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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
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124『友への誓い。妹への誓い』


「……は? 友達??」


 我ながら素っ頓狂な声が出たと思う。

 だが、少なくともこの緊張感の中で聞くには予想外の言葉だったことには間違いない。

 しかし、友達……友達か。


 それくらいなら、別に構わないんだけど……こんなところで、この子もこんなじゃなけりゃあなぁ……流石にキビシ――。


「うん、いいよ!」

「って、おぉぉい!?」


 何、アッサリ即答してんの?

 俺たちを閉じ込めていた奴らはもう俺たちが逃げ出していることに気づいているはずだ。

 だったら、本当に悪いけど……この子を連れていけないから、早く逃げないと。


「お前な、そんなこと言ってる場合じゃ――」

「でも、君だって最初は友達になろうって言ってくれたはずでしょ?」


「それとこれとは話が別だろ?」

「そんなことないよ。僕が苦しかった時、君が声をかけてくれたの、凄く嬉しかった。だから、その……僕はこの子の気持ち分かる。からさ、だからその……」


「だぁもう!! 分かったよ! 勝手にしろ!」


 そんなことを言われてしまえばこちらとて強くは言えなくなってしまう。

 だって苦しかったのは俺も同じだ。痛かったのは俺も同じだ。悲しかったのは、悔しかったのは俺も同じだ。

 みんながみんな同じってわけじゃないかもだけど、少なくとも俺もコイツも同じような事をされてきた。


 この子も一人でずっとここにいるってのは俺らとは違うかもしれないけど……悲しかったってのは分かる。

 もしかするとこうやって動けている俺たちなんかよりも苦しいことが多いかもしれない。


「けど、少ししたら行くからな?」

「うん! ありがとう。えっと……それで君はここに、ずっと一人なの?」


『えっとね、白い服を着た人たちが来てくれることもあるよ? でも、ぜんぜんお話なんかしてくれないし、私の病気のことは言ってくれるんだけど、むずかしくてつまんなかったの』

「そうなんだ」


『うん、なぁんにも出来なくてつまんない。でもねこうやってお兄ちゃん達とお話できるの凄く楽しいよ』

「そっか……良かったね」

『うん!』


 二人の会話を静かに聞きながら俺は待つ。

 しかし、病気のせいで動けないというのはなんともかわいそうな話だ。

 とはいえ俺たちに何か出来るってわけじゃないし、こうやってケースに入れられてはないけれど、だんだん動けなくなっていく子供達を何人も見てきたし……かわいそうってのはあくまでも感想でしかない。


 かわいそうと思いはする。

 だけど、それはそう思うだけであって、何をしてやることも出来はしない。

 だから俺に出来ることは、こうして壁に持たれかけてジッと座ってコイツらを待ってやることしか思いつかなかった。


 話そうとも少しだけ考えたけど、子供達(アイツラ)の顔がチラついてくる。

 これでは話すどころではない。


「あ、そうだリリス。さっきのやつってどうやってたの?」

『さっきのやつ?』


「うん、あそこの部屋でバァって消えちゃったやつ!」

『えっと、あれはね。あのお部屋にあるカメラで……ここから中が見えるの』


 リリスの頭部に取り付けられた装置。

 その目元を覆うレンズ部分が白く曇っていく。

 あの子の説明が正しいのなら、彼女には部屋の様子が見えているのだろう。


『それでね。あの中でなら私も出てきて遊べるんだ。えっと確か、ほろぐらむって言ってたと思う』

「へぇすごいね!」


『うん……でも一人じゃつまんない。あそこには色々買ってくれてるけど、本物じゃ遊べないもん。ご本を読んだりするのだって、あそこにあるやつは持てないんだ』

「そっか……あ、じゃあ何か読んであげようか?」


 おいおい。

 流石にそんなことまでしていたら時間がかかり過ぎる。


『嬉しい……けど、いらない』


 俺は止めようと立ちあがるもそれよりも早くリリスは提案を否定する。


「えっ? どうして?」

『ご本を読むのはお仕事が終わったパパに来てもらう時にしてもらうの。大事なの。だから読んでもらうのはすごいうれしいけど、ダメなの』


「そっか……じゃあ仕方ないね」

『ごめんなさい』


「ん? ちょっと待て、お仕事? パパ? どういうことだ?」


 二人の話を聞き、引っかかる言葉。

 もしかしてと思い、それを確かめる為に聞くとコイツも俺の考えに気づいたようで、少し驚いたような表情を見せ、リリスの方へ向き直る。


「ねぇ、リリス。君のお父さんはここにいるの?」


 震える声。

 コイツにももう分かっているはずだ。

 この子が一体どんな子なのか、なんとなく分かっているはずだ。


『うん、いるよ』

「――ぅっ!?」

「――っ!?」


 だが、それは信じたくなかった。

 ここにいる奴らがこんなになってしまっている子の為にアレをやってるんだという事実は信じたくなかった。

 単純に、ただただ悪いことをやってるんだって思いたかった。


『パパはね、私の病気を治すお薬を作ってくれてるんだって。言ってくれたの。そうしたらね、私はもっといっぱい遊んだり、歩いたり出来るって言ってくれたんだ』

「そう、なんだ……」


 けれど、それはそんなちっぽけな言い訳はアッサリと打ち砕かれる。

 少なくともリリスの父親はあの研究はこの子の為にやってるんだっていう真実。

 それは俺には到底受け入れられない。


「お前が?」


 親ってやつは納得いかない事があるとコッチを殴ってくる奴らのことだ。

 コッチがどんだけホントの事を言ってもうるさいって怒ってくる奴らのことだ。

 そんな事を、俺の親は、俺のためになんてしてくれたことなんてない。


 結局、あのクソ両親は目先の金欲しさに俺を売って……俺たちは苦しくて辛い実験につきあわされることになった。

 納得いくわけない。

 許せるわけない。


「お前が!?」


 お前のせいなのか……お前のせいで俺たちはこんな苦しい思いをしていたのか?

 痛くて辛くて悲しい思いを!


「だめだよ!」

「うるせぇ!!」


 俺は友人の静止を振りほどいてグッと握りしめる拳を振り下ろす。

 だが、ケースを力いっぱい叩いたところで子供の力で割れるわけもなく、自分の手が痛いだけだ。


『どうしたの? どうしてあなたは怒ってるの?』

「うるせぇ、お前の、お前せいで俺は! 俺たちはこんなとこに連れてこられたんだろ? お前を治すってためにワケ分かんない薬を作って、どれだけ俺たちが苦しかったと、辛かったって思ってる!?」


『私のせい?』

「そうだよ! お前のパパ――ここの大人たちは俺たちを利用してんだよ!」


 こんなものは八つ当たり。

 ここで叫んだって、リリスを怒鳴ったって何にもならない。

 でも、この時の俺は頭に血が上ってしまい、そんなこと考えられなかった。


『ごめんなさい。よく分からないの。でも……私のせいで、パパが、貴方達にヒドイことをしてるの? あなた達をイジメるの?』

「ねぇ、止め――」


「そうだって言ってるだろ! お前の……お前がこんなだから……俺は……俺たちは……こんな!」

「――っ!? カイト!!」


 轟く銃声。

 驚いて、振り返った時には俺を庇おうとした友達の――サキモリケイの胸を貫いて飛んできた何かが、俺の頭に当たって……それから……。


 俺は――僕は……友達を失った。

 そして、あの子のために……リリスのために。

 頑張るって誓ったんだ。


 ……? いや、おかしい。何故そんな結論に至る?

 俺は許せないはずだ。

 こんな理不尽な目にあって、殴り飛ばしてやりたいほどに憎いはずだ。


 ……でも、僕は可愛そうだと思った。

 あんなケースに閉じ込められて、動けない女の子が可愛そうだと思った。

 あんなに細く、ガリガリになっちゃってるあの子が可愛そうだと思った。


 だけど、許せない。

 俺はリリスの父を――矢神を許せない。

 でも、それはあの子にとっては――リリスにとっては父親としてどうにかしようとした結果でしかない。


 少し部下が勝手していたところもあるらしいし、全部が全部悪いわけじゃない。

 だから、リリスが悲しむようなことは出来ない。


 あぁ、一体どうしてしまったのだろう?

 明らかに記憶がおかしい。

 思考がおかしい。

 困惑する感情が、怒りの感情が、哀れみの感情が混じり合っている。


 許せないという俺の気持ちが、許そうとする僕の気持ちに押しつぶされる。

 僕の気持ちが優位に立って、コイツの言うことが俺の思考よりも優先される。

 ……あぁ、でも、それでも構わない。

 

 俺は――僕は――防人慧はリリスの為なら、矢神を許そうと思っている。

 あの居場所のない家なんかよりもここの方がまだ時間が流れていた。

 義姉さんには少し悪い気もするし、ゲームで遊べなくなるのは悲しかったけど、友達もたくさんできた。


 そんな友達の為にも、僕は――リリスを殺してしまうわけにはいかないと思った。

 俺は――リリスを殺す事が子供達(アイツラ)を裏切る気がした。


――だから、俺はコイツを絶対に殺さないって誓ったんだ。


――だから、僕はリリスの為に頑張るって誓ったんだ。






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