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【 WEAPONS・GEAR(ウェポンズ・ギア)】――高校生編  作者: 満天之新月
第4章 工業小国ヘルヴィース
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101『トーナメント強制終了のお知らせ、無理矢理に与えられる仕事』

「ふぁっ……ん~、朝から疲れたな……」


 アリーナで開催される実技試験(トーナメント)の説明挨拶中。防人は口元を手で覆いつつ大きな欠伸を一つ。

 結局、戦闘が行われていたというその場所にたどり着いた頃には既に誰もおらず、時間ギリギリまで掃除とそこらに落ちていたあやしい物を回収。


 持ち主の特定をすべく、この類の武器を使用する専用機持ちの生徒たちを登録された情報(データ)から探し出そうと照らし合わせたところ一人として照合(ヒット)することはなかった。


 誰かが独自で造り上げたものなのかどうかまでは分からないが、とりあえず回収したものをしっかりと保管してから防人らは実技試験である『学年別トーナメント』の行われる各々の会場(アリーナ)に入場したのだった。


『基本的な操作や戦闘技術は普段の授業において評価しているため、この試験において生徒諸君らを評価するのは、個人の実力がどれほどのものかということである……』


 壇上に立ち、モニターに大きく映し出されているのは学園長であるゼロ。

 彼の口からは数十分にわたるトーナメント等の説明が話されている。


 学年別トーナメント。

 その名の通り、各生徒たちは決められた六角闘技場(アリーナ)へと入り、その場で対戦相手が決められる。

 相手の決め方はシステムによるシャッフルであり、そこに人が介入することはない。


 トーナメント用に設定された1000ポイントのA.P.F. ――粒子障壁(フィールドバリア)を先に削り切った方が勝者となり、勝ち残った生徒たちから再びシャッフルされて次の相手が決まる。


 そして最後まで勝ち残った者が優勝となり、通常授業及び今試験における順位によって実技の単位がつけられることとなる。


 更にこの学年別トーナメントで1位~10位にランクインした者には賞金が与えられるという旨が先生の口から話されている。

 そのため、生徒たちのモチベーションは高い。


「それでは、生徒一同。正々堂々と闘って優勝を勝ち取りなさい!」


 数十分にわたる先生の説明が終わり、最後に開催宣言が生徒会長から放たれる。

 彼女の声が響き渡り、生徒たちの喚声があがった。




 1学年のクラスはA〜Dの全4クラス。

 当然、人数が多く初めの方は順番が来るまで待たされることとなる。

 順番が来るまでは何をしていても良いとのことだけれど、防人の順番は5番目と思いのほか早く、いつ自分の順番が回ってくるのかよくわからないので更衣室で待つことにした。


 ここなら観戦用のモニターが設置されているし、グラウンドへ出るための出撃口(ピット)も近いので万が一、遅れるようなことがあってもなんとかなるだろう。

 それにみんな観客席の方に行っているみたいでここはとても静かだ。

 既に学園製機体機能補助服(インファントリースーツ)には着替えているし、特にこれといってやれることもないので防人はモニターに映る試合の様子を観戦することにした。


……のだけれど。


「おっす、何してんだ!?」


 扉が開き、相変わらずな奴が来た。

 ちなみに防人の1回戦目の対戦相手は彼である。


「はぁ~……」

「ん? どうしたんだ? おーい!」

「っ、うるさいなぁ、そんな耳元でそんなに言わなくても聞こてるって」


 あー耳がキーンとする。


「おう、そうか」


 植崎は防人の座る長椅子にドシッと全体重をのせて腰かけるとギッと大きな音を立てて椅子が軋む。

 金属製でなければ折れてたかもしれない。

 そう思わせるほどに大きな音をだった。


 普通ならばヤバいかなと思い立ち上がるところだが、こいつはそれに気にすることなく、間にあるスペースに置いたバックからゲーム機を取り出す。

 ゲーム機が起動し、スリープから目覚めたゲームからBGMが流れ始める。


 しかも大音量でだ。


 流石に植崎もヤバいと感じ、音量をすぐに下げるかと思いきやポーズ画面を解除してピコピコとゲームを再開する。


「おい、植崎。うるさい」

「ん、おう悪い」


 注意することでようやく下がる音量。

 静かではあっても全く人がいないというわけじゃないんだから勘弁してほしい。

 しかしよくもまぁ何事もなかったように始められるものだ。

 こちとら心臓がバックバックしてますよ。

 全く……なぜこっちが冷や汗かかなきゃならないのか。


 周りに、人が少ないのが本当に幸いというべきだろう。

 もし、人がいたら視線がこっちに集まってくるのは必然であり、それに対してシャザイスルナラまだしもコイツはそれをすることはないだろう。


 そんなことをすれば『こんなところで何してんだ? こいつ』みたいな軽蔑してくるような眼差しが飛んでくるのは考えるまでもないだろう。

 考えすぎかもしれない……いや、過去の経験からして妥当な考えのはずだ。


「はぁ〜……」


 モニターの向こうで始まる試合と鳴り響くブザー。

 ここにまで届く歓声がその盛り上がりの高さをこちらにまで伝えてくる。

 それらの要因が改めて試合が近づいていることを防人に感じさせ、無意識にため息も漏れ出てしまう。


 とはいえ、そのままいても時間はただただ過ぎるのみ。

 少なくとも植崎の戦法や動きのクセなどは共にFVRゲームをすることもあって理解しているつもりではあるが、油断は禁物だろう。


 ガトリングガンやバズーカといった高火力の重兵装を主体とする戦法であれば、植崎は射撃の際に足が止まってしまうことが多い。


 だが、今回のトーナメントにおいて使用する機体は学園製の量産機である『フライハイト・ファーネ』であり、使用される兵装は訓練用に出力が抑えられたエナジーライフルとエナジーサーベルである。


 FVRゲーム――仮想世界においての動きや戦闘では少なくとも植崎に負けることはないと自負しているが、現実世界ではどうなるか分からないため、絶対に勝てると宣言できる自身はない。


 とはいっても、もう練習する時間も場所もないため、後は勝ち進んでいけることをただただ祈るのみである。




◇◇◇




 一方その頃、ATが所有する小さな孤島の小さな小さな研究所(ラボ)施設の周辺では。


「ん? 何だ? ……ロボット?」


 孤島周辺を警備するATの部下である青年たちと無人機(ガーディアン)たちがこちらへと接近してくる黒く大きな影をセンサーで捕捉する。


「こっちに向かって来てないか?」

「まさか、ここにAT(ボス)の基地が存在しているのを何者かに知られて――」


「そんな馬鹿な。このラボには外から見えないようステルスが施されているのだぞ?」

「ですが隊長。あれは真っ直ぐに確実にこちらへ向かってきてるものと思われますが」


「う〜む……そうだな。一応、ガーディアンたちを所定の位置へ待機させておけ」

「了解しました。隊長」


「あぁ、それから」

「はい。何ですか? 隊長」


「隊長はやめろ。ここの警備は私とお前の二人だけなんだから」

「あーそうでしたね。ここは一番小さい場所だからって人員も戦力も最小限に押さえられてるんでしたね」


「あぁ、だからどうせ呼ぶなら暗号名(コードネーム)で頼む」

「了解しました。隊長」


「……あれ? 私のコードネームってそうだっけ?」

「いえ、ただコードネームを決めてないだけです」


「あれ? そうだっけ? ……じゃあ隊長でいいや」

「わっかりました! 隊長」


 彼はビシッ! と敬礼をする。


「よし、それでは行くぞ」

「はい!」


 こうして二人の絆は少しだけ深まり、ステルスの範囲内で警戒を強める。

 黒い影はさらにこちらへと近づいて来、そして……

 



◇◇◇




「ふぅ〜……なんとか勝った……」


 試合を終え、グッと伸びをしながら荷物を取りに更衣室へと戻ると生徒手帳が設定しておいた着信音が鳴っているのに気付く。


「ATから?」


 嫌な予感がする。

 手に取ると登録をした覚えもないのに何故か表示されている名前に鳴り響く警鐘。

 彼からの直接の連絡ということもあってあの時の一週間に渡る強制訓練(拷問)の記憶がフラッシュバック。


 出たくないけど、出ないと絶対、後が怖い……。

 防人は覚悟を決め、震える指でモニターに表示されている受話器マークへと触れる。

 面倒事でなければいいが……。


「はい、もしもし?」

『遅いよ。電話が掛かってきたらすぐに出る。常識だよ?』


「あぁ……ごめんごめん。今、実技試験(トーナメント)注中だったからさ」


 気楽に、気軽に、防人は友人に謝罪する。


『そうか……』

「それで、何の用?」


『あぁ仕事だ。私の研究所(ラボ)の1つに敵が近づいて来ている。早く来い』

「え、いやだから僕、今、テスト中なんだけど……」


『だから?』

「いや、だからじゃなくて……」


『別にいいけど、お前の部屋の件……いいのかなぁ?』

「…………」


 うっわムカつく。

 挑発的に言ってくるのがすごくイラッとくる。

 あいつが今、どんな顔をしてるのか容易に想像できそうだ。


 部屋の件というと部屋のリフォームのことなんだろうけれど……すごい断りたい。

 でも、だからといってここで首を横に振れば部屋はそのまま。


 修理に一体いくらかかるのか分からないけれど、そういうテレビ番組とかから考えても多分相当な額になるだろうし、やってくれるというのなら儲けものというものだ。


 まぁ、ここで断って後でパテとか買ってきて自分でキズを埋めたりすればいいかもだけど、失敗した時が怖いし、面倒そうだ。


「さぁ、どうする?」


 あぁ本当に納得がいかない。

 ここでこっちが首を横に振れないことを分かっててこうやって言ってくるのが本当、ムカつく。


 まぁしかしこんなことでピリピリしてても体に悪いだけし、大抵のことは笑って見過ごせるるだけの精神力は持つべきだろう。

 怒るのは友達を傷付ける奴だけだ。


 まぁ今回の場合、その友達に精神的に傷付けられているわけですが。


「分かった」


 結局、断るという選択は防人の中にはなく。彼はATからの要請を了承する。


「けどさ、テスト一回戦突破してるんだけど……」

『大丈夫大丈夫。確認されてる敵は一人だけだし、すぐに片付くよ』


「いや、でも時間がかかったら――」

『面倒な奴……』

「聞こえてるよ?」

『知ってる』

「…………ふ〜〜〜〜〜〜〜」


 落ち着け、落ち着け、今イラついたって体力の無駄だ。

 ここは大きな器で受け流せ。この程度はスルーできるようになるべきだ。スルー、スルーだ。

 スルー、スルー……スルスルスルスルシースルー。

 ……よし!


「え〜、それで? もし、時間がかかったらどうすれば?」

『――チッ』


 あ゛? 今、舌打ちしたか?


『……分かった。こっちで話はつけとく』

「……ありがとう」


 グググっと持ち上がった怒りのボルテージを落ち着かせ、防人は着替えるべくロッカーからカバンを取り出す。


『詳しい話はラボに着いてからだ。まずは教員寮一階の転送装置まで来い。連絡が来たらこちらから起動させる』

「ん、分かった」


『では、また後でな』

「はぁ〜……全く、勝手な……」


 電話が切れ、耳に聞こえる終話音。

 防人は短いそれが鳴り終わるよりも早くカバンのポケットへ生徒手帳を入れると制服へ着替え始めた。





 転送装置によって防人はATの話していたラボに到着する。

 彼の意識が戻り、周囲の認識ができるようになったタイミングとほぼ同時に室内に設置されているモニターが点灯、外の様子が映し出される。


『これが今回のターゲットだ』


 聞こえてくるATの声に応じるように防人はモニターに映る敵に集中する。

 青い空を背景にこちらへと向かってくる大きな黒い人影。

 ゴツゴツとした全身装甲を身に纏っているその姿はパワードスーツというよりはロボットに近いだろうか。


 焦げ茶色の装甲に巨大な飛翔滑空翼(フロートユニット)

 こうして見る限りでも多数の銃火器や大型のシールドといった武装が全身に取り付けられており、重装備なのが見るからに分かる。

 あれだけの装備で一機だけとなると確かにこちらを狙って来ていると考えても良さそうだ。


 まぁ状況的には全くと言っていいほど良くはないが。


「初めて見るね」

『そりゃそうだ。俺だって初めてなんだから』


「ふーん、じゃああいつがどんな武器持ってるとかそういうのは分からないんだね?」

『だから、お前がそれを今から調べるんじゃないか』


「なるほど――って、え? 僕が?」

『そうだよ』

「いや、そうだよじゃなくて……」


 ただでさえ試験を放棄させられて、半ば強引に連れてこられただけでも嫌だっていうのに……更には斥候を勤めろと?


「えっと、それくらいなら別に他の人に頼んでも別に構わないんじゃ――」

『私の直属の部下には別の仕事を頼んでいる。それにアリスたちに頼みたくても試験なら仕方ない』


 シレッと言ってのけるATの言葉に防人はそうですかと流しかけるものの明らかにおかしい、矛盾していることを彼が言っていることに『はい?』と首を傾げる。


「じゃあ僕は場合は仕方なくないと?」

『当たり前のことじゃないか』


 普通ならばもっと言い淀んでも良いんじゃないかとも思うことを彼はアッサリと言い切りやがる。


『では、よろしく頼むよ。私は私でやることがあるからね。後で光牙の戦闘記録ちゃんと送ってくれよ』


 そして言葉を続け、流れるように仕事を押し付けてきたATからの通信が切れたことを知らせるプツンッという小さな音。


「あ、おい!」


 生徒手帳を取り出し、こちらから電話をかけるも繋がらない。


「っ仕方ない。やらないと帰れないし、あれって人が乗ってるのかな?」


 無人機だったら良いのだけれど……そう思い、不安を感じつつ防人は室内にある扉から建物の通路へと出る。

 真っ白で清潔感のある通路。

 天井に等間隔で設置された証明がこの場所を明るく照らし、通路の先の方まで見渡すことに苦労はない。


 とはいえここは初めてきた場所。

 当然、外へと出るための道は分からず、またこの施設にいるであろうATの部下らしき人影は見当たらない。

 いや、それどころかシンッと静まり返ったその場所からは人の気配がまるで感じられなかった。


 とはいえどうにか外へと出るための出口を見つけると光牙を纏い、飛翔滑空翼(フロートユニット)によって空へと飛び出した。


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