第3話 妹
誤字など有りましたら方報告お願いします。
「おお、おお!よくぞ参った、異世界の勇者たちよ!儂は貴公らが来てくれることを信じておったぞ!」
白い部屋を出て案内された、豪奢な部屋の中央の椅子に座る青白い顔の男が、晶嘉たち五人を見てそう言った。
ゴテゴテとした服装や、不必要なほど煌びやかな壁飾りとは似合わぬ男だ。もしこの部屋で殺された貴族の亡霊だと言われれば信じてしまうだろう。
男はその色の悪い顔に笑顔を浮かべ、五人に近付いてきた。
「ええと、貴方が王様なのですか?」
「そうじゃ、儂こそがモルトナ王国23代目の王、アラン・フォン・モルトナじゃ。して、貴公らの名を聞いても?」
「あっ、はい!俺は藤崎 雄介って言います」
黒髪の真面目そうな少年がそう答える。そう言えばそんな名前をしていたような気がする、と晶嘉は一人思った。確か学級委員長だったかで、何回か名前は聞いたことがある。
「フジサキ、というのがファーストネームかね?」
「いえ、ユウスケがファーストネームです。あと、こっちのは…」
「こっちとか言わないでくんない?アタシは柳田 瑛子です。エイコがファーストネームです」
「なるほど、貴公らの世界ではファミリーネームの後にファーストネームが来るのじゃな」
こちらは明るい茶髪をポニーテールに括った活発そうな少女だ。
晶嘉はこんなやつ居ただろうか?と首を傾げたが、瑛子と晶嘉は二年生の時から同じクラスである。
「はいはいはーい!俺は桜木 十五っす!」
「私は花倉 千郷と言いますわ」
自己主張の激しい、金に近い茶色の髪の少年は誰から見てもチャラそうだという印象を受ける。晶嘉はモルトナ国王と名乗る男の横にいた侍女の顔が少し引きつったのを見た。
もう一人の少女は大人しそうな、背中の真ん中あたりまでの黒髪ストレートが特徴的だ。少し気の弱そうな印象を受け、男なら守ってやりたいと思うタイプだろう。
「そうかそうか!ユウスケにエイコ、トウゴにチサトじゃな。して、そちらのお嬢さんの名は?」
「彼女の名前は…」
「菘だ」
雄介の言葉を遮り、晶嘉が自分の苗字を名乗った。なんとなくここにいる者に自分の名前を呼ばれるのはまずい気がした。なんとなくではあるが、晶嘉の直感は当たりやすい。
「そうか、スズナか。では全員の名を聞いたところで、何故貴公らを呼んだのかを話すとしよう。そうだなではまずこの世界のことから…」
この世界には大きく分けて四つの大陸があり、その大陸ごとに国がある。
一つはここ、モルトナ王国。人間が支配し、主に人間が住む国だ。
晶嘉たちに説明をする男こそがこの国の王本人である。
二つ目はゴルクス王国。主に獣人族の住まう、国土の三分の一が砂漠の国である。
獣人は人間の知性と獣の体を併せ持つため、肉弾戦を得意とする戦闘民族が多いそうだ。
三つ目はロマリト。別名、聖女の不可侵域。
その名の通り男子禁制の、聖女の統治する国。島内の物資が豊富なのか、既に何十年も鎖国状態にあるらしい。
そして四つ目、魔国ヴェドマニア。
この世界の中で最も大きな大陸に位置するが、その半分は鬱蒼とした森林地帯だ。
また、魔国と言うだけありこの国には魔人族が住む。
この世界では人間や獣人も魔力を持ち、体得したスキルと魔力を用いて魔法を使う。魔人は人間や獣人などとは比べ物にならない程の魔力を保有しており、圧倒的な力の差が生まれる。
ただしそれは、魔法の面でのみを言えばのことだ。真っ向からの勝負なら獣人族が、数での勝負なら人間がそれぞれ優っている。
そしてゴルクスやヴェドマニアに比べ、モルトナは大陸の中央に火山がある以外特に土地問題はなく、気候も年中穏やかで作物が育ちやすい。
武力に置いて多少劣るモルトナは、経済力を持ってして他の二国との均衡を長年保ってきた。
しかしその均衡も今、崩れようとしている。
先代の魔王が暗殺され、新しい魔王が就任した。歴代最高の魔力を保有すると噂されるその魔王が、虎視眈々とモルトナを狙っているという。
それに加え、ゴルクス内でも不穏な空気が流れているそうだ。
いつ進撃してくるか分からぬヴェドマニアに対抗するための大きな力が必要になった。ヴェドマニアに対する牽制ともなる大きな力が。
これこそが晶嘉たちの召喚された理由だった。
「ま、マジで!?じゃあ俺らがRPGみたく魔王討伐に出掛けたりする勇者なわけ!?」
「あーるぴーじーとやらは分からぬが、そういうことじゃな。貴公らにはこちらで用意した武官が…」
グロロロロ…
十五のはしゃぐ声に王が頷く。そして言葉を繋げようとした時、獣の唸り声の様な音がした。
「な、何事じゃ!」
側に待機していた騎士達が剣を構え周囲を警戒する。
しかし直ぐに、先ほどの唸り声の正体が分かった。
真顔で立つ晶嘉の腹から、また同じ音がたったのだ。
「おお、長い立ち話になってしまったな勇者たちよ。隣の間に食事の用意をさせてある。話の続きは食事をしながらにしようではないか」
若干呆れた顔をされたが気にしない晶嘉だった。