第16話 初めての友達(後編)
階段を上がっている最中、私達は何も喋らなかった。三階の廊下の突き当り、そこの扉をあざみちゃんが開ける。部屋に一歩踏み入ってキョロキョロと辺りを見回した。
中学校時代、友達の家に遊びに行ったことは何度かある。女の子らしい部屋だったりシンプルな部屋だったり散らかっていたり、片付いていたり。この部屋は家具や小物を赤とピンクで揃えた、大人っぽくも可愛らしいお洒落な部屋だった。
ふと、タンスの横にかけられてある制服に目がいった。赤い襟のセーラー服だ。胸元には赤いリボンタイが垂れていて、左胸のポケットには校章であるワッペンが縫われている。蜘蛛の巣のように先が尖った六角形、金色の枠に葉を生やしたツタの模様がうねっている。その内側に黒と白の市松模様が染まり、その中央には赤く『霧乃崎』と書かれていた。
「霧乃崎? ……もしかしてあざみちゃん、霧乃崎中学校なのっ?」
「そうだけど、何」
なんてことないかのようにあざみちゃんは素っ気なく答える。そんなローテンションの彼女とは対照的に、私はその制服から目が離せなかった。頬が少し熱いのが自分で分かる。
霧乃崎中学。それは明星市でも有名な名門私立中学校だ。創立六十年ほどの学校で、学力は市内でもトップレベル、入学は受験制度。噂によればそこで学ぶ授業は高校レベルを超えていることもあるのだとか何とか。
つまりは頭のいい中学校。そんな所に通う学生が今目の前にいるというのは、少し……いや、かなり尊敬の意を抱く。
そんな私の憧れの視線を感じ取った彼女は、照れることはなく意外にも呆れたように眉を顰めた。
「あのさぁ、霧乃崎行ってるからってそんな憧れるような人間はほとんどいないわよ? 結構砕けた奴ばっかだし……」
「それでも勉強できるんでしょ? 高校の勉強するって本当? あざみちゃん頭いいんだね、凄いね!」
私の頭は良くも悪くもない、平均点を前後するぐらいのものだ。中学校だって高校だって特に目立ったところもない平均レベルの学校だった。だから名門学校へ通っているあざみちゃんが羨ましくもあり、憧れた。
そういえば、この部屋のカラーボックスや机上には、漫画や小説やCDといった娯楽品がほとんどない。代わりに詰め込まれているのは見るからに頭が痛くなりそうな参考書や高校受験の過去問題などなど。更にそれらの本はただ棚の肥やしになっているのではなく、しきりに使われているようで、たくさんの付箋やしおりが挟まっていた。
「やっぱり頭良くなきゃ、あんな蜘蛛みたいなことできそうにないもんね。あれも凄かったなー」
「蜘蛛みたいな……ああ、『糸』のこと?」
「そう。こう、シュルルーって!」
両手を振り上げ、昨夜あざみちゃんが糸を操っていたときのマネをする。実際マネしてみると、一本一本の指を意識的に動かすのはとても難しい。それに、このそれぞれから伸びる糸の動きや、張り巡らした範囲、敵の位置……更にたくさんのことを瞬時に計算して指を動かすなんて、相当の労力と頭脳が必要だと思う。
あざみちゃんが静かに自分の腕を擦った。そこに隠している糸に触れたのだろう。今朝、マンションを出るときに返したあざみちゃんの糸。クモの手に戻った蜘蛛の糸。
今ふと行動に移せば、彼女が私を殺すことなんて容易いはずだ。
ふわふわとした赤いカーペットを踏みながら窓辺に近寄る。開けてもいいか確認し、それからカーテンと窓を開けてそこから上半身を乗り出した。
景色が良かった。この辺りは高いビルやマンションもなく、三階建ての家も少ない。色とりどりの屋根、緑溢れる木々、遠くに見える山。解れた綿菓子のような雲がほわほわと浮かぶ青い空。スッキリと澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら、顔を綻ばせた。
「素敵な部屋だね! 景色もいいし、庭も見える! …………あれ?」
屋根の少し下に、突き出したように梁があった。その梁の上にこっそりと一足の靴が置かれている。間違えて乗せてしまったにしては、綺麗に揃って並んでいるそれが気になった。
あざみちゃんが怪訝そうに私の隣で身を乗り出し、靴を見て「ああ」と頷いた。それから私の顔を見て説明する。
「あのね、仕事のときって大抵夜でしょう? でも外に抜け出すときって下手すれば親に見つかるじゃない。一回くらいあったでしょ?」
「う、うーん、私仕事始めたばっかだし、親家にいることほとんどないから……」
「あっそう。うちは逆にいつも親は家にいるから。で、それが深夜だと尚更言い訳に困るし、それで仕事が失敗なんてことになったら嫌でしょ。だから仕事のときはいつもあれを使うのよ」
言ってあざみちゃんは梁を指差す。よく分からずに首を傾げると、パッと彼女の手が大きく振られた。
袖口から二本の糸が飛び出した。糸は真っ直ぐに梁へと伸びていき、どういう原理なのか梁と靴にそれぞれが巻き付く。ぐっとあざみちゃんが手首を引くと、梁に巻き付いた糸は僅かに梁を軋ませただけだが、靴に巻き付いた糸がそのまま手元に飛んでくる。胸元に飛んできた靴をあざみちゃんが受け止め、私を見てニヤリと笑った。
「おおーっ!」
目の前で行われた芸当に拍手をした。あざみちゃんは靴をカーペットの上に逆さに置き、梁に巻き付けた糸を回収する。
「あたしの親はあたしが寝てる間は部屋に入ってこないから。夜になったらここから糸で降りて脱走するってわけ、靴を履いてね。あたしが人を殺す間、パパもママも娘はベッドで夢の中だと思い込んでるのよ? 笑っちゃうわ」
そう言って実際あざみちゃんは肩を揺らして笑う。けれどその顔から表情を消し、溜息を付きながら顔を手で覆う。
沈黙が続く中、話しかけられるような話題も見つからず、私はぼんやりと机上に並ぶ書物を見ていた。「…………ん」と、その机の端っこの方、陰に隠すように何かが張ってあることに気が付く。少しだけ顔を突き出すように目を向けると、それは数枚のプリクラだった。
小さな薄いプリクラの中で、まだ小学生くらいの四人の女の子が楽しそうに顔を寄せ合い、ポーズを取っていた。はにかむ子、変顔をしてる子、ピースをしてる子……その中に、今よりもう少し幼い顔のあざみちゃんらしき少女が、無邪気な笑顔を浮かべていた。
物思いに耽るように外の景色を見ているあざみちゃんを確かめる。プリクラの無邪気な笑顔、その雰囲気の欠片さえ見当たらない冷たい表情を浮かべていた。
「…………そ、そういえば、もうすぐテストなんだって?」
何気なく頭に思い浮かんだ話題を振ってみる。すると少し驚いたように、どうして知っているのと問われた。昨夜あざみちゃんのお母さんから電話で聞いたことを告げると、少し迷惑そうな顔をされる。
「来週の月曜日に」
「そっか、じゃあ今日は友達と勉強会とか開くつもりだったのかな、ごめんね」
「別に」
それから一拍置いて、囁くような声量で「友達なんていないし」と呟いた。
「え?」
「……友達なんていないって言ったの! 勘違いしないでよ。『作れない』んじゃなくて、『作らない』だけだから!」
苛立ったように声を荒げながら説明されたところで、その意味が分からなかった。
「どうして? 友達がいないと寂しいじゃない!」
友達を作らない? 何それ、どういうこと? だって一人でいるのって凄く寂しくて悲しいじゃん。
高校で一人も友達が作れない私には、わざわざ自分から周囲を遠ざける意味が分からなかった。どうしてどうしてとしつこく何度も尋ねる私に嫌気が差したのか、あざみちゃんがジロリと私を睨み付け、髪を掻く。
「納得できないならできるように説明してあげるわよ! ――……あたしの周りにはね、昔からガキっぽい子しかいなかったの」
「小学生ならそりゃ当然じゃないの?」
「黙って聞きなさい」
「はい」
ぐっと唇を閉じる様子を見て頷いてから、あざみちゃんは続けた。
「小学校の頃からそりゃもう馬鹿な子ばっかり。些細なことで怒って、泣いて、喚いて。誰かが消しゴムを取っただの、テストの点数を馬鹿にされただの、じゃんけんが勝てないだの、そういうどうでもいいことで喧嘩すんのよ? バッカみたい、というか本当に馬鹿! 考えが合わないだけで一人を省いて、遊びに付き合わないだけで疎外して嫌って陰口言って! ……そんな関係なのに『私達ずっと友達だよ!』なんて言うんでしょう? そんなのが『友達』? 随分と薄っぺらいのが、『友達』なのね」
黙ってろと言われたから返事はしない。皮肉気な笑みを口に浮かべるあざみちゃんを黙って見つめながら、私は自分の感情を頭に浮かべていた。
「そんな関係に飽きたのよ。どんなに仲が良くてもどうせそのうち壊れるんでしょう? 今にも千切れそうな友情を必死に繋ぎ止めようとビクビクしてるくらいだったら、こっちから願い下げ。中学生になれば皆多少は大人になるだろうし、霧乃崎は頭いい子ばかりだから大人びた子もいるだろうと思ってた、そういう子なら友達になってもいいかもしれないと思った。だけど今年入学して見てみたところでそんなの一人もいなかったわ。皆少し頭がいいくらいで中身は普通の中学生と変わらない。変に知識が付いた男子は下ネタで盛り上がってるし、異性が気になりだした女子は好きな人が被ってギスギスしてる。小学生のときよりガキっぽいわよ。大人な子なんて誰もいない」
霧乃崎中学の制服を見つめるその目は酷く冷え切っていた。女子からは可愛いと評判で周囲からは尊敬の対象の制服も、あざみちゃんにとってはただの拘束衣にしか捉えられないのかもしれない。
だから、とあざみちゃんは吐き捨てるように言った。
「だからあたしは友達を作らない、作りたくない。顔色を窺ってただ疲れるだけの友情なんてまっぴらごめん。それは負け惜しみとかじゃなくて本当にそう思うの。……分かった? これがあたしが友達を作らない理由。小学校のときの友達だってあまり好きじゃなかったし。今までも、これからも、友達なんていらないわ」
「…………うん、分かった。よく分かった」
「それならいいわ」
あざみちゃんは窓から体を離し、机に寄りかかるように手を付いて天井を仰ぐ。
だが、
「けど」
私の言葉にその視線を戻す。その目はとても嫌そうに歪み、これから私が言わんとしている台詞を分かり切っているという感じだった。
だけどこれは言いたかった、言わなきゃいけないと思った。唾を飲み込み声を整えてから、私は吸った息を言葉として吐き出す。
「……友達って確かに面倒なことは多いよ。ちょっとしたことで仲違いするし、人数の多さで優劣が決まるし、裏では陰口言ってたり。鬱陶しいなーって思うのは凄くよく分かる」
「だったら」
「でもさ、それが友達の全部ってわけじゃないでしょう? 初めからそんなのだったら友達を作ろうって思う人、一人もいなくなるもん。あざみちゃんの意見は正しいけど、でも、端っこしか見えてない」
「じゃああんたは全部見えるとでも?」
彼女の言葉に首を振る。
私にだってそんなことの全貌は分からない。だけどそれでも、これだけは分かっていた。
「友達を作りたくないなんて嘘でしょう」
告げた途端、あざみちゃんの目に火が揺らいだ。表情にこそ表さなかったものの酷く憤慨していることは明らかだ。
「友達が欲しくない人っていうのはきっとたくさんいる。でも、少なくとも、あざみちゃん。あなたがそれを言うのは多分違うと思うの」
「あんたに何が分かるって――」
「じゃあ何で」
指を差した方向にあざみちゃんの視線がつられる。間違ってたら謝るけど、と呟いてから、私は答えた。
「小学校の友達がどうでもいいなら、何であんなプリクラなんて張ってるの?」
机の片隅にこっそりと張られたプリクラ。友達がいらないのなら、あんなもの、捨てるか仕舞うかにするはずだ。それを普段見ることのできる机に張るということは、それがあざみちゃんにとって嬉しいものであるはずだと、私はそう考えた。
案の定あざみちゃんはぎこちなく肩を強張らせた。視線が泳ぎ、唇が震える。当たりだ。
「そ、れは…………」
「あの子達、小学校の友達なんでしょう? 皆楽しそうだもん、仲が良かったんだ。大好きだったんだよね? どうでもいいなんて嘘なんだよね?」
あざみちゃんが俯き、肩を震わせる。表情が髪に隠れて見えなくなる。
「中学校が離れたとしても、大切な友達なんでしょう?」
けれど。
私がそういった瞬間。あざみちゃんはパッと勢いよく顔を上げた。
眉根を寄せて大きな目を歪め、唇を噛みしめて。今にも泣き崩れそうな情けない顔をして。
そして熱い吐息を震わせるように感情を絞り出した。
「もう友達なんかじゃない!! あたしを一人にさせたのは、その子達の方よ!!」
予想外の言葉に、しばし呆然と意味を飲み込めなかった。そんな私に向けて、あざみちゃんの声は雨のように降り続く。
「あんなに仲が良かったのにどうして!? どうして離れていっちゃうの! あたし達、ずっと一緒だって言ってたのに! 中学生になっても高校生になっても大学生になっても大人になっても、ずっとずっとずっと! 友達だって言ってた、友達だって、思っていたかったのに!!」
堰を切ったように涙が零れ落ち、その頬を濡らす。滴がしたたる顎を乱暴に腕で拭い、あざみちゃんは大きく息を付き、赤くなった目で私を睨み付けた。
それからふと自虐的な笑いを浮かべ、私へと尋ねる。
「あたしのママを見てどう思った?」
「え…………?」
「あの人、色々と変なこと言ってたでしょう。どう思った? 正直に言って。気持ち悪いとかうざいとか嫌な奴だとか」
「えっと……娘が傷だらけでもすぐに心配しないこととか、いきなり私の高校を馬鹿にしてきたのとか、ちょっと不思議だなって思った、け、ど……」
そういえば電話でもそんな感じだったっけ。私はお母さんに母親らしいことをしてもらったことはほとんどないけれど、多分、普通の親は夜遅くまで帰ってこない子供のことを、怒る前に心配するんじゃないだろうか……。少なくとも勉強の話なんてしないと思う。
「そう。パパとママがあたしに対して考えることは、いかに勉強を疎かにしないでどれだけ順位を上げられるかってことだけ。それ以外に娘には何も求めてないの。自分達が望む大学に行けなかったからって、娘には同じ思いをさせたくないんですって。だから小学生のときから無理矢理習い事をさせられてるってわけ。あたしの行きたい学校なんて聞いてこないけど」
あざみちゃんはベッドの上に転がり、枕元に置かれていたスケジュール帳を放ってくる。反射的にキャッチして、言われて今月のページを開いた。
「うわぁ」
月火水木金土日、一週間分の小さな区切りには、びっしりと予定が詰め込まれていた。ピアノに塾に水泳に体操に……とにかくいっぱい。夜遅くまで続くものもある。
もはや空白部分の方が少ない。あざみちゃんは中学一年生。まだそれぐらいの子供がやるにしては、あまりにハードスケジュールだ。
「小学生の途中からだんだん増えていったの。……プリクラの友達とはね、それまで普通に毎日遊んでたのよ? 公園行ってゲーセン行って映画見て甘い物食べに行って。でも習い事が増えてそうもいかなくなった。放課後の誘いは断ることが多くなっていったし、友達もそのうちあたしを最初から誘わないで遊ぶことが多くなった。それでもしばらくは仲が良かった。話についていけなくなっても、愛想笑いで必死に分からない話に頷くこともあったけど、でも好きだった。あの日まで」
「あの日?」
「いつだったか、五年生のある日の話。その日も塾があったあたしは友達の誘いを断って教室を出たの。でも、途中で忘れ物に気付いて廊下を戻った。教室に入る寸前、そこから声が聞こえた。『一縷ってノリ悪いよね』って」
いつも呼ばれる名前じゃなくて、苗字だったのよ。そうあざみちゃんは苦笑した。私は何も言えずに黙っていた。
「他の二人もそれを否定しないでうざいとかキモイだとか、あたしの悪口で盛り上がって笑ってるの、ビックリしちゃう。本当に驚いちゃって、思わず教室に飛び込んじゃった。そのときのあいつらのキョトンとした顔と言ったら! 『あんたたちなんかもう友達じゃない』なんて叫んで、あたしは教室を飛び出した。次の日からあの子達、まるで今までの数年間が夢だったみたいにあたしのこと見てこないの。無視ってやつ? ……それからあたしの友達はいなくなった」
そう言ってあざみちゃんは右手を部屋の照明にかざす。その目は切なく遠くを見つめていた。
友達がいないことはとても辛い。元々仲が良かった子に嫌われることはとても辛い。
ああ、幾度となく思っていた。あざみちゃんと私は似ている。とてもとてもよく似ている。
私も彼女も、寂しかったんだ。
「私も友達がいないんだ」
囁くように呟くと、あざみちゃんがぼんやりと私を見つめた。ベッドの上に座る彼女の隣に腰を下ろし、その顔を覗きこんで微笑む。
「何かした覚えはないんだけど、同じクラスの子にいじめられちゃってて。ずっと苦しくて悲しかった。一人が嫌だった」
あざみちゃんは何も言わない。私もただ独り言を呟くように続ける。
「それでこの間自殺しようと思ったんだ。実際、飛び降りるためにビルの屋上まで行った。でもそこで東雲さ……オオカミさんと会って、それから色々あって、あの人のサポート役として殺し屋になった」
「オオカミにあたしのこと話したりする?」
「ううん、そんなことしない。あの人にはお世話になってるけど、私もまだ、よく分からないしね。憎くもあるし、でも、落ち着くところもある。あの人のおかげで今こうして生きているし」
あのとき東雲さんに会わなかったら私は今頃死んでいた。秋月家の墓の中、冷たく暗い土の下で眠っていたのだろう。
こうして生きているのは東雲さんのおかげだ。ただ、殺し屋としてこの世界のことを知ってしまったのは、いいことか悪いことか判断が付かないけれど。
ああ、でも。
「こうしてあざみちゃんと知り合ったのも生きていたおかげだね」
「……………………」
あざみちゃんは無言で私を見上げていた。どこか私の言葉を窺おうとしているような、神妙な顔だった。
下ろされた右手にそっと触れる。ビクッと退こうとするその手を封じるように包み込み、あざみちゃんの両目を覗き込んでこう言った。
「昨日、『私が助けてあげる』って言ったでしょう? ……ねえ、あざみちゃん。私達友達にならない?」
「は?」
「友達になろう! 今だけじゃない。これから先ずっと、それこそ大人になってもおばあちゃんになっても、死んでしまっても永遠に! そんな親友になろうよ!」
両手から心臓の鼓動が伝わってしまわないだろうか。バクバクと胸を突き破ってしまいそうな鼓動が恥ずかしい。
あざみちゃんは怪訝そうに目を引いた。
「重いわね」
「た、例えだよ。私だって友達が欲しかったんだもん。……それに」
「それに?」
気恥ずかしさにはにかみながらも、ハッキリと告げる。
「『あざみちゃんと』友達になりたいなって、そう思ってたから」
友達が欲しいっていうのもあるけど。
あざみちゃんと仲良くなりたいって、そう思った。
あざみちゃんは一瞬目を丸くした。それから耳を赤くさせ、私から視線を外す。
「随分と恥ずかしいこと言えるのね」
「そうかな?」
「……あたし達、殺し屋なのよ? 敵同士なのよ? あたしが仲良しのフリしてるだけで、いつあんたを殺そうとするか分からないのよ?」
「あざみちゃんはそんなことしないと思うし、いざとなったらオオカミさんがいるし」
「そこでそれ言う?」
呆れたように肩を竦める。私は微笑み、自分の胸に手を当てながら言う。
「私の名前、秋月和子って言うの。和子って呼んでほしいな、あざみちゃん」
「……一縷あざみ」
手を伸ばす。恐る恐る伸びてきた手を握り、ぶんぶんと上下に振った。随分と乱暴な握手だと自分でも思ったが、興奮を抑えきれなかった。
あざみちゃんは酷く警戒するように私を見てきていた。
「あのね、あたしはまだ友達になるだなんて言ってないわよ。なったところでいつあんたが裏切るか分からないもの」
「私は陰口なんて言わないよ。それに、私が一方的にあざみちゃんの友達になってあげる! っていう上から目線じゃないもの。あざみちゃんにとって、私を友達だと思ってくれればいいなって、それだけだよ」
あざみちゃんのために私が友達になってあげるわけじゃない。逆に言えば私のためでもある。仲良くなりたいんだ、あざみちゃんと。
普通の友達のように遊べなくてもいい、年齢が違ってもいい、何だっていい。
ただ心を許し合えるような、そんな関係になりたいだけなんだ。
「あんたって本当、変わってるというか、馬鹿というか……」
「や、やっぱり……駄目、かな」
「だ、駄目じゃないけど」
「じゃあ友達になってくれるんだ! やったぁ!」
「おい」
諦めたように溜息を付き、前髪を掻き上げてあざみちゃんが私に向き直る。苦笑しながら、握った拳をドンッと私の左胸に押し付けて言う。
「お友達として、よろしく、和子」
「よろしく、あざみちゃん!」
弾けるような歓喜に、思わずふにゃりと笑みを浮かべる。ちょっと変わった不思議な感じだけれど、それでも泣きそうなくらい嬉しかった。
友達ができた。友達ができた。友達ができた!
「ところで」
「うんっ、何? あざみちゃん!」
「さっきから心臓うるさいわよ」
「気付いてたの!?」
早く言ってよ! と顔を赤くする。あざみちゃんはそんな私の反応を見て笑った。
とても可笑しそうに。目尻を涙ぐませて。
少しだけ、嬉しそうに。




