第10話 兄
流石に何十分も話していたせいか、すっかりスープが冷めてしまっていたので温めることにした。
そこらにあった石を組み、落ち葉や木の枝を集めて赤い妖精…つまるところの火の妖精に頼んで火をつけてもらう。エメラドが驚いていたが、緑華としては火の妖精に頼めばコンロ要らずなのでは、と言う考えに捕らえられてあまり気にしなかった。
キャンプ鍋でないから、あまり加熱しすぎると破損の心配があるのだがこの際仕方ない…と思っていたが火の妖精に頼んだら中火程度で火の大きさを保ってくれた。
半透明なスープにふつふつと気泡が浮き出てきた頃に、なにかかき混ぜる大き目のスプーンなど無いかと聞いたら、エメラドが長さ三十センチほどの木製のスプーンと器を何処からともなく取り出した。
周りにいた妖精たち(三十匹ほど集まってきた)も、いつの間にやら最初の三匹のように小さなスプーンを用意している。
「なあ、気になってたんだがそのスプーンとかはどこから出しているんだ?」
「ああこれ?これは妖精魔法…人間の言う精霊魔法よ」
「いやまずその精霊魔法とやらからしてわからないんだが…」
「あ、そうよね。精霊魔法って言うのは各種の妖精が使うことのできる固有の魔法よ。ここにいる殆どが木の妖精だから、小さい者でも草木で何かを作ったり、植物の成長を促進させたりすることが出来るわ」
「ああ、さっき火の妖精に頼んだのも同じ様なその…精霊魔法?ってやつか。じゃあそこにいる青い妖精は水の妖精で水を扱えるって事か?」
「貴方、水の妖精も見えるの!?」
『みえるのー?』
『みえるのー!?』
「……見えてるけど?」
『みえてるのー!!』
各種一、二匹程度しか居なかった緑以外の妖精がヒシッと緑華の頭に抱きついてきた。赤青黄色茶色水色…多種多様な色である。
エメラドがあんぐりと口を開けて驚いていたがどうかしたのだろうか、と思っているうちにスープが沸騰した。
ふわりと香るコンソメの匂いに、緑華のお腹はもう一度なったのだった。