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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
124/253

118『対抗戦』

7月 初日 土曜日


 日が沈み、満天の星空が輝く深夜。

 リラ、防人の両名は今日も特訓に励んでいた。


「はぁっ!」


 リラの突き出してきた拳を避け、その手首を掴んでその勢いにのせて背負い投げる。


「うっ! っまだ!」

「足元が空いてるぞ!」


 空中で体勢を立て直し、見事着地した彼女の再びの攻撃を身を屈め避けつつ、足払いをする。

 彼女はそれを跳ねて避けた事に驚きつつも身体を捻り、空中にいる彼女へと腹蹴りを食らわせる。


 が、足を振り上げた直後に反応されてしまい、両手で受け止められてしまう。

 蹴りの勢いで吹き飛びかけるも防人の脚を掴むことで事なきを得るリラ。

 防がれた事には驚いたが、それで手を休めるつもりはない。


 防人は片足で跳ね、そのまま彼女の掴む足を軸として使い、回転して彼女の顔を蹴り飛ばす。


「キャッ!」


 見事に直撃してた攻撃。

 相手が小柄のも相まって、大きく身体が宙に浮き、彼女は飛んでいった。


「っと悪いやり過ぎたか?」


 とはいえ手を床につけて少し加減したし、しっかりとプロテクターをつけているので大丈夫だとは思うが……。


「女の子の顔に何するのよ!」

「戦場じゃ女も子供も老人だろうと関係ないぞ……ってこれも何回も言っていると思うが」


 起き上がりざまにああやって怒鳴る元気があるなら大丈夫そうだ。

 うん、怪我させてないみたいで良かった。


「隙アリ!!」

「っと甘い!」


 防人は彼女の蹴りを腕で防ぎ、それを掴んで捻って倒す。


「痛い痛い痛い痛い! こ、降参降参」

「アホか。敵に降参って言って離してもらえると思うのか?」

「――チッ」


 彼女は腰に手をこっそりと回して短剣を引き抜く。


「うぉ!」


 間一髪、彼女から離れて刃を避ける。


「危っぶねぇ……おいこら、武器の使用は禁止だぞ」

「戦場でそんなルールは通用しないんじゃないの?」


「……は! 減らず口を、ま、確かにそうだな。はぁ〜……よし、んじゃそろそろ休憩だ。その後、機体での訓練をしよう。武器の使用はその時だ」

「えぇ分かったわ」


 二人は部屋の角にあるベンチに腰掛け、ボトルの中身を飲み始める。


「……ねぇ、これで私は強くなれるの?」

「教えてくれっていたのはお前だったはずだが?」


「うん、だけどこれくらいのことならみんなといつもやっている」

「やってるって言われてもな……」


 それは言ってしまえば経験の浅い奴等同士のケンカというものだ。

 低レベルの敵から得られる経験値なんてのはたかが知れている。


 まぁケンカは同じレベルでないと起らないというが、それは至極当然のことであり、レベルに差がありすぎてしまえば勝負にすらならないというのは考えるまでもないだろう。

 とはいえそれはあくまでもケンカ――勝負をするという場合だ。


 今回の場合、訓練という形をとっている。

 これはあくまでも練習。何度も挑み、相手の動きを分析し、それに対応し、追いつこうと努力する。

 そうすれば自ずと力がついてくるのは当たり前である。


 事実、彼女の身に着けてるプロテクターの重さだってこの5日ほどで1キロほど増やせているのだからそれは目に見える進歩と言えるだろう。


「まぁ、今回お前は俺に勝ったんだし、それは目に見える成長って言えるんじゃないか?」

「それは……うん。実感はないけど、強くなってるってことなのか?」


「多分な。実際、初めは俺にやられっぱなしだっただろ?」

「うん、確かにそうだね」


「たった5日でこれだ。もう1週間もすればもっと強くなるんじゃねぇか?」

「そうかな?」


「あぁ…………なぁ、ひとつ聞いて良いか?」

「うん、何?」


「お前は強くなってどうする?」

「決まってるでしょ、あなたを倒す」


「もうお前には、この前の戦闘でやられた気がするがな」

「あの時はオレンジのやつじゃなかった。本気じゃなかった。だから今度は全力で戦って勝ちたい。そしてみんなを守るための力を手に入れる」


「……結構な目標だ。俺もそういう人を見つけてみたいな」

「リリスって女の子がいるんじゃないの? 前に言っていたじゃない」


「確かにそうだが、俺の頭の中身はほとんどつくりもんだ。植え付けられて、消されて、一体どれが本物なのかどれが偽物なのかもう自分では分からな…………何話してんだろうなぁ俺、悪い。忘れてくれ」

「うまく言えないけど、たとえ作り物だとしても今のあなたはここにいるあなたは本物でしょ? だったら今のあなたの気持ちは本物……だと思う」


「ハハッ、生意気な事を言うなよ。でもまぁ、ありがとよ」

「――あっ」


 そう言って防人はリラの頭を優しく撫でる。

 撫でられたリラも頬を少し赤らめて頬笑む。


 本当にこれでこちらを殺すつもりなのかなんとも首を傾げたくなるものだが、この子が嬉しそうであるなら、まぁそれも構わないだろう。


「……さて、そんじゃそろそろ部屋を移るか」

「うん、分かった」


 空のボトルをゴミ箱へ投げ入れつつも部屋を出て、次の訓練を再開しようという時に複数ヵ所での爆発とともに研究所内に警報が鳴り響いた。


「警報!?」

「どうやら訓練はお預けのようだ。リラ、お前は早くみんなのところに行きな!」

「うん!」


 防人とリラはそれぞれの人の元へと走り始めた。





「矢神、何があった?」

「敵襲だ……どうやらお前のお客さんのようだぞ」


 そう言って矢神がモニターに映るひとつの部隊。


「(竜華……めだかもいるのか)……一体、どうやって居場所を?」


 生徒手帳(ケータイ)のバッテリーも裏のカバーを外して取り外して貰っている。

 GPSでの追跡は出来ないはずだ。


「分からないが、敵は目の前にいる……さて、どうする? お仲間に刃を向けるか?」

「……アホか、行けるわけねぇだろ。だがまぁここに誰か来たらこの刀で約束通りお前を守るさ。その代わりこっちの約束を守ってもらうぞ」

「あぁ、分かってるさ……ほれ」


 矢神の投げた何かを防人は受けとる。


「これは……IDキー?」

「これでお前用にカスタムした量産機が使える。首にかけておけ、身を守る盾は出来るだけ強い方がいい」


「……了解だ。お前は通信機使うなりして仲間の兵に命令でも出しておけ。急いでとってくる」

「あぁ、分かっているさ……」







 弩 智得の依頼した救出作戦に参加した人達は全6名。


・風紀委員長、2年生、日高(ひだか) 竜華(りゅうか)

・風紀委員書記、2年生、彩芽(あやめ) 紅葉(くれは)

・風紀委員会計、2年生、千夏(ちなつ) 千冬(ちふゆ)

・風紀委員、1年生、本間(ほんま) 白石(しらいし)

・風紀委員、雑用、2年生、愛洲(あいす) めだか。


 そして防人の友人の植崎(うえざき) 祐悟(ゆうご)


「ごめんね紅葉。忙しいのにオペレーターを頼んじゃって」

『いえ、私も風紀委員ですので、仲間があそこに囚われているのでしたら助けないわけにはいきません』


 通信機を通じて竜華へと届く声。

 オペレーターを買って出た紅葉は遥か上空に浮かんだこの小型輸送艦から戦場の全貌を見下ろし、サポートに徹してくれている。


「ふふっありがとう。それからえっと植崎、祐悟君だったかな?」


 考えながら戦うのが苦手な竜華からすればそれは有り難く、また今回の作戦に参加してくれた彼の友人にも感謝しかない。


『は、はい!』


 上ずった声。随分と緊張をしているみたいだ。

 これはむしろ逆効果になってしまうかもしれないけど、彼の履歴は確認しているし、忠告しないというわけにはいかないだろう。


「いい? 今回の任務は救出作戦であって殲滅させることは目的じゃない。だからこの前の作戦時みたいにいきなりミサイルを撃つようなことはしないでね」

『ご、ご存じなのでありましょうか?』


「うん、私達も時々戦闘記録を書類にまとめることを頼まれることがあるからね。ちゃんと知ってるよ。気を付けてね」

『は、はい! 気を付けますです』


 相当緊張してるみたい。

 どこか日本語もおかしいし、声も凄く大きくなってる。

 友達が捕まってるんだし、無理もないのかな。


「うん、落ち着いて作戦に挑むようにね」

「はい。わかりました」


「ん……さて、今回の任務について改めて紅葉ちゃんお願いできる?」


『はい。では、弩 知得の提示した作戦内容を手短に説明をさせていただきます。

 今回の任務は敵に捕らわれたと思われる防人 慧の救出作戦。

 愛洲めだかが防人 慧の制服などに取り付けられた発信機の反応から彼はこの地点にいる可能性が高く、まずは植崎に搭載された多弾頭ミサイルにより彼らの基地周辺の対空兵器を破壊』


『お、おう!』


『次に愛洲 めだか、千夏 千冬の両名が内部へと潜入して防人を確保。その後速やかにここに戻ってくるものとします。

 確保とその後の脱出までの間、残りの者は敵を次々と敵を落とし、こちらに目を向けるようにする。

 なお、内部にてギアを纏った敵と交戦した場合、爆発の影響により施設の倒壊を防ぐため、無力化することを徹してください。

 説明は以上です。

 簡単な説明ですが、何か質問はありますか?

 ……無いようですね。

 では最後に、いくらこちらの方が性能などで上回っていたとしても数では圧倒的に不利なのは明白です。

 ですので対象の発見から10分、それがみなさんに設けられた制限時間(タイムリミット)です。

 それを覚えておいてください。

 それでは準備が整い次第、作戦を開始します」



 短いブリーフィングを終え、皆は輸送艦の後部ハッチから飛び立っていった。






 一方、施設内にて警告を受け、リリス達は格納庫にて集まり話し合っていた。


「ねぇ、どうするの? 今はブレアさんはお仕事でここにいないのよ? 矢神って人は呑気に寝てるのか知らないけど、まだ連絡つかないしさ」

「だから私達が出るの」


 首から下げていた鍵をパネル装置に挿し、機体のアーマーを搭乗できるように展開しながらも答えるリリス。


「でも、勝手なことしちゃったら怒られない?」

「みんなでやれば怖くないわカーネリア」


 作業を続け、格納されている武装の固定を外し、同時にロボットアームにて装着する武装を選択していく。


「でも……」

「あいつらはパパを、アンを殺したやつらの仲間かもしれないでしょ? それに戦うって私達はみんなで話し合って最初に決めたはずだよ?」


「そうだけどさ……」

「ならあんたは私達のパパが殺されても良かったって思ってるの?」


「そんなことないわ」

「なら、襲ってくるやつらは倒さないと……強くなって仇をとるの」


「うん……分かった」

「なら、カーネリアはまだグースカ寝てるジェードをたたき起こしてきて。アクア、貴女は私とシェディムで出るわよ」

「うん!」


 機体へと乗り込みつつも指示をしていくリリス。

 名を呼ばれた彼女達は頷きつつも行動を開始していく。

 そして指示を終えた彼女は出撃ハッチを手動で開け、リラを含め、戦闘が許されていた数名の子供達が既に出撃した仲間の兵に加わった。


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