第55話 三姉妹
足音が止まった。そして数秒の沈黙の後、それはゆっくりとこちらへ近付いてくる。
硬直する私の体を恋路さんが強く握った。過呼吸になりそうなほど荒い息に、大きく震える体。ごめんなさい、と小声で何度も謝罪を繰り返す彼女の頬から、何粒もの水滴が私の手に落ちた。
ハッとして私は恋路さんの頭を抱き寄せた。腕の中にすっぽりと収まる少し汗ばんだ癖っ毛を撫でながら、もう一度同じように囁いた。
「大丈夫。私に任せてよ」
恋路さんが不安気に私を見上げた気配がする。そっと体を離し、見えていないだろうが安心させるように微笑んだ。
すぅっと深呼吸をして息を止める。そうこうしている間にも足音はロッカーの前へとやってきて、取っ手に手をかける気配がした。
私は渾身の力を込めて扉を蹴り開けた。扉越しに伝わる重い物を蹴る感触と、恋路さんの悲鳴、そして誰かの呻く声。蹴った勢いのままロッカーから飛び出した私は、そこでよろめいていた人物へ体をぶつけ、仰向けに倒れたその体の上に跨った。既に振りかぶっていた拳をその顔面に向かって振り下ろす。
「ストップ!」
「っ!?」
だが私の拳は当たる寸前で動きを止める。眼前すれすれで固まる拳に、倒れているその人物は苦笑を浮かべていた。
「ひっ……一年先輩!?」
目を丸くして彼の名を呼べば、先輩は当たりとでも言うようにひらひらと手を振って笑った。
「どうしてこんな所に……」
「どうしてって。普通に部活に来ていただけなんだけれど」
そう言って先輩はちらりと視線を廊下の先にやる。そっちの方向には美術室や技術室などがあるはずだ。そうだ、確か先輩はよく一人部室で絵を描いているのだったっけ……。
考えていると、背後から恐る恐るといった感じに名前を呼ばれた。ロッカーから出てきた恋路さんが、身を竦ませながら私と先輩をぎこちなく見つめている。そこでずっと先輩の上に馬乗りになっていたことに気付き慌てて飛び退った。
「もうちょっと乗ってても良かったのに」
「殴りますよ」
「勘弁」
ふっと笑った先輩はそこで表情を引き締めた。
「それで? 二人とも様子が変だけれど、何かあったの?」
「……実は」
「学校に変な人がいるんです!」
声を荒げた恋路さんが先輩の前にやって来る。たどたどしくも告げられる話に一年先輩は神妙な顔で頷いていた。
「…………なるほど」
「だから、先輩も逃げてください」
「和子ちゃん達はどうするの?」
「私は……他の人達を避難させなきゃだから」
「じゃあ僕も手伝うよ」
驚いて彼の顔を見上げた。ニコニコと微笑みを浮かべたままの先輩の反応は、からかっているわけでも冗談を言っているわけでもなさそうだった。
私が口を開く前に、遮るように恋路さんが歓声を上げた。本当にっ、と声を弾ませてあからさまな安堵を滲ませる彼女。
……そうか、恋路さんにとっては先輩が一緒に付いてきてくれることは好都合なのだろう。一人より二人、二人より三人。人数が多いほど安心するし男手があるほうが心強い。ましてやそれが人気者の一年先輩だというのなら尚更だ。
「秋月。ねえ、先輩も一緒にいいでしょ?」
渋る様子の私に気付いた恋路さんは、顔を上げて私の顔を覗き込む。その目は不安気に揺れ、心なしかショボンと気落ちした背景が見えた。
「だめ?」
「……………………」
「ねえ秋月。お願い」
「…………いいよ」
きゃあっと恋路さんが嬉々とした声を出す。ありがとう秋月、と満面の笑みで言われれば、こちらとしてはもう何も言える気がしなかった。
廊下で立ち話をしているのも危ないだろうからと次の部屋に私達は向かうことにする。先陣を切って歩き始めた私には付いてくる二人分の足音だけしか聞こえない。
だからこのとき、先輩がどんな顔で私を見ているか分らなかった。
技術室の前で私は足を止めた。そっと扉に耳を当てると、そこから誰かの話し声が聞こえてくる。内容までは分らないものの女の子の笑い声だ。体を丸めて固まる恋路さんを横に下げ、私と先輩は目配せをして同時に扉を開けた。
木材の香りと工具の入り混じったような、少し不思議なにおいの漂う技術室。そこにいた二人の女子達がこちらを向いていた。彼女達が身に付けているのは見知ったこの学校の制服。敵でないことに安堵の息を吐いて、長机へ座る彼女達の元へ近寄った。
「突然入ってきてごめんなさい。いきなりで悪いけど、話があるんです」
「話? 何々、面白いこと?」
突如入ってきた私達に驚きの表情を浮かべていた彼女達だったが、そのうちの一人、髪を後ろで一本に縛っている方の子が好奇心旺盛な顔で身を乗り出してきた。けれど先輩が説明をすると、まっ先に反応したのはもう一人の子の方だった。
「えぇっ、テロリスト!?」
おさげを揺らして大仰に顔を仰け反らせたその子。愕然とした表情を浮かべる彼女は、おろおろと視線を泳がせてどうしようどうしようとパニック状態になってしまっていた。落ち着かせようとその子に声をかけようとすると、もう一人の子がいきなり大声で笑い出す。
「なっ、何で笑うの!」
「いや、ごめんごめん。反応が面白くってさぁ」
「こんなとき何言ってるの!」
「だって……ぶふっ! あー、駄目だ! 無理!」
「……真面目にやってよ!」
緊張感のない彼女達の会話をぼんやりと眺めながら、ふと疑問に思った。焦げ茶に近い黄土色の髪、ツンと尖った鼻にくるっとした丸い目、少し胴長なところから小柄な身長までもが似ている。目の前の彼女達二人は、雰囲気や顔立ちがそっくりだったのだ。
じっと見つめる私の視線に最初の子が気付いたようで、笑いながらおさげの子の肩を抱いた。
「うちら姉妹なの。うちは二年の狩俣滝。こっちは妹の千恵。よろしくー」
「よ、よろしくお願いしますっ」
「よろしく……って、それどころじゃないから! 二人ともここで何してたの?」
「千恵の技術の課題が終わらなくってさ」
そう言って滝さんがさっきまで座っていた長机を指す。机上に乗せてあったのは木材でできた小さなオルゴールだ。まだ完成途中のようで、箱になりかけの形で放置されている。その周りに散らばっているのは作成中に使用したらしい、釘にハンマーに接着剤にカッターに、とにかく色々だ。
私も一年生の夏頃に同じものを作った覚えがある。慣れない作業の中頑張って作ったけれど、完成してすぐ一条さんに落とされて壊れちゃったっけ……。ちょっと嫌なことを思い出して何となく恋路さんに顔を向けると、彼女は首を傾げて滝さんの手元を覗き込んでいるところだった。
「あれ、手、赤くない? どうかしたの?」
「あー、さっき間違って指切っちゃってさ。カッターも汚れちゃうし大変だったんだよ」
「えっ! 大変、早く手当てしないと!」
「でも安全になってから手当てするのがいいよ。だから二人も学校の外に避難して」
私が言うも、二人は何故か頷こうとはせず互いの顔を見つめ合ってしばらく黙っていた。それから滝さんが私に問う。
「そっちは何で逃げてないのさ?」
「え? ……だって、このことを知らせなきゃ。学校にいる皆に」
「ふーん。だったら手っ取り早い方法がある。うちらも行くよ」
唖然とする私の前で、皆はそれは助かる、などと笑顔で話し合っている。秋月行こう、と恋路さんが手を伸ばしてきた。手首を握るそれを振り払う。驚いて振り返る恋路さんの顔を見下ろしながら、私は前髪を掻き毟った。
「……どうして」
「秋月?」
「どうしてっ! 皆そうなの!?」
恋路さんが怯えた表情を浮かべるが、今はそれに構っていられなかった。さっきも怒ったばかりだというのに耐え切れなかった。
どうして学校に残ろうとするのか。この瞬間の学校は、普段私達がいる学校じゃない。いつどこで誰が襲いかかってくるかも分らない。なのに、それなのに、どうしてわざわざ危険に飛び込もうとしているんだ。
「早く逃げてよ、危ないって分かってるでしょ。遊びじゃないんだよ!?」
私が守らなきゃいけないのに。皆を助けなきゃいけないのに。どうして、どうしてそうやって危ない目に遭おうとするの。
顔が熱い。大きく息を吸って怒鳴ろうとしたそのとき、突然後ろから手を引かれて振り向く。神妙な顔をした一年先輩が私を見下ろしていた。
「和子ちゃん」
「……何ですか先輩」
「そんなに騒いでたら見つかるよ。落ち着いて。僕の話を聞いて」
「嫌です。掴まないでください、離して」
「駄目だよ」
「いいから離してっ!」
「話を聞け。秋月さん」
ビクッと肩が跳ねる。今まで一度も聞いたことのない、先輩の冷たい声に体が硬直した。
彼の目は静かに私を見据えていた。いつも私に向けられるような視線でもなければ、他者に向けられるわざとらしいものでもなく、彼の本性を見たときの濁ったものでもない。ただただ静かに冷めた、先輩の目だった。
「綾ちゃんだったっけ? ごめんね、ちょっとの間、廊下から誰か来ないか見張っててくれる?」
先輩が私の手を拘束したまま恋路さんに微笑みかけた。一瞬不安そうに視線を彷徨わせた彼女だったが、滝さんと千恵さんが手伝いを申し出ると安心したように笑顔を浮かべた。
技術室の扉前に三人が固まったことを確認してから、先輩は私を部屋の隅へと連れて行く。三人からは道具に隠れて私達の姿は見えないだろう。ようやく手を離してくれた先輩から距離を取り、壁に背を付いて彼を睨んだ。
「は、話って?」
気丈に言い捨てようとしたのに、情けなくも声は震えていた。一年先輩は息を吐くように静かな声で言う。
「君は何がしたいんだ」
「どういうことですか」
「さっきから様子がおかしいよ。こんな状況だから怖いだろうし、焦るのも分かる。でもだからってパニックになったら元も子もないだろう?」
「……仕方ないでしょ」
「仕方ない?」
「だって、私が、私が一番こういうのは分かってるんです。皆ただの学生だし、銃とかそんな、見たこともないだろうし。知ってるのは私だけなんです」
先輩は目を細めて私の話を聞いていた。だから、だからと肩を震わせて語る私に、彼はそっと告げる。
「和子ちゃんが皆を守らなきゃいけない?」
「そうです」
「他の皆はここじゃ足手まといにしかならないって?」
「…………はい」
「それは、君もだろう?」
「え?」
彼は目を伏せて静かに言った。
「和子ちゃん。君は何か勘違いしてない?」
「勘違い?」
「『ネコちゃん』は確かに夜の明星市で働いてる。銃だって見たことがないわけじゃないだろうし、今までに何人ものターゲットを伸したこともあるよね」
「……そうですよ、だからっ」
「でも、今は状況が全然違う」
怪訝な顔を浮かべる私に先輩は一つ一つ確かめるようにゆっくりと言う。
「今君の手元には使い慣れたナイフがある? あったとして、それを綾ちゃん達の前で振るうことができる? そもそもあの子達を守りたいとして、庇いながら戦える?」
「それは……」
「そんなこと君にはできるはずがない」
「……………………」
「更に言えば今あの子達を無理に外に逃がそうとするのは逆効果だ。学校を見張っているのならもう和子ちゃん達の教室だって見られただろう。なら相手も警戒してるはず。そんな中、怯えきった人がこっそり逃げ出そうとしてもすぐに見つかってしまうに決まってる」
いいかい、と真剣な声で前置きして、先輩は告げる。
「君は多少対人戦闘に心得があるってだけで、無敵なわけじゃない。いくら慣れていようが銃を持った相手に囲まれたら勝ち目なんてほとんどない。今の和子ちゃんはちょっと危険に慣れているだけで、武器も何も持っていないただの女子高生だ。……そんな子が、一人で皆を守って戦う?」
ははっと先輩は楽しそうな笑い声を上げた。けれど始終冷やかな熱を浮かべていた目が、すっと私を蔑むように見つめる。
「妄想と現実を一緒にするなよ」
ゆっくりと息を吸うと、知らず知らずのうちに肩が強張っていたことが分かった。
先輩の言葉を吟味するように目を伏せる。さっきまで心中を荒れ狂っていた怒りは、今では嘘だったかのように成りを潜め、代わりに複雑な思いが渦巻いていた。
反感したい気持ちや納得できない気持ちや焦る気持ち。色々な感情があるけれど、それでも先輩の話は正論だと理解はしていた。言い返したいけれど、怒鳴りたいけれど、そんなことをする暇も余裕も今はない。
感情ばかりに任せて動けば自滅する。だから、常に冷静でいなきゃ。東雲さんのように。
「……ごめんなさい」
絞り出すような声で言うと、先輩はふっと微笑みを浮かべた。僕こそごめん、と言って肩を竦める姿は、いつも見る一年先輩と変わりないものだった。それを見て私はまた小さく一言だけ呟く。
「ありがとうございます、先輩」
さっきまでの彼は私の嫌っている彼ではなく、本当にただの先輩としての彼だったのだと、そう思う。
私の言葉に先輩は一瞬だけ表情を崩した。驚いたようなその顔に、じわりと本当の笑顔が滲んでいく。それを見届ける前に私はパッと踵を返して、扉の方にいる三人の元へと早足に歩いて行った。
滝さんが振り返って私に笑いかける。どうやら異常はなかったようだと一安心し、そういえばと彼女の傍に寄って小声で話しかけた。
「ねえ、さっき言ってた『手っ取り早い方法』って何?」
「それはねぇ」
彼女はニッコリと笑って口を開いた。
「本当に大丈夫なの?」
「いけるいける。スイッチ押してすぐ逃げれば余裕だって」
二階にある放送室の中、怖気づく恋路さんに滝さんが笑う。その隣で千恵さんがよく分からない機材のスイッチを押す。キィンと耳鳴りのような音がして、スピーカーに音が繋がった。滝さんが指示を出し、千恵さんがまた何かの操作を繰り返す。するとスピーカーから音楽が流れ出した。
出よう、と言う滝さんの声に私達は急いで放送室を出る。廊下の角にしゃがみ込むように隠れてから、今流れている音楽が校歌であることに気が付く。けれど怪訝に首を傾げた私に恋路さんが小声で問いかける。
「どうかした?」
「いや……校歌ってこんな歌詞あったっけ?」
「さぁ? あや、歌覚えてないからわっかんない!」
そっかぁ、と恋路さんを横に放送を聞くが、その歌詞にはやはり聞き覚えがなかった。道仏高校の校歌は三番まで。緑がどうのこうの、一等星がどうのこうのという平凡な歌詞の並ぶ平凡な校歌だ。
新曲だろうか、なんて呟いていると、それまで黙っていた一年先輩が納得したように頷いているのが目に入った。彼はベストの胸ポケットから取り出した生徒手帳を開いていた。
「なるほどね。四番目の校歌か」
「四番目の校歌?」
私と恋路さんが疑問を浮かべる。
「非常事態のときに流す音楽だよ。これを流すときは、学校で非常事態が発生したけれど、誰かに伝えることができない状態のとき。ほら、ここに書いてある」
そう言って先輩が差し出してきた手帳には確かにそういった内容のことが記されていた。学生手帳なんてろくに目を通したこともなかったけど、こんなことも書いてあるのか。滝さん達を見ると、彼女達は少し得意気な顔をして立っていた。
「よく知ってたね、こんなの」
「へへー。こういう方法があるって、前に聞いたことあったんだ」
と、廊下の先から足音が聞こえてきた。すぐさま私と一年先輩が様子を窺う。放送を聞いて来たのだろう、覆面を被った男が一人放送室へと入っていく。スイッチを切ったのかすぐに校舎中に流れていた音楽は止み、その後出てきた男は来た道を引き返して行った。
ほっと胸をなでおろす恋路さん達を尻目に、私と一年先輩は顔を見合せて訝しげに眉を潜めていた。
「おかしいですね」
「うん、おかしい。勝手に音楽が流れるわけないし、誰かが操作したと考えるのが普通だ。それなのに周囲の確認もせず帰っていくなんて」
何かがおかしい。けれどそんなことを考えていると、滝さんと千恵さんが突然立ち上がる。どうしたの、と恋路さんが話しかけると二人は言った。
「実はわたしたちの姉も、今日学校に来てるんです」
「そうそう。衣世ねえも今日は部活で来てるとか言ってたよねー」
大変じゃない、と私達も慌てて立ち上がる。何の部活かと聞けばどうやら家庭科部に所属しているらしい。家庭科室ならちょうど二階にある。
足音を立てないように廊下を移動し目的の部屋へと向かう。扉を開ければ中に見えたのは、たった一人の女子生徒が食器を洗っているところだった。
「……あら? 滝に千恵、それにお客様かしら? いらっしゃい」
黄土色の癖っ毛にツンと尖った小鼻……そこにいた彼女もまた、滝さん達そっくりの人だった。衣世ねえ、と呼びながら二人が姉の元へと近付く。学年ごとにスニーカーのラインの色が違う道仏高校。赤青緑のカラフルな色が、三人の足元に映えていた。
滝さんと千恵さんが両側から彼女に囁く。かなり潜めた声量のせいでこちらにはまるで聞こえない。ふんふんと頷いた衣世さんは、両手で口を覆って素っ頓狂な声を上げる。
「大変じゃない!」
そしてその目をキラキラと輝かせ、両手を拳の形へと変える。見える口元は大きく弧を描いていた。
「まるで映画みたいっ!」
「ずいぶんと余裕だね」
一年先輩が苦笑する。呆れる私と恋路さんの前で、三人は手を取り合って騒がしげに話していた。
「流石、衣世ねえは動じないなぁ」
「だって素敵じゃない? こんな状況、まるで映画の主人公になった気分。ふふ、三人姉妹の戦闘劇かしら?」
「えー、それよりだったらうち主役がいーい! 体力と筋力を使って一気に敵を倒すの!」
「私だったら頭を使って敵を錯乱させていきたいわねぇ。そういう方が格好良いもの」
「……もー。二人とも、いっつもそんな感じなんだから!」
こんな状況でなければ、姉妹の微笑ましい会話として聞いていることができたのだろうけれど。
しばらく騒いでいた三人だったが、ふと衣世さんがその笑顔を困ったようなものに歪めた。頬に手を当て、悩ましげな溜息を吐く。
「でもそうねぇ……こんなにも騒がれたんじゃ、こっちも迷惑だからね。もっと静かにしてくれればいいのに」
そういう問題なのだろうか。
滝さんが頭の後ろで腕を組み、でもどうする? と面倒そうな声色で空に問う。どうしよっか、と同じくぼんやりと疑問を口にしたのは丸椅子に腰かける千恵さんだ。二人の顔を交互に眺めた後、衣世さんはそうだ、と何かを思い付いたように顔を輝かせた。
「私達で倒しちゃえばいいのよ。あの人達を、全員!」
「いや、それは危ないですよ。あんなにたくさんの銃を持った人達に、敵うわけない」
衣世さんの提案に私は思わず口を出していた。さっき一年先輩に同じことを言われたからだろう。改めて、客観的にそんな考えを見てみると、あまりにも無謀としか思えないものだとようやく気が付いた。
けれど衣世さんは微笑みを崩さない。むしろ更に口角を上げ、私達へと告げた。
「一人ずつならいけるかもしれないわよ?」
一人ずつ?
キョトンとした私は、同じく横で似たような顔をしている恋路さんと顔を見合わせた。




