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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
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126『惑星の名を与えられた機体』




 防人、そして矢神のいる病室の入り口がガチャリ、と施錠(ロック)が解除される音が鳴り、扉が開くと、一人の男が中へと入ってくる。


「んあ?」


 入り口付近で眠っていた酔っぱらい女医――ヒルダと呼ばれる女性は目覚め、起き上がるとフラフラとした足取りで入り口の方へと近づいていく。


「何? 面会とかなら受付を……あー違うわぁここは病院じゃなかった。えっと、何か用?」


 通路に出ての外での会話。

 当然ながら防人らには聞こえることはない、どころか二人は眠っているため気づいていない。


「……え、でも怪我が治るまでは、はぁい分かったわ」


 ヒルダはフラフラとした足つきで防人へと近づいてき、手にしていた通信機を防人に手渡す。


「ちょっと……これで彼と連絡をとって頂戴」

「え? えっと……これってどういう?」


「つけたら話してくれるって」

「は、はぁ……?」


 話? 一体、誰が?

 防人は腰の痛みに耐えつつも起き上がるとよく分からないまま、言われたとおりに受け取った通信機を耳に引っ掻ける。


『よう』


 取り付けると同時にスピーカーから聞こえてくるのはヒロの声。


「ヒロさん? これってどういうことですか?」

『あらら? 意外と冷静だねぇ。てっきり勘違いしてて『この裏切り者!』って怒鳴られるもんだと思っていたけど』


「怒鳴られたいんですか?」

『いやいや、俺には罵声を浴びられて喜ぶようなM気質はないよ』


「……それで、本当に何の用ですか?」

『なんだ、分かっていないのか? んーそれじゃあ助けに来た。と言えば分かるかな? 要するに自分の機体を身に付けて、こっちに来てちょうだいってこと』


 自分の機体……ってのはここにつれてこられた時の量産機でいいよね?


「了解。矢神さん機体の修理は出来ていますか?」

「ん、あぁ……修理は出来ている。が、杖すらないのではまともに歩くことも」


「それなら矢神さんは私が肩を貸すわよ?」

「……そうか、すまない」


「なんで、貴女は手伝って?」

「だって、私は彼の愛人ですもの」


「はぁ!? 矢神さん。貴方はリリスを奥さんを裏切る気ですか?」

「い、いや、違うぞ。私はもう結婚はしないと決めているし。ロザリー以外に妻は持たん!」


「でも、愛人は持つんですか?」

「だからそうではないと……」


 意気揚々と抱きついている彼女はスッカリと酔いが醒めているようで、胸元を押し付けている。


「へぇ〜……」


 そんな様子をまじまじと見せつけられては正直なところ説得力は皆無である。

 軽蔑の目線くらい向けたくなるというものだ。


「ひ、ヒルダ君はその行き場を無くしていた。だから拾ってあげただけなのだ」

「んふふ、だけだなんてそんなことはないですよ。破綻していた私を拾って頂いて本当に感謝してますから」


「ならば酒を飲むのを止めろと、何度言ったら分かるんだ? 腕は良いんだから、仕事に専念せよと……あぁそんなことよりも今は時間が惜しい。見つからないように急ぐぞ」

「もぅ、分かったわ」


 ヒルダに有無を言わせる前に矢神は話を進め、彼女は少しムッとした表情で頷いた。


「……あっちだ」


 矢神は痛む足を庇いつつ、ゆっくりとした足取りで防人の為に用意された機体――近接戦闘用に改良された『(フリーダム)フラッグ改』の置かれている格納庫へ。


 防人はヒルダから手渡されたナイフを持ち、兵士がいないか警戒しつつ先陣を歩いていく。





「そこだ……」


 しばらく歩き、格納庫に到着した矢神はヒルダの所持するカードを使い、部屋の中へ。

 すると作業服姿の一人の女性が近寄ってくる。


「矢神さん。ご無事でしたか?」

「あぁ、大丈夫だ。カナリア。修復作業ご苦労だったな。礼を言う。ありがとう」


 カナリアと呼ばれた女性は顔を赤らめ、少しうつむく。


「い、いえ私たちは貴方の部下ですから」

「だが良いのか? 私が裏切ったという事は聞いているだろう? 最悪の場合、国を追われるぞ」

「えぇ、聞いています。その上でここにいる(みな)は貴方のために貴方の指示に従います」


 矢神は意外と人望があるのだろうか?

 と防人は思いつつも辺りを見回す。

 作業をする人たちパット見た感じ、女性が多い――いや、女性しかいない気がするのは気のせいだろうか?


「どんな理由でもあのセクハラおやじの元で働くよりは断然マシですから」


 なるほど、どうやらジークムントは嫌われていたらしい。


「そうか、ならば彼に機体を渡してやってくれ」

「了解しました。さぁ、こちらへ」

「あ、はい」


 カナリアと呼ばれていた作業員についていき、アームに固定された機体へと乗り込む。


搭乗者(パイロット)の識別データ認証。機体との各所リンク確認。各武装装着、完了。システムに異常なし。機体、拘束解除」


 カナリアの指示に従い、他の作業員たちは手際よく作業を行っていく。


『聞こえるか? 慧』

「矢神さん。何か?」


『私はここにいる皆と共に例の部屋に眠る子供たちを起こしてくる』

「え? それ、大丈夫なんですか?」


『問題ない。たとえ人間離れしたいや、そうされた彼女たちにだってこれからの人生を楽しく生きる権利はあるさ』

「そう、ですね。気を付けてください」


『あぁ、わかっている。君は一足先に彼と合流を――』


 突如、通信が切り替わりヒロからの連絡が繋がる。


「どうしましたか?」

『すまない。脱走したことが敵にバレてしまった。室内の奴等は私が引き受けるからおまえは外の奴らを相手にしてくれ』


 通信越しから聞こえてくる銃声と焦るように話すヒロの声。

 どうやら全員が全員、ジークムントを嫌い、矢神の側に付こうというわけではないようだ。


「了解。えっとカナリアさん?」

「何かな?」


「外へ出るにはどうすれば?」

「後ろのハッチを開けるから、そこから出てくれるかい」


「わかりました」

「出撃ハッチオープン! 皆、入口から離れて」


 室内に響く叫び声。

 ブザー音が鳴り響き、作業員全員に出撃を知らせる。


「それじゃ、いきます!」


 防人は歩き、外へと出ていくと、センサーを起動。辺りを見回してちらほらといる監視兵らしき人たちを補足する。


『ねぇ、聞こえる? 急ぎだったから言い忘れていたけど、その機体は破損部分を有り合わせので補った継ぎ接ぎの機体。一応は矢神さんに頼まれたように推進力の増強なんかは行ったけど、その分バッテリーや推進剤の残量には気をつけて!』


「わかりました。ありがとうございます。……ヒロさん聞こえますか?」


『ん、どうした?』

「一応、言われた通り。出てきましたが、僕はどこに行けばいいですか?」


 通信を切り替え、ヒロへと連絡し指示を仰ぐも通信状態が良くないのかノイズばかりでよく聞こえない。

 せめてセンサーなどに位置情報でもあれば楽なのだが……。


「――何っ!?」


 空中で突如起こった爆発。

 見れば、無惨に切り裂かれたここの警備兵と思われる機体がバラバラと森へと落ちていく。


「あれは……」


 爆発の位置。

 そこにいたのは光粒子を放ちながら空を飛んでいるGWの姿だった。


 黒を基調とした中に所々入っている(ゴールド)が映える全身装甲。

 その手には紅い刀身を持った大太刀が握られ、長い脚部は足先に伸びるにつれて細く、鋭く、ヒールのような形状が辛うじてその場所が足であると認識させる。


 そして、一対の翅のような形をした背の推進装置(バックパック)はそのシルエット際立たせる。

 人型でありながらもその姿はまるで異形の生物のようでもあった。


『撃て撃て!!』


 通信機越しに聞こえてくる男たちの叫び声と銃声。

 奴は素早く、宙をまるで駆け抜けるかのように移動し、銃弾を避けてはその手にしている大太刀で敵を両断していく。


『こ、こちら外回り警備班。通信本部聞こえるか?』


 兵士たちの通信がスピーカーから聞こえてくる。

 一応、彼らと同じ識別信号なので送信された通信を傍受したらしい。


『はぁい、こちら通信本部でぇす。しっかりと聞こえてるよぉ』


 彼らへの返答としてヒロさんの声が聞こえてくる。

 通信を横入りして乗っ取っているのか、それとも本部とやらから本当に通信しているのか防人には分からないが、余裕そうな声を聞いて彼が無事であることに少し安心する。

 こんなところで一人取り残されてしまう心細さには敵わないからだ。


『敵の攻撃だ。位置は不明だが、増援を要請する』

『すみませんが、増援は出せない。現状戦力で対処せよ。おーばぁ』

『あっおい! ……くそっ! 冗談じゃない。いっそのこともう逃げ――ん? ぐわぁ!?』


 撃墜された彼の通信にノイズが走り、そして通信が強制的に遮断される。

 同時に空中で爆発が発生。

 いつの間にか移動していたあの機体が煙の中から姿を現す。


「何? ――うぉぉ!?」


 更に攻撃を加えていく警備兵。

 しかし、いくら撃ってもその漆黒の装甲に傷一つつけることは叶わず、紅い刃によって真っ二つに切り伏せられる。


 通信機越しに聞こえてくる兵士たちの怒号と断末魔。

 あまりにも早く、反応が遅れる彼らにはあの黒い機体を捉えることは叶わず、次々とやられていく。


『てぇーー!』


 それでも、交戦していく彼ら。

 恐怖から逃げようとする彼ら。

 しかし、あの戦場で生きられるものはなく、瞬く間に一人、また一人と奴の振るう紅い刃の前に落ちていく。


 逃げ惑う者を臆病者と罵るかのように容赦なく無惨に切り捨て、怯えつつも奴に攻撃を加える者を勇敢なる者として称えるかのように敬意を持って両断する。

 だが、それは等しく命を刈り取っている事に変わりはなく、通信機越しで聞こえてくる苦痛に満ちた断末魔が防人の神経を逆撫でする。

 

『そ、そんな……』

『クソ、クソぉぉ!!』


 突如現れたあの機体が何なのかは分からない。

 とんでもない奴であることはあの動きからも想像はつく。


「や……」


 助ける義理はない。

 助けられる自身もない。

 奴に挑む理由はない。

 いや……理由はある、か。


「止めろ!」


 脳裏に浮かぶ、青い髪。

 彼女が今、どうしているかは分からないしどうなっているのか分からない。

 心配で、心配でどうにかなってしまいそうだ。

 だけど、今は……。


「ハァァッ!!」


 防人は、子を思う兵士の声を、妻に謝る兵士の声を、母に謝る兵士の声を聞きながら宙へと駆け出し、紅の刃を自身の刀で受け止める。


『悪い。助かった』

「負傷してる皆をつれて一旦、撤退しろ!」

『す、すまない……』


 識別信号から味方だと判断した兵士たちは防人の言葉をアッサリと受け入れ、彼らはゆっくりと地上へと降下していく。


「――っ!!」


 高周波で振動する刃同士がぶつかり合い、激しく火花が弾ける。

 怖い。

 けれど、引くわけにはいかない。


 このままコイツを放置してしまえばここにいる人達を殺してしまうかもしれない。

 そうなってしまえばあの男はリリスをけしかける可能性が高い。

 なら、今ここで止めないと!


『防人、聞こえるか?』

「――っ! ヒロさん? 何か用ですか」


 鍔迫り合いの最中、スピーカーから聞こえてきたヒロからの声に防人は反応する。


『その機体はプラネットシリーズの1つ、金星(アフロディーテ)


 プラネットシリーズ

 惑星の名を冠する9つの機体。

 単体が強力な兵器となりうる存在であり、各国が追い求め争いの火種となっている存在。

 それが今、目の前にいるのだとヒロは告げる。


『それから1つ言っておくとあの中にはリリスが入っている』

「な――!!?」


 プラネットシリーズは高性能なAIによって自立駆動する兵器のはずだ。

 そんな馬鹿なことがあってたまるものか。

 あそこにリリスが――妹が乗っている??


「ど、どう言うことですか!?」


 信じられない。

 聞き間違いではないのか?


『言葉通りの意味だよ』


 耳を疑う言葉。防人はヒロへと確認をとると彼はアッサリと、こちらのことを知っているはずなのに、リリスが乗っているのだという事実のみを伝えてきた。




『その機体(ギア)の中には君の妹が眠っている』

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