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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
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117『約束、計画のうち』





 その夜、防人が矢神にあてがわれた部屋で風呂上がりのジュースを飲んでいると誰かが力強く扉を開けながら中へと入ってくる。


「――っ!? どうやってその扉を」


 ガチャリと開くトビラ。

 完全に不意を突かれた防人は急ぎ、手枷――待機状態(スリープモード)の光牙を手首に通すと警戒を強める。


「この研究所の扉はIDさえあれば誰だって入れるの」


 防衛面でどうかと思うが、成る程。

 なら今度からチェーンでもつけておこう。


「その声、リラか……何のようだ?」

「ちょっと話したいことがあってね」


 そう言いながら彼女は玄関から防人のいる奥の部屋へと入ってくるやいなや顔を赤らめ、引っ込んでしまった。


「どうした?」

「ふ、服くらい着なさいよ。パンツ一枚でなにやってるの?」


「いや、風呂上がりで暑いからな。少し涼んでたんだ」

「だからって何でパンツ一枚なのよ」


 昨日の今日どころか数時間後にやってきた彼女に一瞬、殺しに来たのかとも思ったが……もしそのつもりなら無防備なこの状況を狙わないわけがない。


「ここは今は俺の部屋だぞ。自分の部屋でどんな格好しようと構わないだろ? 大体、お前が勝手に入ってきたから悪いんだよ」

「確かに……うん。悪かった」


「いや、構わないさ。単にタイミングが悪かっただけだからな。さて服も来たしこっちに来てもいいぞ?」

「ええ……」


 二人は部屋の角に置かれた椅子に向かい合って座り、防人は小さいペットボトルをリラの前に置く。


「ありがとう」

「ん、それでこんな遅くに話って何の用なんだ?」


「実は頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと? 出来る範囲でなら構わないけど、それを承認するかどうかは内容次第だぞ?」


「その、戦闘の仕方を教えてくれないか?」


 やんわりと断っているつもりだったのだが、まぁいいか。


「何を言ってる? 俺はお前の仇なのではなかったか?」

「そうだけど、あんた強いでしょ?」


「俺は別に強くなんかない……出来て簡単な戦闘技術と剣術ぐらいだ。それくらいならここでも出来るはずだろ?」

「ダメだよここじゃ、基本の事しか教えてくれない。だからここにいる人達よりは強いあなたなら」


「……俺は強くないと言っているのに、少なくともヒ――真栄喜(まえき) (ゆう)とかいう男には敵わんだろう」

「あの人は……なんと言うか次元が違うもの。近寄りがたいオーラと言うかそんなものを放っている」


「まぁ確かに近寄りがたいってのは否定はしないが……」

「ねぇ……」


「ん? 何?」  

「あなたに戦い方を教えてほしいな?」


 彼女はそう言いながら頭を机につくぐらい下げ、上目遣いでこちらを見てくる。

 彼女なりに考えたおねだりポーズ的なものなのだろうが、前のめり過ぎて……どっちかというと首が大丈夫かと心配になる。


 声は可愛く言おうとしてるのは分かるし、必死さは伝わってくる。

 それが……何というか……うん、悪くはない。

 小動物的な可愛さというか……うん、正直 (リリス)と被る。被り過ぎる!


 本当に、本当に彼女は別人なのか??

 だが、感情と理性は別物だ。それで揺れ動くほど甘くはない。

 というか、仮にリリスだったら戦闘技術とかんなもの教えられんし? あの子はおしとやかで優しい、繊細な子なんだ!

 いやまぁ友達のせいでちょっとお転婆入ってるけど……いやいやそんなことより今はリラの用件が先だ。


 普通、ここは断るべき……だがそれで今後しつこく付きまとわれたりでもしたら厄介なことは厄介だし――いや、それも有りか? 妹にちょこちょこ追いかけられるなんて兄貴冥利につき――いやだからこの子はリリスじゃないんだって!


「ウググ…………わかった。引き受けよう。ただし、俺も教えられたことをそのまま君に流すだけだ。それで構わないか?」

「ありがとう。感謝するわ」


「む、そうか……わかった。なら予定が合えば訓練をする。それでいいか?」

「うん。分かった」


 彼女は立ち上がるとくるりと体を反転して「それじゃ」と手を振って部屋を出ていった。


「……はぁ~参ったな。あの顔で頼まれたからついオーケーした――ってわけじゃないだろうけど……人の事は言えねぇかもな」


 扉の閉じる音を聴いてから防人はそう呟いた。







 ピッピッピッピッ……とATがキーボードを叩き、ある作業を行っていると端末から着信音が響く。

 ヒロからの連絡。

 ATはキーボードを叩きながら机上に置かれた端末を繋ぎ、目の前のモニターに表示された小さなウィンドウの音量を調節する。


『ヤッホーAT元気してる!?』

「……ここは山じゃないぞ」


 調整をミスった。

 そう思いつつATはキーンと残る耳鳴りを感じつつ冷静な口調を乱さず、あっけらかんに言い返す。

 もちろん音量調整を再度行うことも忘れない。


『おやおやこれは手厳しい』

「それで話があるなら早くしろ。私は今忙しいんだ」


『なぁんでぇ? 連絡をよこせと言ったのはそっちだってのに』

「それはもう4日も前の話だ」


『はっはぁ~なぁにをおっしゃる。あなたにとって一時間も4日も大した違いはないでしょうに』

「私が数百年と生きていたみたいな事を言うな。私の年齢も見た目も年相応だ」


『分かってますって。いやぁ実は4日前に顔を怪我してしまいましてね。かすり傷ですがちょぉっと恥ずかしかったんですよねぇ』

「互いの顔なんざこの通信では見えんのだがな」


『お? それは意外や意外。俺はてっきりそっちのモニターでは俺の顔がアップで、しかも薄暗くて目元がよく見えないどっかの黒幕的感じで映っているものかと』

「お前がいつ黒幕になったんだ?」


『はて? いつでしょう?』

「……はぁ~まぁいい。さっさと本題を話せ」


『ん~俺としてはもう少し話していたかったのですが、仕方ないですね。魚が餌に……ん~……』

「なんだ? どうした?」


『いやぁよくよく考えたらどうせ暗号レベル高くて傍受される心配のないこの通信をどこかの誰かさんが聞いていたら、なんて心配して意味深なこと言う必要あるかなぁって思いましてね』

「これはお前がやろうと言い。始めたことなんだが?」


『細かいことはおいておいて』

「おい!」


『矢神と防人が接触して。会話内容からして記憶を戻されたみたいですが……』

「……構わん。その方が都合がいい」


『そうですか。まぁ私は矢神に警戒されないためにもしばらくの間、彼らに気づかれないようにしますが…何か他に問題ある?』

「最後何故のそのムカつく言い方をしたのかということ意外には特に問題はない。あぁ、あと5日後にそちらを襲撃する」


『はい? そんな予定はなかったはずですが』

「風紀委員のやつらが防人のいばしょをつかんだようだ。詳しい日時がわかれば追って連絡する」

『了解。……話は変わりますが、彼は本当に使いますかねぇ? アレを』


「そんなものはわからんよ。確率の問題だからな。まぁそれを含め、光牙を使えなくしておいたんだ。なんとかなるだろう」

『だといいんですけどね。ではではそろそろ通信を終了しまぁす』


 通信を切り、ATは背もたれに体重を預け、天井を見上げる。


「あぁ……悪い悪い……あぁ分かってるよ。君たちの身体はもうじき完成する。二人とも待っていてくれ」


 ATは静かに独り言のようにそうつぶやくと再びキーボードを叩き始めた。

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