う゛ぅ!」


 防人はそのまま敵を通りすぎつつ急旋回。

 短剣を投擲しつつ敵機を中心に捉え、再度接近。一撃を浴びせ続ける。

 だが、やはり当たらない。


 いや、正確には当たってはいる。

 だが、発生する光壁に阻まれてしまい、奴の装甲までは届かない。


 大抵の攻撃は弾かれるか、防がれる。

 かといって隙を探し、そこを突いたところで奴の全身は光粒子の障壁(フィールド)

 そしてあの黒い装甲に守られている。


 あの機体がこちらのもの同じ構造なのかどうかはわからないけれど、光粒子のフィールドは攻撃を続ければいつか消えてチャージに入るはず。

 そうすれば多少は性能がダウンするはずだからそこを突いて……とはいえあの装甲はどうやって突破しよう?


 普通にぶつかっていてはダメ。なら装甲の薄いであろう金ピカの間接を……でもそれじゃあリリスに怪我を……えぇい、とにかくまずはあのフィールドを消し去らないと。


「ハァァァ!!」


 防人は再び急旋回をし、アフロディーテに刀で一撃を与え、防がせた後、歯を食い縛り急停止。

 腰のレールガンを構える。


「ゼロ距離なら!」


 放たれる弾丸は火花を上げつつもフィールドを貫通、しかしひしゃげた弾丸の軌道は大きく反れてアフロディーテの装甲を掠めて通りすぎる。


「――うっ、くっ」


 無理をしたからか吐き気が込み上げて来て僅かながら血を吐き出した。

 無論その隙を逃すことなくアフロディーテは紅の刃を振るい腕部のレールガンを破壊する。


「舐ぁめるな!」


 叫び、自らを鼓舞しつつ防人は追加装甲ごとレールガンを分離(パージ)させ、さらに内側に収納されていたスタンロッドへと変化させる。

 高電圧の電気をぶつけてやれば粒子はプラズマと化し、放電する。


「バッテリーの全部をぶちこんでやる!」


 出力最大。

 危険を感じ取ったのか離れようとするアフロディーテを逃すまいとスタンロッドを両手で掴み、力一杯押し込んでいく。


『動きが止まった』

『今だ!援護しろ!』


 戦線に復帰していた辺りの警備兵たちも離れたところからアサルトライフルで援護を開始。

 しかし、アフロディーテの翅から飛び出した4枚の剣が二人を取り囲む兵士達の武器を飛翔滑空翼(フロート)を破壊しながら飛び回る。


 殺しはしない。

 けれど攻撃も許さない。

 先ほどとは違い、まるでこちらの邪魔をするなと言わんばかりに的確に兵士達の攻撃力を機動力を奪っていく。


「――!!? うあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 アフロディーテは手に持った紅の刃で防人をリリスに刺されたところと全く同じ箇所を反対側から突き刺してくる。

 こちらにそれを避ける術はなく、奴の発生させているフィールドと装甲をアッサリと突き抜けてくる。


「うっくっぅあぁぁぁぁぁぁ!」


 腹部を走る痛みを堪え、防人はスタンロッドを更に押し込む。

 バッテリー残量30%。

 アフロディーテは一度、刀を光の粒子に戻し、腕を振り上げ再び手の内に刀を形成する。


「――はぁ!!?」


 もはや何でもありな行動に驚きつつも防人は刀を構え防ごうと試みるも、刀身ごと身体を切り裂かれてしまう。


「う゛ぁっ――ガッ!」


 スタンロッドがアフロディーテから離れると同時に防人を地面へと蹴り落とす。

 防人のGWが大きな損傷を感知し、怪我の部分に向け、自動的に止血剤と鎮痛剤のカクテルドラッグが注射される。


「くそっ! まだやられるわけには……リリス……助けないと」


 機体内側の薬液が外気に触れたことで細かな気泡となって傷口を塞いでいき、止血が行われる。

 だが、それはあくまでも応急処置にしかならず、今この場で傷が癒えるわけではない。


 だが、それでも今すぐにでも動かないと……しかし、身体が言うことを聞いてくれない。


「ぎぎっ……」


 強く歯を食いしばり、天を見上げると兵士達へ攻撃を加えていた4枚の刃が主人であるアフロディーテの翅の中へと戻っていく様子が視界に映る。


――どうする変わるか?


「変わったとしてどうするのさ……」


 不意に頭に浮かぶ声。

 防人(さきもり)はその声に掠れた声で答え、首を振って否定する。

 変わるなどと言うのは簡単だし、そうですかと変われるのなら苦労はない。

 他者に頼れるのなら頼りたいし、手伝ってくれるというのならとてもありがたい。


 けど、現状で誰かに変わってもらうなど許されることじゃない。


 人生は他者に委ねるものではなく、他者に依存するものじゃない。

 そんなことをしていたらいざその他者がいなくなってしまった時、動けなくなってしまう。

 何もできず、独り立ちなど到底叶わず、その辺の路地裏で涙を飲むことになる。


――だが、こんなボロボロの身体で……機体もロクに動かないだろ。


 ならば尚更、意味はない。

 これでは意味はない。このままでは意味はない。

 ここから奴に届く何かが必要だ。

 銃でもなんでもいい何か、何か――!!


――ならこの子を使いなよ。


「……!? 女の子?」


 頭に浮かぶ声と視線が向かう先に存在するのは専用機である光牙(コウガ)

 自分の声とは違うそれは明らかに女性のものだ。

 まぁ、考える頭の中で浮かんできた言葉に男性も女性もあるのかと問われると疑問が残るところではあるが、少なくとも防人はそう直感する。


 少なくとも自分の中にある『俺』ではない。

 力強く、他者に反発できる気の強い自分ではない。


「……誰かは知らないけど……ダメだよ。光牙は壊れてしまってるのか使えないんだ」


――この子は壊れてなんていないよ。

 コアさえ無事なら何度だって自分で直せるんだから。


「自分で直す? 機械が壊れたところを?」


――そう、人間が怪我を治せるようにこの子も自分の壊れちゃったところは直せる。


――へぇ、そりゃあ面白い。


「試してみようか?」


――へへっ、なら続きは『俺』がやるぜ?



 グチャグチャに入り乱れる思考と言葉。

 それは防人自身もどれがどれであるのか整理がつかず、しかし考えだけは一つに自然とまとまっていく。


「わかった……任せる。――…………へへっ、さて、いくかぁ!」


 防人(サキモリ)は痛みの引いてきた身体をゆっくりと起き上がらせつつも警告を無視して各装甲をパージ。

 意識を集中して光牙を展開、自身の身にまとっていく。


「誰だか知らないが、教えてくれたこと感謝す――」


 視界に浮かんでいたはずの真っ白な人影。

 しかし、それは既に潜めてしまっており、声ももう聞こえてこない。

 あたりを見渡しても人影はおらず、センサーにそれらしき反応もない。


 あれは一体誰だったのか……。


 そう疑問符を浮かべつつも防人は立ちあがる。

 もう痛みはなく、体に不自由は感じない。


「これで足りるか分からないが……」


 光牙をまとった防人は地面に転がったスタンロッドとバッテリーパックを手に取り、バッテリー内の一部をロッドへと直接繋ぎ、チャージする。

 アレにはリリスが乗っている。

 傷をつける行動は取れないし、正直なところこれでも無事なのか心配なところはある。


 とはいえ、やらなければ助け出すことすら叶わない。

 防人はスタンロッドを折り畳み、光牙のスカート部装甲を開け、短剣と入れ代わりにそこへしまっておく。

 そして大きく深呼吸。

 防人は短剣を握りしめて地面を思いっきり蹴飛ばして飛び立つ。


「――!?」


 急加速と同時に抜き取った刀を構え、一撃を加える。

 先ほどとは比べ物にならないほどの機動力。

 Gキャンセラーもしっかりと働いているおかげで苦しむことなくすれ違いざまに即座に急旋回を行い再び攻撃。

 若干怯んだその隙に粒子の盾を展開しつつ光粒子の推進を最高速度(フルスロットル)で取り付き、共に地面へと落下していく。


「さっきのお返しだ」


 防人はアフロディーテの両手を踏みつけ、腰のスタンロッドを突き下ろす。

 見晴らしのいい原っぱの真ん中でプラズマが発生、弾けるように周囲に拡散し、そしてしばらくしてそれが止む。

 スタンロッドにはまだ電力が残っている。

 つまりはアフロディーテの粒子の盾が消滅したことを示す。と判断しても良いだろう。


「うぉ!?」


 防人はアフロディーテに蹴飛ばされバランスを崩す。

 すぐさま体勢を立て直したアフロディーテは剣を振るい、攻撃をしかけてくる。

 防人も短剣をアフロディーテに向けて投げて


「すまんリリス」


 弾かれることを相対しつつ、すぐに防人はスタンロッドを腹に浴びせる。

 せめて機能停止に持ち込めれれば助けられるかもしれない。


「――がっ!」


 しかし、アフロディーテは止まることなく防人を蹴飛ばす。

 林の中の木に背中をぶつけ、何本かはそのまま突き破って飛んでいく。

 防人はブレーキをかけて追ってきたアフロディーテの剣を刀で受けとめる。


「―――ギィっ!!」


 傷口が疼く。肩と腹部に走る激痛。

 だがそんなことに構っている暇はなく、防人はアフロディーテの剣を受け流していく。


「くそ、さっきの傷口がジンジンと傷みやがる。たぶんまた出血してるよな?」


 一瞬、歪む視界。

 防人は慌ててアフロディーテを脚払いで転がしてから後ろへと下りながら気絶してなるものかと口の中を強く噛みきる。

 頬の内側に痛みが走り、口の中が鉄の味で染まっていく。

 歯を食いしばり、意識を保ち、起き上がろうとしているアフロディーテを凝視する。


――くそっ! このままじゃジリ貧だ。


 残りの粒子障壁(フィールド)の残量は少ないし……何か決定打になるような武器は?


「――っ! アレか……いけるか?」


 アリーナにてめだかを助ける際に発現した機構(システム)

 一応は解析も済ませ、どういった機能であるのかも記憶はしているが、果たして通用するかどうか……。

 とはいえやらなければ……圧倒的な力を持ってこちらが優位に立たなければ、もっと余裕を持たなくては、リリス助け出すことは叶わないだろう。

 まだ直進しか出来ないが、やるしかない。


電光石火(ライトニング)起動(アクティベーション)!!」


 音声操作装置ボイスコントロールシステムによって光牙は防人の言うようにシステムが駆動。

 生産エネルギーを向上させ、彼の視界にブースト残量を表示する。


「ハァッ――!?」


 紫電一閃。

 瞬く間に移動し、繰り出された刀による一撃をアフロディーテはこちらに向かってくることなく腰を落とし構えていた。

 まさか、これに対応できると言うのか。そう驚愕しつつも既に起動が済んでしまっているものを今ここで落とすわけにはいかない。


 地に足をつけ、刀を構え、反転しつつ再度加速。音速でアフロディーテに向けて刀を振るう。

 だが、奴も同じく紅い太刀を振るい、防いでくる。


「クッ!」


 防人は急ぎ粒子を吹かして急ブレーキをかける。

 そして空中で回転し、目の前の樹木を蹴り折りながらも粒子を吹かして加速、再び奴を狙って一気に接近する。


「――っ!?」


 ジッと立ち止まり身構えるアフロディーテ。

 防人も一撃を入れるべく、刀を構え、更に推進装置を吹かし、加速する。


「やっ――あれ? やられた?」


 奴の手にする太刀の紅い刀身が砕け、光となって散る中、勝ったと喜ぼうとするもふと見下げた体には深く刻まれた大きな刀傷。

 鎮痛剤のせいか痛みはない。しかし失血からか防人はフワリと意識が揺らぎ、そしてそのまま、その場に倒れる。


 もう身体が動かない中、聞こえてくる足音。

 あぁ殺されるんだなと防人は思った。

 だが、恐怖はない。全身を襲う痛みの方がそれよりは勝っている。


 あぁ、このまま俺を、僕を殺してどこかへ飛び立ってしまうのだろうか?

 リリスは中に閉じ込められたまま飢えて死んでしまうのだろうか?

 嫌だな……そんなのは許さないし、許されない。


「――っ! ――っ!」


 死への恐怖よりもリリスに対しての心配の方が何よりも勝っている防人は再び立ち上がろうと力を込める。

 しかし、何度動かそうとしてもピクリとも体は指先すら動かない。


 あぁ、ダメなのかな?

 殺されるしかないのかな?

 なら良かったと思うことにしよう。


 リリスに殺されるのなら……とかそういう考えをもってせめて苦しくないように……悲しくないように。

 僕も向こうで待ってるから……と。

 せめてそう思いたい思いたいけれど……。


『安心しろ、私はお前を殺さない』


 諦めをつけるしかないのだろうか。と自らを納得させている最中、頭に直接届いてきたのは若い男の声だった。


「……誰? アフロディーテなのか?」


『そうだな。今はそう名乗ろう。我が名はアフロディーテ。神に等しい存在だ』


 そう告げた黒い機体は防人の傍でしゃがみこみ、ゆっくりと彼の体へと手を触れた。


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